427.問題です。これやってる間、車内の俺達はどうなってるでしょーか?
排気マフラーが複数本増設され、車体後部が開いてジェットエンジンのようなものが突き出された!
ゴ、オオオオアアアアアアアアアアア!!
カドミウムイエローに覆われた紫光沢の車体が獰猛に吠えて直進!
急に頭の向きを90°右に転換し壁を突き破り車体前面がスプリングを使い跳ねて大階段の5、6段目にタイヤを掛けてから無理矢理昇る!
商業施設にする予定だった建物の中にその後姿が吸い込まれていく!
「猟犬部隊!追え!モタってんじゃねえぞノロマトンマァッ!」
建物の外周を大きく回って、魔法能力によって中の奴らを追跡させる。
だが、速度が違い過ぎる。
ただでさえ直線での加速で離されたと言うのに、相手は壁や段差といった障害物をほぼ無視する。道に従わざるを得ない彼らと比べると、その差は歴然と開いていく。
「囲い担当!防御魔法を使え!何やってもいい!とにかくあのオシャレ棺桶を大人しくさせろ!」
追いかけるだけでは追い着けない。
見失うのが一番シャバい。ナシだ。
ここまで来て、指が触れる、目と鼻の先まで追い込んで、そうなったらもう、捕まえなきゃ嘘だ。
再開発途中で建設会社か何かが倒産、工事が投げ出されそのまま放置された区画。こんな場所にあっちの方から入ってくれるなんて、もう二度と拝めないような幸運だ。
警察の介入も、このどうでも良い地区からの通報なら遅れるだろう。今あれらのほとんどは世界大会に掛かり切りなのだから、こんな壊しても良い場所へと何を措いても即刻出張ってくるとは考えづらい。
今しかない!
今がベスト!
これ以上はもう二度とない!
本来なら無かった筈の幸運!
世界が彼に勝てと言っている!
相棒が彼に撃てと言っている!!
彼はそれらに従うしかない!逃すわけにはいかないのだ!
『外に出て来たぞ!』
2階の壁を破壊し飛び出す事で通りを幾つか超えてしまう敵車両!
地面到達時にわざと車体を斜めらせてタイヤをギャリギャリと削りながら右旋回後そのまま回転数を落とさずスムーズなスタート!
そちらで移動中だった数台が期せずして待ち構える形に!数人が先端を発射する使い捨て型の対物擲弾砲を使用!
前の方がダイヤモンド型にも見える弾頭は、先端の鋭角から後ろに行って、広角部分の更に後方辺り、そこに開いた口から放射状に推進剤を噴かして軌道を保ち、目標物と真っ向からのディープキスへの欲望に鼻息を荒くして、どこを飛んでいるか分かりやすくするための曳光材が煌めく末尾をクネクネ振って求愛!
高級車は大きく左に寄せて工事現場と道路との区切りに使われていたカバー部を叩き折りながら直進!ほとんどは回避し一発だけ角の傾斜で受けるも弾頭の芯は明々後日に流され90°横から貫く軸を中心に回転しながら激突墜落!それぞれ時間差で推進剤の過剰燃焼により暴発!
背中を温める爆炎に少しも気を向けずにマシンは尚も即席“検問”に向けて全速前進!
ストライク!
野球ではなくボーリングの意味での!
ピンは空でダンスするから周囲の建物にぶち当たりペシャンコに!
『ボス!あいつ止まんねえ!』
『車が倒れちまった!』
「非ディーパーの非力なゴミかよテメエらは!押して戻せそんくらい!」
『跳び越えられたぞ!?』
『ボス!5番通りをまっすぐ……そっちだ!』
「ナニィ!?」
ボスの遥か前方に現れたのは自分がタイヤになったが如くゴロゴロ横転させられるSUV!
ボォ、オオオオオオオオオオオオ!!
すぐ後からそれを突き飛ばした張本人が、車両型魔具が排気を唸らせ参上!
ボス達と擦れ違う進路を取るラグジュアリーカー!
彼は肘でガラスを破って相棒である50マグナムを満を持して外気に晒す!
一発数十万ドルする多重魔法陣刻印型の弾丸に自らの魔力を馴染ませ狙いをつける!
分厚い偏光ガラスの向こう、運転手と目が合ったかのような錯覚!
光の加減で黒に近くなる紫色のカメレオンボディ、その前面ライトの下部が開いて飲料缶のようなものが左右一つずつ吐き出され、それから吹き出し濛々と充満する白煙が後方から追っていた者達の視覚を奪う!
助手席から身を乗り出して銃撃していたせいで、運転手までその煙が直に届くことになり、浴びた者はあまりの痛みに目を開けられなくなってハンドル操作を誤り次々にクラッシュ!強力な催涙ガス弾!
そんな使えない部下達には構わずボスはリボルバーを5連射!
アシッドグリーンの直線が5本、二つの空間座標を結ぶように引き描かれる!
狙いはタイヤとフロントガラス!他より一回り耐久性が低い場所!
弾丸そのもの衝突エネルギーで魔具の防御フィールドを突破し、本体は腐食性物質に似た力を活性化させた魔力で溶かし削る!
前面ガラスは割り切れずとも視界不良を招く事が出来る!
というのが勝算であったが発砲とほぼ同時に右の前輪がスプリングの弾性を解放し大きく車体を傾け上げた事で2発が路面に3発が分厚いバンパーに着地し狙ったようには用を為さない!
紫毛獣は右前のタイヤが落ちる運動を利用して少しだけ後輪側を右に揺らしボスが搭乗する車両の横っ腹をドついて走り去る!
「うおおおおおお!?」
一部フレームが拉げたものの運転手のハンドルさばきによって壁への追突は免れた!
『ボス!無事かい!?』
「俺は良いからとっとと追えよバカども!」
『ぼ、ボス……、あ、あんなの、捕まえられるのか…?さっきから足を止めるのだって、出来ちゃいねえだろ……?』
「ビビってんじゃあねえぞみっともねえ!テメエらそれでも化け物と百戦渡り合った益荒男か!」
『あたしゃ女だけどね』
「そういう事言ってんじゃねえんだよ!車が変形したからなんだってんだ!俺達そういうのは飽きるほどに狩り尽くしてきた!だから今ここで無駄にくっちゃべってられるんだろうが!」
彼はかつて、国の雇われとして深級ダンジョンに潜り、地獄を見た事がある。
それに比べれば、今回は単なるガキのお守り、ネギを背負ったカモ家族の引率でしかない!
「モンスターマシン」がどうした!
彼らの商売相手はいつだって本物のモンスターだった!
「敵が俺達より強いのが、人間文明のデフォルトなんだよ!強い奴を殺してかなければ、安心して暮らせる社会なんて作れねえんだ!どこにも!どんなところでも!今更ちょっとばかしマシンスペックが違うぐれえでゴチャゴチャ抜かすなヌケサクども!サックども!」
ボスの喝が飛んだことによって削がれつつあった士気が戻り、100%を超えて高揚し、爆発炎上しようと魔法を纏ってからの体当たりで止める気迫までをも獲得!
無線等から開戦の角笛にも聞こえる雄叫びの数々が流れ出し、それぞれが敵への追走を加速させる中、
ドドドドドドドドドドドドドドドドドド
空から、
それは空から頭に吹き下ろした。
毎分数百回転する細長い板によって揚力を生み出し、制空権を掴み取るそのマシーンは!
「間に合ったか!リオン!」
ヘリコプター!
彼らがここぞの為に秘蔵していた2機!
どれだけちょこまか逃げようと、高くからならよく見える。
そしてその腹には、たっぷりと暴力が詰め込まれている。
鉛の顎で敵を食い破らんと、鉄の涎で口の端を光らせる悪鬼共が!
「粉微塵にしろ!」
ボスの命令を聞き、防刃防弾耐魔ジャケットを来た大柄な女が顔を外に出す。
その左手には爆弾をスイカの種のようにポンポン穿き掛ける為に作られた、ベルト給弾式自動グレネードランチャー!
本来なら三脚で地面に立てながら使うその旧ナ連の遺産を、
無造作に片手で構え、
秒間6発弾倉30発の炸薬の雨を降り散らした!




