416.西部劇の決闘って、射的が上手いだけじゃ勝てないんだね
「組み付けッ!」
エドウィン・ドゥオーダが現れた。
残った6名全員が見える範囲に集結した。
その時真っ先に最適解を出したのは、テニスンだった。
「亢宿ィ!ワガハイに続けェッ!」
「『続け』、って言うか…っ!」
それを聞いた虎次郎が自らのやるべき事に気付き、命じる。
「連れてってくれ…!」
倒れ込みそうになりながらも、その首に根を回して齧りつくように取り付く亢宿。
鉄人は走った。
黒鉄の巨人目掛けて!
〈シュッボオオオオ!〉
巨人はハンマーを振り下ろす!
が、自分より遥かに小さいテニスンが生成するバリアと拮抗!
ノウェムが眷属を分裂させ、燃える粘土で複数方向から亢宿を狙う!
既に生長していた大木が枝を下ろし、射線を遮る事で止める!
炎が示す一本道を驀進!
テニスンが両手に防御壁展開!巨人のガードを打ち上げ、ハンマーを下ろさせず、懐深くにいつでも突入できるよう場を設ける!
虎次郎の拳が、右腕が、背中へと回される。
左肩越しに右肘が突き出る!
それは引き絞り、力を溜めているのだ!
炸裂すれば、如何なカーソンと雖も大きな損傷を貰う!
だが彼は俊敏に躱す事はできない!今立っている地点の線路には分岐が無く、前か後ろにしか進めない!
エドウィンが居る方向への後退しか選べず、しかし脚を金属発条のような高い靭性を持つ弾性体に変身させた虎次郎が、進路を変えたばかりの順行各駅停車のスピードを大いに上回る!
「ワガハイをッ!食らえッ!」
虎次郎の拳が届く間合い!
「たっぷりとォッ!」
腕の筋肉に溜め込んだ力が開放される!
その後数秒で、様々な事が起こった。
一つ、虎次郎とテニスンの間にエドウィンが割り込んだ。
二つ、突如背後に現れたエドウィンから放たれた投げ斧をテニスンが右の障壁で防御。
三つ、テニスンの障壁と押し合う必要のなくなったカーソンの左手が線路に落とされる。
四つ、カーソンの肩から腕、そして足場の線路が繋がり、装甲の一つが発車、テニスンを突き飛ばす。
五つ、エドウィンが“たった一人の正午”発動、赤茶色の砂嵐が吹く効果範囲内には丹本パーティー3名。
六つ、「3発」と宣言後即座に得物を抜いて虎次郎の拳に2発、後ろ手で背後のテニスンにノールックの1発を撃ち込む。
七つ、虎次郎の拳に大穴が二つ開いて弾かれ、振り向いたテニスンは頭を守った右腕を障壁ごと砕かれる。
「ぬぅおおおおお…ッッ!」
虎次郎は蹈鞴を踏んで地に膝を突く。
「ダムィィィット!」
腕を貫かれ額も強打されたテニスンは後方に吹っ飛び巨人列車の足元へ。
〈ボオオオオオオオ!!〉
ハンマーのヘッドを右腕に取りつけた巨人が両拳でラッシュ!
枝が燃え落ち開いた隙間から燃焼弾が撃ち込まれ亢宿の装甲を纏わり焼く!
「プレスしておけトライ」
魔法の銃をホルスターに戻したエドウィンが、振り返りもせず端的に指示。
「入念に、だ」
彼の魔法、“たった一人の正午”。
腰にホルスターとシングルアクションのリボルバーが与えられ、彼を中心に円形の範囲が広げられ、エドウィンを除いてその中に居る一人につき最低1発、最大6発までを宣言。更に敵の体のどの点に当てるかという誓約を立てる。
弾は魔法の範囲内までしか届かない。
撃つ弾が少ないほど、銃を抜いてから発砲までが速いほど、狙いが正確であるほど、一発あたりの威力は強くなり、ある水準を超えれば魔法効果にすら穴を開ける。
一度撃たれた銃はホルスターに収められ、再発動まで最大1分程度時間を要するが、これは射撃の早さや正確さによって、最低1秒まで短縮される。
弾丸の速度は一般的なライフル弾より上で、秒速2km超。
幾つかの点で、この能力の取り扱いには注意が必要だ。
範囲内に人やモンスターを入れ過ぎると、その分多くの弾を撃たなければならず、1発1発の威力が減じていく。
その中に味方と認識している誰かが入っていると、それもまた弾丸から勢いを奪う。
「ここを狙う」と決めた場所に当たらなければ敵への効力は更に薄くなる。
弾丸は狙った相手にしか当たらないが、例えば頭を狙ったとして、それを当人の腕や防壁で守られてしまうと、それもまた「的を外した」判定。
抜いてから撃つまでを手間取ると、追加でペナルティが乗せられる。
最低でも普通の拳銃くらいの威力にはなるのだが、身体強化を使用中のディーパーや、生物かも怪しいモンスターの耐久力を相手にするのだから、明らかに不足。
技術が無ければ、ピストルを6発撃って、1分間何も出来ない弱小魔法。
味方が周囲に居ない、一人で戦う事に特化しているというピーキーさ。
だから彼は、幼少期から研鑽を積んだ。
その力も技も、全ては妹を万難から守れるように。
生きている、意志と知能を有する相手に、何度も何度も発動し、狙った場所に素早く当てる技術を己が物に。
ホルスターから銃を抜いて、銃口を対象に向けて発砲、間髪入れずに撃鉄を左手で起こしてもう一発。彼の早撃ちの基本形とされるこの形が完了するまで、脅威の0.05秒。
6発撃ち切る場合、一発一発の平均時間はより延びる事になるが、それでも0.5秒に満たない。
速さにおいては完成に近く、人体が出せる限界に近いとまで言われる。このまま行けば身体強化無しでも、彼なら同じタイムを出せるとさえ。
それと同時にあらゆる武器を使う戦闘技能と、徒手空拳でもモンスターを破壊できる身体強化等、能力を使えない時の強さも鍛え抜く。
また、家に招いた上流の大人達から、商談や法廷での駆け引きを学び、相手の心理の誘導や掌握にも長けるようになる。
敵がどのように動くかを計算の上で瞬時に予測し、時には身体能力と戦闘センスによってそうなるよう誘い込み、射撃技術で外す事なく大当たり。
例えば雲日根を撃ち抜いた時。
辺泥を狙って2発撃ったとして、それは致命傷にならない可能性があった。
飛んでいる最中の弾丸は、狙った相手以外に干渉しない。しかし命中後の破壊は別。だから辺泥はシャチの皮一枚隔てた体内に、雲日根を仕込んでダメージ軽減を図った。皮が破れても、内臓が無事と判定されれば脱落はしない。それを見込んだのだ。
と、いうことまで分かっていたから、1発目は辺泥の胴部に居るであろう雲日根に対して撃ち込んだ。
発射がほぼ同時だったが為に、雲日根に脱落判定が下るのが間に合わず、2発目の衝撃が液体化した彼女に受け止められ、鯱の表面を吹き飛ばすのに留まったのは、辺泥の幸運だろうか?
否、エドウィンはその可能性まで考えている。そうなったらそうなったで、辺泥は自らの意図通りに耐えられたのだと誤認し、不用意に詰めて来る。手負いである上に身体性能を過信した獣、彼なら瞬時に制圧出来る。
カミザススムがエドウィンに言った通り、戦闘能力の過大評価とは、戦場における最悪の呪いなのだ。
例えば、ニークトを撃ち抜いた時。
蹠球と体外魔力を利用した不規則軌道。しかしエドウィンが現れる前に人数さが欲しかった彼は、ほぼ直線でターゲットに向かう。
狼が狙うのは、得てして群れの中で最も狩りやすい相手。あの場ではノウェム以外にあり得ない。
カーソンが破壊を得意とし、言い換えれば正面方向に強い事を知っている彼なら、背後から彼女を奇襲する。
そして出発点が愛しのアルバである事を、エドウィンが見逃す筈もなく。
そこまで揃えば、ある程度の勝算がある決め撃ちでしかなかった。
例えば、残りの3人を止めた時。
この試合で最も簡単。
虎次郎の攻撃は破壊力を求めて予備動作が大上段に構えられ、それが撃たれる時にどういった軌道を描くか丸分かりだった。
テニスンは背後から攻撃してやれば、どちらかの腕を対エドウィンの防御に回すしかなくなる。銃撃を防ぐのも、当然そちらの手。
体を半回転させて心臓を狙われにくくする事まで考慮に入れると、右半身をこちらに向け、右手で守るだろう。
万が一貫通された時に減点を抑える為、バリアから頭までの間に腕を挟んでおきたいのが人情。
ならばそこに展開されているバリアの、手の甲に重なる部分、そこで受ける。そこが一番安全だからだ。
だからエドウィンはそのポイントを指定し、彼自身の手で彼の頭を打たせた。
その魔法が発動しただけで、敗北がまた数段飛ばしで、丹本パーティーに向けて転がり落ちる。
テニスンの脱落は確定的。
だがエドウィンは最早、そいつの安否など意に介していなかった。
後は、
「立ちな、K…!ブリキのデカブツがどこまで持つか、見といてやる…!」
後はその男の頭と心臓に、
一発ずつ入れてやるだけ。




