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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十五章:見てよこの層の厚さ!アツアツだぞ!

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409.やれー!そこだー!やっちめえー!

 リーの持ち味として真っ先に来るのは、各種の速度だ。

 同年代として、いや、同じランク7帯の中でも、世界最高峰の身体強化。

 そのパワーはやはり、筋肉や骨の使い方、それがどれだけ優れているかに由来する。


 一歩先に進むだけでも、足腰から上半身まで、動作に合わせて強化部位や度合いを調整、そこに攻撃や防御、退避といった行動目的まで考え合わせ、半秒ごとに時々の最適な肉体を作り続ける。


 カミザススムが瞬間の爆発なら、彼は一連ひとつらなりの神業。

 丹本の格闘技で言う静から動ではなく、央華系拳法に見られる動を繋げ続ける戦い方。


 息を吐かせず手数を尽かさず、反撃を許さない弾幕的肉弾嵐。


 その軸として特筆すべきは下半身だ。

 

 脚。

 走り、跳び、守り、蹴る。走・攻・守の全てを兼ね備え、一般的に腕の力の3倍と言われ、人体で最も長射程であるそれを使って、


 狼鎧の横っ腹に一発!続けて連続キックジャブ!

 鎧を削る途中で固い手応え!命中点の部位が牙に変質して感覚を狂わせ足を止めさせた!

 首を狩るシミターはヌンチャクの連結れんけつでキャッチ!

 蹴り足を支点として時計方向回転し左足を頭に叩き入れる!ニークトは頭突きを合わせる事で相手の勢いを殺し、自らは狼の頭蓋で守る事で無傷!

 

 左手で掴まれそうになったリーは蹴りの反作用でひらりと離れ躱し、そこを追いかけるように踏み込んだ相手に逆にこちらからも詰めながら身を翻し背中でのインパクト!鉄山靠てつざんこう

 

 が、ニークトのカウンター警戒はそれにも対応!その手法とは「迷わない」事!どちらにせよ轢き殺すつもりで減速を考えない直行タックル!前面に爪と牙を生やして敢行された覚悟の走りによって、距離を詰め返された敵の硬直を予測していたリーの間合い計算が崩れる!

 

 衝突が尚早!背中への回転が中途の状態で接触するしかないと悟ったリーは身を沈めながらヌンチャクを肩越しに背中へ回して緊急防御!

 刺し傷切り傷は免れたものの筋肉率の高い体重をぶちかまされ壁へと撥ね飛ぶ!

 

 ニークトの追撃!に対して盾にするかのように足下の木製四脚椅子が蹴り上げられ衝立ついたてに!構わずシミターで両断!跳んで避けたリーは天井を蹴って彗星のようなジャンプキック!その変則機動を当然のように対応し左腕の大爪で

 

 否!蹴り動作の為に捻られた全身に連動する形で振り被られ、ガードを足場に振り抜かれたヌンチャクが再生しかけていた頭部に炸裂!


 足腰を制する者は、拳を制する。

 拳の届く範囲まで自分を運ぶのも、それで叩く時に体全体の力を乗せるのも、剣を振るであれ槍を突くであれ、近接戦闘の基本は下半身!

 

 蹴り技はそのまま上体を使った攻撃に接続する!

 

 リーはヌンチャクの勢いをそのままに自身の体に打ちつけながら回し渡らせる事で空中姿勢制御!ニークトの肩に立つ!


 人間が本来持つ攻撃力の内、最も強い物は全体重が乗った蹴り込み、つまり直下への踏みつけ!

 

 それで頭蓋粉砕を狙うも鎧から眷属が一匹現れクッションになりつつ脚に咬みつかんとする!

 それを頭から蹴り殺す!それとタイミングを合わせて身を沈めて上下位置関係から抜け出すニークト!

 

 リーはカウンターに跳び移り卓上調味料を蹴飛ばしながら横から接近!腰掛けるような態勢となって敵の上体に足での連撃!ニークトが距離を取るのに合わせてキック一発!その推進力で台から降りて、脚の下段とヌンチャクの上段の二択猛攻に切り替える!


 狼鎧を削りながら連打!連打!連打!

 脚を狙った前蹴りや、曲剣の大振りに混ざるコンパクトな左拳、腕や肘に生やされ身を削る爪牙そうがなど、ニークト側からの反撃もある。

 が、虎柄のような黄色に黒ラインの魔力が、衣服のようにリーを守り、傷を付けさせない。


 彼の魔法は、とある伝説的アクションスター、その作品群に通底する世界観が元になっている。

 どんな問題も、その男が演じるキャラクターが現れれば、右から左に体術で叩き伏せられ、黙らされる。

 単純単調で、だからこそ明快な活劇。


 その男のタフネスを夢見た事で、「死にそうにない」攻撃を、全て足切りで無効化する魔法が生まれた。

 「死にそうにない」の定義は曖昧だが、各種打撃や急所以外の斬撃、刺突、高所からの落下、電流や溺水、大体の呪いまで、とにかくフィクションで「演出」に堕しやすく、シーンが変われば忘れられるような通り一遍のダメージ。


 その一切が、無かった事になる。


 首を切るか腹を割くか頭を抜くか四肢を捥ぐか………

 見ただけで不可逆的な重傷だと分かるような、絶対の“致命”。それ以外の一切を受け付けない。


 ニークトが万全であれば、それでも彼を「殺す」くらいの一撃は出せる。

 だから「万全」にさせない。

 避けてのがれて、細かい攻撃を挟み、時に筋肉の運動、肉体の躍動を奪い、


 自分の威力を上げるより、相手に強力な一撃を放たせない。

 対モンスターであっても有効なその戦法は、ギャンバーでは破壊的なアドバンテージとなる。


 こうすればニークトのみがダメージを蓄積する。

 片方は無傷、もう一方は出血が増えていく。

 死ぬのは後者、だから当然その場を打破しなければならないが、リーはそうさせない事のエキスパート。


 この戦闘は、彼が勝つ。


 無線でPポジションの配置点を聞くや否や、潰しに行って、入れ替えられたニークト相手に飛び込んでしまった時も、彼に焦りは見られなかった。


 その内心に、今は翳りが見える。


 攻めあぐねている。

 勝ってはいるが、勝ち方が小銭程度。


 完全詠唱時ならいざ知らず、通常時でのスピード勝負では負けない、彼はそれを確信していた。

 事実その通りで、ニークトはリーに追い着けなかった。

 だがリーは、ニークトをぶちのめす為に、彼の方から接近してくれる。


 ニークトは彼に防護の一部を削らせながらカウンターを狙い、燃費の良い簡易詠唱に魔力を供給し続け、鎧を修復。魔力切れの心配なく持久戦に持ち込める。


 そう、リーは失念していた。彼はあの、カミザススムのパーティーメンバーであり、学友でもある。

 不可視の魔力と超高度な肉体強化を駆使して立体的に戦う彼と、手合わせをした事がないわけがない。世界大会前となれば、対人訓練も欠かさなかった筈。


 その狼は、手慣れている。

 自分より遥かに速い、なんならリーを上回る最高速と手数を持つ敵と、簡易詠唱だけで互角に戦うという、特殊も過ぎる状況に。


 一応、僅かずつではあるが、ニークトのポイントは減らせている筈だ。

 だがもし、ここに真っ先に合流するのが、丹本パーティー側だった場合、形勢はその一刻いっときで逆転する。


 もう少し、

 脱落とは行かずとも、せめて敵が攻勢に転ずるのを躊躇うくらいの、安全マージンとしての勝ち点が欲しい。

 彼の中で徐々に焦りが育ち始め、そのせいか怪しめなかった。


 戦闘音に混ざる破砕、それが少しばかり多過ぎる事に。


「グルァゥッ!」


 剣を手先で器用に振り回す、と見せかけて逆手に持ち替えてからの両拳によるラッシュ!

 リーは真っ二つにされた椅子を蹴り上げ、その脚部分をそれぞれの手に持って盾のように使って受ける!いなす!しのぐ!逆にそれで打ち据え打ち続け押し返す!


 狼が身を沈めて地面スレスレのローキックをするのを開脚して跳び箱のやり方で跳び越えるも、振り向くのは蹴りで体を捩じっており接地もしているニークトの方がコンマ数秒早い!

 床板を踏み抜きながら振り下ろされる剣を水平に構えたヌンチャクで防いでから脚を使って——


「!?」


 間合いが、遠過ぎる。

 踏み止まれなかった。

 滑り下がって、離れ過ぎて、次の蹴りに繋がらない。

 何故?

 敵の攻撃に対して、こちらの脚力が足りなかった?


 違う。

 これは、

 摩擦が!


「忠告はしたぞ?」


 リーの尻目に、鈍金の一過いっか

 彼はその正体に注意を向ける。

 斜めに引っ繰り返されたテーブルの下から、卓上に用意してある液体調味料を咥えて、小型の眷属狼が現れる。


「行儀を良くしていろと」


 最初に彼が待っていた時、眷属達は既に配置済みだった。

 あのちっこい奴も、最初から隠れていた。

 二人があちこち壊して回るのに紛れて、タレやらラー油やらをぶちまけて回る。

 摩擦係数が下がった床を作る為。


 そして今、彼はそこにまんまと誘導され、自分の次の挙動計算を誤った!


「グゥルァァァッ!!」


 滑らないように床を破ってまで深く踏み込んだニークトは、そのまま身を伏せ四つ足歩行となって突撃!その頭や肩から爪が生え、鋭い牙が並んだ顎がかっぴらく!


 脳が既に蹴りの指令を伝達済み。

 自分を止めようにも床のコンディションが悪過ぎて踏み留めが効かない。

 そんな不自由な体勢でヌンチャクを振ってもあの質量を弾き返せない!


 守れない!

 回避すら間に合わない!

 今現在この時この、最大の武器である脚を封じられている!



 ここで脱落〈キィィィイイイヤァァァァアアアアア!!〉


 

 パニック映画で響き渡るような女性の模範的悲鳴らしき金切り音!

 カウンターを削断さくだん通過しながら現れる船の帆のような灰色の物体!

 彼らはその正体を知っている!

 背鰭だ!


「カトル!」


 カトリーナ・カルカロン!

 クリスティア側の増援が先に到着!


 背鰭は両者の間に挟まってリーを庇い、地面をスイスイ泳ぎながら回り込み、

 床が持ち上がって大口を形作って行く!

 鮫の歯並び!

 ニークト目掛けて迫る!


 外から突き入れられる萌黄色!

 亢宿の根!

 ニークトはそれに爪を立て、伝い渡ることで離脱!

 クリスティア側2名ともがそれぞれのルートで追う!

 

 勝負はモールのメインスペースへと持ち込まれた!

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