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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十六章:どれもこれも、もう止められない

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444.ここまで、来たんだ part1

 飛行機自体、人生2回目だ。

 その2回目で、いきなり最上位クラスの座席に乗れちゃっている。


 これいいのかな?

 いや別に俺の金じゃないし、向こうの厚意ではあるから、ありがたく貰っておいていいサービスなんだろうけど……やっぱモヤる。本当に良いのかこれ?


「落ち着きませんか」

「は、はぃ……まあ……」

「申し訳ございません。矢張り、私の顔は見るのもお辛いでしょう」

「ぃぃえ…?その……」

「誠に手前勝手では御座いますが、私は貴方に事情説明を施す任を負っています。絶対の秩序たる御方から、私に与えられた責務であり、祝福です。全うする事をお許し頂ければ至極の幸いです」

「全然ぜんぜん!どうぞ!ドーゾドーゾ幾らでも!ハイ!」


 俺の前で何やら畏まっているのは、スーツ姿で綺麗な黒髪をぴったり整えた、エリートリーマンみたいな男前。


 六使通信さん……もっと通りが良い呼び方をすれば、TooTuberの“あっしぇん”である。


 折角この前のインタビューの時、幸運にも言葉を交わさず気まずさ回避を達成したというのに、なんと一対一での対面である。


 お蔭でファーストクラスの席を全然満喫できない。

 ここに入るのが許されているのが、救世教の人員以外だと俺だけだから、余計に色々考えてしまう。

 心細さだとか、俺だけこんな豪華な待遇である事への後ろめたさだとか、色々と。


「ありがとうございます。それでは、どこからの説明をご希望でしょうか?」

「えっと……、まず、六使通さん、救世教徒だったんですね……?」

「ええ。厚かましいお願いでは御座いますが、宜しければ、ここだけのお話に」

「言いふらすつもりは無いですけど……」


 動画とか配信とかでは、そんな素振り一切見せなかった。

 ちょっと意外な事実というヤツである。


「それで、俺の帰国スケジュールが前倒しになったのって……本当にあの……」

「はい。日魅在進様への襲撃計画が実行に移されようとしていた為、こちらで安全な旅路を御用意させて頂きました」

「『様』とかそんな……」

 

 ニークト先輩と俺の前に扉を開けて現れたのは、先生方と一緒の救世教徒だった。

 そこから何か分からないうちに、貸し切った飛行機ですぐに帰る運びとなり、あれよあれよと言う間に機内へ放り込まれた。


 にしても、前に一緒に潜行した時には居ないも同然な扱いだったのに、この態度の変わりよう。ゲヘへ気分良いぜぇい!とはならず、何なら怖い。

 身に覚えがないのに、凄い下段から来られると、逆に威圧を感じるのだなあ………。

 新し過ぎる発見だった。


 うーん、でも、こんな機会あんまり無さそうだし、

 聞きたい事、聞きたい事………


「えーと、これは聞いて良いのか分かんないんですけど」

「どうぞ。是非とも。ご遠慮なく」


 近い近い近いグイグイ来過ぎだって!


「今の俺、そっちの中だとどういう扱いになってるんですか?」


 ただ、これはどーしても気になる、というより、数ある死活問題のうちの一つだ。

 救世教会のスタンスとして、漏魔症なら人にあらず、みたいな立場を公言している。

 去年の8月の騒動の時は、何かと協力してくれたらしく、漏魔症の扱いも「一旦保留」くらいの温度感だと言われていたけど、それは変わらず、なのだろうか?


 この話、つい数日前にも聞きたかったんだけど、話してくれそうなのが酔っ払いの変人お姉さんだけだったからな……。改めて確認したい。


「お察しの通り、非常に難しい位置にあります」

「やっぱり、そうなんですね……」

「しかしながら、決して負の産物としてだけで論じられているわけではない、という事も確かです」

「……俺に、何かプラスを見出していらっしゃる人も……?」

「はい。小さくない勢力が、貴方の擁護論に回っておいでです」


 わあおびっくり。

 一番水と油だと思ってた所が、どういう風の吹き回しで?


「我々が望む所として、大いなる御意思を読み解く事、という物が御座います」

「神様が、何言ってるか、聞こうとしてる、って事ですよね?」

「ざっくり言えば」


 教会のイメージ通りって感じの行動原理だ。

 

「世界にはダンジョンがあり、それを平定する潜行者が存在する。それらには意味がある筈です。人は考えました。神はそれを通して、何を仰りたいのか」

「ダンジョンは人間の罪の結晶で、ディーパーはそこから出る穢れを一身に受けて、贖罪を担当する人達、みたいな考え方になったんですよね?」

「良く学ばれていらっしゃいます。大変結構な事です」

「ははあ、これはどうも」


 これどっちがへりくだってるのかよくわかんないな。


「我らが教えの下で、古来より潜行者が偉大とされてきたのには、そういった事情があります。神から与えられし試練に、最も正面から挑んでいる者達。神と向き合い無原罪へと還る旅程、その天国への歩みの最前線を踏み固める先遣隊。それが潜行者」

「神様から抜き打ちテストを出されるのを待ってる人より、自分から模試を受けに来る人の方が勉強熱心で偉いよね、みたいな?」

「だいたいその理解で正しいでしょう」


 神様がどうこうはともかく、世の中を良くしようと頑張る人が優れているとされるのは、理屈としては吞み込みやすい。


「ですが」

 ですが?


「これは飽くまで、我々の世界での話に過ぎません」


「え…?でも、神様が絡んだ話なんですから、普通に神様の世界の話と地続きですよね?」

「ええ、()()()()()()()。我々のような神を父と仰ぐ者達にとって、そのことわりは自明のものでした」

「??」

 

 ととと……?分からなくなったぞ?


「つまりですね、神と原罪を信じない人々にとって、そんな話は()()()()()()()()()んですよ」

「………えっ」


 俺はついキョロキョロと周囲を見渡してしまった。

 い、今の発言って、結構アブなかったりしないのかな?


「御心配は御無用ですよ、日魅在様」


 そんな俺のキョドり方が可笑しかったのか、相好を崩しながらコーヒーに口を付ける六使通さん。

 

「我々はしっかりと現実が見えております。この世には神を信じない者が、それも数多く存在する。その者達に、如何に神の御言葉を届けても、まるで響く所がない。承知しております。それくらいの事」

「そ、それは……」

「もっと狂信的な集団を想像していましたか?」


 ウッ!

 な、ナンノコトカナー……?

 俺は最近上達し始めた口笛を吹いて目を逸らす。


「教会は愚かではありません。見た目が幾らか変わった程度で、人々の暮らしに寄与しなくなる、何ら意味を持たない教えであれば、それは神の口から出るものではありません。教えが人に影響を与えなくなった時点で、それは我々の見通しが短絡であった事の証左、つまり誤解釈であった事を突き付けられます」

「うーんと……、神様が『こうやって』って言ってる事なら、例え神様の名前を使わないでも、同じ方へ人を導ける、って事ですか…?その、“普遍的”、だから……?」

「素晴らしい御理解です。我々は神を信じない者達にも、異なる言葉で同じ事を教え、それによって世を治められなければなりません。それが出来ないのであれば、それは『神の教え』ではありません」


 神様の言う事は、救世教徒以外も納得させるものでなければならない。

 分からないなら、伝え方が悪い。

 理解した上で現実に沿ってないなら、それ以前の解釈が間違っている。


「この世には、ダンジョンがある。これは現実です。これを放置すれば、世が乱れ、犠牲が増える。これも現実。それを抑えられるのは、潜行者しかいなかった。それもまた現実。これらの現実を前に、潜行者は人の世に貢献し、人々はその献身に敬意を表すべき、そう主張する事に疑いを持つ者は、少数でしょう」


 「道理を解するなら、誰であれ同じように頷く筈」、

 それはそうだ。

 ダンジョンがある世界で安心して暮らせているのは、ディーパーの存在が大きい。

 ディーパーは平和を守って、他の人達はディーパーを尊敬して、それは普通の考え方だ。


 そしてそれは、さっきの神様の世界の理論と、着地点がほぼ同じ。

 どっちも「ディーパーの皆さんを大事にしよう」、みたいな結論に落ち着く。


「我々は、我々が思う神の御告げと、眼前に横たわる厳然たる現実とを絶えず擦り合わせ、真の御意思を削り出すという、2000年続いた試行錯誤を引き継いだ、探究者の末裔なのです。何も神秘ばかりに傾倒しているのではありません。人を救えぬ教えなど、節穴が唱える誤った神格。それは全知全能なる神への冒涜と同じこと」


 神様を大事に思っているからこそ、「神様」という言葉が持つ力だけを振り回す事をしない。

 そこに宿る力を使うのでなく、増させる。

 それが信徒の仕事だと言う。


「勿論、そうは考えない、嘆かわしい傍若無人さを持った者達も、現代にも尚数多く存在する事は確かです。けれど、本道はそれ。我々の真意はそこにある。無謬の真理を絶えず探し続ける、それこそが本懐。御理解頂けますでしょうか?」

「なんとなく、分かります。プラスマイナスみたいな符号と数字がセットな数学は、いきなり教えられても直感的に分からない。だけど『リンゴが2個にみかんが3個で合計何個?』みたいな算数から始めれば、そのうち誰でも分かるようになる。

 神様の言う事を正しく理解できているなら、四則演算から数学に発展できるみたいに、身近な所からその真理まで段階を踏んで辿り着ける、って感じですよね?」


 彼は満足そうに頷き、それから俺の手元を見て「コーヒーより紅茶の方がよろしかったでしょうか?」と尋ねた。

 そう言えば砂糖を入れてからずっと掻き混ぜてたんだった。

 正直炭酸飲料とかオレンジジュースの方が好きだけど、出されたものにそんな失礼な事も言えないので、角砂糖をポコポコ入れて味を誤魔化している。

 

 「大丈夫です」と言って恐る恐る口に入れる。

 うん、これくらいなら飲めるな。

(((何ですかこの甘さ。私の珈琲コーヒーの苦味が台無しです。十点減点)))

(カンナの以前に俺のなんだよ)

(((ススムくんは私のものでしょう?)))

 その一言で動いた自分の心情を誤魔化すように、俺は六使通さんに視線で話の続きを促した。

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