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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十六章:どれもこれも、もう止められない

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422.なんてこと考えやがるんだ

 俺が二人にメッセージの内容を見せてすぐ、問題の番号からの着信が来た。


 ごくりと生唾を呑み、顔を見合わせる。

 それぞれがゆっくり頷いて促したのを見て、俺はその電話に出た。


「………もしもし……?」

『おそーい。3コール以内に出ないと、将来社会に出た時怒られるよ~?』


 「あーでも、別にいっか。そんなに長いこと泳がせるつもりないし」、

 その声は、確かに聞いた事がある。

 夏休みに出会った、あの金色ビキニの女、「カワキリ」!



『おひさー、ってやつだね、カミザススム』

「……どうしてこんな、急に電話なんか」

「それ以前にどこからこの番号を入手したんだ」

「この人が、ススム君が言ってたイリーガル?」


 内容が内容だけにスピーカーモードに出来ないので、3人で顔を寄せ合い一つの端末に耳を突き合わせて喋る。間抜けな絵面だが、セキュリティの観点から致し方ない。


『あーあーそこまでー。質問は受け付けておりませーん。これは交渉ではなく、通告だからねー』

「通告?」

『そ。きみにだけ特別、耳寄りな情報ってやつだよ~』


 俺にだけ、特別……?

 何であっても、プラスではないことは分かる。

 知る事によって、何か大変な事になってしまうような。

 

 だけど、聞かなければならない。

 こいつらが何か企んでいるなら、それで出る被害を止める。

 それが出来るように、強くなってきたんだ。


『きみらが居るルデトロワ、その東に、有名な湖あるでしょ?』

「湖?」


 ある。

 確かに。

 五つの大きなそれらが連なる、そこそこ有名なヤツが。


 


『今から30分後、そこから季節外れの大竜巻が発生するから』




「たつっ…!?」

『で、そっから西に、そのスタジアムを目指して進む予定』

「なんだと……!?」

「ここに……!?」


 ミヨちゃんが驚きながらスマホで何か調べて、俺達に見せる。そこにはここ数週間のクリスティア北東部で、小規模な竜巻が頻発している異常気象を報じるニュース。

 もしかして、これ全部……!?


『もー、ほんとにでっかい奴が行くから、一応知らせといたよー』

「一応って、お前……!ふざけるな……!」


 湖から市街地まで、そこまで離れているわけではない。

 「人が住んでる地帯」というだけなら、もっと近い。

 竜巻の平均的な速度は知らないけど、こいつらが絡んでいる以上、逃げるのを待って優しくゆっくり進んでくれるわけがない。


 今からでもルデトロワ全域を避難させるべき、なのだが、俺達にはそれが出来ない。

 「モンスターが竜巻を起こすのでみんなを逃がしてください」、なんて言っても誰も聞いてくれないからだ。

 ダンジョンなんて大それた物をその場に生み出す連中だ。壊滅的な被害を出す程の竜巻に成長するまで、時間はあまり掛からないだろう。

 猶予は30分。洗いざらいこちらが持ってる情報をぶちまけても、説得が間に合うとは到底思えない。


 それなり以上の犠牲者が、

 たくさんの死人が出る。

 ほぼ確実に。


「そんな事してみろ…!お前らが俺に直接的な攻撃を仕掛けた事になって、カン…“可惜夜ナイトライダー”が黙っちゃいないぞ…!」

『うん、それが怖いんだよねぇ…』


 「だ、か、ら」、

 ビデオ通話でもないのに、口裂け女みたいに吊り上がった笑顔が、俺の網膜まで届く。


『こうやって教えてあげてるんじゃない』


「な、んだって………」


 ぶわりと、厭な汗と予感がいっぺんに、俺の体をズブ濡れにした。


 こいつらは……


『きみがそこから逃げようと逃げまいと、竜巻は進路を変えない』


 こいつら……


『湖からスタートして、スタジアムを通過して、その後も直進し続ける』


 こいつは…!

 

『確実に。これは決定してる』

 

 こう言っている。

 その竜巻との戦いに赴いても良いけど、

 それは俺の、


「戦うかどうかは、俺の自由だって言いたいのか…!?」

 

 自己都合による選択だと。


『そうだよ?好きにすればいいでしょ?そのまま逃げても、湖に行っても、どっちでも好きに、さあ。きみは選べるんだもんね~?』


 「わたしらのお蔭でね~?」、

 なんて奴だ。

 これだと、理屈が合ってしまう…!


『それできみがわたしらとぶつかる事を選んでも、それはきみのワガママだから、こっちとしては関知しないよ?わたしらはむしろ、安全を考慮してちゃんと告知してるんだし。別に来てもいいんだよ?来てもいいけど、それは“可惜夜ナイトライダー”から見て、どっちの判定になるのかなあ?なんて、興味と老婆心から思っちゃったりして』

 

 カンナが俺に手を貸す時っていうのは、ill(イリーガル)のような強者が、まだ成長し切ってない俺に対して空気が読めない雑魚狩りを仕掛け、「おもんなくなった」時だ。


 俺から避けようがなくて、向こうから突然強要され、そんなしょーもない不運だけで、「日魅在進の成長」というコンテンツを潰される。

 そのシチュエーションこそが地雷。


 今回は、そうじゃない。

 奴らとやり合うかは、俺が決めていい。

 大勢を見捨てちゃいけないなんて、そんなのは奴らのルールに無い。

 カンナの判断基準だって、可能か不可能かくらい。

 

 人命救助は、モンスターには関係ない事なんだ。


『ここできみがぼくらを止めようとして、そこまで面倒を見るなんてお母さんみたいなホスピタリティが、彼女の気紛れに添うのかなあ?興が削がれちゃうんじゃあ、ないかなあ~?』


 俺にとって100%勝てないなら、そんな分かり切った戦いは、見ていてつまらない。

 逆にカンナが自分で手を下せば100%勝てるから、そっちも本来は興醒めなズル。


 「絶対に生き残れない」ルールを強いるような、重大な「マナー違反」でない限り、彼女はその手を振るわない。

 だってここで助けたら、極論俺から積極的に喧嘩を売って、それを買ったイリーガルを片っ端から殺して貰うという事も、理屈上は通ってしまうから。

 俺が気に入らない、だけでは、彼女の力は使えない。


 ずっと一緒だから分かる。

 カンナは享楽的なのに、マイルールの基準に関しては、法律みたいにドライでフラットだ。

 情に訴えても助けてはくれない。


 生き延びたいと願うなら、苦汁を呑んで見捨てるか、

 守ると自分で決めたなら、命を懸けて不可能を可能にするか、

 どちらかしか認めないだろう。


 惨劇を回避したいなら、俺の意思で身を投じて、俺の手、俺の実力でやるしかない。


『そうそう、これも教えとくよ、わたしの優しさとして』


 冥土行きに土産を持たせるような優しさで、


『“暴風ハーヴェスター”、それがきみらを殺す死神の名前』


 カワキリはそう言い切った。

 俺がどっちを選ぶか、確信している口振りだった。

 きっと、俺がそういう人間だと分かったから、こんなやり方を選んだんだろう。


『そういうわけだから、早めに逃げ出してね。幸運を呪って、凶運を祈ってるよ』


 「言ったからね~?」、

 通話はそこで一方的に切られた。

 頭を離した時の二人は、焦りと行き詰まりでぐちゃぐちゃになった顔をしていた。俺もたぶん、そんな感じなんだろう。


「カンナちゃん…!」


 ミヨちゃんが見上げた先、階段の手摺に腰掛けるくらからだ

 焼き尽くすような赤でも、凍てつくような真紅でもない、寝かしつけるような橙。

 ぼんやりとした温かさと、少しの仄暗さがブレンドされたその瞳は、

 俺達を抱擁するように照らして、


「ススム君を、守って…!」

(((当然、お断りします)))

 

 はっきりと、その願いを、一縷の望みを散らした。


「カンナ嬢…!カミザの体が無ければ、お前の一部も損なわれる事になるんだろう…!?」

(((爪の先程も痒くありませんね。以前貴方以外の二人に言い聞かせた通り、他ならぬこの私を、些末事で吹き飛ぶ泡沫と同じように、“ままある存在”だと品評しない事です)))


 そう、その通り。

 彼女にとっては、極論どうでもいい。

 全世界全宇宙の全部がどうでも良くて、その「どうでもいいことリスト」の中に、「他よりは面白いことリスト」があるだけだ。

 

 ここで彼女が介入するというのは、俺達が「他より面白いことリスト」から外らされる事に同じ。ってなると、もう俺を助ける理由が無くなり、どっちみちわざわざその力を振るう事はしない。


 今回は、頼れない。

 

「先輩、ここから見つからずに抜け出す方法、分かります?」

「行く気か!?本気で正気であの口車に乗る気か!?」

「それしかないでしょ…!もう他に…!」

「馬鹿な…!あんな、あんな存在に、一人で…!」


「一人じゃありません」


 そう言って、「逃がさない」とでも言いたげに、横から俺の手を握る彼女。


「私も行きます」


「お前らなあ…!」

「ミヨちゃん、それは…!」

「ススム君」


 彼女を止めようとした言葉は、紺の両光りょうこうに貫かれ、舌ごと刺し留められてしまった。


「巻き込まれるかどうか、私に選ばせて?」

「………うん、分かった」

「分かってない…!俺はまだ分かってないぞ…!」


 ニークト先輩は、それでも思い留まらせようとしてくれる。


「死ぬぞ…!最悪の場合だとか失敗したらだとかじゃあなく…!」


 もっと前の段階、

 それをやると決めた時点で、


「お前ら、二人とも、死んでるんだぞ…!?」


 その決断をした時点で。

 

「それでも、やります」


 大厄災による大量死。

 脳裏が白く染まる。


 あの日、俺の目を潰した光が、

 漂白されていくみんなの顔が、

 見知らぬ場所で一人目覚めた心細さが、

 周囲が恐怖と哀切で満ち満ちていた事への怯えが、


 その引き出しを開ければ、今も色褪せず部屋を埋め沈める。

 目を閉じればすぐに現像出来るくらい、くっきり目蓋の裏に焼き付いている。


 あんな事、少なければ少ないほど良いんだ。

 俺に止める可能性が、もしかしたら上手くいくかもしれない方法があるなら、


 やらなきゃいけない。




 日魅在進は、それを避けては進めない!




「~~~!!少しは聞き分けろ無謀小僧ッ!このっ!いのちろうめッ!だいたいお前のように政情を揺さぶる身分が、ここから見咎められずに無断で出ていくなど、そんな事が可能なわけがないだろうが…!必ず警備と監視の網に引っ掛かり、拘束されて…ッ!」


 ビョ~~~~~~~~ン、


 廊下に反響する、場違いに陽気な音。


 ポム、ポム、ポム、ポムポムポンポンポンポンポンポンポンポン、


 大きめのボールが弾む音。それは上から段々と降りて、


 ボヨヨン。


 階段を辿ってから俺達のすぐ横に転がって来た。


 俺達全員、それを見て固まった。


「ややっ!これはこれは!」


 ボールの上に、小柄なピエロが立っていたから。


「どうも、皆様お揃いで!一同、『何か』とお思いで!」

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