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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十五章:見てよこの層の厚さ!アツアツだぞ!

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400.もはやこれまで part1

「あなたの勝ちよ」


 トロワは、どこかスッキリとした顔で、そう言い渡した。


「きっと剣は、あなたの方を好んだのでしょうね」


 彼女を挟むようにして、騎士と愛馬が構える。


 それを前に、彼女は空を見ていた。

 晴れ渡った紺碧こんぺき、とは行かず、どうにも不純物の多い色。

 丁度良いと、そう思った。

 負けるには、良い日だ。


 そこに立ち込める静けさは、外の戦闘の決着も、ほとんどついた事を意味する。

 それを認め、彼女は嘆息した。


「世話の焼ける子達……」

「さらばだ、ジュリー・ド・トロワ」

「ええ、さようなら。来年は——」


——勝てると良いわね?

 

 彼らの周囲に小高く積み上がった、兵の抜け殻。

 その頂点に一人ずつ、3人のディーパーが降り立った。


「………」

「ふひぃー…!ギリセーフ!」

〈なんならバッチリなタイミングじゃないノ。計ったみたい〉

「ご苦労!良い働きだったぞ脳筋!」

「………?」


 ブリュネルはそれらが誰であるかをぐるりと見て、トロワを見て、また見上げ、ヘッドセットの無線通信機能に接続。


「………」


 応答、なし。

 誰からも何も返って来ない。


「………な」


 なんだ、これは?

 ブリュネルは、まず幻覚能力を疑った。

 が、深化がどうこうでは説明できない程に、事前に調べた彼らの能力と乖離している。

 それは、ほぼ考えられない。

 これは、現実なのか?

 端末を見る。

 訅和の能力で止められていた通信が、

 脱落通知が——

 

 彼は何らかの能力の変化を発見しようと、視線を再度一周させ、


 竜胆色が、

 カミザススムのナイフに、

 ニークト=悟迅・ルカイオスのシミターに、

 辺泥・リム・旭の掌や牙に、

 

 それぞれの刃物が竜胆色に…!


「教えた筈よ?」


 彼の目は弾かれるようにしてトロワに戻された。


「『フェアに』、『2対2』、『全員完全詠唱』」


 彼女が剣を振るい、そこに竜胆色の刃先が集い、


「ま、まさか…!」


 それは蛇腹の如く並んで、繋げられ一本の螺旋の剣身となった。


「まさか、きこ、貴様ァ…!」


 「全員完全詠唱」、

 それが意味する所は、魔法無制限ではなく、


「スデに……ッ!!?」

「そう、そういうこと。その『まさか』、その『スデに』」


 彼女はずっと、完全詠唱をしていたのだ。

 訅和交里の壁は、何を通して何を止めるか、あるレベルまではコントロールできる。でないと、酸素や魔力が切れる以外の結末が無い、強制全滅装置になってしまうからだ。

 この試合での設定では、電波通信等を断ちながら、特定の魔法の制御は遮らない。

 

 ジュリー・ド・トロワの能力、そこへの魔力供給を、途切れさせない。


「他の人が使う斬撃や刺突、そこに私の魔法効果を乗せる。パーティー全体への攻撃力強化ね」

〈深化、していたのか…!?だからここまで出場せず、能力を隠そうと…!〉

「いいえ。それは違うわ。感覚で分かる。この魔法はきっと、最初からこういう形だった」


 彼女が、目を背けていただけだ。

 「剣」という形態に縛られ、自分の物語を誤認して、無理に押し込めて《《使わなかった》》。


 彼女はここで、やっと、自分が成りたいと思っている物が分かって、だから本来の形状に解放された。


 見つかったのではなく、思い出したのだ。

 自分の理想、その中心が何処なのかを。


「私、剣が好き。これからも磨き続けるわ。けれど、それを失っても、私の一番の夢は、生き続ける」

 

 だから、


「あなたには、ありがとうと、言っておこうかしら」

「な、んだと……!?」


 今や彼女は、彼に感謝までしている。

 先程の問答で、目指すべき人物像の解像度が上がった。

 無料で進路相談に乗ってくれたのだから、都合の良い男である。


「馬鹿な…!嘘を吐いている…!」

〈有り得ない!例え、例えそいつの魔法能力があったとしても、有利は…!負け筋はどこにも…!〉


 バヤルドゥーは狼狽えながら、反証を必死に搔き集めようとする。


〈あ、アランは…!アランはどうした…!〉


 P(ポーン)、アラン・ドラクロワ。


 救世教徒であり、治療役。

 浄化の炎を纏った十字型のオブジェクトを曲射し、敵を貫き味方を癒し戦場を区切る人間迫撃砲。


 試合開始直後から、常に戦場に敵だけに得となる効果をばら撒き続けており、更に近付こうとしても自らの足下から同様の魔法生成物を生やす事で引き籠る。

 彼と他のメンバーの合流が間に合っていたらと考えると、丹本パーティーのメンバー達は戦慄を禁じ得ない。


 流石はフランカ代表団且つ救世教の秘蔵っ子の一人。単独で砦の役割を果たせる前線の要であり、紛う事なき強敵だった。


 だが敗れた。


 トロワの魔法能力を手に、進とニークトという索敵特化の二人が、集合もそこそこに猛攻撃を開始。十字オブジェは竜胆色によって用を為さず、本人は細切れ判定の後に脱落となった。


〈た、タルヤプリマ様は…!〉

 

 N(ナイト)、タルヤプリマ・ド・オリヴィエール。


 ブリュネルに次ぐNo2にして、冷静冷徹な参謀役。

 翡翠に透き通り刃渡りが曖昧な剣の使い手。


 伸縮自在、脅威のナノメートルクラスの薄さを持つそれは、単分子カッターと呼ばれている刃物の一つ。それでいて魔法生成物なので、弱点である脆さすら補っている。

 後方で指示を出しながら、剣を伸ばして突くスナイパー運用や、羽のように軽いそれを縦横に薙ぐ制圧兵器としての顔など、多彩な活躍で戦場を翻弄した。

 進ほどではないにしろ、視認しづらい魔法。それで地面や構造物がスパスパ切れていくのを見るのは、恐怖以外の何物でもなかった。

 

 流石はフランカ貴族の中でも上位、現役グランドマスターが複数属する家の出と言え、パーティーを纏める中心人物として、紛う事なき強敵だった。


 だが敗れた。

 

 辺泥が発射する、雲日根配合超音波水流メスは、1秒間に10万回超の斬撃が同じ場所に繰り出される。

 そこにトロワの魔法能力が加わる事で、対象への破壊力は指数関数的に跳ね上がる。


 この攻撃が翡翠剣と正面衝突し、振動は魔法を破壊するだけでは消えずに使用者の腕を破壊。

 更に剣を伝う液体状の雲日根が、斬撃エネルギーを当人の胴体まで送り届け、しっかり止めを刺した。


〈び、ヴィヴィは…!?〉


 B(ビショップ)、ヴィヴィアン・ド・モーグリシス。


 フランカパーティーの通信塔兼ミサイル基地。

 魔法の騎馬兵を生成し、遠隔操作で起爆する事も出来る能力。


 まず騎馬兵そのものが精強。更により強いエネルギーを籠める事で、より大きい、または速い眷属を作る事も可能。

 彼らはくうを走れるので、小さな騎馬兵をそれぞれのメンバーの耳元に付かせ、通信機として使うという活用も見せた。

 本人自体も魔法の剣と馬を装備して戦う事が出来るので、猛攻を潜って本体まで着いた所で苦戦は継続してしまう。


 流石はかつて王宮の管理と警護の総括を担っていた家系。何処までも追い回す眷属達によって潜伏が一切通用せず、他の遠距離攻撃と組んだ集中取り囲み砲火は一斉脱落を覚悟させたのだから、紛う事なき強敵だった。


 だが敗れた。


 トロワの能力を借りたニークト、辺泥、進の3人で、一体一体を地道に徹底して掃除し続け、ガス欠を起こし兵の供給が途切れた隙に接近。最後は辺泥に飛ばされた雲日根によって溺水し、意識を喪失する事となった。


〈ルッジ、ルッジが居たのだから…!〉


 R(ルーク)、ルッゼロー・ディディール・ヘクトー。


 フランカが誇る飛行戦車、或いは高速ガンシップ

 鷲の頭と羽、獅子の胴を持つ飛行生物を使役し、四角い盾とそこから生える馬上槍を生成、使用する。


 盾は正面からの力の作用をゼロ、反作用を200%に、つまり完全に跳ね返す。

 槍は中心軸を空間に固定しながら尖った部位を回転させるドリル仕様、に加えて深く刺さり込んだら爆発するようになっている。更に飛行生物の加速に乗せて投げる事で、100mmの榴弾砲と同等の破壊力を遠隔から叩き込める。


 流石は竜騎兵を次々と薙ぎ倒した伝説を持つ一族。(ナイト)(ビショップ)を自分の後ろに乗せながら、上から即死級魔法の雨を降らせるその様は、紛う事なき強敵だった。


 だが敗れた。


 遮蔽が少ない事はフランカに優位を運んだが、同時に高い構造物の無い地形となってしまい、比較的低空飛行にならざるを得なくなった。それは丹本パーティーに攻撃を届かせる余地を残し、上述の経緯で自分以外が全て脱落。最後は3人から囲まれ叩かれ続ける形となり、盾一つでは持ち堪えきれずに墜落した。


「あなた達、アクシデントには弱いのね?経験、足りてないんじゃあなくて?」

〈ど、どうやって、どうして…!〉

「仮に此度は勝てたとして、しかしそのはかりごとでは『常勝』などと口が裂けても宣えぬ…!綱渡りとは疑念が伴う物…!如何にして、あれほどの勝利の確信を以て、当方の前に立ったのか…!?」

「別に?なんて事ないわよ。何故って、」


 彼女は自分のパーティーメンバーを見回して、


「この子達に、私の助力が付くのよ?鬼に金棒、おまけにバズーカ砲。万に一つも、負けは無かったわよ」


 そうやって、この作戦の最も重要なピースを埋めた。

 仲間への全幅の信頼が無ければ、彼女はそこに、そんな風に立っていられなかった。

 それだけの、酷く素朴な形をしたピースを。

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