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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十五章:見てよこの層の厚さ!アツアツだぞ!

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413.ヤバイ人が来ちゃった

 亢宿勻の大樹育成魔法によって、行く手が縦横に塞がれている。

 その一本一本が細胞壁によって、人骨どころか鋼鉄を超える強固さを誇る。

 へし折ろうと近付き、掴みでもすれば、逆にこちらに刺さり込みえぐり捥ぐ。

 

 けれども、それらもいつか撤去される。

 ノウェムの炎は、リーにとって撮影セットの背景に等しく、友撃は起こり得ない。

 二人の息はぴったりであり、交互に刺し込む攻勢によって、枝の剪定はいずれ完了する。それも早いうちに。


 その予定はキャンセルとなった。

 リーが脱落。

 枝も鉄人も、これからもっと自由になる。


 だが、


「充分でしょう!ちょっと!いつまで遊んでるんですか!早く行きなさい!」

「ウェへー…!超絶至極にブルー…!もっとやってたかったー…!」


 アルバは届く。

 その男が届ける。


「トレース!」

〈レールで人を、その暮らしを運んだのは誰か…!〉


 テニスン・ニークトの両名と打ち合いながら、攻撃に使われた根や枝をハンマーで打ち払っていた。

 それらは黒鉄によって固着され、動けなくなっていたが、


 その一本に、巨人の、カーソンの腕が伸びた。

 彼が纏う装甲の上に、二本の筋が、レールがあった。

 それが黒鉄に染まった枝と接続され、二本線がせり上がり、架線が敷設された。


 巨人が背負った箱が肩の高さまで上がり、アルバがそれに乗り込んだ瞬間に爆走!

 特急快速急行中!


「チィッ!いつの間にッ!?どっからダヨッ!?」

 

 それが発射、もとい発車したという事は、どこかしらを通って虎次郎にまで届く路線図が完成しているということ!


「トレース!その人をずっと止めててください!」

〈忍耐というボディに、尊厳という油を差し、意地という燃料を入れ、走り続けた…!シュッゴオオオオオ……!!〉

「ダムィット!オイ!コジロウが狙われてるゾッ!なんとかしろアミボシ!」


 釘を乱打するような頭上からのハンマー捌きによって文字通り釘付けにされるテニスン!

 虎次郎からだとノウェムの炎が邪魔で黒鉄のレールが何処をどう通って何処が繋がっているのか判別できない!


「アミボシッ!どうだ!?」


 亢宿なら、彼なら枝越しの感覚で、何処を走っているかは何となく分かっている。

 しかし、


「グッ…!駄目だっ!速過ぎるんだ…っ!」


 しかしそこまで。


 生長による攻撃では追い着けない!

 行き先を予測しようにも、急カーブ急加速によって一気に軌道を変えられてしまえば後手後手に!終点駅で待つ彼らから肉眼で見えた瞬間に車両を止めるのが精一杯で、そこから飛び出すアルバから虎次郎を守るところまで手が回らない!


 どちらから来るか分からない必殺を待つとは、いつボタンが押されるか分からない電気椅子に座っているようなもの!

 

 備えるも避けるもない!

 

「右に…!いや左…!いや…!クソッ!どっちだ……!?」

「案ずるなワガハイが止める!」

「そこまで来られたら終わりなんだって!」

〈列車は夢と希望を運び、男は人の可能性を届けた…!彼が引いた線路が、温もりを失わぬ未来を——〉




「“魔法変身半神狼王ニュクティ・フィフティ”」

「「〈!!〉」」




 狼の遠吠え!

 高所で魔力の気配が爆発的膨張を遂げる!

 赤金の風が吹く!

 萌黄色の合間に薄めた絵具のような色が奔る!

 

「うぃ、ウィヒ…!と、跳んでる…!飛んで、来る…!」


 ニークト=悟迅・ルカイオスの完全詠唱!

 狼男が木々を自在に高速移動!

 目にも留まらぬ早業!

 足裏を守る肉球の衝撃吸収が足音を消して、

 風切り音が聞こえる頃にはもうその発信源に居ない!


「落ち着いてアルバ!しっかり!炎を見なさいっ!」

「ほ、炎っ!?アッ、そっか!」


 ノウェムの声にハッとする。

 所により音速すら超える彼は、岩壁のような抵抗を持つ大気を切り裂いて進んでいる。

 移動それ即ち破壊行為であり、燃える粘土を蹴散らし炎を吹き消す!

 その移動が、「フフヒッ…!見える…!」


 電球色の粒子で構成された雲を浮かばせて、その発動を半自動化、敵対魔力で構成された全てに発動されるように。

 止めきれなかったとしても、先端が分解されている間に回避行動を取り、避ける事は出来る!

 炎の中にトンネルを通すような空白の帯!それが伸びて、幹と枝の間を抜け、一周し、「来た!キタキタッ!」命中コース!その出だしが見えた時点で勝利確定!「血はどうなってる?骨まで変わってる?目は?鼻は?耳は?尻尾は?臓器は器官は神経は脳は?どこまでの傷まで許容できる?どこまでの変形で自己を保てる?」一度避けてしまえば敵から分解能力の雲に突っ込む事になるからだ!


「その化けの皮の原材料を全部見せてよねェーーーッ!!ウィッヒッヒィィィーン!」


 身を沈めた彼女の頭上を赤金色が一枚ずつがされながら通過し、


 否!


——狼じゃあ…!


 ない!

 そこにあったのは萌黄色をした太い幹!

 気付かせぬように植物から伐り出された、

 木の槍、

 と言うより丸太である!


「あっ、これっ…!」


 彼女が予感したのとほぼ同時、

 萌黄色の飛翔体が16方向から突き刺さる!

 車両が針鼠のような外観に!


「ぶ、分解しなきゃっ!」


 狼男によって作られ、投擲されたらしいそれらは、更に蹴り込まれる事で、杭のように彼女の腹を撃ち抜く威力を持っている。多角的且つ多量なので避けるのも無理!防御するしかない!同時並行分解処理!


 丸太達が幾つものキューブに取り込まれ、それを形作る魔力を排除され、形を保てず解体されていく。アルバの魔法に籠められたエネルギーが消費され、雲が薄くなっていく。


 列車の屋根が斬り飛ばされ、赤金の毛を風に揺らす、狼男が立っていた。


「い、イェーイ、女の子でーす…!ウィヒッ…!」


 両手でピースサインを作り、それを見上げて引き攣った笑顔を見せ、徐々に小さくなる声で許しを請うアルバ。

 

「だから、痛くしないで、欲しいっテイウカ…ソノ……」

〈ああ、そうだな〉


 彼が担いでいた最後の丸太が突き入れられる。

 分解処理による防御。

 その時雲に穴が開き、

 甲に爪を生やした拳がそこに撃ち込まれ瞬時に引き戻される。

 

「ギェッ 」


 喉に命中。

 無駄無く一撃の下にほふったニークトは、彼女を抱えて列車を蹴り飛ばし脱線させ、自らは火の手の外へ。


 1Fアイスクリーム屋の前に脱落した彼女を横たえてからひとっ跳びでカーソンの背後から躍り掛かって肩のノウェムを——


 その鼻が、妙な埃っぽさを嗅ぎ取った。

 赤い太陽に焼かれた砂土。

 それが巻き上がり肌をかわかす。

 

 風が、

 赤茶けた風が吹いている。


「1発」

 

 ニークトの背、その左側に捻じり穿たれた大穴。

 

〈馬鹿な…!〉


 人間の可聴域を超えた音波で、その男を暫く引き受けるというメッセージが届いたのが、10秒程前。


 辺泥・リム・旭が、それからすぐに脱落していた。


「ニークト=悟迅・ルカイオス…!遅れた、な……!」


 呆気なさ過ぎた。

 端末を見る暇を設けず猛攻を続けていたニークトにとって、晴天の霹靂。


「余計な事をしたから…!“たった一人の正午ハイヌーン・オブ・ア・シェリフ”…!俺が間に合って、お前の軌道が読めた…!」


 ニークトが、彼女を手厚く離脱させたから。

 倒した後に放っておく事をせず、戦場の混沌から自分と共に外して、

 だから彼の出発地点が可視化され、攻撃する先は当然ノウェム一択で、


 故に先読み難度は、クレー射撃のレベルにまで落ちた。

 

「俺の可愛い妹をその手に掛けて、飽き足らずに毒牙にまで掛けようとしたのか…?」


 背後から骨の間を通して、心臓を一撃、そう判定された。


「救護班に任せて良い所を…!わざわざその手で抱き締めて、紳士ぶって運ぶなんて、どういう了見、どういう魂胆か、お見通しだぞ…!」


 パーティーメンバー達は、男の様子を見て、内心片手で額を押さえた。


「許さんぞ…!俺の可愛い妹に、色目を使おうだなんて…!色気を出そうだなんて…!」


 ああ、いつものスイッチが入った。

 始まってしまった。


「そこで見ていろ…!お前の腰巾着共も、みんな地獄に送ってやる…!」


 エドウィン・ドゥオーダ。

 

 彼は過保護なシスコンだった。


「二度と人の妹に、手を出そうなんて思えないようにしてやる…!」

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