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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十六章:どれもこれも、もう止められない

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425.そっちもそっちで色々あんだね…

「甲都で攻撃してきたのは、お前だろ?鏡だったし」


 取り敢えず、そこから切り込んだ。

 甲都遠征で、俺と友だちと先生と、色んな人が死にかけた事件。

 あの時は明確に、こいつらは俺を殺しに来ていた。


「だから、まだ信じ切れてはいない」

「それもそうじゃろ。オヌシらと妾の心が通じ合ってるなどと言い出したら、そちらの方が気色(わろ)うて疑いが濃くなるわい。それはそれとして、あれはほぼこやつが主犯じゃ。妾は共犯、協力者といった程度じゃな」


 “靏玉エンプレス”はいけしゃあしゃあと責任をゴスロリの、“臥龍メガサウリア”ことメガちゃんになすりつけてしまった。


「こやつが“可惜夜ナイトライダー”の所有者について口喧しくてのう。それなりの壁を超える所を見せて、納得させるしかなかったのじゃ。ガス抜きのつもりじゃったんじゃが、思うていたより諸々がはっちゃけおった。もし何か損が生じたのなら、悪かったとは思うておる」


 「何を賠償する気もないけれど」、

 気の無い口調の裏から、そんな声が聞こえてくるようだ。


「ガス抜きって……」

「そんな、その場の勢いだけであんな事やったの?」

「そこの蜥蜴幼女が止まらなかったんじゃ」

「誰の事を『幼女』などと称しているんですの!?」

「そいつ不自然じゃない服装とかトイレの入り方とかすら知らなかったぞ!無軌道にも限度ってものがあるんじゃないか?」

「それについてはまことにすまんかった」


 まさかのマジトーン謝罪。

 メガちゃんに関しては、こいつも持て余してるのかもしれない。


「つまりあの時D型が強化されてたのも!その『壁』とやらを作る為に」「あれは偶然じゃ、オヌシがツイとらんだけじゃろ」「あ、そうなの……」


 どんだけトラブル体質なんだよ!俺!


「フン!あの試練を抜けたとて、たかが最強不在の“ゆーえいてぃーん”とやらで目立ったとて、お前はまだまだですの!もっとお姉様にぴったりな器はどこかに必ずありますの!それまでは仮の処置として、お姉様をそこに留め置いているだけですの!勘違いなさらないよう!」

「うんうん、今日も元気だねー、メガちゃん?」

「今すぐ燃やしてやるこのちんちくりん!!ワタクシの噴熱が本気を出せばお前なんて一吹きで飛ぶ燃え滓と等しいんですの!」

「内から焼かれて死んだせいで最後まで俺をやり損ねた奴が?熱自慢?ププー!笑わせるよな!」

「あれはあの魔具のがおかしいんですの!なんかよく分からない、焼き“滅ぼす”能力が付いてたんですの!熱で死んだのじゃなく、内から喰われたようなものですの!」


 え、そうなの?

 いや、よくよく思い返せば確かに、ランク8があの岩と熱のダンジョンに持って来た武装なのに、ただ炎を噴くだけの魔具なわけないか。


 俺が無茶な使い方をして、そこまで火傷しなかったのも、そこらへんが関係してるんだろうか。

 救世教系統の攻撃型魔法みたいな、敵は滅ぼして味方には無害なヤツ。

 あれを拾ったのはまさに勿怪もっけの幸い、特大ラッキーだったわけだ。


「だいたいワタクシの体液が何度か分かっておりますの!?たかがちょっと燃やした程度で勝った気でいるなどと!」

「何度なんだよ?」

「ワタクシも具体的には知らないのですけれど」

「知らないのかよ!!」

「あとこの際もう一つ言っておきますけれども!」

「なんだよ!俺から文句言う事はいっぱいあるけど、お前から言われる筋合いはないぞ!」

「ワタクシの子ども達がちょっとしぶといからって実験台に使うな!」

「それはちょっとゴメン」


 身体強化を習得しようとあれこれやってた時の話だろう。


 一体だけだったら俺でも殺せるし、高い再生能力を持ってるし、深級だからコアの純度もそこそこ良いしで、G型レプトは最高の練習相手だった。それもあって一匹ずつ呼び寄せてサンドバッグにしてた事があったけど、こいつがあのダンジョンの意識みたいなものだったら、まあそういう反応にもなるわな。


「本題に戻って良いか?」

「「はい」」


 ちょっとした圧とドスの籠った声で脅され、俺とメガちゃんは大人しく手を膝の上に姿勢を正す。しつけは結構順調みたいだ。なんか叱られている兄妹みたいになってるのがそこはかとなくイヤだけど。


「詳細は省くが、オヌシが“環境保全キャプチャラーズ”から何らかのアプローチを受けている事を、我々は把握しておる。それが恐らく、五大湖付近を発生地とした竜巻によって、市民や観客を人質に取るような内容であるとも、大体予想しておる」

「そ、そこまで…!?」

「ススム君。こいつらそういう事が起こる可能性を考えて、そこのピエロ送って、外れてても別に良いってスタンスだっただけだよ。心を読まれてるみたいな、変なプレッシャーは感じちゃダメ」

「あ、そ、そっか……」

「くつくつくつ……!首輪はしっかり繋がっとるのう?」

「うるさいな…!」


 腹の探り合いが赤点のままで、こんなに力も経験も莫大な相手と渡り合うなんて、大丈夫なんだろうか?今更ながら不安になってきた。


「まあ聞け。とって食おうと言うのではない。我々と“環境保全キャプチャラーズ”が直接の戦闘を行うのは、ちと具合が悪くてのう。オヌシを使って間接的に奴らの一体を殺せるなら、こんなに楽な事は無いと、そういう話じゃ」

「俺を、使って、ね……?」


 奴らが対立してるのは、まあ嘘ではないんだろうと思う。

 だけどよく分からない。


「あいつら殺したいなら、俺とあいつらが戦ってる横から、黙ってやればいいんじゃないか?何でお前らが直接攻撃しちゃいけないんだ?そういう協定でもあるのか?」

「いんや?奴らと我々はほとんど四六時中戦争状態じゃ。誰にも見られん場所で鼻っ柱を突き合せたら、その場で自然とタマの獲り合いが始まる仲じゃな」


 「が、市街地の目と鼻の先で、それはうまくない」、

 ピエロがなんか高そうな白ワインを注ぎ、“靏玉エンプレス”がその薫りを楽しむように目を細める。


「我々が本気で衝突すれば、それだけ魔力も魔法効果も破壊も派手になる。市井にその姿が、在りようが露見する」

「あの、ダンジョンを生む術?みたいな奴は?」

「奴らは大規模な竜巻を、外で起こすと言っておるのじゃろう?それが手品のようにパッと消えてみぃ?大騒ぎじゃろうが」


 ああー……。

 クソデカ季節遅れ竜巻までだったら言い訳利くけど、そっから先は大規模魔法の話になって、余計な詮索が色んな所から来て、それで見つかる恐れがあるのか。


「術者を倒し、自然消滅させる、それがワシらの望む所じゃ」

「でも、だったらそもそもどうして、今日ここで戦おうとするわけ?」


 ミヨちゃんが、もっと大本となる部分を掘る。


「あなた達にとって、人間の命なんてどうでも良いでしょう?ほっとくって手もあったのに、どうしてそうしないの?」

「それはなあ、小娘」


 長細い部分だけを持ちながら器用に杯を傾け、


「好機じゃから、と言う他ないのう」


 ワインをほんの一嘗め。

 赤い舌が蛇のようにしゅるりと唇を濡らし、その立体感を強調する。


ill(イリーガル)を殺せるどころか、一戦交える事の出来る機会すらそうない。しかも、じゃ。先の理由でダンジョンを使えないのは向こうも同じ」


 「これは、『好機』じゃ」、

 全力よりは弱い状態で、ノコノコ表に出てきてくれる。

 殺しやすさは、日頃とは比べ物にならない。


「そこのお転婆蜥蜴の暴露で薄々気付いとるじゃろうが、我々の“席”は永級の数しか用意されておらん。現在で言えば十席!」


 そして今一体蹴落とせば、次に座るのはリーパーズの息が掛かったヤツ、になる予定らしい。なんかバトル漫画的世界観の政争みたいな構図だな。強い奴で席を埋めてって、先に相手を全部追い出したら勝ち、みたいな。ヤンキー漫画の学園かな?


「これから現れる、コードネーム“暴風ハーヴェスター”、奴を落として勢力比は6対4!ワシらが優位に立てる。これを逃す目はない…!」


 「違うかえ?小娘」、

 爪先から上へ順繰りに、瞳から射す光が俺達二人の肌の上をのたくる。

 巻き付き、絡み取り、絞め落とそうとする。

 俺の右手を握っていたミヨちゃんの左手に、力が籠る。

 きゅうっ、と、

 不安から布団を被るように、それぞれの指が俺の五指ごしの間に這入り隠れる。


 強く握って、正気を保ちたいのかもしれない。

 この車内は、平衡感覚を波立たせるような、居心地の良い違和感で満ちている。

 浸水するように。

 心酔するように。


 危険信号を出そうと力を絞った本能が、優しく寝かしつけられてしまったみたいに。


「そう案ずるな、震えるな。ただワシらがいっちょ噛みするのを許せば、双方共に利得のある話だと、そう教えておるだけじゃ」


 「そちらが望まなければ、オヌシらには何もせん」、

 左の耳に掛かった髪を掻き上げ、首筋の脈拍一つに至るまで生々しくつたえ見せる。


「そちらにはセーフティーもある。おるのじゃろう?彼奴きゃつが」


 彼女は薄ピンクに照る肌の、きめ細かな粒子を見せつけながら、ワインをもうひと嚥下えんかしようとして、


「うん、今はお前の隣に」


 俺の言葉を聞いて毛先まで動きを凍らせた。


「………」


 平熱そのものに見え、火照りが増したようにも見えない彼女。

 そのすぐ横、腰と腰が押し合い潰し合うくらい近くに、その白黒が座っている。


 いつも上に羽織っている衣は無く、今は全身に密着し、下の灰色を透かし見せる薄衣だけ。

 左腕を彼女の首に回し、右手を顎の下に添え、鼻が頬に潜るくらい顔を近づける。


 この角度だと、輝く白色に隠れて、あの橙は見えない。


 そこだけ切り抜けば、恋人同士のじゃれ合いに見えなくもない。

 蛙を睨んでいた蛇が、気付かぬ間に猛禽の爪で鷲掴まれている状態だけど。


 圧を掛けられっぱなしと言うのもあれだから、折角だからこっちも何かそれっぽい言い方しただけなんだけど、なんかカンナがノリノリだ。

 っておい、こら、人の胸を揉むな。「鷲掴み」ってそういう意図じゃねえよ。

 今はミヨちゃんもお前の事見えてんだぞ?変な空気になるだろが。なんかこう、スパイ映画見てたら濡れ場が流れたお茶の間みたいな——



「ありゃっ!?」



 そこで急ブレーキ。

 場の全員から底冷えするようなあやしさが払拭される。


「なんじゃ友粋!何があった?」

「いや、なんか道路が塞がれてるって言うか……」

「なぬ?」


 俺達は座席越しにフロントガラスを、その先の景色を見る。


 英語のスラングらしきものが沢山ペイントされた大きめの車が、数台横向きで止まって行く手を阻んでいる。

 検問……にしてはガラが悪い感じだ。

 何だろ?

 とか呑気こいてたら、


「ふむ、オヌシが乗り込む所でも、誰ぞに見られたかの」


 “靏玉エンプレス”がサラッと恐ろしい事を言い出した。


「それって結構マズくない?どう言い訳するの?」

「なあにを言っとるんじゃオヌシは」

「トボけてる場合じゃなくて」

「トボけとるのはオヌシじゃ。あれがこちらの話を聞き届けそうな態度かえ?」

「え?」


 彼女を振り向いていた俺は、改めてよく見ようと前を向くと、


 相手の荷台から十人くらいが立ち上がり、


 小型のマシンガン的なものを発砲する2秒前だった。


「やっば!」


 俺は反射的に奥に引っ込み、


 外では連続撃音(げきおん)がけたたましく重なり響いた。

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