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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十五章:見てよこの層の厚さ!アツアツだぞ!

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419.間一髪で紙一重

 温度とは、物質を構成する分子の運動、その激しさである。


 気体に圧力を掛け、体積を減らしたらどうなるか。

 ただでさえ動き回りがちな気体分子は、壁や互いに衝突する頻度が上昇し、減速しそうになっても別のエネルギーを得る事で、運動の激しさを増す。




 簡単に言えば、圧縮された空気は、温度が高くなる。

 

 


 ここに一つの構造がある。

                     

                 蓋によって

                     密

 圧力によって押し込まれるパーツの先は  閉

                     さ

                  るいてれ


 予めポンプなどで吸い出されたわけでなければ、その狭い部分には空気がギチギチに詰め込まれている。


 繰り返しになるが、圧縮された空気は、温度が上がる。

 事実、その構造の中では、数百度という高温に達した。


 仮にだが、

 そこまで高められた空気の中に、発火点が低い物質、平易な言い方なら「燃料」となるような物が注入されると、どうなるか。

 

 燃焼の3要件は、

 ①燃える物がある。

 ②充分な酸素がある。

 ③発火点以上の温度である。

 

 全て満たされている。

 着火直後の最大火力は燃料によって異なるが、一般的に1000~3000℃。

 より爆発的な物質なら、4000℃以上さえ。

 この温度変化は分子運動の激しさが跳ね上がる事を意味し、加えて燃料から燃焼ガスまで発生することになるが、閉じ込められているために体積膨張も出来ない。

 

 そうすると、内側から掛かる圧力は倍数的に上昇するしかなくなる。

 

 ここで、




               そ

                 の

                   方

                     向

                       に

                         の

                           み

                             急

 ある一方への扉を、脱出口となる隙間を開いたとすると、     激

                             な

                           体

                         積

                       変

                     化

                   が

                 発

               生。




 行く先を限定された「押し出す力」を生む事が出来る。


 例えば一部を脆く作っておけば、そこが最初に形を保てなくなり、思った通りの向きで吹っ飛んでくれたりするのだ。

 

 発火装置の要らない内燃機関と、火薬型銃砲の原理を掛け合わせた、一種の飛び道具。

 

 虎次郎はそれを、大穴を貫徹かんてつされた左胸の修復時に、密かに中で作り上げていた。

 

 後は、投入する「燃料」さえあればいい。

 簡単に発火し、出来るだけ高温で爆発するように燃えてくれるもの。

 そんなお誂え向きの物質が、


 亢宿の表面に多量に塗抹とまつされている。


 彼と彼の鎧を燃やす為、「一度火が消えても引火を待って残り続ける」、


 粘性の泥が、




 レイラ・ノウェムの魔法生成物が!




                ドォン




 一際大きな破裂音の後、虎次郎の拳は戯画化された月のような形にり抜かれた。


 命中。

 守りは抜いた。

 

「フッ…」

 

 ニヤリと口角を煌めかせたエドウィンは、


「フッ…ぐっ…!ごふぉ…ッ!」


 喘息のようにせ詰まりながら、己の胸を見下ろす。


 鉄の砲丸が肋骨を粉砕、その球体の半ばほどまでめり込んでいた。


 どちらも倒れぬまま、試合終了のブザー。


「亢宿ィ…!」


 魔法を解除し人の身に戻った虎次郎が、問いを振り絞る。


「ワガハイの、首輪は…!」


 自分で確認できないその色は、


「どうなっている……!」


 咳き込みながら前に回って、ヘッドセットを抜いだ亢宿の目に映った首輪は、


「緑だ」


 勝利を祝していた。


「銃と大砲の決闘は、デカい方が勝ったらしいぞ」




 撃ったのは、

 早かったのは、

 わざと体を仰け反らせながら、胸板を露にして狙いを付けた虎次郎の方だった。


 そのすぐ後にエドウィンの撃鳴げきめい


 0.1秒程度しか開かなかった二つの轟音は、重なってほぼ一つになっていた。

 

 エドウィンは発射の直前、被弾によって確かに体幹が崩れ、微妙に弾道を逸らし、100%のダメージを出せなかった。

 

 衝撃がうまく浸透せず、一発が命に届くまでのタイムが、乃ちポイント減少速度が微妙に遅れ、それが勝負の分かれ目だった。

 

 


「そう、か……!」

 

 医療班が駆け付け囲む中で、虎次郎は大の字に寝転がり、


「ゥゥウウウオオオオオォォォォォォ!」


 勝利の雄叫びを高らかに奏でた。


 今にも握り潰されそうになっていたテニスンが解放され、ノウェムは自分が生かされていた事、その脅しに最後まで付き合ってしまった失態を悟って、口惜くやしげに下唇を噛んでいた。


 幕が下りるかのように、アリーナと客席との遮断が解除されていく。

 

 ホームのパーティーの惜敗という結果であっても、皆が拍手と歓声を送っていた。


 それは、その戦場に立っていた全員に、例外なく贈られた賛歌だった。


 栄光の滝音たきおとを何の後腐れもなく浴びながら、担架に乗せられた虎次郎と拳を合わせる亢宿。


「やったぞ大将。粘り勝ちの世界一だ」

 

 聞いた鉄人は、ニカリと歯を見せ締め括った。

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