433.強く殴って来るやつが居ます、どうしますか?強く殴り返します!
「“ボーラサイクロン”。聞いた事は……無いよね?」
「その時にはもう、君は残らず居なくなってたし」、
枯山水を無遠慮に踏み荒らし、裸足で擦って台無しにしながら、ビキニ姿の女はくるくると回る。
「そういう嵐が、あったんだよ。酷い惨事だった」
何一つ悼む所の無いような顔、仕草で、晴天の下に肌を焼き続ける。
「そもそもの爆弾低気圧がそれなりに育ってた、っていうのもあるけど、それだけじゃあない。高潮、海抜の低い居住区域、未熟な気象警報システム、政府の不手際等々が重なって、50万人が死んじゃったとされてるんだ」
そして自然災害は、世界情勢の不安までをも決壊させる。
「その嵐は民族紛争に油を注ぎ、内線を勃発させ、核戦争を……『核』って覚えてる?この前話したけど……そう、それ、それが使われる手前にまで事態を悪化させたんだ。史上でも一、二を争う連鎖的複合災害と言われてたんだよ」
伸ばした爪先で一握を掬い上げ、
「嵐はただその場を抉り壊すだけじゃない。積み上がった生活も、保たれていた社会も、一瞬にして奪い去る」
ひょいと遠くに放り捨て、植えてあった植物の葉を落とす。
「あれは『死』の中でも、理不尽度が高くて、絶望感も影響範囲も大きい類のカタストロフなんだ。地震や津波と並んで、時に永級ダンジョン発生と同等以上の破壊になる」
滑るように足を振り上げ、仰向けに身体を横たえる。
地に着いた時、彼女に押し退けられた砂粒が、幾つも幾つも散らばり飛んだ。
「人間があれに勝つ事なんて、屈服させる事なんて無理だよ」
少し近くを通りかかっただけで、何千何万もの人生を刈り取る不条理。
それと正面から戦うなどと、馬鹿げた考えでしかない。
「“転移住民”が何かを企んでるみたいだけど、わたしから言わせれば、それは人間に期待し過ぎだ」
両手を頭の後ろに回し、燦々と熱を注ぐ太陽を望む。
「あれは確かに頭が弱いから、自分の物語を説明できそうにないけれど、」
そのような小細工など、
有っても無くても大差無いのだから、
「彼は死ぬ、そこまでは変わらないさ」
無駄な足掻きは塵と化し、
二度と故郷の土は踏めまい。
彼女も、この世から消えて無くなる。
奴らにも、損をさせられる。
正しい世界が、また一歩。
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傾聴せよ、
敬重せよ、
颯々と響く風が言う。
“風が吹けば棺屋儲かる”と。
〈おぉどぉレレレレレレレレレ〉
illネーム、“暴風”。
ダンジョン名、“泆矗戰”。
ローカルは、「逸る角から死地至る」。
その本領は、気圧操作である。
風は、気圧の差から来る。
押し込まれている、気圧が高い方から、吸い上げられる、低い方へ。
それらを操作、自由に配置して、風向きは勿論、風速すらも思いのまま。
そこまで出来る存在が、周囲の環境に強制適用するローカルは、極限加速。
「止まらず動き続ける物に、より強いエネルギーを付与する」といったもの。
飽く迄自身のダンジョン内に収まるくらいの範囲に限る為、例えば地球の自転を加速させたりといった事はできないが、吹けば飛ぶような物でなら幾らでも遊び尽くせる。
それが発する強風に煽られ宙に飛ばされると、余分なエネルギーを付与される。この時その力の主導権は、永級の域に到達した“暴風”の側にある。
例えば心臓を過剰に稼働させ、鼓動によって破裂させたりする事も出来る。
血管の破裂、体内電流の増大、肺の過剰稼働による酸素中毒等々、人体機能でそれ自身を破綻させる手段には事欠かない。
けれど、進ほどの体内魔力操作の使い手であれば、ある程度は耐える事が可能ではある。
が、話はそこで終わらない。
風の恐ろしさもさることながら、メインウェポンはそれに乗って運ばれている、飛ばされている物体の数々。
石ころ一つであっても、上昇気流に連れて行かれ、遠心力とローカルによって加速し続け、それをぶつけられた時の威力は、戦車が放った一撃に匹敵し得る。
風が強い日の砂場感覚で、そんな砲弾が叩きつけられるのだ。
回避中に足を取られて転び掛けでもすれば、踏ん張りが利かずに風に引っ張り上げられ、超加速無限回転の刑に処される。
自然公園の、広大な湖の上というロケーションであっても、木々や氷の破片、その辺の石など、飛ばすものには事欠かない。
それが使う気圧操作魔法、“風が吹けば棺屋儲かる”によって発生した乱気流は、
「乱」の字を我が物にしつつ、正確に対象を殺傷出来る。
狙いを外さず、避けたとしてもその場で小さな渦を巻きながら方向転換、どこまでもしつこく追尾し続ける。
その場のあらゆる物体をミサイルに変化させる能力と言ってしまっても問題でないくらい、破壊と悪意の限りを尽くす魔法。
カミザススムは鋭敏な感覚で攻撃を見切る身躱しと、魔力爆破・噴射及び身体強化を駆使した機動性に優れる。
だが息絶えるまで追うのをやめない鎌鼬的荒れ模様を大量投入されれば、その真価は総じて滅殺される。
人間では、それに勝てない。
カミザススムに限っては、特に!殊更に!勝負にならない!
〈えぇぐぅレレレレレレレレレレレレレレレレレレ〉
聖堂か、或いは大規模なプレス工場で響き渡るような音声と共に、大気がゴリゴリと振り回され、水も雪も土も漏斗を通って上へと落ちる!
両翼で太陽を閉じた怪鳥が、嘴を突っ込んで大地を啜り上げるが如し!
根から引き抜いた
加速!!! 一 本
加速!! の
加速! 木
を を
上 礫
回 で
周 細
円 か
い く
強 砕
が き
力 半
心 遠 が 径
ばれなう言、い遠
自然から伐り出した散弾によって腹の足しにもならないミニサイズミンチ肉に加工してやった勢いで屠殺を待つ肉塊共の密集地に向かってギィィィィ!と回転鋸刃を鳴らして
〈レレ?〉
今の火花は何だ?
石で鉄の扉を引っ掻き落書きをする時のような、
風に乗ったモノ達が空中で一瞬すれ違うだけでは鳴らない硬質かつ継続的な響きは!
〈ひゅ、ぅぅぅううう…っ!〉
熱い!
風の端が明らかに自身の魔法能力によるものでない高熱によって流れる方向を捻じ曲げられている!
〈レレレ?レレレレ?〉
〈ひゅ、おおおぉぉぉ…っ!〉
さっきまでカミザススムが立っていた地点。
そこに、罅割れの中から赤熱を覗かせる、珍しい形の石が、高さ数メートルの巨岩が置かれていた。
オオサンショウウオのように太く、その上から鋭角の甲冑を纏った頭や胴。
幅広なブロック玩具だけで組み上げたような、隆々とした手足。
棘とも骨とも背鰭ともつかない突起が並んだ背中。
百足のような節に分けられ、長く大判で落ち着きのない尻尾。
頭から尾の先まで10メートル程。
牙が並んだ顎に当たると思われた開口部は、よく見るとバイザーの役割を果たしており、その内からの眼光を鋭くさせている。
〈『地に足を着けて進むべし』、ですの〉
岩石生物から声がした。
〈ワタクシの“窟法”は、地面に接してさえいれば、その効力を発揮しますの〉
〈ひゅ、ぅぅぅううう…っ!〉
その中から、二つ以上の音が鳴っている。
一つは“暴風”に理屈を言い聞かせ、
もう一つは小さくも勝手な風を作っている!
〈『動かざること山の如し』ですの。山は風が吹いた程度で、動じませんでしょう?ワタクシ、安い女ではなくってよ?〉
幾つも、
その一つの中に、幾つも入っている。
重なっているような、混ざっているような、
それらの気配を分け切る事ができない!
〈ですのに…!この、このワタクシが入ったと言うのにぃ…!〉
その表面の凹凸が、鍋で煮られているようにワナワナと震え始める。
〈どうしてお前は制御を明け渡さないんですの!このちんちくりん!〉
〈ひゅ、おおおぉぉぉ…っ!〉
〈邪魔ですの!この…っ!お姉様の御前ですの!ここはワタクシにやらせなさい!〉
〈うおっ!?おいっ!こらっ!暴れんなバカっ!お前の力暴発させないだけでも大変なんだよこっちは!〉
〈ススム君!リボンの魔力消費がかなり速いよ!やっぱりその状態身体に良くなさそう!〉
〈分かったらワタクシに渡しなさいな!上手くやってやりますの!〉
〈これ俺の体使ってんだろ!俺がメインでやるよ!〉
何が起こっているのか理解し切れずとも、その内部で何らかの混乱が起こっている事は分かった。
ならばそれは絶好の攻撃タイム!
加速させておいた次の散弾を命中コースに軌道変更!
〈あぁたぁレレレレレレレレレレ!!〉
お隣数軒を一括で売地に変身させる波状破壊攻撃!
〈おい来てるぞ!真面目にやれっ!〉
それが当たる前に巨岩生物は左腕を掲げガード!
不可視の魔力爆発によって減速させられた投射物群は強固な表皮にめり込むように着弾!
罅の下から発される赤色が輝かしい程に強まり外へと向けて外皮が破裂!続けざまの連撃を気流ごと押し返す!
それでも幾つか合間を縫って防護が薄くなった部分に突き刺さるものの、ドロドロに溶けた岩の体温によってその形を崩され腕の一振りで地面のシミと化す!
〈二重爆発反応装甲!〉
〈好き勝手に名前を付けるなちんちくりん!〉
〈ススム君のネーミング1000点!〉
〈極甘採点をやめろおっ!!恥ずかしい思いをするのはワタクシですのよっ!〉
未熟未発達である“暴風”は言語化出来なかったが、
実は目の前で起こっているのは、少なくない前例を持つ現象。
乃ち、illモンスターによる憑依である。




