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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十五章:見てよこの層の厚さ!アツアツだぞ!

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408.もう勢いしかねえ!

 読み負けたのは、クリスティアパーティーの側だった。

 と言う事は、丹本パーティーが勝利に近付いた?

 

 否。


 丹本パーティーがやった事は、わざわざ不利を取りに行く事だ。


 どちらのボートが先に反対の岸に着くかという競争をやっていたら、急にオールを捨ててバタ足で船体を押し始めたら、それは確かに敵の予想の外だ。

 けれどちょっとびっくりするくらいで、数秒あればすぐに相手はペースを取り戻す。

 一度調子を取り戻されれば、速いのはどちらかほぼ自明。


 素直にオールで漕いでいた方が、遥かに良い。

 微々たるプラスに重篤なマイナス。

 編成負けの可能性を、自ら押し広げる行為。


 もうそれは賭けではない。ハンデや手加減の域だ。


 が、編成宣言の後に、両者のK(キング)同士で握手を交わした時、

 丹本パーティーはクリスティアパーティーを、不当に見下しも、過分に恐れてもいなかった。

 「これで勝つ」という気概を、握られた右手から確かに受け取った。


 では、またも何か奇策があるのか?


 彼らはそれについて、最終的に判定を保留した。

 その時になってみないと分からない。

 分かる必要もないかもしれない。


 彼らが何かする前に、敵性Kポジションを脱落させる。

 カミザススム相手でも、通用させる自信を持って作った、速攻フォーメーション。

 それをそっくり流用する。

 寧ろ難易度は低くなり、通せるという現実感は濃くなった。




 半歩はんぽ分たりとも、迷う心のいとまを持たなかった。

 



 これに対して丹本パーティー側。

 彼らは見事に対手を欺き、策でぴしゃりと射貫いてみせた、


 わけではない!


 そう、全くそういうわけではない!

 これは、高次元な情報戦に入れ込む、息の合間を掬う引っ掛け、という高度な選択ではない!


 むを得ずの向こう見ずである!


 “カミザススム”が出場出来なくなったが為に、絞り出した苦肉の策なのだ!


 敵が速攻を狙うであろう事は知っていた。

 分かっていた。

 詰将棋の末にこちらはそれしか負け筋がないと結論出来たし、クリスティアパーティー程のディーパーなら優秀であるが故に同じ結論に落ち着くと信頼もしていた。

 短時間で試合を畳もうとする敵構成に、防御・治療中心の受け態勢を作る。そうすれば順序良く自滅させられる状況が、向こうから舞い込んでくるのだ。

 

 待っているだけで、対応するだけでいい。

 後出しじゃんけんとは、確実に勝てるものだ。


 進の仕上がり次第では、充分に「勝ち戦」宣言が許された。


 が、進を出せない…!

 それもオープンロール提出の直前、ギリギリになってその状態に陥った!


 急造突貫工事。

 急ハンドルが決定してから、残り時間がほぼ無かった事もあって、「向こうがやる気ならこっちはもっと速くやってやる」作戦によって、どっちがよりタフかという、正面衝突勝負を仕掛ける他なくなってしまった。


 両パーティー共、既にして、予定も目論見も大外れしている。

 それも、カミザススムの不在という、全く同じ一点で。


 結果がこの、極端×極端の、極端二乗(じじょう)バトルである。

 ある種どこでどう引っ繰り返るかわからない、大味な試合。

 喩えるなら、少額の押し引きで魅せるポーカーをやっていたのに、急にネジが外れてオールイン合戦になった、というのとほぼ同じような乱心具合。


 見てる方は楽しいかもしれないが、選手達にとっては気が気でない構図が、決勝という大舞台で爆誕してしまったのである。


 選手の誰からも望まれない、抜き身を握りながらの緊密な取っ組み合い。

 いやいや戦場なんて、得てして当事者からは望まれなくて当然、などと気取って嘯く以外に、彼らには術が無かった。


 何が悪かったかと言えば、時機だ。

 思考の猶予が全く設けられなかった事だ。


 とは言え、時間とはいつもそういうもの。

 人間が勝手に目盛りを付けているだけで、ただそこにそれらしい作用がある、というだけの蜃気楼。


 それは誰の為にも無く、

 そもそも存在自体が机上でしか語れず、

 故に現実がどのように変形しても、

 特に考慮せず何者も待ってはくれない。


 今だってこの通り、

 それぞれ納得し切らないまま、会場が開かれ、選手達が配置される。

 現実なら有り得ない、巨大ショッピングモール。

 広い吹き抜けの周縁部には、玩具屋からホームセンターまで、各種対称形に取り揃えられる。

 死体がウイルスで動き出しても、この中なら数ヶ月程度、人の王国を維持できそうだ。


 ここでもまた、時間は彼らがその全容を解き明かすのを待たず、

 開始のブザーを鳴らした。


 2階の服飾店に並ぶマネキンをボーリングピンめいてぶち撒けながら飛び出すのは、クリスティア側のN(ナイト)であり央華系のルーツを持つハリス・リー。


 彼は弾丸めいてしゃかく跳躍し中央通路を横切って3階の一角、央華料理屋の食品サンプルの陳列に両脚ドロップキック!

 中に突入後前転で距離を稼いでP(ポーン)の位置に居る雲日根を「む、忙しい奴だな」


 カウンター席にその尻を押し込み、椅子を軋ませる長身。

 ヘッドセットの後ろから覗く金髪と、くすんだ金色の魔力。


「食事処くらい、行儀良く出来ないのか?」


 リーは更に踏み込みながらヌンチャク型特殊警棒を抜いて遠心力に乗せた一撃を


 テーブルの下から現れた狼に叩きつける!

 二度!三度!四度!宙に縫い留めるように打ち上げ続けた後に止めの一発を入れ込み先端を右脇で挟んで止める!その2秒程の間に厨房や他の客席から飛び出した狼達が青年の表面で互いに融合、その鎧と化す!


「お前の相手はオレサマだが、然程さほど変わりないか」

 

 雲日根と立ち位置を入れ替えた彼は、傍らに立てかけていた鞘を手に取り、立ち上がりながら曲剣を引き抜く。


「そこまで軟派な奴にも見えないし、紳士の社交に付き合うくらいはしてくれそうだ」


 リーは何も言わず震脚、


 相手の足の下の床板をシーソーの要領で押し上げた後、


 下から掬うように距離を狭めた。

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