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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十七章:因果は偶に、思いもよらない巡り方をする

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449.これを?毎年?………大変だね?

「——等々!以上をお聞き頂いてもお分かりの通り!昨年度に入ってからの御部おんぶの臨時予算申請が、目に余るほど多数回に亘っています!他の部活動への示しを付けるためにも、これを容認するわけにはいかんのです!」


「で、あればこそ、今年度配分予算案の大幅上方修正を求めているのだ」


 俺達が新開部のいつもの会議室に着いた頃、先に来ていた来栖君他の部員達の前で、二組の眼鏡がぶつかり合っていた。


「前年度にいて我が部の予算編成の見通しが甘かったのは、慙愧に堪えない事実として受け止めると共に、ここに謝罪しよう。しかしながら、それを悔いるばかりでは同じ事態の再来を防ぐ事が出来ない。得られた過去の記憶を教訓として活かし、来期についてより高精度の予測を立てた上で行動する。過ちとその修正を何度も超える進歩でしか、真の自主独立に至る道は無い」


 爆発実験に失敗した博士キャラみたいに暴走する髪をそのままに、度が強い眼鏡を掛けている中等部生…4月から高等部生となった彼は、我らが新開部のエース殊文君。


「今年度もまた性懲りもなく、資金を湯水のように投入するつもりであると、そう仰られるか!それは修正ではなく居直りと呼称させて頂く!諸賢が行うべきは浪費を横臥おうがさせながら敢行する強訴ごうそではなく、諸経費及び予算使用の意思決定プロセスを見直し再発防止に努めることの筈で御座いましょう!」


 目と口を横線のようにぴったり閉じて、両耳を手で塞ぐ赤毛のツインテール、生徒会総長のプロトさんの隣で励声れいせいを発しているのは、応援団員のように反り返る真ん中分けで真面目そうな高等部3年、生徒会副総長の正村先輩だ。


「分からない人だな正村先輩も。部内資金割当(わりあて)審査会議は慎重且つげんとした規格で依然として運用されている。浪費など何処にもありはしない。我が部が旧き時代から綿々と受け継ぎ、時代に合わせ改善改修を施してきた組織運用法の結集たる部内規則の下で、検討に検討を重ねた結果が導き出した結論がそれだ。先程読み上げられた金額についても、この場で一つ一つその妥当性適当性を語り聞かせる事も可能である。無論の事ながら、壱円いちえん単位で、だ」


「言い分が理解出来ないでもありません。けれども先程も申し上げさせて頂いた通り、諸賢ら内部の基準のみを理由にこの申請を受理することが罷り通ってしまえば、諸賢らとは異なりより簡易的な手続きを踏んだだけで同じ事を主張する部が、後を絶たなくなってしまう!それは生徒会の要求に対しいたずらな抵抗を誘発し、敷延ふえんすれば生徒会の学内自治・決定権を脅かす事にも繋がりかねない!」


「それをやられた時はこう言えばいい。『それでは各部最低一人ずつ日魅在進を連れて来て下さい』、と」


「wEッ!?」


 急に俺への流れ弾が来た。

 なんか分かんないけどスナック片手に観戦するかあ、くらいのノリで緩み切っていたので、鳩が顔面にメジャーリーガーの全力投球を食らったような顔をしてしまう。


「先輩、僕から賢察けんさつ申し上げますが、ファンド獲得の担保にされているようですよ?」

「なんかそういう流れだあ……」


 いつの間にか俺達に追い着いていた二瓶君が言う通り、質草しちぐさになった気分である。


 余談だけど、トクシの新入り君二人は、俺の強さを徹底解剖するべく新開部に入ったらしい。ふとすると従順なように見えてしまうが、結構強かに爪を研いでいるみたい。

 追われる立場ってのも、割と楽しい。


「日魅在先輩という、興味深く、協力的であり、丹本の、人類の将来を変え得る程の存在感を持つ投資対象が参加し、且つ実際に様々な成果を上げている団体。それが我々新跡開拓部だ」

「彼が誇る数々の輝かしい勲功くんこう、それはこの部があればこそだと、そう断言しておられるのでしょうか?」

「どうだろうか日魅在先輩」


「ゥ…ッ!スゥー………!2割……言い間違えた、3割……ごめん嘘!半分くらい!半分はこの部のお蔭!」


「お聞き頂いた通り、入学から1年足らずで深級遠征最深到達パーティーやギャンバーU18世界最優秀者といった功名を捥ぎ取り、肉体強化や魔力感知の常識を打ち破り、精神改造にらない体内魔法陣構築という新手法を開拓し漏魔症の可能性を見せ、モンスターコアについての新仮説の手懸りまでもを掴んだその手腕、その半分が我が部の尽力によるものである事は疑いようもなく明らかだ」


 そ、そうか?

 俺今普通に怪しかったよ?

 疑いようがあったよ?


「実験室の内壁パーツ等の資材搬入費が、明らかに昨年度下半期で回数を急増させているのも、彼の為だと?」


「日魅在先輩の“性能”を、何を何処まで出来るかを量る。その為に全力を出して貰う必要があった。彼の『全力』の凄まじさはここで言うまでもない事だろう。実験内容の決裁には白取先生も関わっており、その為に備品への多少の損害は目を瞑るという判断が下った。あの白取先生が、だ。我が部の活動に重い意味があるという主張の根拠としては、そのお墨付きだけで足りるだろう」


 はい、すいません。

 思いっきりノビノビウキウキぶっ壊しまくりました。

 だって、「その可能性を限界まで見せてくれ!」、って言われたから………


「これだけの大事に資本を流さないと言うのであれば、それは成果を求める競争を過剰に委縮させ、体験の質を高め道を極めるという本文を遠ざける事に繋がる。行き過ぎた共産主義と同じように、腐敗の温床と化す未来すら見えてしまう」


 部活の予算の話だけでそこまで言う?


「そういった信賞必罰を踏まえた上で、そこから周囲の反感を考慮に入れた下方修正が必要となるのが、生徒会であり社会というものです。出過ぎる杭は打たずにはいられないのが人間であり、それを打つ事で多少なりとも禍根が生じ、残留し続けます!これは!避けねばならい事です!」


「うん。それもその通りだ。だが我々を無碍むげに突っ撥ねればそれこそ明胤学園の部活動システムの軸が揺らぐ。よって、満額を一度に載せる事が聞けないと言うのなら、緩やかに上げる以外に道は無い。そこで物は相談なんだが、日魅在先輩が学園に在籍する期間である最短あと2年、その間にここにある水準まで段階的に上がるような試算を元に案を組んで、今年度の成果によって来年度予算案の更なる増額を許すかどうか——」

「その場合で言うなら一年目の上昇幅は——」


 さっきまで立ち上がって激論を交わしていた二人は、今や一つの資料を座って覗き込み、それぞれ会計担当らしい電卓持ちの味方を呼んで、書き込みながら値段交渉に入ってしまった。


「な、なんか、大変な騒ぎに……」

「そんなにおろおろしなくても平気だよ?恒例行事だし」

「恒例…?これが……?」

「よー、ザコーコーセー」


 ミヨちゃんの口から聞こえた言葉に我が耳を疑っていたら、退屈になったらしいプロトさんがこっちに絡みに来た。

 4月から中等部に進級したせいで、にのまえ先生との時間が減ったと、よく雷様みたいな角を生やしている。


「先輩ッことザコっか言ってんじゃねっぞラー!!」

「うっわー!うるさい人から逃げたのにチョーうるさい人いんじゃーん!アタシ暑苦しいヤツきらーい!シッシッ!」

「んっだっとっテメっこのっ!かっとばっt「来栖君ステイ!中学生相手に凄まないで!」ハイッ!サッセーンっした!」

「ぐぬ…っ!千里を通す僕のさとき耳でも、偶に君の言っている事が聞き取れないよ」


 わかる。

 それはそれとしてそんなに悔しげにしなくても………


「コエデカの事なら気にしないでオッケーだから。アイツ会計時代から、気に入ったヤツにああやって予算交渉バトル仕掛けてっし」

「どんな趣味だよ」

「私も初めて見た時は面食らっちゃってたなあ……。懐かしいなー……」

「僕の聞いたところによると、殆どの相手が折衝の初期段階で押し負けてしまい、社会勉強として物足りないのだとか」

「そりゃあの巨大音波攻撃を接近戦の間合いで喰らったらね……」


 意外な事に、彼の魔法は音響攻撃系の能力ではないらしい。

 良かった。声のデカさ一本でバトる事務方No.1なんて居なかった。

 もしそうだったら割と真面目に肩書との食い合わせが最悪だって思ってたんだ。


「そーいや、そっちの新入生ってその二人ぽっちだっけ?ヨワヨワそー」

「んだ…ッ!くき…ッ!グぅぅう…ッ!」

「毛先まで選り分けられる距離で、僕の鶴声かくせいまで受けながらその見解……、大変失礼だが、君、脳はプラスチック製だね?」

「あ?なに?言っちゃう?ナマイキ言っちゃうの?アタシにナマイキ言っちゃうんだ?」

「質問一つでゆだり過ぎだろきみら」

「ススムは私のどういう所が好きで推してるの?」

「なっなっなっなっなっなっなっミっミっミっミっミっミっ」

「質問一つで茹り過ぎだよ?ススムくぅん?」

「ドーテーキモッ!」

「誰っがどってっだってんだッッッ!?!?」

「今アンタの事釣ってないから!」

「大海原のように寛闊かんかつな僕でも、そんな状態の先輩を尊敬する事は大変な困難を伴います」

「そんなに!?」

(((憐れですね)))

 

 よく知らない人からはあらぬ誤解を受け、近しい人には威厳を損ね続けて、じゃあ俺には何があるんだよ。


「フンッ!この分じゃ今年はアタシの年っ!アンタに話題はくれてやらないんだからっ!」


 あっちの話し合いが纏まりそうなのを察し、プロトさんは生徒会の腕章を着けた一団に戻っていく。


「今年こそは勝つよ。君にも、八志教室全体にも」


 「有望な新戦力も入ったし」、


 俺にしてはかなり自信満々で言い切る。


 簡単ではないが、去年程の絶望感は無い。


 どころか、勝ち目しか見えない。


「君は俺が片付けて、他のメンバーの戦いもこっちが取って、それで万事解決」


「そう言ってられんのも今のうちっ!」


 「ベーッ!だ!」、

 

 彼女はわざわざ舌を見せる為だけに振り向いて、


 跳ねるような足取りで去るのだった。

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