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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十七章:因果は偶に、思いもよらない巡り方をする

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459.何が有利でどっちが強いかなんて、人間に分かる事じゃない part2

「いや聞ーてくださいよー?これリスナーにも話した事あるんですけどぉ、ウチの母親って男に捨てられたタイプでぇー」

「………」

「その後も男作ってはダメになって、ウチが重荷になるからだぁー、ウチのこと産まなきゃ良かったぁー、っとか言っちゃうありがちなタイプでぇー」

「………………」

「ウチあいつの事キラいなんですよねぇー。男と寝たいって思ったのも、ウチを産みたいって思ったのも、ウチを手放さないのも、ウチが居た程度で破局するような相手を選んだのも、ぜーんぶ自分なのに、他責他責でウザいってゆーかぁー。どう思いますぅ?」

「さっきから話題が全部強い!!」


 冷や汗が止まらねえよ!

 何言っても不謹慎な発言になるよそんなの!


「うはははは!」

「うははじゃなくて!」

「いやこれ、得した話なんですよぉ」

「はい!?得!?どこが!?」

「ちょっと前までだったらぁー、クソ親なんて居るだけソンで、その経験はリソースどころかお荷物にしかならなくてぇ、生きづらくなる道しかなかったでしょぉ?でもそーゆー無い方が絶対ヨシな不幸自慢みたいなの、今じゃ配信でコンテンツ化出来る時代ですよぉ?」


 「この世界、一発で覚えるような強烈なエピソードが、最強の武器ですからぁ」、

 さ、さっぱりしてるなあ……!?


「良い商売道具を提供してくれたから、クズ父にもカス母にもむしろありがとうって感じでぇ。まぁーそーゆーふーに割り切れない人もいるけど、でも割り切る方法は増えたと思うんですよぉ。ウチのダチにもストーカーに監禁されたコがいますけどねぇ?異性への恐怖とチヤホヤされたいって欲との間で苦しんだ後、Vになって毎日楽しくやってますしぃー」


 「V」って言うのは、2次元キャラクターのアバターを使って配信する人達の事だ。

 自分と世間との境にワンクッションを置く事になるので、その人の心の負担は若干でも軽くなったのだろう。


「で、やっぱりひでー経験を、リスナーに聞かせて飯の種にして、それが切り抜かれてバズったりするわけですよぉー。なんか有名なストリーマーさんとかに、目を掛けて貰ったりするわけですよぉー。

 そーゆーのが生まれる前は付くはずなかった自信を、手に入れられたって事じゃん?ダルいものを昇華できる筋道が生まれたって事じゃん?消えないマイナスだった物が、特大のプラスになるってゆー錬金術みたいなぁ?だからウチ、配信業って好きなんですよぉー。世の中の懐を、ちょっとだけ深くしてくれる気がしてぇ」

「それは、思います。俺もそういう仕組みに、拾われた側ですから」

「ですよねぇー。選択肢を増やしたいって、あの時言ってましたからぁ。『道具になる』、でしたっけぇ?だからウチ——」


——君のこと嫌いじゃないんですよぉ?

 

 その意味で、俺達は同志のようなものだと言う。

 “配信者”という在り方が無いと、ただ他よりマイナスが、苦しみが多いというだけの人間になっていた、と。


 どんなものにも、何か意味があるのかもしれない。

 良い事ばかりじゃないけれど、絶望って言葉は追い出せるかもしれない。

 そう思える人間でいれるのは、この娯楽形態があってこそだった。


「君があっさりやられちゃうと、心の狭い人達の天下が、この世界にまで及ぶかもですから」


 それ以上は、皆まで言われずとも分かった。

 最後まで足掻け、という事だろう。

 ある種、自由の為の抵抗戦、みたいな物と言えるのかもしれない。


「一つアドバイスをするならぁ、君はたくまし過ぎるって事ですねぇー」

「逞し過ぎる?」

「はぁい。もうちょっとほっといても勝手に耐えそう、って味方が思っちゃってぇ、どれだけ殴っても勝手に立ち直りそう、って敵が思っちゃうんですぅ。そうやって相手に甘えさせちゃう所があるんですよぉ」

「でもその、ナイスガイっぽい頼りがいって、必要だと思うんですけど。ガイだけに」

「…………はい?」

「そんな考え込まれるようなギャグじゃないんでやめてください」


 言わなきゃよかった。

(((毎度毎度、堪えられないのでしょうか?減点です言うまでもなく)))

 

「ウチが言いたいのは、弱い方、被害者な方、ってポジションを取れないとぉ、永遠にこの状況を逆転出来ないって事ですよぉ。君が強過ぎるから、みんな遠慮なく攻撃してるんですぅ。ちょっと傷つけても、大したことないだろう、って」

「強過ぎる、から………」


 確かに、強い俺が弱い視聴者や女の子を騙す、みたいな構図がウケて今の祭りが起こっている。

 漏魔症も、国という大きな機関に特別扱いされて、バックに強い誰かが付いてる構図が出来て、反感が大きくなった一因となっている。


 強い方が被害者な事だってあるけど、世間はそう見ない。

 被害者が間違っている事だってあるけど、世間はそう見ない。

 

 自分の弱さを出来るだけ封じていって、全く弱点の無い状態になるのが理想。そういうブランディングをしてたけど、方向性はともかくとして、度が過ぎてしまうと逆に脆くなるのかもしれない。

 自分の中のダメな部分を、もっと娯楽として活かせるように、それを考えなきゃいけないタイミングが来たのかも。

 

「参考程度によろぉー。そんじゃ頑張ってくださいねぇー」


 彼女は俺に、何かを託しに来た。

 俺はそれに応えたいけど、でも名案は思い付かないままだ。


 動じない強さが、味方を守り、攻撃を陳腐化する、盾になると思っていた。

 でもそれだけじゃダメだ。

 どっちが「やられてる側」なのか、それを見せないと世間は納得しない。


 かと言って「かたっている」って誰かを糾弾する、攻撃に転ずるのは、やり過ぎると逆にある種の強さを見せる事になる。

 一方的に攻撃されるだけでも、諍いが酷くて近寄りたくないと思われるのに、こっちから防衛以上の反撃をしてしまうと、本格的に新規が寄り付かなくなる。それも、ダンジョン配信界隈そのものから、引いていくのだ。


 飽く迄受け身、応える側でありながら、自分への爆撃の苛烈さを暴くような、そんな丁度良い塩梅。


 どうすりゃいいんだ………?


 俺はスマートフォンの画面を覗き、ふと視野の隅を横切った、WIREのアイコンをタップした。

 トクシのみんなからアイディアを貰おうとしたからなんだけど、かのとちゃんとのトーク履歴に自然と目を寄せてしまった。


 炎上が始まった直後に話し合い、暫くの間は会ったり連絡したりを控えると決めた。

 最悪の場合、彼女のプロフィールがインターネットにばら撒かれる。

 折角の仲直りが、またしても最悪な記憶に塗り潰される。

 彼女に対しては申し訳なく、悲しい気持ちがとめどなく湧いてくる。


 俺は両頬を張って、切り替える。

 ウジウジしてる場合じゃない。

 幼馴染との関係を良好に戻す為にも、一日も早くこの消火活動にケリをつけて——

 

 


 俺は端末を放り落としそうになった。




 手の中でそれが急に振動し始めた、


 別の言い方をすれば、急に電話が掛かってきたから。

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