392.怖いか?これがトロワ先輩だ、震えろ
「訅和とか言う小娘は」
準決勝開始2時間前。
それぞれの選手団が、顧問や不参加メンバーといった関係者と顔を合わせる事が出来るロビー。
今回の編成の最終確認や、先生やトロワファンクラブ後輩ズ等による応援、などなど諸々気合の入れ直しをやっていた所に、彼は来た。
フランカ代表の一人、お口ワルワル通訳イケメン君である。
「私がどうかしましたかねぃ」
「念を押しておこうと思いまして。当たり前の話ですが、お国柄なのかマナーには疎いようでしたから」
訅和さんは、今日はムッとするような様子もなく、余裕綽々で彼の前に立って腕を組み見上げる。
「ビビってるんですかねぃ~?言いたい事があるなら、前置き無しにどうぞ~?」
「あれだけ大口を叩いたのだから、逃げないで下さいね?当然、参加するのでしょう?」
「えぃ~?相手パーティーに、参加メンバーの談合のお願いですか~?マナーがどうとか言ってますけど~?そちらこそプライドとか無いんですか~?お貴族様々~?」
イケメン君は、形の良い眉を片側だけピクリと震わせる。
「やはり、礼儀がなっていませんね。私達が“貴族”である。そこに重責と特権が発生する。その意味を、私達の役回りを、まるで分かっていない。この分では、教育の質も推して知るべし、でしょうか?あなた達、時代遅れの負け組だけにしか通じない言語で書かれた、三文小説を読ませる授業時間を削って、フランカ語や上流でのマナーを躾けるべきでは?」
「“特別”とか“貴族”とかって偉ぶってるクセに、行動も口も軽いんじゃあ、ありませんかねぃ~?どっちのフォークから取るか、とかより先に、アンガーマネジメント学ぶ事をオススメしますねぃ~」
「まあ、その物知らずも許しましょう。よく吠える挑戦者に現実を教えて差し上げるのも、我々貴族の役目の内と言えます」
そこまで言って満足したのか億劫になったのか、鼻で笑って毛先を指で弄りつつ去ろうとするも、
「ちょっとあなた?」
トロワ先輩に横から呼び止められる。
「なんでしょうか?元貴族家出身の無名世間知らず娘さん?」
「あなた、コンタクトレンズとか使ってる?」
「………?」
これにはイケメン君だけでなく、その場の全員が「何言ってるんだろう……?」って困り顔。
「私は、裸眼ですが……?」
「あらそう?てっきり傷でも入ってるものかと。念の為、後で眼球を洗っておきなさい?ゴミが入ってる可能性が高いわよ?」
「あの、何が仰りたいのでしょうか?」
「あなたの目が曇ってるって言ってるのよ」
急にストレートパンチが来て、またしても彼の眉根の距離が微減する。
「ここにきて、謂れのない侮辱ですか?」
「謂れならあるわよ。どうしてそんな、何の変哲もない子に夢中になっているわけ?このパーティーを取り沙汰するなら、まず最初に注目すべき大人物が居るでしょう?」
「はあ、あ……?」
「そう、私よ!」
「はあ……はあ……?」
おっとイケメン君、トロワ先輩節は初めてか?
それは対策が足りてないんじゃないかな?
(((どうしてそこで、あなたが得意気になれるんですか?)))
「まあ!今更遅いけれど!もう何を聞かれても、何も答えてあげないわ!まず真っ先に私の所に来れば、考えてあげなくもなかったと言うのに!」
「順番がどうあれ敵に情報を売ろうとするな脳筋!」
「っつーかパイセンが出んの確ってる流れになんじゃん。バチクソ迷惑」
「暴露系ー……?」
「そちらのお仲間が、何か仰ってますが?」
「私に声が集まるのなんて、いつもの事ね!」
「「「「「キャー!トロワセンパーイ!!」」」」」
「この人は大丈夫なんですか?」
「私に聞かれてもねぃ」
フハハ!
こっちにはニークト先輩とトロワ先輩という、顔デカ二枚看板が居るのだ!ナメて貰っちゃあ困る!
「今オレサマに流れ弾が行かなかったかジェットチビィ!」
「俺は何も知りません」
トロワ先輩はビシっと人差し指を向けて、
「あのブリュネルとかいう恥知らずに伝えなさい!政治闘争が得意な家みたいだけれど、剣なら私の方が強い!そう——」
——絶対に!
「そうだそうだー!」
「トロワせんぱいに酔い痴れろー!」
「見てろよ!びっくりするからな!」
「あ、まずい、先輩が素敵過ぎて眩暈が…!」
「かっとばせー!」
「こっちの先輩すんごいんだからねぃ!」
「ススム君とこもりちゃんが自然に混ざってる……」
「「はっ!?いつの間に…!?」」
「こっちが聞きたいのだけれど?」
トロワ先輩の注意がこっちに移った隙に、付き合ってられないとばかりにイケメン君は去ってしまった。
挨拶も無しなんて、とか言いたい所だが、こっちのコントに付き合わせた自覚もあるので、ビミョーに責められない所はある。
「じゃ、みんな!気分が高まってる所だし、折角だからアレ、今やっちゃおっか!」
「アレ…?ああ、“アレ”ネ……」
「うん!勢いは大事だ!」
「イェア…!付き合おうじゃネーカ」
「別に試合開始直前で良いだろうに……。まあいい。やるならとっととやれ」
というわけで、登録メンバー12人の右手を重ね、
「それじゃあ皆さんご唱和ください!」
ミヨちゃんが号令を掛ける。
「“特別獅子奮迅クラス”!略して“トクシ”!ふぁいとー!」
「「「「「「「「「「「オー!」」」」」」」」」」」
「オー……!」
「………」
「……辺泥ちゃぁん?」
「ワッツハプン、コマンダ?」
「いえ……前から思ってたんだけど、この掛け声、なんと言うか……」
「言うな辺泥。オレサマもお前と同じ気持ちだが、形が精神の体裁を整える事もある」
「ええ、そうね………」
先輩方ー?
俺にもミヨちゃんにもがっつり聞こえてますよー?




