410.空戦なのか海戦なのか分かんねえな!?
ショッピングモールの中央、周囲の店に枝を突き入れガッチリとその身を固定する、萌黄色をした巨大な樹木。
その枝に抱かれるようにして、陣取っている4人。
〈6時ヨッ!〉
「アイアイ!」
辺泥の指令で亢宿が幹を渡し射線を遮る!
そこに粘性の高い燃焼する個体が着弾!
黒に近いダークオレンジという、日食に近いカラーリングをした連結する菱形。その一つ一つに付いている眼球から、涙のようにそれが放たれている!
「最近燃やされてばかりだなっ!」
「はっはっは!良かろう良かろう!漢は火の中にあってナンボよおおおお!」
〈3時!ボヤボヤしないノっ!〉
分離して4枚の翅を生やした菱形の一つが別角度から連射!
「あれくらいなら良い!捨て置けぇい!」
「信じるぞ大将!」
虎次郎が金属レベルまで硬化した腕を払って火の雨を掻き消し、「噴ッ!」肉の一部をバネと弾頭に変えて鉄球を撃ち出す!目玉は貫かれピーピーと火を流しながら消える!
「ワガハイを焼きたいか!?そんなものでぇっ!?せいぜい夏の晴れた砂浜程度の焼き加減だぞおおおお!!」
「シャラップ!うるさいゾッ!」
悪態を吐きながらテニスンは防御壁を剣として使い、燃え広がる枝を伐採して散らす!
辺泥もソナーで敵を検知しながら圧縮ジェット水流で消火と敵魔法の破壊を併行して進める!
「辺泥さん!分かっていた事だが、足止めはあまりできてない!」
〈アルバちゃん相手は荷が勝ったカシラ?〉
「お察しの通りだ。どんどん解体されていってる」
「ニークトのヤツがやり合ったから、交換権が何処に使ったかも知れてヤガルッ!こっちの編成は、Kポジは確定ダッ!こっから更にコジロウへの攻撃が激化するゾッ!ノットグッド!」
〈いいワ!ルートを作って頂戴!あたしとむくちゃん、あのボンボン紳士が行くワ!〉
「彼は今」〈結構結構!位置は共有済みヨ!〉
広い可聴域を持つ狼と鯱の、プライベート高周波回線でのコミュニケーションによって、辺泥とニークトは密に連携出来ている。
主要な前衛である二人が通じていれば、それで充分。
〈ちょっと使わせて貰うわヨっ!〉
亢宿が張った太枝を波打たせ、それに乗ってシャチが“泳ぐ”!
鼻先が指しているのは、直立した蒸気機関車のような、数m級の黒鉄巨人!
頭部の煙突から黒煙を吐き、ヘッド部分がSL列車型になっているハンマーを振って、彼を貫こうと伸びる一本の根の先を地に打ちつける!
その表面に枕木と線路が作られ固定!足を縦一列に並べてそれに乗った巨人が、接地部に備わっている車輪をガリガリ回して昇って来る!
〈コシュー…ッ!男は抑圧者の目を見て言った…!機械は決して人に勝てない…!シュゴー…ッ!〉
機械化に抗った労働者達の希望、それを背負って戦いを挑み、命と引き換えに勝利した男の物語。
人間対機械の神話における、最初の英雄。
〈使うのは、人間の側だ…!シュボオオオオオオオ…ッッッ!!〉
彼は効果範囲内且つ地続きであれば、どこでも目的地として設定し、そこまでに線路を通して“列車”を走らせる。
その有り様はどんな自動機構よりも強く、故に鋼より一層強固だ。
トレース・カーソン。
虎次郎と通じるタイプ。
典型的なR。
その装甲間隙や関節部を取り込んで止めようと、上から侵入を試みる根の先が、電球色のラインを辺とするキューブに食まれ、泡立つように霧散していく。
人型鈍行列車の肩には二人の少女。
一人は燃料弾を放つ黒い天使を召喚している隷服教信者、レイラ・ノウェム。
彼女が覆いかぶさり、落ちないように巨人にしがみつかせているもう一人は、クリスティアパーティー二枚看板の片割れ。
「ウィヒッ…!き、キタキタキテル…ッ!オモロッ!この枝オモロッ!フッヒッヒヒヒヒー!」
粒子の雲のようなフィールドを纏い、鼻息荒く敵の魔法を解析する知識欲の権化、
アルバ・ドゥオーダ。
「植物を再現した魔法によくある水分による膨張と五大元素思想における“水”が“木”を生むという理とを結びつけて生長度合いを飛躍的に向上させてるし細胞壁を凝集する事による硬度の上昇に伴う末端の短縮化ってデメリットを相殺することまで出来ちゃうんだからサイコーな思想遷移の形——」
「顔っ!顔上げ過ぎないっ!ちょっと!出てますっ!涎出てますっ!煩悩出てますっ!欲に塗れてますっ!アルバさんっ!抑えてっ!」
「アッ、アッ…!レイラちゃ…、ご、ゴメ……」
「良いですからっ!早くっ!次の枝が来てますっ!あれ枝ですか根っこですか!?どっちでもですけど、来てますっ!」
「だ、ダイジョウブダイジョウブ…、わたし、もうあれの造り分かったから分解するの全然簡単ってイウカ……ウィヒヒ……」
その言葉を証明するように、襲来する枝葉が「雲」に触れると同時、キューブによって次々蝕まれ失せていく。
あれが「分解」。
魔法生成物をパーツごとに分離させ。それが持っていたエネルギーから指向性、制御を奪い、光、熱エネルギーに完全変換、無作為放出させる。
見た目には灰になって燃え尽きるようにして、消滅する。
彼女は世界を高倍率で見過ぎている、らしい。
常にズームインしたカメラを覗いているような世界。
故に単なる格闘戦では、弱い方だと言われている。
が、互いにディーパーでなければ、ナイフを持った素人の方が、格闘技を極めた達人より強いのと同じように、
並大抵の戦士より、射程距離内の事物を問答無用で『解体』する、絶対の矛を持つ彼女の方が強い。
それが、丹本パーティーのK、虎次郎を目指して進撃している。
彼女の手が彼に届く、それがゲームオーバーの合図。
あのRは、その“勝利条件”の運び屋として最適。
だから辺泥が行くのだ!
「ウィッヒッ!?」
ジェット水流で加速しながら波を纏う枝を渡って高速飛来!
狙うは推定B!今大会最強の破壊力を持つアルバ!
「レレレレレイラちゃっ!落としてっ!撃ち落としてっ!」
「枝がっ!守るみたいにっ!邪魔ですっ!間に合いませんよっ!」
圧縮水流と、雲日根睦九埜という飛び道具。
高速放射されるそれは、分解されても後から後から水が足され、徐々に雲を削って本体への道を通す。更にその幾条かの中に、液体化したディーパーが混ざり、敵体内の水分と混ざって好き放題縊り耽る。
水の供給より早く解体するか、雲日根が混ざった瞬間に見抜く。その技術がアルバに無ければ、辺泥の一撃離脱戦法を無力化できない。そして一度でも、雲日根を彼女に配達出来れば、確実に息の根を止めてくれる!
落とすべきが隼見咲虎次郎という、カチコチな男なのだから、アルバの実質防御無視攻撃を失いたくはない筈。
どうする?
誰かが彼女を庇いながら強行するか?
どっしり止まって歓迎の用意をするか?
それとも今は姿の見えない、クリスティアパーティー最強、エドウィンを出して対処させるか?
リソースを引き出すか勝利確定までの走りを緩めるか、どっちになるにせよ丹本パーティーにとっての得になるように「!上ッ!?」
ソナーによって斜め後方から接近する不審物を検知!
〈キィ、ヤアアアアアアアァァァァァァァ!!〉
辺泥の頭上を通る萌黄色に沿って泳ぎ迫る灰色の背鰭!
金属の擦音とも女の悲鳴とも取れる“聲”を発しながら追尾して来る!
〈“黒虎”!×2!〉
背鰭が這っている枝の表面に二つの波を生む!
それらはあるところでぶつかり、振動を足し合い、約4倍のエネルギーを持つ波となる!
三角波攻撃!
それで直接揺らして遅延させる事を狙った攻撃だったが、〈バッッッ……〉メリメリと萌黄色が抉られ、剝離部の下から灰色の鮫の全身が作り上げられていく。波が合流する場所で完全に枝から切り離れ、増幅振幅のピークにわざと自らを突き飛ばさせ、
〈…ッッッッカじゃないノっ!?〉
辺泥へと向かう魚体ミサイルと化した!
枝の上を進むままでは当たってしまう!
右横へジャンプ!
左腕の表面でエネルギーシールドがバチバチと乱れ裂ける!
すぐ近くにあった2F通路へと退避!
攻撃を受けた部位から鮮血が噴き出す!
ポイントが100以上削られる!
半欠損扱い!
〈まだ来てるわよぉ!〉
穴の一つから顔を出した液体雲日根の警告!
フロアの床に灰色の塊が突っ込み、背鰭が二人を目掛けて泳ぎ迫る!
亢宿の根を抉ったのに飽き足らず鮫は更に追いかけて来た!
〈追い掛けっこってワケ?こういう時、良い女ってソンよネ。まず真っ先にお尻を狙われちゃうんだから〉
〈ちょっとぉ?甘々お姉さんがお目当てかもしれないでしょう?〉
辺泥は真逆の方向を向いた二つの波を発生させ、一つは自分で乗り、もう一つには鮫を押し戻させる。
鯱皮の防御でもこのダメージ。カトリーナ・カルカロンの持つ武器もまた、王駒《虎次郎》の防御力を上回り得ると再確認。
辺泥は雲日根と二人掛かりで、この敵を出来るだけ早く倒し、それからアルバへ再アタックする方針へ変更。
〈そっちは頼んだわヨ…!“紳士”サマ…ッ!〉
それまで暴走機関車の相手役は、もう一体の捕食者に託された。




