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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十七章:因果は偶に、思いもよらない巡り方をする

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459.何が有利でどっちが強いかなんて、人間に分かる事じゃない part1

 なんだか知らんが、カンナの機嫌がすこぶる良かった。

 

(((相変わらず底抜けに阿呆あほうな、それでいて妙に小聡こざとい手順です。的を射よと命じられ、縦に割るような馬鹿馬鹿しさ。成程確かに、的の中心はれているので、離れ技一本と認めざるを得ません)))


 明胤学園内にある、誰でも使える飲食スペース。

 春季限定のカスタード餡いちご大福を唇で揉むように齧り、くすくすと忍び笑いを吹かせている。


 今は昼時だが、俺にお弁当を作ってくれていたミヨちゃんは、ここにはいない。

 ほとぼりが冷めるまで、不用意に接近しないほうが良いだろうという判断だ。

 学園の中ではあるけれど、今回の炎上はなかなかないレベルの威力に成長している。

 ネット上には完全に創作された“証拠”の数々が日夜生み出され続けており、これまでの経験から来るセオリーが一切通用しない恐れもあった為、念の為の処置を講じる事にした。

 

 ミヨちゃんは勿論、俺に寄り添ってくれようとしたが、そこまで甘えるのは俺の側に強い負い目を残してしまう。くだらない強がりと言われようと、流石にそのくらいのリスクヘッジはさせて貰えないと、今後消えない罪悪感を抱き続けそうで、ちょっと怖いのだ。


 って事で、学園では久しぶりに、カンナと二人きりのおやつタイムである。


(いいよもう。俺が思い付く事くらい、カンナが思い付かないわけないんだし、滑稽がってるのは分かるからさ。遠回しな言い方しなくていいって)

(((何を拗ねているのか存じませんが、しんの芯から褒賞ほうしょうしているのですよ?)))

(ホントかあ?)

(((私の場合、指先一つ振り撒いて見せれば、それで場を握る事が出来ますから、逆にああいったやり方は浮かばないものです)))

(やっぱりお前より俺がすげえちっぽけって話になるじゃねえか)


 アリが仲間のフェロモンを辿って、迷路に惑わされず餌を持って帰っていくのを、上から見下ろして「よく出来てるなあ」と感心してるようなものだ。

 人間にフェロモンは無いけど、そもそも手を伸ばし餌を抓んでしまえば、迷路とか関係なくアリが欲しかった物が取れる。

 圧倒的な小物が、思いの外頑張ったのを、愛でてるだけ。


(((それが、いけない事でしょうか?)))


 指先に付着した粉を、バードキスみたいに軽く舐め取っている彼女は、行儀が悪く思えないどころか、並んだシルバーを錯覚するくらい、折り目正しく気品を匂わせる。

 何度見ても不思議な印象。


(((私の側は、思いもよらない物に出会えて楽しい。ススムくんも、私に褒められて嬉しい。良い事()くめでは?)))

(まあそういう事にすればいいか)


 脳に補充した糖分を、これからを考える事に費やすとするか。

 俺の思い付きがピタリと功を奏して、一時の猶予は手に入った。

 ただ盤石に見えても、守るだけなら先細りするのが、コンテンツというやつである。


 このまま新しい刺激が無ければ、ズルズルと熱が引いて行く。

 現状のまま冷めたら、後に残るのは黒に近いグレー色のパフォーマー崩れ。

 ここから更に、エンタメとしての存在感を決定づけるような事をしたり、ほぼ白で確定という空気にまで転換したり、そういうもう一撃が必要になる。


 後者はまあ無理。悪魔の証明で戦えはしない。

 やるならバズ企画をもう一個くらい打ち上げなきゃ、だけど、そっちもそっちで狙って出来たら苦労しないんだよなあ………


 そうやってスマートフォンの中の企画書、と言う名の思い付きメモとにらめっこしていたら、


「ここいーですかー?」


 対面の席に、返事も聞かずに女子生徒が腰掛けた。

 周囲にはまだ——たぶん俺のせいで——空いている席があるのに、である。


「え?あの?」


 顔を上げた俺にニカッと歯を見せたのは、ネオンライトみたいな蛍光色の青を、グラデーションにして染めた髪を、頭の左右に団子状に纏めた女の人。

 髪型も髪色も変わっているから、一瞬誰かと思ったが、


丸流まるる先輩……」

「おひさでーす!何か月ぶりですかねぇー?」


 丸流絵美だ。

 一つ上の学年で、配信者としても先輩な少女。

 去年の明胤祭の時に、もう一人の先輩と一緒に、俺がやってることが「危険行為を誘発」するんじゃないかって、そう詰めて来た人。

 彼らは視聴者を、正しく導かないといけないって、そういう事を言ってたっけ。


 曖昧なスタンスじゃなくて、“正しい”事を一つに絞って、共に歩く人達を制御しないとダメだって。

 

「『だから言ったのに』、ですか?」

「まぁーまぁーそーゆーのは、披嘴君みたいなオカタイ人が、皺をぎゅーって寄せながら考えればいーことですよぉー。私あの場に居たのは付き合いみたいなものでぇ、しょーじき話合わせてただけですからぁー」


 丸流先輩は、両の人差し指で目の端を吊り上げて見せる。


「披嘴君、面白いくらいぷんぷんでカンカンでしたよぉー」

「今度会ったら謝っときます。それはそうと、俺の周りに居ると、先輩まで変な風評に巻き込まれますよ?」

「汚名を重ね着し過ぎてぇ、これいじょーはパンパンで入りませーん」

「反応に困りますね……!」

「笑っとけばいーんですよ」


 “(まる)(まる)チャンネル”。

 その名に伴う毀誉褒貶は、結構激しい。


 魔素の吸収効率について、素肌を外気に曝した方が良くなるというオカルトがある。

 真面目な学者も実際に研究し続けているものの、けれど未だに肌色面積と魔力生成速度の相関は証明出来ていない。

 標準治療になれなかった民間療法みたいなもので、そんなの信じるより強固な防具を着込んだ方が絶対に有意義だ。


 だが話をややこしくするのは、偶にマジでその法則通りの現象を体験する人が居る、という事実。

 魔法は精神や物語、信仰に強く影響を受ける為、心から信じていたりすると、その通りになってしまう、みたいな理屈だと考えられている。

 要は個人差ってこと。

 

 潜行配信者(DTuber)としての成功が丹本以上に重要な海外で、煮詰まった者が最後のバズり狙いの爆弾攻撃として、「魔素吸収効率仮説検証」という名目でエロ売りに走る事も、そこまで珍しい話ではない。

 そして偶に検証成功する人が出て、余計にこの俗説の根が深くなっていく。


 一方丹本でも、扇情型の配信者は、いなくはない。

 特にその最前線、例外的な成功者として即座に名が上がるのが、“マール”こと丸流先輩だ。


 彼女は何故か、肌を出してる方が強い。

 目に見えてパフォーマンスが違う。

 マスクとビキニで潜行するとかいう、頭悪いどころか見てる方が狂いそうになるような異常な絵面を展開しながら、割と危なげなくダンジョンを攻略する。

 エロいとか以前に、意味が分からなさ過ぎてエンタメになってるので、実は広めの人気を持っていたりする。


 去年の校内大会で、彼女が虎次郎先輩と殴り合ってるのを見た事がある。

 日頃の配信でも、露出した部分でM(メイジ)型モンスターの攻撃を弾き返してたりする。平気な顔で、だ。腋で挟んだ金属を捩じ切っていたこともあったっけ。

 多分魔素の効率がどうの身体強化がこうのではなく、魔法の効果の恩恵だとも思われるが、詳細は語られていない。


 確かにこの人を見て、「俺も出来そう!やってみよ!」とか言い出す奴が居ても、余程のバカだとしか言えない。そういう意味で、一周回って安全なコンテンツなのかもしれない。

 

 ただその、どうしても外見で、もっとズバリ言うと性欲で釣ってるタイプの配信者であるというのは、正直否定は出来ないところで、故に女性権利団体を始めとして、いろんな所から常に攻撃されている。

 敵味方がはっきり分かれるタイプのインフルエンサーなのだ。


「で、先輩はこんな俺に何の用で?」

「えー?用が無いと話し掛けちゃいけないんですかぁー?」

「はい」

「はい!?」

「この状況を写真で撮られでもしたら、それがまた火種になるんで」

「今更オマケで一・二回出火したところでぇー」

「いやいやいやいや」


 それ言うにしても俺の台詞だよね?

 

「なんってかぁー、そーですねー?」


 彼女はプラスチック容器に入った、アイスティーなんだかコーヒーなんだかソフトクリームなんだかよく分からない物をストローで吸った後、


「ウチって母子家庭なんですよぉー」

「……そう、です、か……?」


 結局反応しづらい話を振ってきた。

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