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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
遂に入学、その前に

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閑話. 門出の前夜にて

 熱い。

 何故か、覚えがある。

 前にも、こういう事があった。

 熱い。

 でも、少し違う。

 皮膚の感覚が、異なる気がする。


 うすぼんやりと、煙に巻かれて、

 事の順番が、離れ離れに、


 熱くて、

 痛くて、

 刺された、

 何処を?

 家を、

 腹を、

 目を、

 された、

 手を、

 焼かれた、

 口を、

 股を、

 足を、

 あの人を、

 大切な物を、


 (みやこ)から誰かが、追い出された。

 それで今、こうなってるらしい。

 

 手が動かない、

 いや、無いのか。

 足が重い、

 いや、何かが乗って、


 股に、

 顔も知らぬ男が、馬乗りになって、

 股に、挿して、

 その後ろから、名も知らぬ誰かが、

 諸共に刺して、


 火が、

 熱い。


 そうか、

 知らぬ男と、

 焼けているのか。




「ああああああああ!!」


 あつ、熱くない、熱いってなんだよ、今は3月だよ。

 ってか何の話だ。

 あれ?ほんとになんでビックリしてんだ?俺。


(((ススムくん?大事無いですか?)))

 

 ああ、カンナが居る。

 何故だろうか、泣きそうになるほど、安心してしまった。

 俺ってこんなに、涙もろかったのか。


(((ススムくん?)))

「あ、ああ、ごめん。何でもない。いや、なんでもなくはないと思うけど、なんだったか、忘れちゃった」

(((………)))

 

 暗くてカンナの表情は見えない、だけど何となく、深刻そうな雰囲気を感じた。


「いや、ごめんって、ほんと、何でもないからさ。明日からの新生活に、ちょっと緊張してんだと思う。全然平気」

(((………折角今日は、訓練も潜行もお休みにしたんです。ゆっくり眠りなさい)))

「うん、そうするよ…」


 俺は再び横になる。

 だけど変に目が冴えてしまった。

 スマホを見ると、午前2時。

 早く寝なきゃと焦る程、眠気はスタコラ逃げてくわけで。

 それに、何も覚えてないのに、


 こわい。


 何がどう怖かったのか、それすら分からないのに、

 恐怖だけは、ずっと体を震わせていて、


 どうすればいいのか、俺には分からなかった。


 

 さらり。


 

 髪の一本一本を、抜けていく五指ごし

 頭の骨まで、愛されてるような。


「…!」


 知っている、この感触は、


(((ススムくん、大丈夫ですよ?)))


 目を開ける。

 黒く潰れた世界に慣れた目が、陰影の中に美貌を浮かべる。


(((私が、いつまでも、こうしています)))

 

 触られている。

 撫でられている。

 前にもやっていた。

 彼女は俺の右眼の中で、

 実体が無くて、

 なのに、どうして?


(((眼球と脳は、繋がっているんですよ?魔力と信号をいじって、感触を誤認させるなど、容易な事です)))


 またまた恐ろしい事を口走るカンナ。

 だけど脳からドロドロにされて、俺はそんなの気に留めない。

 

——ああ、でも、そうだ。

 

 覆い被さってくる睡魔の下で、ウトウトと止まりゆく思考を絞り、

 残った最後の力で以て、

 カンナから少し離れ、ベッドの左半分にずり退がった。


(((あれ、お気に召しませんでしたか?)))

「そうじゃ、なくて」


 俺が言いたいのは、


「カンナも、どうぞ…」

(((………はい?)))

「ずっと俺に付いて、床の上だと、辛いでしょ?」


 それを言うまでで、限界らしかった。

 舌先すらも、もう動かない。


(((何を言い出すのかと思えば…)))


 ああ、また、真っ暗になっていく。

 鼻の先から、吹きつける甘い息。

 

(((私は実体無き、虚像、なのですから)))


 声色から言って、呆れてるみたいだ。


(((そういう気遣いは、意味が無いでしょう?)))


 カンナが、笑っている。

 そんな気がしたから、


 俺の全身に安寧が、泥のように塗り重ねられ、


 目蓋の重さも支えられずに、

 飛び降りてくみたいな眠りに落ちた。

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