400.もはやこれまで part2
「意思決定に引っ掛かった、“優雅”というブレーキ。それが外せなかったから、あなた達は負けるの」
まさしく強者揃い。
貴族の矜持に相応しい、最高級のパーティーだった。
6対6の力押し勝負になっていたら、勝てていなかった可能性が高いだろう。
特にブリュネルが彼らと共に戦っていれば、戦場のほとんどを敵の魔法攻撃で埋められるという、阿鼻叫喚の地獄絵図だった。
が、最初にQとKという主要二つが隔離され、そして閉じ込められた本人達が、相手を過小評価した。
魔力切れスレスレを攻めながら、壁に穴を開けるか訅和を気絶させるか、その勝負はもっと早くに行われるべきだった。
だが初め、彼らは余裕綽々を崩さなかった。
胸を貸すかのような態度で、敵のやり方に付き合ってしまった。
何故なら、そうしなければならなかったから。
彼ら貴族は、優雅に、鷹揚に、相手を見下す。
彼らの許には絶対がある。
せこせこと焦ったりせず、その余裕で格の差を知らしめなければならない。
でないと、人はすぐに畏敬を、畏怖を忘れるから。
彼らは貴族であるが故に、丹本パーティーを超える強さを持っていた。
そしてこれから、貴族であるが故に、負けるのだ。
〈このペテンを解けええええええ!インチキだ!勝ったのは私達だあああああああ!!〉
バヤルドゥーがトロワを背後から攻撃しようとして、見えぬ魔力の爆発で膝を折られ、狼と水を得たシャチが2体でその前に飛び出し、押し返していく。
〈どけええええ!このっ!ブルーノさま!まだ負けておりません!我々はまだっ!ブルーノさまあああああ!!〉
「………このような、戦術とも呼べん、奇を衒っただけの……」
ブルーノ・ル・ブリュネルは、忌々しげに眉根を寄せるも、やがて言葉も無くなったとでも言うように、盾と剣を攻撃態で構える。
トロワは螺旋状の剣を、アーマーの左袖に擦りつけ、汚れを削り落としてから、涼しい顔で腰を落とす。
味方を頼るようになって、彼女は丸く、弱くなったのだろうか?
いや違う、彼女はそうは思わない。
手段を選ばなくなったのだ。
言い訳を差し挟まず、全力で信念を貫くようになったのだ。
「彼の国では、これが、こんな下品な、美しくないやり方をする連中が、普通なのか?」
「馬鹿ね。『普通』じゃないから、並より遥かに良いから、ここまで登って来てるのよ」
普通なんて言えないくらい優れているから、
好ましいから、
だから彼女は、彼らと歩調を合わせる事を選んだ。
彼らとなら、負けてもいいかと思った。
そこまで思えたからこそ、過去一番、
勝ちたいと欲していた。
互いに目の前の敵に集中しており、馬、狼、シャチの動物大乱闘すら聞こえていない。
ここで後ろから撃てば、ほぼ確実にブリュネルを倒せる。
それが分かっていても、進はそうしなかった。
必要が無く、何より無粋だからだ。
麗人の口笛が混じったような、か細い風が二人の間で哭いて、
全く同期するように同じ刹那で踏み込む!
ブロードソードを振り下ろしながら 剣が展開し布丈になって
バックラーで相手の突きを外に払う! 鋭い突きを放つ!
間合いを伸ばした斬り下ろしは 確かに彼女の肩口から心臓までを通過する!
竜胆色の剣が盾に張り付くように逸れつつ 中ほどから別れ
その先端が分離、
ブリュネルの左胸目掛けて
突き刺さる!
「ぐぶっ!」
それで体が後方に押され、剣筋が狂い、トロワの骨の半ばで青紫が止まる。
互いに硬直は一拍もしないうちに済ませ、
「うおおおおおおおおおおッッッ!!」
「はああああああああああっっっ!!」
ブリュネルは再度重心を前に移して剣を押し込みつつ先端を爆破。
トロワは刃の根本側を盾に絡ませ剣先を相手の懐に入れ、竜胆色の傷口に重ね突。
またもシンクロするように後方へ吹っ飛び、二人ともが次の一撃を続けようと相手へ歩を進め、そのまま前のめりに倒れた。
試合終了のブザー。
「お、おのれえ……!」
この同時脱落によって、フランカパーティーは全滅。
「当方が、土を舐める、などぉ…!」
勝者、丹本パーティー。
「訂正するわ、大人しく」
トロワは草と土で出来た柔らかなベッドの上で、風を頬に感じながら目を瞑る。
「剣は、あなたが上。認めるわ、私の負け」
——けれども、
「私達の勝ちね」
「この屈辱…!必ずや…!」
「あらそう?じゃあ、教えておくけれど」
能力がどうこうではなく、
心機一転、気持ちの問題として、
彼女は魔法の呼び名を変えた。
「“強き牙を放つ匕首”、覚えておきなさい。それじゃあまた来年ね?『よく吠える挑戦者』さん」




