457.良い目を見て欲しい人達が居る
「正しくないぞ、その決断は」
「分かってます」
自分が何を言ってるかくらい、ばっちり理解しているつもりだ。
「お前が相手にしている奴らは、本人は真心を持って、己が清心に従ってやっていると、そう考えている連中だ。そう考えて、お前に背を向け後足で砂を引っ掛ける。それが正しい事だと言い張る」
「誰だって、正しくない事はしたくないですから」
「そんな奴らに義理だか操だかを立てて道化を続ける、そこに意味があるのか?奴らが『要らない』と言ったのだから——」
——もういいんじゃあないのか?
色んな人を苦しくして、
自分もキツい思いをして、
でも、
「俺は納得できません」
まだだ。
まだなんだ。
まだ俺は、ここで負けを認めても良いって、そう思えない。
「それは、見世物としてのプライドか?」
「そう言えるのかもしれないですけど、なんかこう、報われないんです」
「報われない?何が?」
「ちゃんと考えて、踏み止まっている人が」
「これで楽になるから」、そう言って降りるのは、この一瞬だけ見るとそれでいい。
みんなも俺から解放されて、一息吐いて忘れられる。
本当にそうか?
それは忘れられるのか?
「自分の自由に出来る時間を、言い方を変えれば人生を削ってまで、俺を推してくれている人達がいます」
考えた上でそれでも「支える」と言ってるのに、外野から「NO」を言われただけで、何の抵抗もなくやめてしまう。それは、彼らのポジティブな言葉を、感情を、踏み躙る事にもなってしまう。
「それ以外にも、大勢に流されるだけじゃなくて、何が本当なのか必死に、見極めようとしている人達もいます」
人と人とが支え合う、それが社会だ。
だったら、互いに相手に肯定的な方がいい。
だけどみんな、相手を知らないし、知っても理解できない部分もあるから、簡単に「拒絶」や「使い捨て」に流れる。
距離を取って、必要な所だけ関わるとかですらなく、「ここから消えろ」って思って、行動に移してしまう。
それが公然と行えるようになって、法律を跳び越えてしまったら、魔女狩り時代みたいな地獄になる。
だから「そうはなるまい」と、自分の疲労や嫌悪とせめぎ合いながら、他者との付き合い方を模索する人達が居る。
「あいつが嫌いだからあいつを抓み出せ」、そう言いたくなるのを我慢して、「空気が読めない」「擁護なんて信じられない」と責められても、世の中をマシにしようと耐えている人達が居る。
「俺が何もせずに、負ける事からすら逃げて、この戦いを手放せば、そんな人達に無力感を与える事になるって、そう思うんです」
誰かを信じて共に歩むより、失敗した奴を笑う方が楽。
冷静理知的な視点で物を言っても、結局は怒涛の怨嗟が勝つ。
人間はネガティブのベクトルに勝てない。
抵抗なんて全て無駄。
だったら別に、自分もそっち側でいい。
次に別の問題が見えた時には、声を出さないか、或いは勢いに乗って攻撃する側に回ろう。
どうせ自分一人が挫けたところで、誰かがポジティブ側を担う。
それが居ないと社会が回らないんだから、自分じゃなくても誰かがやる。
いつか諸々が耐え切れず崩壊するにしても、それはきっと自分が生きている間じゃない。
もっと未来、知らない時代、知らない人に降りかかる災難。
別に良いじゃん。
だって彼らが“正しい”んだから。
「俺はそんなの、納得できません。ちゃんと考えて、自分じゃない誰かの事まで思いやって、そういう人達が報われないの、ムカッ腹が立ちます」
「足掻いた結果、何も変わらない、どころか誰も答えない。それは、苦い記憶として残る、か」
「そうです。人から人への個人的な攻撃的感情より、法律とか公平性が担保される社会。それを守ろうというモチベーションが無くなったら、ちょっと多めの人に嫌われた弱い人を、例えば漏魔症に罹った人達を救おうなんて話、誰もしなくなる」
俺はそういう、直感だけの社会の中で苦しんで、その中でも自分の足だけで立ってやろうと、反抗期に近い戦いを選んだ人間だ。
襲い掛かる炎の規模が、あの時よりちょっとばかり、大きくなっただけ。
「そうは言ってもお前は神でも何でもない。ただの人間だ。いつでも期待に応えられるわけではない。今回も、『結局駄目だった』という結句で終わるとしか思えない」
「そうですね。でも、『みんなのお蔭でやるだけやれた』、そう示す事は出来ます。俺が出来る限り、やれる限りをやれば、『駄目』とは言わせても『無駄』とは言わせません」
「それがお前の役目だと?」
「使命とまでは思ってません。俺が最善を選び続ければ絶対に良い方向に行く、とも思ってません。ただ納得できないんです」
配信者。
それは俺を受け入れてくれた居場所で、救ってくれた蜘蛛の糸で、俺の夢そのものだ。
「俺の夢」、
「大切な人を守れるくらい、強い自分」。
当時の俺にとって、「大切な人」は家族みんなと、それからあの子だった。
今の俺にとって、一番はカンナで、それからじーちゃんや友達のみんなで、その次くらいに、ススナーのみんながいる。
面白がっての事だったとしても、「漏魔症」を応援するという、そこにポジティブを届けるという、一つの決心をしてくれた人達。
自分を支えてくれた家族を、経済的に要らなくなったから無視するなんて出来ないように、俺は彼らの為に、精一杯拘り続けたい。
彼らとの繋がりを失うにしても、俺が手放せる全部を注ぎ込んで、抵抗してからだ。
「社会を良くしたいんじゃないんです。そういう社会の方が俺の好みだから、その願いの為に行動したいんです。俺はネガティブよりも、ポジティブを広める道具でいたい。出来る所までやらないと、俺が俺に納得できないし、正しさを諦めない人達からも、納得を奪う事になるんです」
「真っ先に撃たれる事を承知で、その先陣を切ると言うのか?」
「あれですよ、いつかのマフィアが言ってたみたいな、『承認欲求が一番基本的な欲』ってヤツ。『一緒に戦ったんだ』って、彼らの中に最後まで残りたい、そういう自己幸福に直結した、種播き活動みたいなもんです」
「『二股』どころか1000万股のクズか?」
「そうとも言えます」
「直線的へそ曲がり男奴が」
処置なし。
そう言いたげにニークト先輩は、どこか柔らかい表情で目を瞑った。
「じゃあ、どう戦うか、だね」
「そこなんだよなあー……!」
「うわあっ!?急に腑抜けないでよカミっち!」
途端に全身が飴のように溶けていく。
戦いたいとは思っているが、武器も何も持ち合わせが無い。
亀みたいに籠って時間稼ぎが精々だ。
漏魔症に対するアンチが、水を得た魚になってるから、時間の薬効の対象外。
万事休す。解決どころか進展すら見えない。
「コメント閉じとけば、配信中くらいは平和、とかじゃダメなん?」
「それやるとうるさい人達が、『悪い事だと自覚してるから逃げたんだ』って勢いづくんだよね……。鎖国は沈静化に有効なように見えるけど、実は一回火に油を注ぐ事にもなっちゃうんだ」
「そいで~、世間的に『悪い事してる』って言われてる、閉鎖的なコミュニティに所属し続けるのって、かなりの恥や重圧を感じる物なんだよ~。自分を客観視できる人ほど、離れてっちゃう事が多い気がするねぃ。まあそれこそ何も考えないタイプなら囲い込めるかもだけど、カミっちが働き掛けたいのはそっちメインじゃないんでしょ~?」
「しっかり応援しながら助言してくれるファンの人達も、巻き添えで声が届かなくなるっていうのもあるし、『忠告を聞き入れない人』っていう印象操作を招くし、マイナスがプラスを上回りそうなんだよね」
「メンディー……」
「繊細な人間が多いのねえ…!」
トロワ先輩が勝手に苛立っている。
あともうちょっとで、「全員直に殴り合いに行けばいいのよ!」とか言い出しかねない。
「逆らっヤツ全員ぶっばしちゃっば良いっすよ!」
とか思ってたら、先に来栖君が言ってしまった。
トロワ先輩を超える早さ。
逸材だな……。
「君と違って知性に恵まれた僕から言うけれど、それだと同じ穴の狢に堕ちるだけだよ?あれは相手にしちゃいけないのさ」
「ったって放置してっと、でっち上げが治せないコテーカンネンになっちまっじゃねっか!」
「ある程度は仕方ない。切り捨てるべきだ愚者に構うのは時間の無駄だと、歴史に学ぶ僕はそう知っている」
「その方向性はキツくね?マイノリティでもうっさい連中が、めちゃ爆カチ盛りマジョリティになってっから、外にオープンしながらうざいやつだけスルーキメキメなんて、しんどさ変わらん説あるコアトル」
「虚無いー……」
「確かに、この僕であっても、如何に愚昧な弱者の烏合であろうとも、圧倒的多数派からの攻撃に対して、どこ吹く風という顔をしてはいられませんね……」
「じゃ、パワーっすよ!カミザ先輩のさいきょーパワーでビビらせるっす!殴ってねっけども追い返せっす!」
「気に入ったわ!矢張り武力による抑止を掲げた覇道こそ最適解ね」
「トロちゃん先輩は座っててくださ——」
「そっか!」
パワーか!
「す、ススム君?」
「カミっち?え?ちょいちょいそれは違くない?」
「いや、そういう事だったんだ!」
やってる事がシンプル過ぎて、逆に盲点だった。
「攻撃の全てを無視するのは難しいんだ!」
「……う、うんだから今その話をだねぃ」
「どうしたいきなり当たり前のことを大声で」
「やっぱメンタルヤバめ?休んどく?」
「思いついたんだよ!次の企画!」
「企画?」
すっげー不謹慎で、禁じ手みたいな方法。
だが失敗しても、どうせ今の状況は大して変わらない。
間違いなくやり得な一手!
「俺は強い!」
「なんスか急にナルシに目覚めて」
「俺は結構強い事を忘れてた!」
こういうゴリ押しは、得意分野じゃん。




