446.あ!そうなってんのかコレ!?
ガゴン、ゴォン!
堅き二つがぶつかる木霊。
閃き幾つも飛び過ぐ火花。
『明度補正ヨシ!』
『高性能カメラ助かる』
『でもテンポが速過ぎて分かんねえ!!』
『お客様の中にディーパー動体視力をお持ちの方はいらっしゃいませんかー?』
『本職ススナー!解説してくれー!』
『割とマジでススナーには業界人多いし、誰か答えてくれそう』
ギィン、グガン!
黒く昏く、広々とした空間。
数mで視界が途切れ、その正確な体積は測れない。
暗視ゴーグルでさえ、光を拾うのを妨害される。
『当たった!』
『魔法の光は映ってくれるのありがたい、それで結構見やすくなってるし』
『マジで一杯いるように見える』
『今来た、え、これどこ?』
『やっぱこれだけ人数が居ると壮観だなあ!』
グワァン、ギャァン!
箱のような機器や、物々しいケーブル類が地をうねる床、
不思議とそれだけは奥まで見通せる。
その上に並び立った十数名が、言葉と力を狙い放つ。
黒いキャンバスの上に、赤青緑、種々の色が塗られ奔り、
触れる物を焼き貫く虹が、四本腕の巨体を衆目に引き出す。
『定期:現在10層到達、Z型討伐チャレンジ中』
『ゼロちゃんもっとこっち向いてー!』
『ファンサして♡』
『お顔見せて♡』
『悪用しないって約束するからその能力人類に寄越せ』
『終わってるコメ欄』
ギギギギギン、ギューンンン!
下腹部だけがぷくりと膨れた、筋肉質な男を模した彫像のよう。
腕が常人の2倍、顔には三つ目、角のように立った頭髪がぐるりと一周。
ミラーボールの下に置かれたように明滅しているが、恐らくスカイブルーに近い色で、水晶のように透き通っている。
『世界でも珍しい深級攻略配信って事もあって、結構盛り上がって来たな』
『海外ニキネキがいつもの数倍居る気がする』
『ディーパーがいっぱい…壮観だなあ…』
『ってかこれ効いてる?』
『やったか』
『やったか!?』
『やったか!』
『ここぞとばかりにフラグを立てに行く米達』
ギガガガガガガ、ブゥウウウウウウンンンンンンン!
半透明なクリスタルの中で、極彩色が乱舞乱走。
その眩さは更に広がり、周囲に他の巨体を浮かばせる。
全て同じ外見。
全て同じ強さ。
その体内で魔法が減退。
発光が収まる端の方から、墨液が流れ入りて満ちる。
後に残るは、墨染の夜闇。
『急な理不尽要素きたな…』
『なんかいっぱいいるーーー( ゜Д゜)!?』
『数には数か』
『Z型が複数体とか、結構珍しいタイプだな』
『ってか有り得なくね?z型って最強の一体を決めるんでしょ?』
キィン、リィィィィィン!
スカイブルーが弧を光らせる。
攻撃に参加した内の一人、その死角からの一撃。
白い障壁を数枚破り、凶刃は術者の肉にまで届く、
その直前に挟まる燃える穂先、それが辛うじて軌道を逸らす。
炎は水晶の腕を伝い焼くも、その内に飲まれ千々に散る。
『見た感じ魔法で作られたちゃんとした分身っぽいな』
『偽物まで含めて全員しっかり攻撃してくるの最悪過ぎ』
『ルール無用だなホント』
『ローカルとかいうあっち都合のルールばっか押し付けてくる奴らだからな』
『ルールの穴を突く奴より、作る奴の方が強いからね』
『視界不良な中で魔法無効化してくる奴を複数倒せとかいうクソボス、です、か………』
『攻撃力もちゃんと高いぜ!』
『草、少しは自重しろよ』
ギュゥウウウン、ジィイイイイン!
消えては現れ、現れては消える。
神出鬼没の字の如く。
それぞれが必ず意識外から出現し、
一人では止められぬ攻撃を残す。
反撃は水晶の中に取り込み、
跳ね回させて衰え殺す。
『思った以上に深級ってヤバいんだな』
『事前情報買っといてこれだから、初見でこんなのと戦ったら絶対終わる』
『敵の場所探知して大勢で殴る蹴るすれば行けるだろ、なんでビビッて遠距離ばっかなんだ』
『エアデ指示厨はこの闇がジャミング系の効果を持ってる可能性を考えない』
『構うのやめとけ、自治厨は荒らしと一緒だ』
外から見る者達の目には、そのパーティーが無為に時を過ごしているように見えた。
策も無くただ強めの魔法を乱発している、それだけに。
ただ彼らは、その場所に来ている事からだけでも分かる通り、素人ではない。
攻略法を確立した上で、戦いを挑みに来ているのだ。
全ての行動に意味があり、目的がある。
その意図はいずれ判明すると、見識の深い者は冷静に待っていた。
だが事態は、どの人間にとっても意外な方向へと進んだ。
それを運んだのは、“風”である。
ひゅ、ぅぅぅううう…っ!
『お!来た!』
『勝ちパターン入った!(≧▽≦)(≧▽≦)(≧▽≦)』
『安定と信頼の呼吸音』
『スゲー安心感ある』
『親の息吹より聞いた息吹』
『もっと親の息吹聞け』
『万 事 解 決』
ひゅ、おおおぉぉぉ…っ!
一団の中から一人が飛び出す。
小柄な少年。
左眼部分のカメラアイが、瞳を多く持つ隻眼のように残光を引く。
飾り気も光沢も味も素っ気も無い、金属と特殊合成繊維で作られた、軽量アーマージャケット着用。
常ならば自らの荷を負っている彼は、荷運び専門のPにそれを任せ、今はポーチとシールドジェネレーター、ケーブル収納機構のみを提げる。
その後ろからもう一人。
青と白のステージ衣装。
四つの尾を自在に操る、狐の面らしきヘッドセットの少女。
尾の先端に把持された装置から、青い突起が生え出て振られる。
少年が身体を横倒した姿勢で、前方向に一回転。
正面に立っていた一体に床の機器が投擲される。
腰から飛び出たダンジョンケーブル、それで掴んで遠心力で投げたのだ。
四本腕はそれを受け、僅かにたじろぎながらも踏み止まる。
全ての腕を真っ直ぐに構え、指先から光の糸を伸ばす。
腕一本につき、それぞれ一箇所に収束、
帯のような光線となり、少年を守る尾が持つ青い盾を貫くが、
射線上からは躱された後。
僅かに離れた場所に着地した彼を、後ろから狙うもう一体。
その輝く手刀を尾が防ぎ、巻き付いてから地に引き倒し伏せる。
ひゅ、うううぅぅぅ…っ!
周囲一帯の気流を決めるかのような風切り音。
その中に混じる鋭い一矢。
少年の声。
インカムを使うまでもなく、Kの能力でパーティー全員に伝わる。
少しの困惑の空気。
少年は正面の一体を蹴り飛ばすようにして、尚も何かを叫ぶ。
少女はそれに言葉無く合わせ、背後を確実に守っている。
ひゅ、おおおぉぉぉ…っ!
気配が引き締まり、場は纏まった。
各々が詠唱を最長まで繋ぎ合わせる。
その場の時間が即座に昼夜逆転したかのような、
目覚ましい光臨。
サイケな色使いの虹が、ドームのように広がって、
主導権争いから黒を押し退け、数秒間支配する。
少年と少女は、その時高く跳んでいた。
暴壊の熱が及ぶより早く、あるかも分からない天井目掛けて、昇っていた。
何も無い筈の座標に、見えぬ足場を設け、
水晶像達の猛攻をあしらい、
上へ上へ、どこまでも。
彼らを照らしていた魔法が、水晶に取り込まれて消え入っていき、
二つの影はより広い黒色に溶かされる、
そう思われた直前の事だった。
影が晴れ、広間は元の姿を取り戻した。
それは極端に広いが、どこか寂れてしまった、怪しげな実験施設のようだった。
窓は見当たらず、風通しも良さそうには見えず、良くない気が下に溜ったまま、視界を澱ませているように見えた。
水晶像の姿もどこにも無く、隠れられそうな場所すら無し。
その中央に、少年少女が緩やかに着地。
少年の手の中には、指の隙間から光線を漏らす、小さな球体があった。
「あっしぇんさん!分かりましたよ!Z型パラスの本当の絡繰りが!」
『はい、ここでタイマーストップ。記録は7時間26分でした』
『こっちは何も分からないぞ、ススム』
『はしゃいでるススムかわいい❤』
『4Kのススムは滋養強壮に良いとされており』
『なんか説明し始めた』
『オタク特有の早口やめろ』
『なんか結構ヤバげな発見してないか、ススム』
『気付いたか、カミザススム』
『これマジ?』
『サクって倒すどころか深級の情報を更新する新発見してやがる』
『逸材過ぎんだろ・・・』
『新カメラになってから画質も音質も良くなってるから、純度の高いススムを摂取できて最高だわ』
『大分だね』
『釣りですか?嘘吐くのやめてください』
『周りが自然と距離取り始めてる』
『高ランクが引き攣った笑顔してるのバカおもろい』
『よく分かったねススム君!いやー良い反応するなー!』




