462.そんな前から手を打ってたの!?ってなりました part1
店先からして、高級アパレルだかサロンだかに見間違える雰囲気。
レストランに来たんだよね、俺?
と聞きたかったが、案内役は「車を仕舞ってくる」と言って、とっとと何処かへ去ってしまった後。
ニークト先輩が居れば頼もしかったが、あの人が変に動くと俺以上に目立ってしまうから、ここへは来て貰えなかった。
俺とミヨちゃんの二人で身を寄せ合うようにして、抜き足差し足で一歩中へ。
受付の人があからさまに疎ましく思っている、と言うかすぐにでも抓み出そうという気概が全開な目を向けてきたけれど、指定されていた偽名を伝えたら、コロッと腰を落としながら愛想マシマシで案内してくれた。
朱塗りの装飾が目立ち、大陸系の管楽器らしい調べが満ちる中、どことなく暗めに感じる店内を歩く。
奥の方にある個室、その観音開きの扉の前に、見覚えのある道化師が立っている。
店員さんには事前に何か言い含めてあるらしく、俺をそこまで連れて来た時点でそそくさと奥に引っ込んでいった。
「ここからお一人。相方お引き取り」
手足がやたらと細長く伸びているピエロ——流石にここではボールに乗っていない——が、お辞儀と共に両手で入り口を示し、俺達にルールを告げる。
約束通り、一対一で話したい、という事だろう。
って言うか、身長変わってない?服の中どういう構造になってんのそれ?
「私じゃなくて、大丈夫?」
「これは俺の問題だから」
息遣いまで聞こえるような近くで、声を潜めて作戦会議。
「それに、いざという時に安全なのは、カンナが中に居る俺の方だろ?」
「うん………」
事前にも時間を掛けて話し合い決めた事だったが、それでもやはり肯き難く思っているらしいミヨちゃんを、「いつも通りのことだから」と宥めて、俺は一人で扉の前に進んだ。
『入れ。ノックは要らん』
立ち止まった瞬間に、その言葉が投げられる。
お言葉に甘えて重く感じる2枚を、中心線から内向きに押し開けた。
「思ったより、早い再会じゃったのう?」
部屋の中央に、段状になった円形の回転テーブル。
色とりどりの皿と料理。
それらを挟んだ反対側に、胴から腹の右半分が開いたデザインの、金に艶めく旗袍を着た、黄金色の髪の美女。
“靏玉”。
ill集団、“リーパーズ”の首魁。
「そうか?あれから5ヶ月だから、前回と前々回のスパンと、大体一緒くらいだろ?」
「そうじゃったかのう?ここん所のオヌシは大人しゅうしておったから、気が抜けておったのかもしれんの」
「そんなんで時間間隔狂うのかよ」
「この歳になるとどうしてものう。己にとっての一月一歳が短うてかなわんわ」
「まあそこを閉めろ。空調が勿体ない」、
俺は「『この歳』って何歳だよお前」なんて返しつつ、言われた通りに出入り口をぴったり閉ざす。
外に立っていたミヨちゃんとの、視線と視線の絡み合いが切れた瞬間、音楽の一切もプツリと途絶えた。
「座れ。遠慮は無用」
「遠慮とかはしてない」
「それならば話は早い」
俺が椅子に尻を置いたあたりで、相手から本題を切り出してきた。
「我々に頼みたい事があるのじゃったな?」
「そうだったか?呼び出したのはそっちだから、頼みたいのはそっちだろ?」
申し出に飛び付きたくなるのを抑える。
足下を見られてはいけない。
助けて貰うのでなく、取引の体を取らないと。
「ふむ、まあ、あの小娘の言い回しに引っ掛かりを覚え、呼びつけたのは妾じゃな」
「言い回しって?お前達は俺に何を求めてるんだ?」
解剖されたデッカい海老の開きみたいな所から、箸で身の部分を取って自分の皿に乗せるエンプレス。
食べる前から、何かを味わうような表情を作り、俺の面を耽視で隅々まで撫でる。
「『避けたい事』」
「………」
「あの小娘はそう言っておったのう?然るべき者に相談する事を、『避けたい事』だと」
「例えば弁護士に相談するとかなら、お金も手間も時間も掛かるからな」
「弁護士?オヌシならともかく、どうして今回の件であの小娘が、弁護士なんぞ雇うんじゃ?」
「あの隠し撮り写真について、ミヨちゃんの方にも無視できない中傷が行ってたんだよ」
「オヌシ相手に注がれたものからすると、微々たる量じゃ。あの小娘にとっては常態であろう?第一——」
——彼奴はそんなことより、オヌシの話を優先する
確かにあれは、“く~ちゃん”らしからぬと言うか、様子が違うように見える発言だった。
彼女にしては、ちょっと過剰反応気味に思えたのだ。
「そも、この件でのあの小娘の模範的な在り方は、無関係を貫く事じゃ。写真の中の女に触れもしない、二人の少女は互いに知らぬ他人なのじゃから、という態度が肝要。戦友という立場から信じる姿勢を示すまでなら兎も角として、それ以上の干渉は逆に火の手を煽る悪手。
関連性を思わせぶると言うのは、疑惑の肯定とも取られかねない、危険な行為となるじゃろう」
だけど彼女は、自分を当事者に含めるような、不思議な言い方をした。
自分が攻撃されていると、言葉で匂わせた。
「『秘密を公開』し、然るべき者に相談、じゃったか?『秘密を公開するかどうか』ではなく、『相談すべき秘密をまず公開』する、と?彼奴は誰に、何を伝えるつもりなのじゃ?」
わざと煙に巻くような、違和感を見え見えに配置したような言い回し。
あの配信があった時、どういう状況だったかを考える。
二股と喫煙という、二つの疑惑が極めて効果的な順番で投下され、24時間もしないうちに、登録者の水増し疑惑まで叫ばれるようになった。
この時既に、何らかの予感があった。
偶然かもしれない。
悪い事が重なる、ってだけなのかも。
だけど、もしかしたら、
誰かが先々までもを見据えて、本気で攻撃しているのではないか?
「オヌシらは、一人、あるいは組織的な、工作のようなものを疑った。実際、あの発言の後も、連日増産される贋作写真に、それらへの不自然に大きな反響、逐次投入を避けるかのような不祥事畳み掛け、作為を感じる事だらけじゃった」
では、どんな人が?一体何故?
俺達には、予想がつかない。
容疑者は、ネットワーク越しに繋がった、世界中の数十億。
ただ、容疑者に優先順位は付けられる。
因縁や利害関係が色濃い相手を、強く疑う事はある。
「例えば、人間社会の裏で暗躍し、オヌシの右眼を狙っておる、モンスターの同盟軍」
彼らが俺を炎上させて、どういう得があるのかは分からない。
これからどんな攻撃に派生させるのか、答えは持っていない。
だけど、怪しい。
こんなに大規模で規律すら感じる攻勢、やれる人間は限られる。
“キャプチャラーズ”や“リーパーズ”なら、条件は満たしている。
もし彼らの仕業だったら、その後に続く二の矢三の矢で、壊滅的な被害が出る事も考えられる。
牽制しておかないといけない。
奴らを自由にしてはいけない。
だから、遠回しに釘を刺した。
『こっちもあんまりやりたくないけど、お前達illの仕掛けだと判断した時は、お前達の存在についても含めて、先生方に、そのバックに付いている国にぶちまけ、対策を話し合わせてもらう』
こう公言して、少しでも相手の足取りを鈍らせようとした。
最悪の予想が当たっていれば、これはそれなりに効く。モンスター対人類の構図を作られたら、向こうはかなり困るだろうから。
予想が外れていた場合、奴らは何としてでもそれを知らせようとする。しなければならない。積年の秘匿をとばっちりで暴かれてはたまらない。
人に紛れた怪物達がやるべき対処は、幾つかのパターンに分かれる。
炎上がどこまで大きくなるか、公共がそれに乗るのか抑えるのか、それに対して俺達が抗うのか諦めるのか、それらの要素によって変わる。
今回はどうなっていたか?
騒動の拡散は止まる所を知らず、司法機関までバッシングに加担し、俺達は徹底抗戦の構え。
彼らは強めに介入する必要に迫られた。
この戦いに、自分達は無関係。
それを何としてでも示さなければならない。
その為に、「オヌシに手を貸す事になろうとも、と、そういう流れになるじゃろうと、入れ知恵されたのじゃな?」
んぐぬ…!
見抜かれてる…!




