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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十五章:見てよこの層の厚さ!アツアツだぞ!

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405.さあて、どうやって勝とっかなー

「それにしても、凄い自信だったよな」


 もう一つの準決勝戦を見ながら、俺は思い出す。

 

——アナタは、決勝の相手に相応しい


 あのハンサムガイ(一歳年上)はあの場から去る時、背中を向けながら二本指で挨拶しつつ、そんな事を言っていた。


 「次の試合は当然勝つとして、その次にあなた達と戦うのが楽しみです」、とそう言っているのであり、エイルビオンが眼中に無いような言い方。


 エイルビオンパーティーは、クリスティアにとってもかなりの大敵な筈だ。


 あそこのパテメンもフランカと同じように、今の時代で貴族やってるような異常値ディーパーで固められている。

 更に、かつてエイルビオンの一部地域だったのが、独立して作られた国がクリスティアであり、つまり親と子の関係。

 ストーリー重視の魔法の世界では、そういう歴史的な関係性も効いて来る。


 例えばエイルビオンの由緒正しい家だったりすると、それだけでクリスティアの名家の起源みたいな顔が出来る。

 そこに伝わる物語から生まれた相手の魔法に対して、こっちが元ネタなんだから、それを内包しながらより上位の存在である、みたいな事が無理くりにだが言えてしまう。


 それぞれの能力と元となるストーリーが割れている、世界大会。

 相手がどのメンバーを選ぼうと、誰かしらに親父面を出来る6人を並べて、開始前から魔法の強さにおいて優劣を確定、といった状況設定だって作れる。


 相性で言えば、エイルビオンから見て最高


 という流れなのだがどっこい、実のところ必ずしもそう言えなかったりする。


 二者が直接ガチンコ対決した戦争は、歴史上たったの一回。

 主と従の関係性だった、独立戦争の時のみ。

 その勝敗については、「現代にクリスティアという国がある」という常識が、「核心に触れるネタバレ」案件だ。


 力関係での優劣は確かに出るが、そこに「逆襲」という物語を乗せられる。

 有利なんだけど、有利になり過ぎると逆転されやすくなるという、特殊な牽制札を常に握っているのだ。


 潜行者同士の戦闘時、出身国が双方の勢力で、それぞれ統一されてたりすると、時に魔法に追加の文脈が乗ったりする、魔学用語で「国家主義型外部的付加現象」。

 今回は特に、それが濃いめに発揮される対戦カード。



 上述の全てを纏めると、エイルビオンが微有利で、クリスティア側は普通に戦えば敗北。ただし「逆襲」が決まれば分からない、といった具合。



 勝ち目がない程じゃないけど、気を抜ける相手では断じてない。

 確実に勝ち上がれるなんて文言は、調子に乗り過ぎていると言われても仕方ない。


 だけど彼は言い切ったし、それは決して考え無しに見えなかった。

 それが態度だけの挑発なのか、勢い任せの口から出まかせなのか、それとも——


「奴に実際会って、どう思った?」


 同じ控室内で、少し前めの席からモニターを睨むニークト先輩。


「単なる口だけ営業マンか?巧みに威嚇を混ぜる獅子か?」

「……俺が思ったのは……普通に良い人っぽいかなあ、って………」

「何?」

「カミザー?あんなんで信用するん?」

「チョロー……」

「でもそこまで嘘っぽくは無かったし……」

「何だ。何があった」

「聞いてくれたまえ!実は日魅在君が——」




 あの時は、気付いたら動いていた。

 咄嗟の事に、固まるのでなく動けたのは、潜行者としての経験が、物を言ったんだと思う。

 ただちょっと考え無しだった。

 

 観客席から人が落ちて、俺はその下にすぐに入ったものの、普通に力足りずに大怪我をする所だった。

 それを助けてくれたのが、エドウィンさんだ。

 彼が強化された肉体で、俺を庇いつつ男の人をキャッチした。


 双方のパーティーメンバーが慌てて駆け寄ったんだけど、俺とエドウィンさんと落ちた人の3人をざっと確認して、適切な行動のお蔭で大きな被害者は出ずに済んだと見て取り、ホッと息を吐くに留まった。

 

 ただ、雰囲気は若干険悪になりはした。

 落ちた人に悪意があったわけではないんだけど、選手団のど真ん中に突っ込んで来たわけで、何か危害を加えに来た可能性もあると、警備の人達が殺気立ったのだ。

 

 ただ見るからに怯えてて、事務所とかに連れてかれるままにするのも忍びなく、本人に悪気があったわけでもない事故なんだし、なんとか軽い処置でお願い出来ないか頼んでみた。エドウィンさんの方も、「あまり悪辣な人間に見えない」と言って、ボディチェックで済ませるよう話をつけてくれた。


 その人は気の毒なくらいに怖がって混乱していて、極寒の中に立ってるみたいに顔を蒼くしていたかと思えば、身体検査が終わったと言われても暫くボーっとしていて、その後狐につままれたような顔をしながら外へと誘導されていた。


 特に危険物も持ってなかったみたいだし、うっかり足を滑らせて大事になっちゃった、災難な人ってだけだった。




「という、心温まる一幕があったのだ!」

「その前の会話とか含めて、俺は人間的な余裕とか優しさ、みたいなのを感じたんですけど……、ってか先輩ってインタビュー見てなかったんですか?」

「オレサマはあんなお粗末な人気取りに興味はなぁい!十人並みな返答を液晶越しに見ただけで意見を翻すなんて、十割方の愚民のなせる業だろ!」

「あー、そういう感じですね………」

 

 ニークト先輩の感覚から行くと、確かにテレビとかどうでもいいか。


「なんたってインタビューアーさんの話聞かなくても、ニークト先輩ならちゃんと分かってくれてますよね。俺達の強さと頑張り!」

「うるさいな!そういう話じゃない!最大の功労者たるオレサマが居ない烏合から、何を聞き出されても意味がないってだけだ!」

「ニークト様、何度かテレビ点けようか迷ってたッス!」

「八守!?」

「へぇ~~~~~~~?」

「違うぞ!暇だったからBGM代わりになる物があればと思ってだな!」

「スマホがあるのにねぃ~~~~~~?」

「ぐぅる……ッ!」

「素直じゃないわね。無駄に気疲れするわよ?」

「それアータの口が言えた話かしら?」

「す、ススム君!」


 ミヨちゃんの驚いたような声でモニターに目を戻すのと、


 試合終了のブザーが同時だった。


「ゑっ」


 クリスティアパーティーの勝利。

 脱落者は合計で2名。

 

「はやー……」

「一瞬だ……、ワガハイも彼奴きゃつらも一瞬目を離して、その隙に行かれおったわ…!」

 

 試合開始から5分。

 あまりにも呆気ない決着。

 有利不利とかが始まる前、それぞれが陣形を作ってさあこれからぶつかるぞと言うことろで、わざとペースを崩しながら先制。そのままゴールイン。

 

「さっきの話なんだが、」


 画面を注視しながら、シャン先生。

 

「あいつ、大衆とメディアの前でお前の強さを引き出し、好敵手に値する強者として演出しやがった」


 カミザススムが弱ければ、そのまま圧を掛けて潰す。

 逆にちゃんと強ければ、それを大々的に発信し、「ラスボス」としてしっかり描写して、漏魔症と戦うリスクを最大限踏み倒す。

 

 勝てば賞賛、負ければ慰労。

 損しか出ない理不尽なゲームを、普通の大勝負へと刷新。


 賭けの収支をより公正にする、その為に放送中を狙って、強引に割って入りに来たんだ。


「意識誘導、心理戦がお得意らしい。『優しい』どころか、とんでもない曲者だぜ」


 確かに凄い手腕だ。

 ウカウカとなんてしてられない。

 まんまと向こうが思った通り。


 だったら、俺からはお礼を言っとこう。


 それこそもう、相手を破滅させるかもとか、一つの憂いもなく、


 ノーブレーキで殴り合えるってわけだから。

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