表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十六章:どれもこれも、もう止められない

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

631/979

437.高いたかーい!

 竜巻を相手に、最適の解であった。


 台風等の巨大低気圧と違って無風とまではいかないものの、竜巻の中心にも「目」となる部分が存在する。

 規模が大きければ大きい程、その範囲は広くなる。


 相手が強大であるからこそ、そのやり方は何処までも正しい。


 竜巻と敵対するなら。




 だが、それはモンスターだ。

 「カミザススムを殺す」、その為だけにび出された、世界最強の10体の末席。




 少年が身軽に空を渡り、比較的安全な地帯に逃げ込む。

 それを予想しなかったのか?

 そんな抜け道を用意するか?


〈な…!〉

 

 脱出ゲームのように、“解”が用意されているなど、本気で思っているのだろうか?


〈な…!ぜ…!〉


 今度の異変は、“臥龍メガサウリア”のような神経の太き粗野者そやものでも気付けた。


〈息…が…!〉


 爆風の後、低気圧帯には自然と、その周囲から空気や湖水が流れ込む。


〈熱…が…!?〉


 自然状態でなら。

 今、気圧は、代謝に使われる酸素分圧は、著しく下がったまま、


 上がらない!


 大気にも湖面にも、ぽっかりとからになったスペースが生まれている!

 “臥龍メガサウリア”は特殊な呼吸システムによるエネルギー生成を切り捨て、高温の体液を魔力や魔法能力により維持する方式へと切り替える。


〈こ、ふぉれ、わ…!〉

 

 だが、彼女にとって重篤なのは、息が出来なくなる事だけではない。

 進の体内器官に絶えず送り込まれた高気圧によって血中に溶かされていた窒素が、急速減圧によってガス気泡として過剰発生、節々の毛細血管を詰まらされ身体機能に障害を挟まれ体組織を破壊され、意識を繋げた全員が失神半歩手前まで追い詰められる事だ。


 それは酷くなると、体内に残った空気の押す力が体外から押される力と比べ大きくなり過ぎ、肺内の膨張と破裂まで引き起こす。登山に持参したポテトチップスの袋がパンパンになるのと同じ原理で起こるそれは——


ふぇん()あふ()ひょう()…!〉

〈なん、へす、の…!?それ、は…!?〉


 攻撃の概容を理解した詠訵が能力で窒素ガスを一定量取り除く事で完全な意識剥奪は防いだが、正体不明の症状への戸惑いが手を遅らせ、四足状態で地に伏せながら敵の処刑場作りを待つ形になってしまう!


 これが彼女本来の肉体ならば、それでももう少し無茶が効いた。何せ彼女は、体液への加圧減圧を利用して攻撃する事を大の得意としているからだ。

 だが今は、ただの人間に繋がりながら、魔法能力の一部を外付けしているに過ぎない!

 魔法部分が耐えられたところで、人間部分が崩れれば大きな悪影響ハレーションを受ける!


 この状態では、人間の体内システムを利用した攻撃を打ち破り切れない!


 


 “提婆キャメル”が目を付けたのは、人間の生命活動の根幹であり、カミザススムが主要武装としていたもの。

 “呼吸”、そして“血流”である。




 それはエネルギー循環であり、「魔素を取り込み魔力を生む」という認識の上で行われる儀式であり、カミザススムにとって詠唱と同等以上に重きを置いていた行動。

 カミザススムはどこまでも人間であり、その内部活動をどれだけ強化しようと、血液による酸素運搬物流網が必須な定めからは逃れられない。


 魔力や魔素を奪って外から壊す方法を考えるより、呼吸と血の巡りを妨害し人体運用システムの()()()()()()()やるのが簡単だと、そいつはそう考えた。


 過剰な空気圧で肺内の気体を吐き出せなくし、新鮮な酸素供給ラインを寸断。低気圧を求めて向かった先で急減圧を体験させ、血管内を気泡で通行止め。更に気圧操作でそれ以上の外気の供給が届かない仮真空を作り出し、一切の抗力を閉じ込める。


 通常の竜巻も、その中心では標高1000~2000mの山頂クラスに空気が薄れると言う。

 大気を操る“暴風ハーヴェスター”なら、エベレストですら真っ青になるような窒息不可避極々(ごくごく)低気圧ゾーンを設置可能!




 ベースとなっている進に急減圧の弊害と超重篤高山病による呼吸困難のダメージが一挙に押し寄せ、その魔学的回路を利用し憑依している“臥龍メガサウリア”もまたその煽りを受けている!



 

 表皮の割れ目から射し飛んでいた荒ぶる光熱がみるみるうちに勢いを衰えさせ、マグマが岩盤の一部になっていくように灰色に朽ちていく!


〈魔力が…!足りて…!だがぁアアアアア!!〉


 だが!

 だが詠訵の活躍により減圧症はその威を潜め始めた!

 今ならまだ、残った体熱でこの体を動かせる!

 

〈ワタクシを!怒らせた…!償いを…!して貰いますのぉぉぉォォォオオオオオオオオォォォンンンンンン!!〉


 鈍くなった動きであっても、北風だか涼風だかで築いたペラ壁一枚!たかがそれだけの閉鎖!打ち破れる!

 その程度!

 カミザススムならともかく、“臥龍メガサウリア”の前ではチリ紙に等しい!


〈こなくそおおおおお!!〉


 カミザススムの息の根が完全に絶える前に酸素を!呼吸を再開させなければ!

 その思いで一歩踏み出した、その足が地面に着かない。


〈?〉


 押し上げられる感触。

 下には何も無い。

 いや、ある。

 そこに空気がある。

 彼女が足を上げた、その隙を狙って、


 真空の下部から外気が雪崩れ込んだ。


〈ナァぬぅぅぅぉヲおおおおおおおおおお!!!?〉


 度重なる攻撃で魔力や魔法によって生み出されるエネルギーが尽きかけていた所に、下方から掬うように作用する気体の大流たいりゅう

 一部を地から離した今の彼女は、それを相手に踏ん張る事が出来ず、


 持ち上げられた。

 放り上がった。

 真空地帯からは抜けた。

 そのまま渦巻く上昇気流に乗せられ大きく振り回されながら高度を上げていく!


〈ワタクシが!?地面から離れるなど!ワタクシがああああ!?〉


 愛しの大地から切り離され、ローカル不成立!

 そして全身に掛かる空気圧の急激な上昇によって、さっきとは逆に体内ガスが過剰に血液に溶ける症状が進に襲い来る!

 

〈すすむ、くぅん…!えへへ…!すすむくんだあ…!〉

〈このからだっ!ふべんすぎ…!これだから…!〉

〈わたし、あなたが…!〉

 

 急性アルコール中毒によく似ているとされる、窒素酔いである!

 未成年故に酒類への慣れが一切無かった進の肉体と精神にまたしてもクリティカルヒット!

〈すすむくん、いきてええ…、おねがいだよおお…!〉

 これも詠訵の魔法能力で取り除くしかないのだが、酩酊状態全般への耐性が低い彼女の情報処理パフォーマンスは、現在大きく低下している。防御や治療に割けるリソースが削られ続け、そこから脱却出来ない!


 そこに殺到!

 おろがねの刃を河川の形で流したような殺傷旋風!

 横殴りにするじんもう雨礫あまつぶて

 高空で生まれた雹や霰を使った削岩攻撃!


 砂を高圧で噴射し、錆や表面の凹凸を削り取る工具、“サンドブラスト”。

 それと同原理。

 違うのは命中後に液化、気化することで熱を奪っていくこと!


 硬さと熱さを誇る“臥龍メガサウリア”にとって弱点特攻《ぴったりな処理方法》!

 表皮が剥がされていく!

 体液の一部を固体化して守りを補いつつその潜熱を他の器官に回す手法でお茶を濁すも長くは続かない!

 

 体液を加圧から解放し発泡する反作用で抜け出そうとするも、“暴風ハーヴェスター”のローカルは彼女を自らの風で加速させたことで、“臥龍メガサウリア”内部にありながら自由に使える余剰エネルギーを握っている。

 爆発と同時に反対方向に押し返し、逃さないよう誘導する事が可能となってしまっているのだ!


 身を削りながら耐え、魔力を注ぎ続け、そこまでやっても一手ごとに自由を奪われて行き、


 その巨体が丸裸に、高温体液流を剥き出しにされていく。


 そこで、氷粒削流ひょうりゅうさくりゅうがハタと途切れた。

 弾が尽きたか?

 思うのも束の間、体液が逆に!急激に加熱されていく!

 

〈あ…!ああ…!〉


 彼女が逃がすより、“暴風ハーヴェスター”が与えるエネルギーの方が大きくなった。

 彼女の中にあるエネルギーの、その裁量権のほとんどが向こうに掌握された。


 自滅。


 幾ら熱に強い彼女であっても、無制限ではない。

 特に、今彼女が憑依している人体は、それほど頑強には出来ていない!

 

 それだけではない。

 周回速度は、更に早くなっている。

 遠心力での内臓破壊でも、唐突に地へと叩きつけられるのでも、彼女が絶えられてもカミザススムが耐えられない。


 そとが硬くても、硬いからこそ、大きな衝撃が内部をぐちゃぐちゃにしてしまう!


 幼児がガラガラを加減という言葉知らずに振り回すような気温気圧高度の乱高下!

 人生以上に波乱万丈!


 ill(イリーガル)の憑依という添え木があろうと、バイキングアトラクションの上で立っていられるわけもない!!

 支えは中ほどからボキリと折れ、バーやベルトのような安全保障も持たされないが故、乗客たる人間は容赦なく投げ出され、様々な絶命方法へと運試しの転落をするしかない!

 

 それは彼女の敗北であり、

 

 彼の死であり、


〈おねえさま…!〉


 ()()の喪失。


 自らの不出来で、世界から天頂の至宝が失われる。


 その失態の大きさに、


 彼女は腹の底から恐怖した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ