406.最後の希望 part2
「最悪っぞお前!ばっちい場所でばっちい屁してばっちいモン手づかみでっ!」
「ち、ちがっちが、ちがう、んだこれは」
「違んねえだろっが!あアッ!?」
「き、きい、聞いて、きい」
「シャキシャキ喋れよ!スキップしながらくっちゃべってんのか!?ゲコゲコリビリビッ!跳ねっのは足だけにしやがれ!」
彼はこの男が嫌いだ。
というか、気分を害する。
人としての相性以前に、もっと深い器官がそいつを受け付けない。
「おめっ!ボスとなんかやってじゃねえっかよ!?終わったか!?済んだってか!?」
「あ、その、そのときに、そ、」
「どうなってんだよとっとと答えろおおっ!!」
苛立ちがピークに達して地団駄を踏む彼に、カエルは身を竦ませ更なる遅延を挟み、相手の神経を追い打ちでささくれ立たせながら、
「お、お、おっ、ちゃん。人間って、人間って、なんだ……!?」
「てめッ…!アッ…!あ…、あ……?アアッ!?」
堪忍袋が破裂した爆風を、意味不明さで萎えさせた。
「な、なんつって…?」
「人間って、あの、白いのって、人間、かなあ?黄色いのって、その、にん、人間かなあ…?」
「おまっ、そりゃおめ、あいつらは」
「体ん中、ま、魔力、通ってるなら、人間、か…?じ、じ、じ、じゃ、じゃあ、ロロロおおーマンも、そ、そ、そうなのか?」
「何、なに言ってっか、分かって」
「何が、ど、どどどどうなったら、人間なのか、なあ?おっちゃん、お、お、俺、分かんなくなっ、わ、分かんないんだよ、おれ、俺……、俺達さあ!?」
——何が違うんだよ!?
「なに、なにっ、って、そいつはっ…」
「お、おお、俺達、魔法使える、からって、そ、そ、それで、人間じゃねえ、って言われてっ…!皮が、く、く、く、黒いからって、人間じゃねえ、って、言われて…!」
「そ、そうだっ!白肌っ、頭悪いからっ、人見てっ、人って分かっねえんだ!」
「でもっ、それって、お、お、俺達が、見た時、白だから、そ、そう思って、るんだって、俺達が、きききき決めてるっ!って言うか、あ……」
「はっ……?わけわかっねえぞ……?」
「白いの、みみ、み、見てっ!頭悪いって!悪いヤツの仲間だって!そ、そう思うのってさあ!それ、それそれって!こうっ!お、お、俺達も、馬鹿に、なっちゃってる、く、ない、、、か……?それ、ってええ——」
——何が違うんだよ
ディーパーだから敵だと言う“ゴミクズ”共と、
白や黄色だから敵だと言う“家族”達と、
一体どこが違う?
人間を分けるのは、正しいのか?いけないのか?
どこからどこまでが“違う”人間なんだ?
どういう理由があったら、人間扱いしなくとも良い、って言えるんだ?
「いやっ、だっておめっ、白いのに色々やられたのは、おめっ本当だろっが!」
「そ、そう!そ、そうなの…?それなら、お、俺達、ただただただ正しい、ってことなの…?ぜ、全部……?黒い、黒いヤツは、別のく、黒いヤツ、蹴りと、蹴り飛ばさない、の……?」
「そりゃおまっ、人間ってやつだから、そういうのも、まっ、一人か二人……」
「スススス白って、みんな、敵…?き、黄色だったら、みんな、その、だ、だだダメな、ヤツ……?」
「いやっ、色が半端に抜けったり、綺麗な黒色、持ってなかったり、っんな奴ら、おめっ無理だろ?普通にっ」
「そ、そ、それが、その、同じに、なってる、って言うか、同じにしか、な、な、なれないって言うか」
「さっきから」
聞き手に回ってやっていれば——
「さっきからなんなっだよ!おめっよおおお!?アーーー!なにっも!わっかんねっよおおお!!いい加減に」
「助けっ!助けられたんだよ!あ、あいつに!あ、あ、あいつらにっ!」
彼は、思わず気道を閉めてしまう。
そんなにハッキリと、自分から言葉を探し出してくるカエルなんて、初めて見たから。
「あのっ!あ、あ、あの、ロマンスイエローにっ!!い、いやっ!あいつだけ、じゃないっ!し、白いのにもっ!俺、か、庇われたっ!俺をみ、見てっ!あ、あいつらっ!本気、本気でっ、心配してやがったっ!」
「そ、それ、は、おまっ、騙されてっ、だけっで、本音で、心配なんて」
「ああああいつらのパーティー!い、たんだ、居たんだよ!み、みんな!」
「みんなって」
「し、白いのも!き、き、黄色いのも!おれ、俺達と同じなのもっ!」
「み、みんな!仲がよ、良かった!ほんと、本当に友達みたいだ、だ、だった!」、
喉を引き裂いてでも反吐をぶちまけるように、彼は言葉を胸から追い出す。
聞きたかった。
彼らに教えて貰いたかったのだ。
彼らは人を分けているのか?
人だとすら思ってないから、あまり気にしていないのか?
それとも、ああ、それとも………
「あいつらっ!お、俺を、攻撃、し、し、しないんだよっ!て、て、ていうか、そん、ん、そんなやつ、本当に、いいいいるの?く、黒いからっ、お、俺を、俺達を、責めるヤツ、い、いるの?」
「いる!それは、いるだろっ!」
「じじゃあっ!何人だよっ!?そ、それ、全部のに、に、人間のうちっ!何人居るんだよっ!お、俺を責めてる人は、けっこう、くろ、黒かった!そ、その方が、いっぱい見るっ、見るんだよ!いつも同じ、く、黒いヤツだったよっ!み、みんな、そうだった!」
「それはぁっ!お前が無能だからっ!無脳だからっ!」
「だっ、だった、だったらな、なんでっ!なんでこ、こんな俺をっ!あいつらはっ!あ、あいつらっ!責めないんだよっ!あいつら、役立たずな、み、み、ミスった俺を!なんで!」
彼は言葉を地面に投げつける。
分からなくなったのだと。
信じられなくなったのだと。
白肌で救世教徒でローマンで、そんな燃える雪みたいな、空想の存在みたいな天敵に助けられた時から、現実の形が融け落ちていった。
自分が正しいと、思えなくなってしまった。
「こ、こ、こんなの、こんなっ、いやだっ!いや、イヤなんだっ!お、お、教えてくれよぉっ!人間って、に、人間って!なんだよっ!?どこまでだよっ!?人間って種類あるのか!?全部同じなのか!?お、おれ、俺達っ、ど、ど、どうやって、わ、悪いヤツ!悪者!見分ければ、いいんだよぉっ!?」
声帯か、酸素か、何かしらが限界を迎えたようだった。
カエルは頭を押さえつけるように、しゃがみ込む。
ローマンの女は、ただ呆と空を見ていた。
いや、見えていないのか?
聞こえているのかも怪しいか?
どうでもいい。
「ダメだ。ダメ、ダメ、ダメッだ、お前」
彼はこういう時、ここで問題が起こった時、
“改善”するのが仕事なんだ。
「っんで、なんでンな小難しい事、言ってだよお?それって、そういうのって、騙そうとしてるヤツがやってることだろお?なっ?もっとシンプルに言える事をなっ、遠回ってウダウダグダグダッ!なっ!それって騙そうとしてるって事だろっが!おめっよお!?」
間違いない。
カエルは、何かペテンを仕掛けようとしている。
そうじゃなきゃ、こんな意味の分からない事を聞こうとしない。
ボスはいつも言っている。本当の事とは、いつだってシンプルだ。わざわざ難しく見せるのは、それで罠を見えなくして、まんまと嵌める悪知恵なのだ。
「なっ、おめっ、イカレてっのか?イカレッ、いや、俺の事嫌いか?嫌いか?嫌ってっか?なっ?なあカエルぅぅッ!?」
「お、俺はっ!俺はほ、ほんとにっ!だ、だ、誰かにっ!おし、教えてっ!欲しくてっ!」
「俺からぶん獲ろってんだろっ!?俺からっ!正しいってのを!」
誰が敵か、
誰のせいでこうなったか、
今まで何が彼を苦しめていたか、
これから彼は何を倒す事を目指すべきか、
たくさんたくさん失った後に、それでも残った、
いいや、ボスがくれたそれらを、
この「キモチ良さ」を、
答えを、
「ぶん獲ろって!分かってんだっ!思ってんだろっ!?甘え汁自分だけってっ!心ン中っ!笑ってやがんだっ!」
「おっ、お、おっちゃ…!俺、俺は」
「騙されねえっ!騙されねえぞっ!俺の事嫌いだろっ!?お前!俺っ!嫌いだって!分かってんだっ!奪うつもりだって!俺からっ!奪うなあっ!」
これ以上、もう二度と、と、
彼は固く心を引き締め、
「奪えっと思うなあああああっ!!」
トリガーを引き絞った。




