閑話.学生にとっての年の瀬行事 part1
世界大会優勝!!!という特大成果を引っ提げて、学園に戻ってきた俺達を待っていたのは、軍隊か何かみたいに待ち伏せて包囲する報道陣だった。
特に俺は今回のニュースの目玉みたいな物なので、辺泥先輩を盾にするにも限度があり、フラッシュの集中砲火の中であれやこれや答えさせられ、すっかりグロッキー状態になってしまったが、あとひと踏ん張りと体を引き摺るようにじーちゃん家へ。因みにシャン先生が車を出してくれたので、空港からの道中で変なのに絡まれる事はなかった。
口外法度と断りながら、救世教の偉い人達からの話を伝えたら、嬉しがる前に腰を抜かされてしまった。
俺は最近大物に会い過ぎて感覚麻痺してたけど、じーちゃんからすると久しぶりに顔を見た近所の坊主から、「他国の皇女から言葉を貰った」とか言われたわけで、そりゃあびっくり仰天大回転である。
シンドの永級が枯れた、そう聞いたのは帰国から一週間くらい経ってからだった。
俺が“暴風”を殺した事が関係あるのか、それともカンナが何かしたのか、それは教えてくれなかった。
影響として、最大級のダンジョン資源供給元が立ち消えた事による混乱があり、世界経済がデンデコ波打ったが、国が無くなるような空前の大惨事には発展しなかった。
如何に宝の山に見えるとは言っても、それに見合うかそれ以上の謎も危険も大きかった存在。国最高の潜行者でも揃えなければ挑めず、かと言ってそれでうっかり死なれたら大損害。ダンジョン依存から抜けようと画策している時流もあって、実状を見ると持て余し気味だった事が、この場合は幸いしたらしい。
シンドという国が普通に回りそうだと分かってくるにつれ、株やら為替やらは小康状態に治まっていって、ニュースを賑わせなくなった。
俺の方はと言えば、登校日初日に全園生徒の前で表彰されたり、新聞部とやらに付き纏われたり、ご機嫌が斜めり過ぎて裏返る勢いのプロトちゃんに鬼のバリバリ電撃訓練に付き合わされたりしたが、基本的に平和な……これ平和か?まあダンジョン関連の超重大事件と比べたら平和だし「平和」で良いか。
俺達のチャレンジは終わり、後は乗研先輩の受験の心配だな!とか考えてたら、
「あん?もう合格したぞ?卒業も余裕で、今は入学準備中だ」
とか言われた。
えっ!?行く前は「これからが勝負!」みたいなノリだったじゃん!?と思ったけど、どうやら合格発表が俺達の渡聖中にあったらしく、晴れて第一志望確定となり、密かに幕を下ろしていたらしい。
ヌルッと始まってヌルッと終わったな………。
ただ試験日程が早めだなーとは思っていたが、そのスケジュールからニークト、トロワ先輩陣は何かを悟ったらしい。珍しく「頑張れよ」的な事を言っていた。遠回しだったけど。
ってな感じで、我ら特別指導教室、5月の時点でシャン先生から提示されてた目標を晴れて全達成!何ならプラスまでドドンと爆盛りにして大大大達成!である。
みんなメキメキ成長したし、進学実績と合わせて先生の指導能力も証明できたし、漏魔症関係にも光が見えたし、文句の付けようが無い1年だった。
死ぬほどムズい期末テストもそれなりの手応えを感じており、後腐れなく次年度を迎えられそうとなって、残りのイベントに持てる全力を投入する所存。
?もう2月にもなって、何か主要なイベントあったかって?
は?お前のカレンダーぶっ壊れてんの?
年に一回のみ!
世界で一番重要な!欠かせられない祭典があるだろ!腑抜けてんのか!物覚えが悪いならメモしとけ!
来たる3月4日!
丹本の財産!地球の至宝!詠訵三四様のお誕生日である!
控え!控えーい!
………失礼、バグりました。
と言うのも、Xデーが迫る中、俺に掛かるプレッシャーが日に日に大きくなって来ているのだ。
いや、勘違いして欲しくないんだけど、ミヨちゃんからは特に念を押されたりとかしてない。全然。これっぽっちも。
ただ俺の中で、推しに直接手渡せるプレゼントであり、自分の誕生日に結構良い物を貰ったという恩義もあり、これまでの人生で家族を除けば一番仲が良いだろう人への贈り物でもあるという、三重の理由が掛け合わさり、「外せない」という使命感がすくすくと育って、今や天を衝く程の巨大怪獣になってしまっているのだ。
今年に入る頃には、否、10月時点から長期的に頭を悩ませている問題。
それは期日が近くなればなるほど、頭の中で大きさを増して、今では脳の大部分を占領されている状態。
俺は考えた。
考えて考えて考えた。
だが答えはまだ見つからない。
俺はどうすればいいのか。
と、テスト終わりたての2月中旬に難しい顔をしていたら、
「お困りのようだねぃ、カミっち。チミもやっぱり気になるクチかあ~」
訅和さんが絡んで来た。
「あ、分かる?」
「そりゃあ、この時期にそんな、見るからに思い煩うような顔をしてたらねぃ。バレバレだよ~」
「まあそうだよなー」
俺より前からの友達である訅和さん。当然プレゼントの事も考えてるか。
「訅和さんは?もう肚は決めたの?」
「うむん。ワテクシ一途なんだよねぃ、こう見えて」
「そうかあ……、俺もいい加減決めなきゃだなあ……」
「ムン?」
「うん?」
「………カミっちって、あげる派閥?」
「派閥って何だよ。普通はあげるだろ。俺も貰ったんだし」
「貰っ!?ナヌゥッ!?まさか!?貴様!既にぃ!?」
「な、なんだよそんなに驚いて……」
「既に」って言われても、訅和さんも俺の誕生日祝ってくれてた筈だけど…?
って言うかそれ以前に、訅和さんの誕生日会を女子グループでやってたって聞いたけど?なんで俺だけみたいな言い方になってるの?
「ウヌは…!もうわっちよりも遥か未来を見ていた、という事か…!」
「一人称も二人称も安定しねえ!って言うか、そりゃ考えるだろ。あと一ヶ月だぞ?」
「か、格が違う…!今日に囚われたこの儂とは違い、早々に緊張から解放された挙句に、3月の約束された勝利までをも…!」
「?『今日』?訅和さんは今日何か決めないといけないの?1ヶ月あるのに?」
「………?」
「いやでも、さっきもう一択に決めてるみたいな事言ってなかった?」
「………ドユコト?」
「そんな顔されましても」
目を点みたいに窄め、口をωマークのようにくにゃりと曲げて、一目で頭が真っ白真っさらな事が分かる呆け顔を向けられ、俺も何も言えず相手と反対側に首を傾げる。
「あ!ススム君居たー!……なんで二人で見詰め合ってるの?」
とそこに、話題の渦中の人であるミヨちゃんが、元気よく駆け込んで来た。
「あ、み、ミヨちゃん、これ、違うんだよその……」
まずいまずい。
ただでさえ大したプレゼントを用意出来なさそうだと言うのに、ここでサプライズ感まで損ねてしまったら、もう俺の「ハッピーバースデーミヨちゃん計画」はボロボロだ。
話逸らさないと。
「そ、そうそう!そうだよヨミっちゃん!なんでも!なあんでもないから!」
よし、訅和さんも良い感じに口裏を合わせてくれそうだ。
これでいつも通りの日常会話に路線を戻せば………
「ふ~~~~~~~~~~~~~ん?」
あれっ?
なんかおかしいぞ?
怪しまれてるのは分かるけど、ちょっと、目力が強すぎるかな~、みたいな。
なんでそんな冷たさ全開でこちらをご覧になっているのでしょうか?




