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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十六章:どれもこれも、もう止められない

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430.開戦

「本当に、そんな事が出来るの?」

「試した事はあるぞよ?勝手に潰れる者ばかりであったがのう」


 さっきまでずっと曇っていたが、更に崩れて雨が、違うな、みぞれが降ってきている。

 竜巻の周りだと天候が悪くなるのが普通らしいから、これは前兆と言う事なのだろう。

 問題の湖にあと数分くらいの距離。


 “靏玉エンプレス”が語る「手助け」の内容を聞いて、に溢れた視線を向けるミヨちゃんが問い、更なる不安を呼ぶ答えが返ってくる。


「うーん、理論の話で言うと、筋は通ってる、のか?」

「それっぽくは聞こえるけど……、でも言った事が全部本当だったとして、上手くやればそっちの自由で、内側から相手をやっつけちゃえたりしないの?能力が使い手まで傷つけちゃう例は、結構あると思うけど」

「それはそうじゃな。抵抗はあるじゃろうが、恐らくこちらがそれを上回る。火加減がまるで違うわい」

「それでどうやって賛同しろって言うの…!」


 竜巻を止められたとしても、確実に殺されるやり方を、果たして採用するべきか否か。

 考えるまでもなく、普通に二人で挑んだ方がマシだ。


「と、ここでひと悶着もんちゃくを想定しておったのじゃが、随分と使い勝手のさそうなのがくっ付いて来おったからのう」


 「手間が省けるわい」、

 そう話す双眸は、真っ直ぐにミヨちゃんを示している。


「………私の能力で、守ればいい、って……?」

「いつぞやも似たような事をやっとったじゃろう?今回はそれより幾分か優しいぞよ?」

「確かに、温度だけならマシかもね」

「それはワタクシへの挑戦ですの?」

「お願いしますから大人しくしてやがれくださいっつってんの。っつーか何でアシスト役がコイツなんだよ。俺への恨みがもっと薄いのに担当させろよ」

「その方が無難に話を落とせるのじゃから、妾もそうしたかったのじゃがのう……」

「ちんちくりんの御猪口おちょこなんて割れ物に入ったお姉様なんて、取り扱いが危ぶまれ過ぎて、何者の手にも任せられませんわ!そう、ワタクシという理解者以外には!」

「これじゃからなあ」

「部下の教育って大変なんだな……」

「分かって貰えるかえ?」

「ワタクシをダシに分かり合わないでくださいまし!」

「むすりと腐敗!くすりと愉快!するりと融解!」


 少しばかり木立が並ぶ、林と言うには若干薄い層を抜け、愈々《いよいよ》湖畔が見えてきた。

 もっと整備された道もあるけど、ここはそこそこ有名な観光地である為、裏口のような獣道から入ったらしい。

 流石五大湖の一角、横に広い滝の先、向こう岸が遥か遠い。


「刻限じゃ。返事は?」

「受ける」

「覚悟は」

「とっく」

「よかろう」

「ススム君。やる、でいいんだね?」

「ミヨちゃんにはまたお願いする事になるけど」

「任せて。そうと決まれば、絶対にススム君を守り切るよ」


 “靏玉エンプレス”ではないが、本当にここにミヨちゃんが居てくれて良かった。

 俺の決断もスイスイスムーズだ。俺達二人が居れば大抵はなんとかなる気さえしてくる。


 思い上がりと言いたきゃ言えばいい。

 今からそれを本当にしなきゃ、二人仲良くお陀仏するだけ。


「よし、行くかぁっ!」

「おーっ!」


 蹴り飛ばすような勢いで扉を開け、ようとして構造がよく分からなくて苦戦し、ピエロに開けて貰いながら外に出る。

 ここでは強い風があるだけで、何も降り注いではいない。

 上昇気流の内側なのだろう。

 

「カミザススム」


 背中にあともう一つ、さっきまでの悠揚ゆうようさと反対に、凝り固められた発声。

 それが俺を上から刺し、最後に一度その足を縫い止める。


「妾を憎んでは、おらんのか?」


 俺は振り返らない。

 睨めばいいのか笑えばいいのか、どっちが正しいのか、どっちで在りたいのか、一個も分からなくなったから。


 でも、答えは決まっていた。

 それについては、最初から一つしか心に無かった。


「ない。あれは互いに痛み分けだ。人質だって嘘だったしな」


 彼らが交渉材料に使おうとした時、おじいちゃんとおばあちゃんはもう………


 あれは直接的には、よく知らない犯罪者がやった事だ。

 間接的には、キャプチャラーズのせいだ。

 もっと言えば、弱かった、弱いままな俺のせいだ。


「考えが甘い同士が、どっちも何かを失って、痛い目見た。それで終わりでいいだろ」

「私がススム君の純情を弄んだのも、チャラで良いのぉ~?」

「弄ばれてません~!」

「よう言いおるわ!」


 腹を抱える姿を浮かばせる、ケタケタと弾む笑い声を背に、俺は淵までの数十mを徒歩で埋め始める。

 サクサクと心地いい雪の踏み心地。

 防寒具越しでも肌を射す冷気。

 どこかの枝からドサリと塊が落ちる。


「ミヨちゃん。絶対に二人一緒に」「ススム君」


 ん?

 あれ?

 おやおやおや?


「弄ばれたの?」


 おっかしーなー……?

 さっきまで無敵に思わせてくれた、心許あり過ぎるくらいだった戦友が、今は何故だかすっごく怖い。

 離れたくなってきた。

 なんでだろーなー…?

 寒いのは、冬のルデトロワだからかなー……?


「弄ばれちゃったの?あの女に?」

「『女』って、あれモンスターだし、」

「でも女の子だって思ってたんだよね?」

「ミヨちゃん!これは敵の高度な心理戦だよ!騙されないで!平静に平静に!」


 「ほら水飲も?頭冷えるよ?」、

 そう言って車内で渡されたミネラルウォーター——当然、ミヨちゃんの能力で検査して貰っている——に口を付けた所で、


ツガイですの?お前達」

「ぶーーーっ!???」

 

 付いて来ていたメガちゃんの爆弾発言に背中を突き飛ばされ口の中の物を吹いてしまった。


「ウェホ…ッ!ゲホ…ッ!ななななnなnな何てこというんだお前ぇ!?」

 メガトン級ノンデリカシーやめろ!!

「戦場で妙な空気をぷんぷんさせているのはそっちですの。別に、どうでもいいのですけれど」

「どうでも良くないよ!もっと追及しなよ!」

「ミヨちゃん落ち着いて!今本当にそれどこじゃないでしょ!」

「今聞かずにいつ聞くの!今だからこそ——」


 先に隣り合って歩いていた俺とミヨちゃんが同時に前を向いて構える。

 広い滝というホリゾント幕を背景に、湖面という舞台の上で、何か踊っている。

 ユラユラと止まりかけた独楽のように振れているのは、


 あれは、継ぎ接ぎで作られた、泥に汚れた一繋ぎの大布?

 それを被った人影?


「レ……レ……レ……」


 感情や意思を感じさせない短音を断続的に発しながら、湖面で縦軸回転を維持しつつ行ったり来たり。回転の継続数以外は、下手くそなフィギュアスケーターのようにも見える。


「レ……レ……レ……レ……レ……」


 布の端が巻き上げられ、逆さの円錐形のようなフォルムに。

 外見そとみの昂揚とは裏腹に、音は変わらず無機質にボソついて、

 自らを崩さず一定間隔を保って、


「レ………」


 止まった。

 マントがぱさりと地に渦巻きを描いて落ちた。

 

 風が、

 変わった。


 奴がこっちを見た。


「“暴風ハーヴェスター”、か…?」


 俺からのパスは受け取られず、ただバカデカい気配が地に敷き詰められ、空を覆い隠す。

 

 魔力が、

 増水した渓流のようなそれが、

 はっきり見えだした。


 風雲急を告げる。

 続けて魔素の大量放出。

 本当に、やる気だ。

 ここから始めて、木々にも、その先の街にも、そこで住む人々にも、

 破壊の限りを尽くすつもりだ。


「ひゅ、ぅぅぅううう…っ!」

「“九涸キューティー”…!」


 俺とミヨちゃんは臨戦態勢に入る。


「ちんちくりん!ここが年貢の納め時ですの!」

「一応聞くけど俺を殺させない為に来てるんだよな!?」


 数歩離れた所に居る“臥龍メガサウリア”は、その一部だけを参加させる準備をしている。


 長布ながぬのは、生み出した上昇気流で身に着けているそれを煽り、複雑な図形をくうに描く。


 そこまでの、

 

 準備段階、魔力で魔法を作る時点で、


 負けていると分かる。


 勝負が成立してないと分かる。


 生き残れないと分かる。


 って事は、


「いつも通り、だな…!」


 もう見慣れた戦場だ。


 もう枯れ果てたおそれの底だ。


 いつも通り、

 出ない筈だった結果、

 「俺の勝ち」というゴールをぶっちぎって、


 それで全部が良さげに片付く。


(((い余興に、なりそうです)))


 布被りの足元からモクモクと雲が立ち昇り、その姿を覆い隠す。


 風が沈み、或いは昇り、


 氷が割れて水面までが回転の餌食に。


「ひゅ、おおおぉぉぉ…っ!」


 その風を、俺の息吹で捻じ伏せてやる。

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