462.そんな前から手を打ってたの!?ってなりました part2
「ここでオヌシを助ければ、濡れ衣を避けつつ、オヌシが我々の存在を上申する、その理由を根本から消し去れる。一石二鳥じゃものなあ?うむうむ、オヌシの参謀は優秀じゃ」
「普通に俺が考えて、お願いしたんだよ」
「ふーむ、読めたぞ?あの愛妾が考えた計略じゃな?」
「ミヨちゃんは妾じゃねえよ」
「詠訵三四が首謀で確定、じゃな」
やっちまったー………
こいつが言う通り、俺が知らない間にミヨちゃんが手を回していた事なのだ。
彼女がやった事と言えば、事情説明での言い回しを、少し妙な感じにしただけ。それだけでこの会食のセッティングに漕ぎ着けてるんだから、ポカンとするほどスマートソリューションである。
俺の正面突破なやり方とは、似ても似つかない深謀遠慮さ。
その起案を俺の名前にするのは、嘘としては無理が過ぎたか。
俺の顔がちゃんと曇ったのだろう。
かんらかんらと大きな声で笑われた。
「ま、オヌシと健気な女子の頑張りに免じて、話を聞いてやらんでもない。もしオヌシが妾に願いを一つ捧げるなら——」
——何をして欲しい?
そんなわけないのに、
その刹那だけ、彼女の髪から光が放たれているように見えた。
背中側に異界を背負い、荘厳たる次元を纏い、
それはまさに、神様の顕現で、
いや、
呑まれるな。
溺れるな。
神々しいなら、神々しいで良い。
抗おうとし過ぎるな。
俺が今、何かに感動したのは事実だ。受け入れろ。
その上で、当たり前みたいに接しろ。
受け流せ。
「仮に、そんなオイシイ話があるなら」
「敵を見つけるか?悪を討つか?愚民の全てを震え上がらせるか?」
その全ては魅力的で、
万能感が磁力のように引き付ける品々で、
でも俺は自分を見失っていない。
自分が醜い事を知っていて、だからこそ一番の理想を選ぶ。
一番の強欲そのままで行く。
「写真」
「ほう?」
「写真を一枚作って欲しい」
「………」
徳利に似た形の容れ物から、小さな器に酒を注ぎ、厚い唇から淑やかに顔を出す、赤い舌先で嘗めるように一口。
「言うてみい」
「今の戦況的に、俺が悪者で、善い者のみんなが力を合わせて倒す構図になってる。どれだけ激しい攻撃でも、小さな一人一人を集めて作った大きなうねりで、それで強い奴を倒すって、一つのロマンが見えるわけだ」
「そうじゃろうのう。自らが弱くて無力だと思うた時こそ、人民は最も狂暴になるものじゃ」
逆に、俺の側が弱者のように見えてくると、善悪の配役がグラついてしまう。
だけど俺自身が弱体化されると、俺が本当に元気を届けたい人達に、失望を与えてしまう事になる。
じゃあこの方向は無理?
違う。もう一つ、逆のやり方がある。
「俺の敵を、盛る」
敵側を、強大だと見せればいい。
「本物と区別がつかないような、それでいてしっかり調べると偽造されてると分かるような、そんな一枚。それを、ダンジョンの外で、お前の鏡の魔法を使って作って欲しい」
「ダンジョン外での魔力使用。この国では即テロ行為と見做されてもおかしくはない禁忌。その事実を示す画像」
そんな写真、作った人間は一発で極悪人と見られる。
警察だって犯人確保に総力を挙げるかもしれない。
だけど相手は“リーパーズ”、捕まらない。
ダンジョン外での魔法という危険な手段を選んでまで、カミザススムを追い詰めようとした誰かが居て、それは警察でも勝てないと言う。
ここまで聞いたらどうしたって、闇の秘密結社とか、そういう組織的な関与を疑う。
姿なき巨悪が、何故か一人のディーパーを目の敵にしている、そういう図になる。
そして実際、デカめの意思が俺を敵視してるのは、ほとんど確かなのだ。
この炎上騒動の、節々から来る不自然さが、状況証拠として存在している。
真実の一部に混ざった嘘は、見破られにくい。
俺の疑惑が、本物の記録や写真からスタートしているように、
こっちに向けられた銃口の一つが、俺の命令通りの場所を撃った所で、
周囲は怪しむ由を持たない。
このアイディアの良さは、俺が弱く在ろうとしなくてもいいし、悪者を増やさなくてもいいってところ。
「弱さを見せる」、みんなが思う絶対強者ではないって事を見せるのは、やり方をしくじってしまったら、期待されているイメージを損ねるだけになる。
炎上に負けてボロが出た、みたいに思われると、火事が長引く種になる。
だが相対位置をズラすだけなら、変わったのは見る側であって、俺じゃない。
平然を装いながら、彼らから見える“俺”を変えられる。
そして、新たに加害者を用意するのではなく、元から見え隠れしていた不気味さを利用するだけだから、あらぬ方向への被害だって、最小限に抑えられる。
言うまでもなく、それでもどこかに不都合は生じるだろうとは思う。
潜行者全体への風評被害だって言われたら、少なからずその通り。
飽く迄も、「俺のやりたい事を出来る選択」の中で、一番マシめだってだけ。
「不確かな事を決め付ける軽率な人達」を、居ないものとして想定から除外した時、一番被害が少ないという乱暴な独善。
その責任は、これからも丹本の安全や魔学、潜行界隈の発展に貢献する事で、果たしていくしかないのだと思う。
「ワンチャン、警察が本来の首謀者の方に辿り着いてくれる可能性もあるけど、まあそれはマジで上手くいった時の話だな。ただ、勢いだけの人達が作る世論に、掌を返させるだけの力は、あると思う」
「その写真は、良く出来た偽物なのじゃろう?警察が都合よく見つけてくれるかのう?」
「俺の知り合いに、警察の魔法犯罪専門の刑事さんと、その人と連絡が取れる探偵さんが居る」
「導線は出来ている、か……、なるほどのう……」
考えるように腕を組みながら、一杯に注いだ酒を呷るエンプレス。
器をコトリと机に置いて、
「なかなか良い。社会実験として興味深いやり口じゃ。妾もやってみとうなった」
食い付いた。
流れが傾いているのを感じる…!
「それをやってくれれば、俺達としても余計なことせずに済むから、相互利益ってヤツに——」
「じゃがその前に」
気が変わる前に纏めに入ろうとしていた俺の手を、柔らかく取って制する。
油断には早い。
まだ、
まだ決まっていない。
「オヌシに一つ、聞いておきたい事がある」
「……どこか、作戦に穴があったか?」
「そうではない。これは個人的な関心事と言うべきか、正解のない、自由記述のオープンクエスチョン。その返答次第で、此度の提案を呑むか否か、決めると約束しよう」
最後の一問。
採点基準は、試験官のお眼鏡に適うかどうか。
俺は一つ深呼吸を挟み、自分が体ごと前のめりなっていたと気付き、背を伸ばし顎を引いて整え直す。
「分かった。出来るだけ考えて答える」
「それがよいそれがよい」
エンプレスは目を細める。
それは品定めの注視にも、か弱き玩物への睥睨にも見えた。
懸かっているのは、一つの「お願い」じゃない。
俺の中で、そんな勘が起き上がる。
「では、云わせて貰うのじゃが、」
この一問、
たった一問で、
これからの彼らとの関わり方自体、大きく変わってしまうんじゃないか。
躰のどこの器官が思った事なのかは分からないけれど、
そういう考えがはっきりと浮かんだ。
女は問う。
「オヌシ、放し飼いが過ぎたのではないかえ?」




