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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十七章:因果は偶に、思いもよらない巡り方をする

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454.生きていく事はできるんだけど……… part1

「降りろ、それで終わりだ」


 5月30日の金曜日。

 連日のように続く学園側からの聞き取り調査の後、学園図書館内にあるグループワーク用スペースを借りて、トクシ全員で集合している。


「なにこれ…!『彼はしばしばその素行について、疑惑が浮上し波紋を呼ぶ事があった』って…!」

 

 新聞を借りて来て内容を確認していたミヨちゃんの、怒りを押し固めた怨声えんせいが部屋の中に響く。


「あー、コイツアレ?大手ビジュ系ディーパー養成所のとこのボスっしょ?前からインステとかXnetとかで『有識者(笑)』って顔して、ちょくちょくカミザのネガキャンしてたん見たわ」

「ないわー……」


「競合他社……『社』じゃなくて『者』かな?とにかくイケメンを売りたい所からすると、カミっちの人気のせいで、パイを食いっぱぐれる事もあっただろうからねぃ」


「と言っても、僕の明晰な頭脳は、先輩への公式企業案件のような依頼は、アヅマホールディングス以外からだと、あまり無かったように記憶していますが……」


「それもそうだった~。ってことはもっと単純に、漏魔症なんかに人気で負けるのが癪だー、ってだけの話かもしれないねぃ」


「誰かが勝手に石投げたら波紋の一つも立つじゃん!何度も何度も恥ずかしげもなく嘘を上塗って、良識があるならやらないようなガセネタ攻撃をし続けて、そうやって今まで積み重ねた騒ぎを『あの人色々言われてます』の実績にするだなんて!おかしいよこんなの!」


「それって、すぐ消防車来る地域放火しまくって、火事多っから治安ワリイ地域ダー、つってるよなもんっす?」


「もっと簡単に考えなさい。特定の一人に付き纏って何度も家を燃やして、『あいつの周りは火が多過ぎる、あいつが犯人だ』、みたいな事を言ってるのよ、このオロカ低次元性産業山師は」


「す、スゲーゆっすね……!?」


「こんな人に取材して、そのまま書く新聞も新聞だよ!規模が大きくて人脈とかお金とかちゃんと持ってるマスメディアって、『動画サイトとかSNSは真偽のわからない情報が溢れてて危ないよ』って言わなきゃいけない側なのに…!なのにそういう場所から出た憶測を、両方の当事者の言い分を聞くみたいな精査すらしないで、そのまま流すなんて絶対におかしい…!」


「まるで拡声機ね」

「暴露系TooTuberとリテラシーがどっこいだねぃ」


「多くの人に広めるっていうのもそうだけど、まだ不確かな話に権威の太鼓判押しちゃったら、少なくない人が疑いを保留から確定にしちゃう…!凄く危険だよ…!」


「テレビや新聞が一度言った事を覆すのは、この僕ですら大変に難しいですからね。その点では未だ、インフルエンサーとは比較にならない権力です。美しき僕でさえ恐れる相手ですよ……」


「学園から抗議とか入れれば、少しは抑止力に——」


「やめておけ。その手合いに尋常の職業倫理を説いてもどうにもならない。第一、いきり立った大衆には、権威による説得が逆効果な時もある。『圧力』と称して攻撃材料に変換されるだけだ」


「何もない所から、これだけヨーギをモリモリに出来た人達ッスからね」


零輪れいわの錬金術マジパネー」

「えげちぃー……、治安終わってるー……」


「完全な無根と言うわけでも無いだろうが。一部は事実だ。特に、漏魔症による低価格ダンジョンカメラマン雇用は、同業者からすら悪感情を向けられている。それだけでも世間からすれば、“醜悪”の汚名を着せるに足りている」


「つってもホーリツじゃセーフ……セーフっすょね?」


「民衆の感情に反してな。それが全てだ」


「じゃあ見逃せって言うんですかこんなの!?」


 机を叩いて立ち上がるミヨちゃんだが、


「こんな卑劣100(パー)なやり方に、泣き寝入りですか!?」

「それと同じ思いを、奴らは法に裁かれないジェットチビに向けている」

「………!」


 ニークト先輩の言葉に、顔色を赤や青にグルグル変えて、スカートを引き千切らんばかりに強く、拳を握りながら腰掛ける。


「法律が、ススム君と同じように、彼らを許すって事ですか……?」

「法と社会が、奴らの存在を見過ごしている。無論、名誉棄損等の訴えを起こせば、その一部に勝つ事も可能だろう。だが『社会のニーズ』という全体への打撃として、それは余りに微々たる力だ」

「僕の深謀な思慮からすると、それでもやる意義はあると考えます」

「それはそうだ。オレサマもそれを止めるつもりはない。だがこれまで同じ事が無数に繰り返され、これからも消える気配がない。それは何故だ?」

「……僕の脳細胞は答えを出しています。求められているから、ですね?」

「そうだ。例え訴訟というカウンターが決まったとしても、社会全体に発生する利潤がそれを補って余りあるから、このやり方は生き続ける」


 誹謗中傷なんて酷い。

 流言飛語なんて撲滅すべき。

 みんなそう言う。


 だけど社会は、それらを求めている。

 虚声きょせいそのものではなく、適当な根拠で感情を発散できる、その無法を望んでいる。


 「間違った風説で人を叩きたい」、とは言わないけれど、

 「非難にライセンスを設けたくない」、とは言うだろう。

 不当な攻撃が出来る余地を、そういう言い方で包んで保持する。

 

「大抵の民草は、()()()道義道徳が損なわれる事より、人を嘲笑う娯楽が奪われる事を恐れる。これには、勝てない。それが当人の正義から来ているからだ。一度でも『正しい』事にされた風聞は、合法の範囲内での根絶は不可能、未来永劫しぶとく生き残り続ける。一方で非合法の手段に手を出せば、対する奴らに正当性という油を注ぐ事になる」

 

 正しさは、心に根差す。

 人の心は、当人にしか変えられない。

 一度信じ込んだが最後、訂正が意味を為さない事もある。


 あらゆる説がそのクオリティに拘らず、世界のどこにでも届くネット社会。

 誤報によって植え付けられる「正しさ」は、加速度的に増えている。

 個人が裁判に何度か勝って、その程度では消し去れない。


「でも、攻撃したい側の人も、絶対に勝てる相手に喧嘩を売りたい筈です。だって個人レベルだったら、訴えられて賠償金を払う、とかになったら痛いと思うんです。しかも、何もしてないのに責められる世の中になったら、自分がこれから何も失敗しないで生きても、法律を守って生活しても、いつか、いつか急に笑われながら叩かれる側に堕ちる可能性だって、生まれちゃうじゃないですか…!」


 そうなった時に身を守ったり主張したりするのなら、それより前から気を付けてる方が、ずっと楽で安全だ。

 罵り合う社会を放置するのは、彼らにとっても不利益しか生まない、ように見える。

 

「攻撃したい、その衝動があるのは分かります。でも攻撃の相手を選ばないと、丸腰で熊に向かっていくような、自滅を知らずにやっちゃうんですよ…!?

 事実の精査とか、遵法意識とか、武器や防具、敵を選ぶ行為です…!あの人達自身の安全の為に必要なのに、どうしてそのプロセスを捨てられるんですか!」



「その『いつか』が自分には一生来ない、そういう高確率を願いながら寝転がる方が、更に遥かに楽だからだ」


 

 これにも、ミヨちゃんは抗弁出来なかった。

 ハラワタまで落ちてしまったのだ。

 納得してしまったのだ。


「結論は一つだ、カミザ」


 キャニスター付きの椅子を、玉座のように使っていた先輩は、部屋の隅で黙って考えていた俺の方に回頭し、その身を前倒して言った。




「“道化の君主”としての身分を降りろ」




 最初からずっと言っていた主張を、彼は改めて俺の前に提示する。

 

「先輩、こういう事は、有名になったら起こる、成長痛みたいな物で——」


「これが、か?勘違いしているようだから言ってやる。今回のこれはちょっとした痛み、通過儀礼どころで収まらん。大事故だ。違うな。リンチだ。集団暴行と言うべき事例だ。そんな場からはすぐに抜けるのが健全だ。違うか?」


「でも、否定の声って大きく聞こえがちですし、チャンネルの規模から言って、まだ俺の味方になってくれる人だって、残ってると思うんです」


「丹本人の気性を考えると、声を出している人間の数倍が、何も言わずに去っている可能性が高い。そうなると残りの連中は、『周囲がそうしているから』という理由で、つられて遁走とんそうするだろうな。自分で戦う気概など、他者の活躍を貪るだけの者達が持つとは、とても思えない」


「情報がまだ完全には渡ってない、海外の人達は」


「より悪い。言語の壁を通り曖昧さに包まれて、『カミザススムが問題を起こした』という空気だけが伝わってくる。元からメインターゲットでなかった事もあって、固着力は無きに等しい。文化的な背景から言って、逆に声を上げる割合が大きくなると予想できる分、反転して攻撃に回る中でも一大勢力を占める恐れの方が強い」


「空気感だけで、そこまで一方的な展開になりますか?」


「なるだろ。応援していたのに『裏切られた』、そう思ったというだけで、立派な被害者意識だ。傷つけられたと感じる者に、一見(ささ)やかな反撃手段を与えれば、殆どがそれを取り敢えず行使する。顔が隠れた者達の、攻撃への心理的ハードルと言うのは、それほど低いものなんだ。事情に明るくなければ、自然と大きな声に従い、お前を撃つ」


「俺を、信じてはくれませんか」


「奴らはそもそも、大してお前を信じてなどいない」


 「何が起こるか教えてやろう」、

 先輩は、

 「特別」である貴族と、誰でもない民衆の、両方に属した経験のある彼は、

 歴史に学んだ予言を謡う。


「お前が敗色濃厚と見るや、奴らはお前の応援団から降りる。期待と違う物になったその時点で、お前は“推し”とやらではなくなる。その座に就く者が罪を犯すか傷つくかに心を砕くより、その座から蹴り出して赤の他人にしてしまえば、一々思い遣る必要も無くなり、気分が楽になるからだ。


 そういう、今まで大事にしてきた物より、外様からの空気の側を気にして、証拠も無く流される態度が、ゴシップを飛ばすハゲタカ達に餌を与えて来た。ああいう種が生きているということは、高確率でそういった切り捨てが発生する世であるということだ。


 そいつらは賢く損切りをしたつもりだろうが、単にアジテーターに踊らされているに過ぎない。攻撃する側はさぞかし面白いだろう。愛だの想いだの語ってきた手合いが、刺激一つで逆立ちして、崇拝対象に屁を引っ掛ける」


 「笑いが止まらないとはこの事だ」、

 片眉を持ち上げ、表情を斜めらせ、「見世物小屋」を痛罵する先輩。


「盲信しろと言うわけではないが、よりにもよって木っ端サイトだとか週刊誌だとか、人の不幸を喜ぶ事を生業とした連中を、脊髄反射で信じる習性は救いようがない。

 道が真っ直ぐ続いているように見える場所で、汚い手書きで『引き返せ』と書かれた紙が落ちていたら、悩まずすぐさま反転するのか?それはなんとも、決断力の溢れる御仁が多くて結構!世の将来も安泰と言うものだ!」


 「これだからショービジネスは好かん」、

 彼はきっと、「ファン」という心理を信用していない。

 そんな物の為に、仁義を通す事なんて考えるなと、そう言っている。

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