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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十四章:じ、上等だ!纏めてかかってこいや!

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374.“ジャック・イン・ザ・ボックス”って英語知ってる?

「伏せろ!!」


 誰かの声で、全員が耐衝撃態勢を取った。

 巨大な質量が落下した事による地震じぶるい。

 中身を外に出したいとでも言うように、体を上下に激しく揺すられる。

 

「こちらオペレーター・トゥ!今の倒壊で脱落者が出た、行動不能になったパーティーは報告して下さい!」


 オペレーターパーティーは被害状況の把握に努めようとした。

 敵から思わぬ反撃を受けた事で、陣形や包囲網、安全な殲滅作戦が瓦解。だからこそ、すぐに次なる最善を導き出さなければならないと、そう急いだ。


 が、より実戦に慣れた高ランクディーパーなら、それを「悠長」と評するだろう。

 背後から殴られた時、何よりも真っ先に、自分のどこの骨に罅が入って、どの器官に異常が発生しているのか、それを分析するようなものだ。


 知っておいた方が良いのは、その通り。

 情報が無いより、あった方が良い。


 が、最初にする事は、そうではない。



 まず振り返って、相手をしっかり見て、次なる一撃に備えるべく構える事だ。



「下だ!」


 オペレーターパーティーの一人が護衛パーティーである第三隊の報告を受け、床の一部を破壊し下の階を覗き込む。


 そこには白い立方体が鎮座していた。


 砲弾代わりのそれの着弾で幾らかの負傷者を出した第三隊18人。

 治療役によって傷を塞ぎつつある彼らが、同盟関係隠蔽の為に申し訳程度の間隔を開いて囲み、上からはオペレーターパーティーが押さえる。


 予め張っていた防壁は突破されたらしいが、その奇策はこの後に続かない。


 ここに陣取っていたのが個別のパーティーなら、極めて有効な手だ。


 だがここには、彼らの4倍の戦士が揃っている。

 腹を空かせたワニの口の中に、自ら飛び込んだのと同じ。

 これから防壁を解除して攻め込んでくるのだろうが、その瞬間に八面砲火で完封する準備がある。


 チェックメイト。


 完全詠唱の砲口を向けられたそれがガードを下ろし、


 複数人の最高出力魔法が虹を作るように一箇所に殺到し「“萌緑黄色満面東竜シング・ロング”」


 はこの中に、箱があった。

 萌黄色の木の幹が、籠状に組まれて作られた防柵。

 それらが攻撃を受けながら、根を上下左右前後全てに突き伸ばす。


 依然、詰み盤面に変化無し。


 魔法の押し合いで競り勝てる。

 たった一人の魔法に、複数人での集中攻撃が全て押し返される。人はそれを、杞憂と言う。

 そして、現実が彼らの判断を肯定した。

 根の群れは彼らを刺す事叶わず、その周囲に逸れていくのが精一杯。

 正面方向は完全に止められ、どころか起点となった壁が凹まされている。


 破壊の為のエネルギーが、それをこじ開けて内側に到達する。


 突き抜けた感覚!


——勝った!


 オペレーターパーティーの一人は、そこで世界が広く照らされるような感覚を得た。

 それは焦りによる視野狭窄から脱し、視界が開けた事によるものだった。

 多種多色な魔法が混ざり合う中で、彼らを横から攻撃しようという苦し紛れを実行し、抜かりなく弾かれる萌黄色の一本。

 その表面で螺旋状に巻き付いている二色、青と白。


 リボン。


 自然と意識の焦点がそれを辿り、根本を探そうとする。

 先へ、下へ、萌黄色の箱の中から、


 一人の少女から出たリボンに纏められて何重にも防壁を張った5人が、その長さを縮める事で引き上げられ正面突撃してきた!


「敵だ!急速に上昇!オペレーターパーティーを狙っている!」


 報告と同時に円形の顎と四角い耳を持った三連鋭角三角形が急来!

 萌黄色の根が彼らへ覆いかぶさりドームを作るように生長!

 一人がそれを破ろうと短槍たんそうを突き立てんとするも元来の硬さにリボンの加護が合わさって抜く事ができない!

 自在弾を回り込ませてK(キング)と目される少女を攻撃しようとするもベージュの盾と相壊(そうかい)

 R(ルーク)Q(クイーン)B(ビショップ)を守り攻撃に専念させる為に前に出ようと挑むも、その足が床から現れた根が巻き付いて引き留めてしまう!


 徐々にシールドを圧迫し足に先端を撃ち込もうとしているそれらに苦戦している間に、全身に萌黄色を巻いた青年が鋼鉄を優に超える硬度の棘を生やしたナックルダスターを植物で作り上げ、他の根による突き攻撃に織り交ぜる形で放ってくる!


 上回る手数を用意出来ずに自身のみを防戦するしかない彼らの見ている前で猟犬弾が仲間を食い荒らしていく!何とか避けたB(ビショップ)を、ひかがみ、肩の順に杖型魔具で打ち据え背後から首を絞め上げる飼い主!

 

 遮二無二しゃにむに攪乱に動こうとしたP(ポーン)の足を、身を低くして接近していた少女が指先を的確に踏み抜いて足止め!折り曲げた指の関節でゴーグルを破損させる程のサミングを入れてから顎、喉を続けざまに刺し打ち、仰け反った体を支えようと引いた足にカーフキック!踏ん張れずに片手と片膝をついた彼の下顎を蹴り上げて脳を揺らし、完全に倒れた所でもう一発(ダブルタップ)スタンピング!

 

「こちらオペレーター!はやく救援を!」


 銀のカナリアを操るK(キング)が第三隊全体に呼び掛けるも、どこかのパーティーの魔法が別のパーティーのメンバーに当たっただの当たってないだの流れ弾だの故意だのと、錯綜した言い合いという濁流に呑まれてしまう。


「まだチャンスなんです!我々を襲っている今が!背後から突ける今がっ!」


 何故彼らがこちらに来た時に、その後を追って雪崩れ込んで来ないのか?

 同盟相手達の愚鈍さに愛想を尽かしかけながら彼は目と耳でとにかく一つでも多くの物を収集しようと足掻く。


 耳からはメンバーの悲鳴と、責任を押し付け合うような他パーティーの怒号、高濃度の苛立ちを載せた()()()

 

 視界のほとんどが萌黄色に占められ、一部が青と白のリボンで守られ、敵が入って来た穴から今も滾々《こんこん》と湧き水のように伸び続けていて——


『——木の根がっ——!』

『見えないん——!』

『——だからできないって——!』

『んだよコレェッ——!』

『迂闊に触るな——!』

『——違っ、今のは——!』

『撃つなって——!』

『ジャマ——!』


——あ、


「ああっ!」


 彼らは、同盟を組んだパーティー達は、

 強固な防御と、砕き貫くパワーを持った、無数の幹と根によって、

 

 “分断”されている!

 

 先程の、防御を解除してからの全方位攻撃!あれは敵に命中させる為ではなく、敵を囲い込んで他パーティーとの直接的な連携を封じる、それを目的として行われたものだったのだ!


 彼らは表向き敵同士である為、元々それなりの間隔や遮蔽を挟んで並んでいた。


 だから、パーティーごとに区切って閉じ込めるのも容易だった。


 丹本パーティーの後を追うにしても、その根は無視するには強力過ぎる。

 各々で刈り取らなければならない。


 そして連絡網の中心を襲いながら、その根を破壊して進もうとする者達の前で、無作為に穴を開通させてやる。植物に対しての攻撃がそこを通過して別のパーティーに届き、しかも顔や身振り手振りといったコミュニケーションは遮られ、魔法能力によって届けられる混線した声でしかやり取りが出来ない。


 今は利害の一致で肩を組んでいるが、丹本パーティー脱落と共に競争相手へと戻る関係。倒せる目途が立ったから、今のうちに次なる敵を弱らせておこう、そう考えて撃ったのかもしれない。

 

 疑心暗鬼が声音に棘を含ませ、情報の暴流に身をさらす者達に切り傷をつける。

 それは後ろから撃たれるかもという恐れとなり、真っ先に応援へと駆け出して背中を見せる事への抵抗感となり、オペレーターパーティーへの援軍を一層遅らせる。


 今、

 今来てくれれば、

 来てさえくれれば、

 倒せるのに、

 彼らを勝たせるという、最悪だけは回避できるのに、

 絶対に負けないのに、

 ちゃんと戦えば、こんなに好きにさせるなんて有り得ないのに、

 こんな奴ら、

 こんな奴らに、

 

「第三隊!今すぐこおおおい!!多少の誤射は捨て置いて今こおおおおい!!」


 喉を破らんばかりに張った声は、少なくとも各パーティー最低一人には届いた。


『うるさい!命令するな白肌っ!』

『そうだ!お前達が甘いからこんな!』

『今そんな事言ってる場合か!』

『撃つな勝手にィィィィ!!』

『司令役を任せたが上下関係を作った覚えはないッ!』

『従うべきだろ!分からないのか!?』

『必死だねぇ!?前に出た間抜けをハメる気だろぉ!?』

『落ち着けぇぇぇ!落ち着けぇぇよおおおお!』


 が、それは更なる混沌の呼び水となって終わった。

 各々が好きな言語で罵り合い、空中分解は確定的に。


 「分断」。


 びっくり箱一つで肝を抜いただけで、


 精神的にも物理的にも、彼らは分断された。


 集団戦は、如何に敵の火力を分散させ、味方の火力を集中させるか。


 お手本のような部隊運用。


 4:1の戦力差が無と帰して、各個撃破で減らされていく。

 

 ビル内の彼らが全滅するまで、一人も落とせないだろうと、


 至近から焼夷弾を放たれるのを見ながら、


 (キング)はそれを悟っていた。

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