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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十七章:因果は偶に、思いもよらない巡り方をする

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455.普通ってことは、特別じゃないってこと part1

「あ~るば~~~?おにぃ~~ちゃんだよ~~~??」


 クリスティア、ネオヨルク市内の高級住宅街、から少し離れた場所に建つ一軒家。

 その持ち家を構えるのは、言わずと知れた世界で最も人気なディーパーの一人、いや二人、ドゥオーダ兄妹ツインズである。

 

「あ~るば~~?」


 ポロシャツの胸元をだらしなく開けて、濃い体毛をハミ出させるエドウィン・ドゥオーダは、妹アルバの自室のドアをノックも無しに開き、中に人が居ない事を確認してから比較的広めな家中を探し回り、他の全ての可能性を潰してようやく地下のガレージへの階段を降りていく。


「あ~る~ばっ」

「ふひゃっ!?キッモッ!?フシャーッ!」

「やっぱりここか」


 壁から床と平行に上半身だけ出すという、壁から生えた奇妙な植物のような登場をして、愛しの妹からの不興を買い叩いた彼だったが、少しも応えることなくその手に持った箱を見せる。


「……!そっ、それっ!」

「トゥールーズのケミカルケーキ」

「でかしたアニキィ!」

「それほどでもある」


 「なんたってアルバのお兄ちゃんだ」、

 何らかの魔具の成れ果てが地を埋め、空気中にはスラグやコア粉末が浮遊するそこに、汚れも厭わず突入するエドウィン。

 彼の世迷言を受けて耳を縦真っ直ぐのまま一切傾けないアルバ。


 兄がエスコートするように腕を差し出し、妹はそれが見えてないかのようにドタドタと階段を上がって行き、兄は肩を竦めながら悠々と後を追う。


「はやくっ!アニキはやくッ!」

「まず手を洗ってからな」

「エー……!」


 列車の先端みたいな溶接用マスクやら、分厚く大きめな手袋やブーツやらを放り出し、暴れる髪を乱暴にゴムで止める、そばかすにオーバーオール姿のアルバ。

 お決まりのシークエンスに安心感すら覚え、根を詰め過ぎていた彼女の手を止められた事に胸を撫で下ろすエドウィン。


 この為に片道30分を行き来するのは少しばかり手間だが、妹という巨視的事象の前では無いも同然な骨折りである。

 その名の通り、化学の実験室に置いてあってもギリギリ通用しそうな、ビビッドな黄色と水色の縞模様のケーキ。アルバはこれまでと同じように、


「フヒュッ、何が入ってるかやっぱりわかんないっ!フヒハハヒッ!」


 と、不気味の塊を舌で分解する工程を楽しんでいた。


 小腹も満たされた所で、昼下がりの気だるげな安寧が、少し遅れて訪ねて来る。

 ここで寝たら明日の昼くらいまで完全にダウンする。経験からそれを悟ったアルバは、だがぽかぽかと日当たりの良いカーペットの上で、丸まった体勢から動く気が一向に起きず、せめて一度目を醒まそうとスマートフォンのロックを解除する。


 何か、何か興味を惹かれるものがあれば、眠っている場合じゃないと、意識がこっちに飛び出してくれる。


 そしてその時は、Xnetの投稿をひたすら流し見ていた際に起こった。

 見覚えのある文字列。

 名前だ。


 “KAMIZASUSUMU”。

 カミザススム。

 ススム・カミザ。


 世界大会で彼女達を下した丹本パーティーに所属していた一人であり、世界で最も有名なディーパーにも名を連ねるであろう男。

 漏魔症罹患者兼潜行者という、ダンジョン界の特異点。


 彼がどうやら、“燃えて”いる。


 意外に思う。

 彼と会った時の印象は、兄と一致していて「好ましい」。

 引っ込み思案で対人コミュニケーションが苦手な自分はともかく、兄の見る目は上流階級の社交場で磨き上げられており、簡単に読みを外すとは思えない。


 人様に後ろ指を差される、彼の姿は想像できない。


 仮に兄すら騙しおおせた変わり身の使い手だったのだとして、そこらの素人に尻尾を掴まれるというのは、これまた直感に大きく反する。


 少し、調べてみたくなった。


 起き上がる。

 リビングのテーブルの上にあったノートPCを起動し、パスワードを入力。


「おっ、何か琴線に触れたか」

「うるさいうざいあっちいけ」

「おーん?Xnetか?」

「よるなのぞくなあっちいけ」

「アルバ、前も言ったがSNSは危ないぞ?人が外を出歩けるように、自分を濾過ろかして出て来た淀みを流す処理場、風呂場の排水口ネットより汚い。正面から目を合わせていると気も体も悪くなる」

「アニキいつもみてる」

「僕はスレてるからいいんだよ」

「ナニソレ?ダサいよ」


 自分にだけ向けるロートーンで端的な物言いを堪能しながらも、エドウィンからは心配が抜けず、身体に魔力を通し始めた。アルバの精神に汚染の兆候が見えたら、すぐにでもネット回線を吹き飛ばす構えだ。


 兄のハラハラを知ってか知らずか、妹はPCとスマートフォンを使って得た調査成果を、大判タブレットに纏めていく。


「多重交際疑惑、これは生成AI、これもフェイク、これも、これも、これは本物、これはAI、AI、AI、AI、本物………どの女性とも交際の決定的証拠ナシ。喫煙、フェイク、フェイク、フェイク、フェイク、フェイク、本物、フェイク、フェイク……、フェイクが多過ぎるよ何このゴミの山?後回しして登録者水増しは……丹本語圏だけに訴求してるから切り抜きとか一部の派手なシーン見たいだけの他言語使用者ユーザーがリアルタイム配信に来ないだけ。窃盗疑惑は……、即日当事者から否定の声明が発されてるから論外。浅級発生時に民間人見殺し?厳密に言えばディーパーも民間人。しかもこれも出て来る写真が造り物造り物造り物………」

「うん?」


 エドウィンは後ろから様子を窺っていただけだが、深入りを避けていたその案件の現況を知り、僅かな異常性を感じて自分の端末でも検索を掛けてみる。

 ………矢張り。

 AIが生成したディープフェイクが出回り過ぎている。

 悪ふざけで幾つか投稿され、そのまた一部がどこぞのバカに本物として担ぎ上げられる、これは分かる。

 だが「証拠写真」として閲覧数や反応を稼いでいる実に9割以上が、一目では分からないくらいのクオリティの生成画像。

 数が多過ぎる。

 画像も、それへの反応もだ。


「誰か、()()()()な」


 アンチ(A)ローマン(R)コミュニティ(C)か?

 カミザススムが人気を獲得し、表立った批判がそれ以上の興奮で潰されていく雌伏の時を耐え、この瞬間を待っていた、という事だろうか。

 ただ画像を偽造するだけでなく、身内全員で捨てアカウントまで使ってカウンターを回し、過ぎていく情報の一つとしてチラリと見た時に、「誰もが真実だと認めた投稿」に思わせる。


 奴らならやりかねない。

 が、にしてもなんだ?この偏執的なまでの徹底ぶりは?

 ちょっとしたフェイク画像にまで、最低でも数万もの「いいね」が飛んでいる。一時間前に投稿された物で、「いいね」が7万。

 返信としてぶら下がっているのは、バズツイートにあやかって閲覧数稼ぎをしたゾンビ共だ。これは良い。吐いて捨てるほど見た。


 だがそもそも、どれもこれも爆発し(バズり)過ぎだ。

 幾らカミザススムがビッグネームと雖も、規模と言うよりスピードの点で、不自然な潮流に思えてしまう。


 ARCという、愚痴の方向だけが似通ってしまったくらいの結束で、こんな組織的なやり方があり得るのか?


「わっかんなーい!」


 アルバの声。

 エドウィンは自身の迂闊さに舌を打ちたくなった。

 電子のゴミ箱を漁っていた妹から目を離すなんて。

 

「大丈夫かアルバ?」

「う~ん、どうだろ?カミザススムが批判されてる事のほとんどが証拠不十分か多分法律の範囲内だし何なら彼側が被害者と言える事柄に至るまで全部犯罪みたいな論調で叩かれてるのに加えて丹本語圏以外だともう雰囲気だけで怒ってる人ばっかりだっ、っていうのが『大丈夫』な状態なら、うん、大丈夫、ふーしゅー……!」

「うん一度画面閉じようか全然ダメだ」

 

 ドクターストップ。

 抵抗されたらどうしようかと懸念していたが、良かったのか悪かったのか、彼女は不条理の洪水を前にクールダウンを挟まなくてはいけなかったらしく、素直に捜査を中断、仰向けに倒れるのだった。


「フヒュー……、本人からの説明も都度されてるし、普通に考えれば聞くべき声がどちらか分かりそうなものだけど……」

「丹本語が分からないのが多数派だろうしね」

「でも丹本人アカウントっぽいのも叩きに参加してた…よ…?」

「それがインターネットの祭りってものさ。脳内麻薬を分泌する為に自分から怒りに行くジャンキーエンターテインメント」

「でもあの人、結構良い人そうだったじゃん」

「アルバもしかしてああいうのが好みか!?」

「フシュー!話進まないから黙ってて!」

「イエス・マム」

「私が言いたいのは、優しい王様みたいな人だったのに人望が思ったよりないな、ってコト」


 カミザススムにカリスマが無かったのか。

 集まったのが度を超えた愚民揃いだったのか。


「そうじゃないアルバ。彼の統治が弱いのでなく、そもそも王様も配信者も弱いものなんだ」

「弱い?王様が?」

「弱いさ。人間が死ににくい『社会』という仕組みを保持する際、生まれてしまう構造的犠牲者、それが王様なんだ」

 

 人の心理、それが個と群で変わる事、それらについて彼女はまだ理解が浅い。

 丁度良い機会だ。

 彼らディーパーが「生存する道」として見た「インフルエンサー」が、どれだけ茨の道であるのか、それを聞かせるにはお誂え向き。

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