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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十五章:見てよこの層の厚さ!アツアツだぞ!

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407.これには深いわけがありまして………

「あと10分ちょい!」

「最後にもう一度だけ詰めるわヨ!これで提出でいいか最終確認!」


 決勝が対クリスティアパーティーと決まってから、1時間弱。

 オープンロールの編集は佳境を迎えている。

 辺泥先輩が手を叩きながら全員の意識を大詰めへと切り替えさせ、ここが踏ん張りどころだと集中力が引っ張り上げられる。


 相手の12人のうち、どれが出て来るか?

 こっちはそれに誰を当てるか?

 相手はそれを読んで編成をいじるか?

 そうなった時こっちはどうズラすのが良いか?

 相手が更にそこまで読んでいたら?


 先に手を宣言してから始めるじゃんけんのように、何回相手の裏を読むのかという駆け引き。

 これは準備段階と言いつつ、戦場の一環として組み込まれている部分だ。

 編成負けは、敗北を力強く引っ張り込む。

 

 ギャンバーとは何か正確に言うなら、試合時間10分未満の魔法戦ではない。

 相手が決まってからおよそ1時間の編成読み合い、ロール公開から更に30分くらい入る作戦レベルの化かし合い、そして集大成の実戦という、ミルフィーユみたいな競技なのだ。


 特に挑戦権一回限りなら、手探りで傾向を割り出していく事ができない。

 崖から飛び降りるような、無謀とも言える思い切りの良さを持つ将がいなければ、試合を始める以前で潰れてしまうのだ。


 そういう側面で言えば、ニークト・トロワ両先輩のような自信家や、六本木さんのような策士が所属するトクシパーティーって、結構恵まれていたと言えるのかもしれない。

 空中分解のしやすさと引き換えに、外からの圧に負けない強さを持っていた、ってワケ。


 ともあれ、決勝の話に戻ろう。

 編成はほぼほぼ完成に近い。

 見落としが無いか洗い直している所だが、表情から見てこれで本決まりだとみんなが感じている。


 泣いても笑っても最後の一戦。

 悔いの残らないように、

 いや、勝つんだ。

 カンナが「別にスルーしてもいい」って言った相手くらい、楽々勝てなくてどうするんだ。

 

 勝ち方に拘る、そのくらいの気持ちで行け。

 この大会を通して、自信も付いてきた。

 今の俺なら——


 ポケットの中のスマホが震える。

 みんなに一言入れて、一応通知を見ておく事にした。

 この瀬戸際で、不注意から情報をロストして、そのケアレスミスで負けるなんて、それこそ悔やみ切れない。

 関係ないとは思うが、今は0.01%でも「予想外」を潰したいのだ。


 端末を取り出し、液晶に親指で触れる。

 

 そこに表示されたのは——




—————————————————————————————————————




『皆様!いよいよ!いよいよです!世界ギャンバーU18大会2061決勝!その最初の攻防!編成宣言のお時間がやって参りました!』


『予め行動を決定され、別々にプログラムされたロボット同士による、拳の応酬のようなものです。どちらにどれだけダメージが通るかは、スイッチを同時に入れてみるまで誰にも分からない』


『そして一つでも多く相手にパンチを入れられれば、それだけ綱引きの開始位置が寄る事になります!丹本パーティーとしても、出来ればここでガツンと入れたい所です!』

『楽しみですね。万能斥候であり前衛としても優秀な日魅在選手は確実として、それ以外はパターンが無限に考えられます』


『前回とは違い、各陣営のコンセプトが絞り切れないと言う事ですねー?六使通さーん』


『はい。どちらもパーティーの取れる型が広く、超攻撃型にも防御型にも高機動型にもバランス型にも、如何様にでも作り替えられますから。そしてその全てで日魅在選手はアリです。いえ、訂正しましょう。絶対に欲しいです』


『互いに相手がどういった形を作ると予想し、それにどのような解答を意図するのか、編成判明後にそれを考えるのも非常に楽しいですよねー……!おっとぉ!来ました!画面表示OKとの事ですので!それでは、どうぞ!』


『どれどれ……』

 

 


       レイラ・ノウェム  P  雲日根睦九埜


         ハリス・リー  N  哀藍・ピカード・テニスン


      アルバ・ドゥオーダ  B  亢宿勻


      トレース・カーソン  R  ニークト=悟迅・ルカイオス


    カトリーナ・カルカロン  Q  辺泥・リム・旭


    エドウィン・ドゥオーダ  K  隼見咲虎次郎




『『ふぅワぁぁぁぁアアアアアアっっっ??!?!』』


『こ、これは……』

『確かにガツンと言いましたが、そのぉー……』

『やられましたね…!ガツンと…!我々までもが…!』


『待ってください…!見直します……!確かでしょうか…?…確かです!間違いありません!名前がありません!日魅在選手不在!ベンチに下げる判断です!』

『このところ私の予想を見事に外してくれますね…。聞かれてるのかな……、にしても、だけれども……』


『事前インタビューでは、クリスティアパーティーのエドウィン選手と因縁めいた物も芽生えていたように思えましたが、いやー、それとも逆に、その思い込みを突かれましたかねー?』

『と言いますか、この、何です?この、全体的な纏まりの無さ!』

『あの、私から見ますと、クリスティアパーティーもそのー……』

『凄い編成ですよ!いや、こちら側はまだ分かります。恐らく、日魅在選手を警戒してのシフトだと思われますので。準決勝で彼らが見せた鉄板パターンと同じく、相手の虚を突いてKポジションや日魅在選手のような主要メンバーに風穴を開けようと言う……』


『しかしここに日魅在選手はいなーい!ここまで読んでいたのか丹本パーティー!だから治療役と呼べる選手まで不採用なのかー!?』

『変身魔法の効果で、魔力を使って肉体を補修する、というメンバーを多めに採っていますね。エドウィン選手対策で出て来そうと予想していた面々は、ほぼ全員見えています。だからこそ分からない…!何故日魅在選手がいない…!?』

『治癒が薄いのはクリスティアパーティーも同じですねー!奇しくも互いにノーガード戦法!結果的に両者、一瞬の抜き合いという短期決戦を選択しましたー!』


『これは……、試合時間は短くなるかもしれませんが、体感時間はもっと長くなるかもしれません……!ブザーが鳴ってから一瞬も気が抜けませんよ…!いつ誰がどのタイミングで脱落してもおかしくありません…!』

『決勝がここまで大胆な形になるとは……あ、はい、それでは皆さん、CMの後は、この宣言ロールを踏まえた上で、スタジオの方で深く考察していこうと思います!また後程お会いしましょう!一旦、コマーシャルをどうぞ』



 モニターに映し出されるCM映像。


 眉一つ動かさず黙して見続ける理事長。


 今しがた床へと散り散りにぶちまけた湯飲みを慌てて片付ける学園長。


 小走りで学園長に塵取りを手渡す教頭。

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