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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十五章:見てよこの層の厚さ!アツアツだぞ!

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395.「大人になる」ってこと

 それが何であっても、妥協と修正というものが必要な時もある。


 理想が高い時こそ、一歩一歩地に足を着けてやって行くのが良いだろう。


 がけ崩れに直面したら、スピードを上げて下を潜るより、焦らず落ち着いて回り道、それが大人だ。


 そうだ、彼は大人だ。

 一人で考えられる。

 一人で決められる。

 一人で命も奪える。

 思考を奪われていない、自立した人間だ。


 何も分からず、何も知らず、ただ漫然と今を過ごし、その全てが当たり前にあるものだと思っている、そんな“一般市民”共と違って、彼は何もかも分かっている。


 鉛玉を呑んだ“商売道具”に、「違う所あるか?」と上着の外から問えば、「その通り」と重みで頷いてくれる。


 やっぱりだ。彼は間違っていない。

 妥協が出来たから、あの警官と協力できたのだ。


 呪わしき白肌の一人だが、国の“教育”の反動で馬鹿になってしまった男。

 平等を求め、それが可能だと本心から信じている、純粋培養、純然たる狂人。

 

 ああいうのは、どこにでも居る。

 文化や関係性を考慮に入れず、この地球の全ての人間が仲良しこよし、坩堝のようにドロドロ溶け合って、同じになって平和に暮らす。

 「あなたと私は違う」、それが戦争を生むと言うなら、「あなたも私も同じ」、みんなでそう言えばいいじゃないか、と。

 それを夢見て、食い違う現実に会って、そこで収まりきらず、情熱が攻撃性に転化する。


 例えば嫌い合って、距離を取り合っている二者を無理矢理触れ合わせ、関係を拗れさせる。

 例えばどこかのモニターやスクリーンで、求められないが故にあまり映らない人種を探し出し、画角に無理に捩じ込んで、無関心を悪印象に変える。


 「この人は皆と同じですよ」、そう叫ぶ度に、当事者の間では悪感情が強くなる。


 真正の馬鹿だ。

 人間が、皆同じなどになれるものか。

 人間の本幹ほんかんは、「俺は他の誰とも違う」、でしかない。

 

 それが無いと人は、どこかで欠片でも残るよう祈りながら、遺伝子を撒き散らす機械になってしまう。種を撒くスプリンクラーみたいな、間抜けなマシン。



 彼は少なくとも、そんなのは嫌だった。

 彼は、他の誰とも違う人間で居たかった。


 

 ともかく理想論者達は、想像力が足りないが故に、それが人類共通の悲願だと頭から決めている。


 全ての人間が、他と同じになるという願望に、それぞれおのずから辿り着く。

 まだそうなっていないのは、考えが足りなかったり、欲に目が眩んで見えていないだけ。

 遠回りしてもゴールは同じ。

 彼らはそう思っている。


 そして目醒めさせ、気付かせてやろうとするのだ。

 正義感と親切心から、この世を平らに均そうとする。

 その道具として、まず他から邪険にされている「使える」“しゅ”を、探し出そうとする。


 貶められているから優遇されるべき者達と、恵まれているから冷遇されるべき者達。

 その二つに区分し、前者に後者を攻撃させる。

 「これだけ違うように見えても、違ってなんていないんだぞ」、そう言ってやりたいから。


 それを見ていると、彼らが一番、人を選り分け、凹凸を強調する意識が強いと、そう見えてしまうけれど。

 

 そのせいなのかどうなのか、ああいう事を臆面も無く言い切る人間に限って、「個人主義」を神聖視する奴が多いのだ。

 人間を一つの基準で統一してしまう、「個」とは正反対の同調圧力の持ち主でありながら、「自己責任」だとか「人それぞれ」だとか、そういうのが大好きなのだ。


 一つの頭の中で完結した、狭い狭い理想世界を押し付け、全員がそれに倣うよう求めながら、同じ口で「あなたはあなたで良い」だとか、「私は私らしくありたい」だとか謳う。


 「あなたと違うこの人を許せ」、「何故ならこの人とあなたは同じだから」、ぐるぐると同じ場所を回る論理は、そのうちにバターにでもなってくれるのだろうか?


 誰にでも自由になる権利があると教え、けれど自分の思う通りにしなければなじって直させようとし、嫌がる者にも行動を強制する、無法の理の使い手。


 同じだと言う為に、違いを見せる。

 違いを認めろと言いつつ、同じにしようとする。


 何故そんな、甘党を辛味漬けにするような、嫌がらせみたいなことを、善意でやれるのか?

 頭が悪いからだ。

 「平等」を是とする事に特化した、脳をしぼませる統制が、自己矛盾にすら気付かない、生ける屍を量産したからだ。


 あの男は、その矛盾に折り合いがつけられなかった、妥協が出来なかった、“ガキ”である。


 納得いかない、そうならないのはおかしいと、空ばかり見て歯をきしり、運良く躓かなかったせいで、変われなかった幼児である。

 正義が必ず為される、全力で上手くやれば時間さえ要らない、そんな短絡的結論を信じている。


 必要なのは、きっかけ。

 少しだけ強過ぎるくらいの、社会的ショック。


 眠れる者共を起こす時、頬を叩いたり肩を揺さぶったり、外から力を加えるのと同じ。

 ちょっとばかし過激な事でも、それが人類正義に必要なのだ。




 例えば、

 白い肌の警官が、誰かの肌が黒かった事を理由に、引き金を引いたなら、


 みんな、気付くだろうか?


 この世界が悲惨で、今すぐ変えなくてはいけない事を。

 



 警官を含めたSNS上の“同志”達を、そのアイディアへ誘導したのが、彼だった。

 そういう馬鹿が最も嫌いだったが、それを堪え、励まし煽て、協力者として利用して繋がった。

 いずれ必要になる時があるだろう、そう見込んで、妥協した。


 そいつを使って彼がやろうとしているプランは、もっと刺激が強く、シンプルだ。

 彼が思い出させるのは、「ディーパーは普通の人間と違う」、「より優れた人類なのだ」、それだけだ。

 そこに矛盾は無い。


 人はそれぞれ違うだろうが、ディーパーに勝てる人間などいない。

 銃を持てば殺せる?ならばディーパーも銃を持つだけだ。

 警察も軍もほとんどがディーパーなのは、殺し合いで誰も勝てないからだ。

 

 殺し合いが強いとは、この世で最も偉いという事だ。

 皆が懺悔し、ひれ伏し、足下に縋りつく。そうならない奴が居ても良い。ただぶち殺してやるだけだから。


 「死人に口なし」。

 どれだけ正しい事を言える奴でも、殺されたらそれを言葉に出来ない。

 最も重要なのは、殺されない事だ。

 それに必要なのは、ディーパーだ。


 それが普通だ。

 それが正しいのだ。


 残念ながら、居眠りの頭を何度も蹴りつけられる、それくらいの衝撃と恐怖が無いと、人はそれを思い出せない。


 白肌への不信、警察の不審、それでは足りない。

 完膚なきまでにディーパーを恐れる、そんな空気が必要だ。最低でも、街一つを灰にするような恐慌が。


 ただ殺させるのでは駄目だ。

 戦争を、大崩乱を起こさなくてはならない。

 その為に、除かなくてはいけないのはなんだ?


「………」


 こいつだ。

 移動中の車内、彼の横の座席で震えている、この青年。

 こいつは一人で一組織を終わらせられる。少なくとも、周囲はそう思っている。

 それが嘘か真か、そんな事はどっちでも良い。

 「そう思われている」のが、問題なのだ。

 今最も無用の長物であるものが、抑止力だ。


 平和のばり、ピン留めとなる武力。

 こいつが、いらない。


 外套の内側、殺す為に生まれた兄弟を、ひんやりと指先で感じながら、彼は思案を重ねる。


 どう取り除く?

 ただ殺すだけなら、今すぐできる。

 こちらを信頼しきっているそいつの後ろから、頭に穴をもう一つ開通して終わり。


 が、傍から見て意味不明なのはよろしくない。

 他組織は警戒を続け、手を出して来ないかもしれない。


 それならもう一つ、もっと良い使い方をする。

 こいつにも殺させて、白昼堂々死なせる。

 



 レイクサイドの不可解な壊滅が効いたか、幸いにも大会の警備強化という決断は下され、ネズミ警官が会場に出入りできるようにはなっていた。


 その手でこいつを内に招き入れ、まず何人か非ディーパーの頭をトばす。

 それを合図に警官が次々と黒肌を撃つ。

 「前々から黒肌が気に入らなかった」、「目の前で彼らの凶行を目撃し、とうとう嫌悪と怒りを爆発させる」、そういう筋書きだ。


 警備は分厚い。実行犯二人は確実に死ぬ。

 だから誰も答えをくれず、好き勝手な疑心暗鬼が雑多に溢れ出す。

 警官の友人達が起こす手筈になっている抗議デモも、その一つだ。

 

 二人のディーパーの暴走、内一人は守る側であった筈の警官。

 ディーパーが言う事を聞き、法の番人が保つ事で持っていた平和、そのたがが外される。

 階級闘争も民族間抗争も起こる。

 暴力の傘の下に隠れ、安心を得る社会の再来。


 そう、シナリオが最初の計画まで戻って来た。


 幾つかの「妥協と修正」の末、当初の予定と同じ結果を起こせる。

 

 そう、戻っている。

 

 彼は妥協出来ている。


 彼は現実が見えている。

 

 そうだ。彼は戻せているのだ。


 計算外があって当然。それでも軌道を戻せたのだ。


 だが警官一人だけの力で、観客席までこいつを通せるのか?

 こいつが言った通りの事をやってくれるのか?

 先にただならぬ雰囲気を察知され、被害ゼロで取り押させられたら?

 そうやって何も成功してない状態で、他組織が連帯して報復しに来たら?

 成功したとして、他組織がそれで本当に立ち上がってくれるのか?

 暴動や戦乱がちゃんと始まってくれる保証は?

 白肌達がポカをやらかしてマッチポンプだと露見したら?

 全てが上手くいった後の世で、彼は生き残れるのか?


 彼は、「妥協」する。

 それについて、今は考えない。


 もとより賭けなのだ。

 そうでもしないと、何もせず死ぬだけなのだ。

 失敗の可能性は、どこにでもある。

 やらないという選択肢は、ここに無い。

 

 そう、妥協だ。


 これは彼が大人だから、妥協しているだけなのだ。


 間違いは無く、可能性の話だけだ。


「カエル……、お前は——」


——裏切らない


 裏切らないのだ。


 こいつがやるのだ。


 コートの裏から飛び出る隙を、腹を鳴らして待つ相棒も、同じ事を言っている。


 どんな化け物も撃てば死ぬ。


 どんな国でも殺して壊せる。


 後は弾を、どこに何発ぶち込むか。

 

 それさえ分かっているのなら、巨大な怪物をそうしたように、彼は仕組みを討伐出来る。


 これで、良い。


 これを、使え。


 世界を変えろ。


 俺を、放て。


 銃は、権利なんだ。


 弾圧する側を倒せる、自由が装填された武器。


 気に入らない事を変える、選ばれぬ者達の裁量なんだ。


 お前の賭けには、勝てる目があるのだ。


 だから俺を、

 

 俺で、

 

 撃て。

 殺せ。

 撃ち殺せ。


 懐に棲む奴が、そう言っている。

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