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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十六章:どれもこれも、もう止められない

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442.そこまで来てたの!?

「ふむん?どうやら本当に、S・Kが片付けたようだわい」

「左様で御座いますか」


 五大湖に隣接する自然林の中、動く物が見えないその場所で、二人の会話が聞こえてくる。


「憑依現象ありきとは言え、ill(イリーガル)を退けるか。やるわいなぁ。政情さえ許せば、もっと泳がせてサンプルデータ収集に使う我の案も、通ってくれた筈なのじゃが……」


 「つくづく漏魔症とは、取り扱いのかたいテーマじゃわい」、

 光を曲げるフィールドの中、白衣を羽織り、ロイヤルブルーのスクラブ姿をし、仰々しいゴーグルを掛けた小柄な老人。

 鶏冠とさかのような白髪以外、つるりと体毛が見当たらない。


「兎にも角にも此度の事は、僕達にとって得であったと、そう言えましょう」


 もう一人。

 白いシルクハットに白スーツ、長髪の長身。


「僕という札を、向こうに晒さずに済みました。何よりの優先目標の達成。今はそれを喜ぼうではありませんか」


 白スーツの男の言葉を聞き流すように、白衣の老人は背凭れまで作り込まれた折り畳み椅子に乗って、持ち込んだノートPCの画面に齧りついている。


「喜ばしい!喜ばしいわい。それはその通り大変な収穫じゃった」


 が、会話を続けるつもりはあるようだった。


「しかしながら、じゃ。ダンジョン開発急先鋒の国に、あれをとことん調べられる環境があるのじゃと思うと、とてもじゃあないが諸手は挙げられんわい」

「向こうには彼が居ます。が、こちらにはそれ以上の材があります。何をそれほどに恐れているのです?」

「『材』?それはなんじゃ。そこまで当てに出来るものか?」

「“彼ら”と、それが齎す叡智、軍事技術の蓄積、そして、この僕が」

「お前も我が国の切り札カウントでいいんじゃろうか?」

「当然で御座います。僕はこの国の土壌によって育まれ、この国の理念の傘の下で身を立てました。この国あっての我が身。爪の一枚に至るまで、僕の全ては国の物です」



「そう言うのならばアイン、何故合衆国の敵に加担した?」



 老人は変わらずキーを叩いてはインジケーターを睨み、自らの頭を叩くのを繰り返している。

 それを見ると、まるで興味が無いか、ちょっとした好奇心で聞いているようにも思えてしまう。

 その中に愛国心から来る、審問官としての顔があるのか、本当の所は窺い知れない。


「僕は誓って、敵にくみしてなどいません」


 いずれにせよ、アインの答えは同じだ。

 老人もそれは分かっている。


「『二度』、じゃわい。バーと、スタジアム。一度ならず二度までも、お前はスラムのチンピラを救った」

「救ったつもりなど。所持品を調べ無害であったと確証を得た上で放したに過ぎません」

「お前の能力なら、危うい物品があろうと改竄隠滅朝飯前じゃわい」

「可能かどうかで言えば、肯定しましょう。ですが、やったかどうかで言わせて頂ければ、否定します。僕は任務を忠実に遂行しました」

「そうかの………」

 

 老人は右の親指を立て、背後を指し示す。


「ならば頼むぞ?あれが信用ならん以上、お前が我が国最後の防衛線じゃわい。S・Kがこちらの手に負えなくなって、緊急で削除する必要が生じ、されど我が国の他の戦力では太刀打ちできないとなった時、」


 「お前のその手で葬って貰う事になる」、

 そこでやっと、彼はアインに向けて顔を上げる。


「マイノリティとしてのシンパシーかは知らんが、その個人的感情で矛を鈍らせる事の無いようにせよ」


——クリスティア最高機密

——世界最強

——コードネーム“確孤止爾アトモス・スフィア


「アイン=ソフ・シュタイン」


 そこまで一方的に要求した後、老人はまたPCに掛かり切りになる。


「イエッサー。御命令通りに」


 身体を横向け、右腕全体をゆらりと流して胸に当て、上半身を倒す優雅な一礼レヴェランス


 但し、その左眼は、先程老人が指した先へ。


 彼らをここまで運んだ軍用車、そこで待つあの女へと。

 



—————————————————————————————————————




「フぅー……」


 厚い体、片側を剃り上げ、鋸刃状の髪を反対に流す女。

 トラックの表面の柄を、都市迷彩から雪原用に変更し終えた彼女は、指先から出した火を使って一服していた。

 車体に体重を預けつつ、「用」が終わるのを退屈そうに待っている。


「やあ、君か、ワースト」


 と、出し抜けに口を開き、誰かに向けて喋りかけた。


「ボクだよ。この前ぶりだネ、“号砲雷落ワールド・ウォー”」


 サイドミラーの中の彼女、その陰から一人の男が現れる。

 全身黒づくめ、長髪パーマで針金めいて痩せぎす。

 “最悪最底ワーストランカー”、零負遠照。


 チャンピオン8位のジョーナ・Z・ヴァークと、元チャンピオンにして世界最悪のディーパー、奇妙な密会である。


「どうしたんだい?こんな所まで来るなんて、慎重な君らしくもない」

「答えは簡単。キミを責めに来た」

「へぇ~?」


 外気に冷やされ白くなった吐息と、煙草の煙を混ぜこぜにし、それから顔を上向けて、雪を食べながらヴァークは問う。


「Is there any problem?なにか不都合でも?」

「君はお祭り騒ぎを欲してるって、そう思ってたんだケド、それはボクの思い違いカナ?」

「That’s right!大正解さ」

「それなら、もっと張り切ってくれても良かったって、ボクはそう思うんだけどねえ?折角、冷や水を掛けそうな組織を、教えてあげたのにサ」


 「大した炎になってないじゃないか」、

 それを聞いた彼女は、噛み締めるような含み笑いで返す。


「何か可笑しい事言ったカナ?」

「そうだねえ?それで行けると思ってる君が、どうにも可愛くて仕方ない」


 遠照はその言い草に、片頬を吊り上げただけで答える。


「君の狙いは分かってるよ?反社会的組織だけでゴチャらせれば、この街への社会全体の注目がより高まって、常に衆人環視状態に。“あいつら”は目撃されたくなくて、どんどん手が出しづらくなる。そういう環境を作りたかったんでしょ?

 どうしてか知らないけど、あのボウヤを世界大会の最後まで戦わせたかった……ってより、ill(イリーガル)との戦闘で、死んで欲しくなかったのかな?What a worrier!君は彼の父親かい?」

「参ったナア……」


 大して困っていなさそうな軽さで、遠照は言外に肯定する。


「ま、僕がそんな目先のボヤに惑わされると思ったら、大間違いだよ。鉄の匂いは嗅ぎ分けられる。もっといっぱい死にそうな方に持ってくさ、そりゃあね」

「でも結果は、一組織の壊滅でフィニッシュだケド?」

「そこはまあ、賭けの妙だね。一発だけ実弾を抜いたロシアンルーレットだったけど、残念、6分の一のハズレを引いちゃった。What a shame!」

「キミのお遊び癖の良くない所だね。整序立った既定路線を嫌うせいで、果たせた筈の望みが遠のく」

 

 「でもま、今回はそれが正解だったみたいだ」、

 発作のような気紛れに、敷いたレールを図面ごと破壊された割には、彼は上機嫌なようだった。


「お蔭で、思ったより近いのかもと、そう思えてきたよ」

「フーン?楽しそうだね?」

「キミほどじゃない」

「あ、わかるかい?」


 ヴァークは燃えさしの煙草を、指で真上に弾き飛ばす。

 

「あともう少しの辛抱さ」


 それは他の白に混じって、灰と焔を回し落として、


「もっと楽しい事が待ってる」


 ぐしゃりと軍靴の下敷きになった。


「待ちきれない、この時間も乙だとは思わないかい?」


 彼女は長し目でミラーを見遣り、


「………結構せっかちなんだねえ………」


 一人寂しくお留守番に戻るのだった。

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