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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十七章:因果は偶に、思いもよらない巡り方をする

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462.そんな前から手を打ってたの!?ってなりました part2

「ここでオヌシを助ければ、濡れ衣を避けつつ、オヌシが我々の存在を上申する、その理由を根本から消し去れる。一石二鳥じゃものなあ?うむうむ、オヌシの参謀は優秀じゃ」

「普通に俺が考えて、お願いしたんだよ」

「ふーむ、読めたぞ?あの愛妾あいしょうが考えた計略じゃな?」

「ミヨちゃんはめかけじゃねえよ」

「詠訵三四が首謀で確定、じゃな」


 やっちまったー………


 こいつが言う通り、俺が知らない間にミヨちゃんが手を回していた事なのだ。

 彼女がやった事と言えば、事情説明での言い回しを、少し妙な感じにしただけ。それだけでこの会食のセッティングに漕ぎ着けてるんだから、ポカンとするほどスマートソリューションである。


 俺の正面突破なやり方とは、似ても似つかない深謀遠慮さ。

 その起案を俺の名前にするのは、嘘としては無理が過ぎたか。


 俺の顔がちゃんと曇ったのだろう。

 かんらかんらと大きな声で笑われた。


「ま、オヌシと健気な女子おなごの頑張りに免じて、話を聞いてやらんでもない。もしオヌシが妾に願いを一つ捧げるなら——」




——何をして欲しい?




 そんなわけないのに、

 その刹那だけ、彼女の髪から光が放たれているように見えた。

 背中側に異界を背負い、荘厳たる次元を纏い、


 それはまさに、神様の顕現で、


 いや、

 呑まれるな。

 溺れるな。

 神々しいなら、神々しいで良い。

 抗おうとし過ぎるな。

 俺が今、何かに感動したのは事実だ。受け入れろ。

 その上で、当たり前みたいに接しろ。


 受け流せ。


「仮に、そんなオイシイ話があるなら」

「敵を見つけるか?悪を討つか?愚民の全てを震え上がらせるか?」


 その全ては魅力的で、

 万能感が磁力のように引き付ける品々で、


 でも俺は自分を見失っていない。

 自分が醜い事を知っていて、だからこそ一番の理想を選ぶ。

 一番の強欲そのままで行く。


「写真」

「ほう?」

「写真を一枚作って欲しい」

「………」


 徳利とっくりに似た形の容れ物から、小さな器に酒を注ぎ、厚い唇から淑やかに顔を出す、赤い舌先で嘗めるように一口。


「言うてみい」

「今の戦況的に、俺が悪者で、い者のみんなが力を合わせて倒す構図になってる。どれだけ激しい攻撃でも、小さな一人一人を集めて作った大きなうねりで、それで強い奴を倒すって、一つのロマンが見えるわけだ」

「そうじゃろうのう。自らが弱くて無力だと思うた時こそ、人民は最も狂暴になるものじゃ」


 逆に、俺の側が弱者のように見えてくると、善悪の配役がグラついてしまう。

 だけど俺自身が弱体化されると、俺が本当に元気を届けたい人達に、失望を与えてしまう事になる。


 じゃあこの方向は無理?

 違う。もう一つ、逆のやり方がある。


「俺の敵を、盛る」


 敵側を、強大だと見せればいい。


「本物と区別がつかないような、それでいてしっかり調べると偽造されてると分かるような、そんな一枚。それを、ダンジョンの外で、お前の鏡の魔法を使って作って欲しい」

「ダンジョン外での魔力使用。この国では即テロ行為と見做されてもおかしくはない禁忌。その事実を示す画像」


 そんな写真、作った人間は一発で極悪人と見られる。

 警察だって犯人確保に総力を挙げるかもしれない。

 だけど相手は“リーパーズ”、捕まらない。


 ダンジョン外での魔法という危険な手段を選んでまで、カミザススムを追い詰めようとした誰かが居て、それは警察でも勝てないと言う。

 ここまで聞いたらどうしたって、闇の秘密結社とか、そういう組織的な関与を疑う。

 姿なき巨悪が、何故か一人のディーパーを目の敵にしている、そういう図になる。


 そして実際、デカめの意思が俺を敵視してるのは、ほとんど確かなのだ。

 この炎上騒動の、節々から来る不自然さが、状況証拠として存在している。


 真実の一部に混ざった嘘は、見破られにくい。

 俺の疑惑が、本物の記録や写真からスタートしているように、

 こっちに向けられた銃口の一つが、俺の命令通りの場所を撃った所で、

 周囲は怪しむよしを持たない。

 

 このアイディアの良さは、俺が弱く在ろうとしなくてもいいし、悪者を増やさなくてもいいってところ。


 「弱さを見せる」、みんなが思う絶対強者ではないって事を見せるのは、やり方をしくじってしまったら、期待されているイメージを損ねるだけになる。

 炎上に負けてボロが出た、みたいに思われると、火事が長引く種になる。

 だが相対位置をズラすだけなら、変わったのは見る側であって、俺じゃない。

 平然を装いながら、彼らから見える“俺”を変えられる。

 

 そして、新たに加害者を用意するのではなく、元から見え隠れしていた不気味さを利用するだけだから、あらぬ方向への被害だって、最小限に抑えられる。


 言うまでもなく、それでもどこかに不都合は生じるだろうとは思う。

 潜行者全体への風評被害だって言われたら、少なからずその通り。


 飽く迄も、「俺のやりたい事を出来る選択」の中で、一番マシめだってだけ。

 「不確かな事を決め付ける軽率な人達」を、居ないものとして想定から除外した時、一番被害が少ないという乱暴な独善。


 その責任は、これからも丹本の安全や魔学、潜行界隈の発展に貢献する事で、果たしていくしかないのだと思う。


「ワンチャン、警察が本来の首謀者の方に辿り着いてくれる可能性もあるけど、まあそれはマジで上手くいった時の話だな。ただ、勢いだけの人達が作る世論に、掌を返させるだけの力は、あると思う」

「その写真は、良く出来た偽物なのじゃろう?警察が都合よく見つけてくれるかのう?」

「俺の知り合いに、警察の魔法犯罪専門の刑事さんと、その人と連絡が取れる探偵さんが居る」

「導線は出来ている、か……、なるほどのう……」


 考えるように腕を組みながら、一杯にいだ酒を呷るエンプレス。

 

 器をコトリと机に置いて、


「なかなか良い。社会実験として興味深いやり口じゃ。妾もやってみとうなった」

 

 食い付いた。

 

 流れが傾いているのを感じる…!


「それをやってくれれば、俺達としても余計なことせずに済むから、相互利益ってヤツに——」

「じゃがその前に」


 気が変わる前に纏めに入ろうとしていた俺の手を、柔らかく取って制する。


 油断には早い。


 まだ、

 

 まだ決まっていない。


「オヌシに一つ、聞いておきたい事がある」

「……どこか、作戦に穴があったか?」

「そうではない。これは個人的な関心事と言うべきか、正解のない、自由記述のオープンクエスチョン。その返答次第で、此度の提案を呑むか否か、決めると約束しよう」


 最後の一問。

 

 採点基準は、試験官のお眼鏡に適うかどうか。


 俺は一つ深呼吸を挟み、自分が体ごと前のめりなっていたと気付き、背を伸ばし顎を引いて整え直す。


「分かった。出来るだけ考えて答える」

「それがよいそれがよい」


 エンプレスは目を細める。


 それは品定めの注視にも、か弱き玩物がんぶつへの睥睨にも見えた。


 懸かっているのは、一つの「お願い」じゃない。


 俺の中で、そんな勘が起き上がる。


「では、わせて貰うのじゃが、」


 この一問、

 たった一問で、

 これからの彼らとの関わり方自体、大きく変わってしまうんじゃないか。


 からだのどこの器官が思った事なのかは分からないけれど、

 そういう考えがはっきりと浮かんだ。


 女は問う。




「オヌシ、放し飼いが過ぎたのではないかえ?」

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