405.さあて、どうやって勝とっかなー
「それにしても、凄い自信だったよな」
もう一つの準決勝戦を見ながら、俺は思い出す。
——アナタは、決勝の相手に相応しい
あのハンサムガイ(一歳年上)はあの場から去る時、背中を向けながら二本指で挨拶しつつ、そんな事を言っていた。
「次の試合は当然勝つとして、その次にあなた達と戦うのが楽しみです」、とそう言っているのであり、エイルビオンが眼中に無いような言い方。
エイルビオンパーティーは、クリスティアにとってもかなりの大敵な筈だ。
あそこのパテメンもフランカと同じように、今の時代で貴族やってるような異常値ディーパーで固められている。
更に、かつてエイルビオンの一部地域だったのが、独立して作られた国がクリスティアであり、つまり親と子の関係。
ストーリー重視の魔法の世界では、そういう歴史的な関係性も効いて来る。
例えばエイルビオンの由緒正しい家だったりすると、それだけでクリスティアの名家の起源みたいな顔が出来る。
そこに伝わる物語から生まれた相手の魔法に対して、こっちが元ネタなんだから、それを内包しながらより上位の存在である、みたいな事が無理くりにだが言えてしまう。
それぞれの能力と元となるストーリーが割れている、世界大会。
相手がどのメンバーを選ぼうと、誰かしらに親父面を出来る6人を並べて、開始前から魔法の強さにおいて優劣を確定、といった状況設定だって作れる。
相性で言えば、エイルビオンから見て最高
という流れなのだがどっこい、実のところ必ずしもそう言えなかったりする。
二者が直接ガチンコ対決した戦争は、歴史上たったの一回。
主と従の関係性だった、独立戦争の時のみ。
その勝敗については、「現代にクリスティアという国がある」という常識が、「核心に触れるネタバレ」案件だ。
力関係での優劣は確かに出るが、そこに「逆襲」という物語を乗せられる。
有利なんだけど、有利になり過ぎると逆転されやすくなるという、特殊な牽制札を常に握っているのだ。
潜行者同士の戦闘時、出身国が双方の勢力で、それぞれ統一されてたりすると、時に魔法に追加の文脈が乗ったりする、魔学用語で「国家主義型外部的付加現象」。
今回は特に、それが濃いめに発揮される対戦カード。
上述の全てを纏めると、エイルビオンが微有利で、クリスティア側は普通に戦えば敗北。ただし「逆襲」が決まれば分からない、といった具合。
勝ち目がない程じゃないけど、気を抜ける相手では断じてない。
確実に勝ち上がれるなんて文言は、調子に乗り過ぎていると言われても仕方ない。
だけど彼は言い切ったし、それは決して考え無しに見えなかった。
それが態度だけの挑発なのか、勢い任せの口から出まかせなのか、それとも——
「奴に実際会って、どう思った?」
同じ控室内で、少し前めの席からモニターを睨むニークト先輩。
「単なる口だけ営業マンか?巧みに威嚇を混ぜる獅子か?」
「……俺が思ったのは……普通に良い人っぽいかなあ、って………」
「何?」
「カミザー?あんなんで信用するん?」
「チョロー……」
「でもそこまで嘘っぽくは無かったし……」
「何だ。何があった」
「聞いてくれたまえ!実は日魅在君が——」
あの時は、気付いたら動いていた。
咄嗟の事に、固まるのでなく動けたのは、潜行者としての経験が、物を言ったんだと思う。
ただちょっと考え無しだった。
観客席から人が落ちて、俺はその下にすぐに入ったものの、普通に力足りずに大怪我をする所だった。
それを助けてくれたのが、エドウィンさんだ。
彼が強化された肉体で、俺を庇いつつ男の人をキャッチした。
双方のパーティーメンバーが慌てて駆け寄ったんだけど、俺とエドウィンさんと落ちた人の3人をざっと確認して、適切な行動のお蔭で大きな被害者は出ずに済んだと見て取り、ホッと息を吐くに留まった。
ただ、雰囲気は若干険悪になりはした。
落ちた人に悪意があったわけではないんだけど、選手団のど真ん中に突っ込んで来たわけで、何か危害を加えに来た可能性もあると、警備の人達が殺気立ったのだ。
ただ見るからに怯えてて、事務所とかに連れてかれるままにするのも忍びなく、本人に悪気があったわけでもない事故なんだし、なんとか軽い処置でお願い出来ないか頼んでみた。エドウィンさんの方も、「あまり悪辣な人間に見えない」と言って、ボディチェックで済ませるよう話をつけてくれた。
その人は気の毒なくらいに怖がって混乱していて、極寒の中に立ってるみたいに顔を蒼くしていたかと思えば、身体検査が終わったと言われても暫くボーっとしていて、その後狐につままれたような顔をしながら外へと誘導されていた。
特に危険物も持ってなかったみたいだし、うっかり足を滑らせて大事になっちゃった、災難な人ってだけだった。
「という、心温まる一幕があったのだ!」
「その前の会話とか含めて、俺は人間的な余裕とか優しさ、みたいなのを感じたんですけど……、ってか先輩ってインタビュー見てなかったんですか?」
「オレサマはあんなお粗末な人気取りに興味はなぁい!十人並みな返答を液晶越しに見ただけで意見を翻すなんて、十割方の愚民のなせる業だろ!」
「あー、そういう感じですね………」
ニークト先輩の感覚から行くと、確かにテレビとかどうでもいいか。
「なんたってインタビューアーさんの話聞かなくても、ニークト先輩ならちゃんと分かってくれてますよね。俺達の強さと頑張り!」
「うるさいな!そういう話じゃない!最大の功労者たるオレサマが居ない烏合から、何を聞き出されても意味がないってだけだ!」
「ニークト様、何度かテレビ点けようか迷ってたッス!」
「八守!?」
「へぇ~~~~~~~?」
「違うぞ!暇だったからBGM代わりになる物があればと思ってだな!」
「スマホがあるのにねぃ~~~~~~?」
「ぐぅる……ッ!」
「素直じゃないわね。無駄に気疲れするわよ?」
「それアータの口が言えた話かしら?」
「す、ススム君!」
ミヨちゃんの驚いたような声でモニターに目を戻すのと、
試合終了のブザーが同時だった。
「ゑっ」
クリスティアパーティーの勝利。
脱落者は合計で2名。
「はやー……」
「一瞬だ……、ワガハイも彼奴らも一瞬目を離して、その隙に行かれおったわ…!」
試合開始から5分。
あまりにも呆気ない決着。
有利不利とかが始まる前、それぞれが陣形を作ってさあこれからぶつかるぞと言うことろで、わざとペースを崩しながら先制。そのままゴールイン。
「さっきの話なんだが、」
画面を注視しながら、シャン先生。
「あいつ、大衆とメディアの前でお前の強さを引き出し、好敵手に値する強者として演出しやがった」
カミザススムが弱ければ、そのまま圧を掛けて潰す。
逆にちゃんと強ければ、それを大々的に発信し、「ラスボス」としてしっかり描写して、漏魔症と戦うリスクを最大限踏み倒す。
勝てば賞賛、負ければ慰労。
損しか出ない理不尽なゲームを、普通の大勝負へと刷新。
賭けの収支をより公正にする、その為に放送中を狙って、強引に割って入りに来たんだ。
「意識誘導、心理戦がお得意らしい。『優しい』どころか、とんでもない曲者だぜ」
確かに凄い手腕だ。
ウカウカとなんてしてられない。
まんまと向こうが思った通り。
だったら、俺からはお礼を言っとこう。
それこそもう、相手を破滅させるかもとか、一つの憂いもなく、
ノーブレーキで殴り合えるってわけだから。




