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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十四章:じ、上等だ!纏めてかかってこいや!

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366.ホッとするような、まだ心配なような

「……今なんと?」

「貴族らしさを全面に出すなら、言葉も貴族の色に塗りなさい。潔さがある分、相対的に好印象よ?」

「何を仰っているんです?」

「あなたは私を何とも思っていないでしょう?少なくとも、武人として評価するなんて有り得ない、違うかしら?」


 典型的フランカ貴族なら、そういう環境で育つのだから。


「そういう話を……前に、ある子達と、した事があるのだけれど」


 脳を揺り起こす為に、苦い記憶を敢えて掘り返す。


「そういうのは別に、悪い事ではないのよ。悪くはないけれど、それでも自分で気付いていないなら、我が身を見直した方が良いわよ?」

「失礼、話が見えません」

「この大噓付き偏見男、って言ってるの。聞こえない?」


 いきなりの臨戦態勢。

 ただトロワの気性については、ある程度向こうも把握済みなのか、若干の戸惑いの後、すぐに次弾の装填を完了させた。


「私があなたを御不快にさせたのでしたら、申し訳ない。非常に残念に思います。ですが、どうか分かって頂きたい。これは寡占かせんの催す遊戯ではなく、我々当事者が話し合って導き出した、理性的結論なのです。私達の感情がどうしようとしているか、その問題はまた別の所にあるのです」

「当事者、利害関係者に、感情抜きで公正な判断なんて無理でしょう?」


 尚も冷笑し、見下げ果てる。

 囲み立つ人々が、心臓や血流で発する熱が、冷気を貫通して蒸すように覆う。

 仲間から外れた事を責める空気。

 異端に走った者を見つけたという殺気。


 それらを前にして、

 トロワは敢えてそれを読まない。


 「言う事を聞け」という気圧に、「迷惑を掛けるな」という諫言かんげんに、屈しない。

 

「協調を乱し、将来の不和の種を放置する、と?」

「たかだか10人ちょっと、パーティー全体を合わせても数十人程度。そんな程度で世間様を気取らないで頂戴?その程度の薄っぺらい平面から追い出された所で、私の世界では一つも居心地が悪くなったりはしないわ」

「正しさに背を向けるんですか?」

「正しいなら…いいえ、正しくないと分かっているのだとしても、正直に言いなさい。『私はあいつが嫌いです』、それで済む話でしょう?それに共感する同士で傷の嘗め合いをするくらいなら、別に誰も止めはしないわ」

「正直ですよ。私は正直です。このお話は、あなたの為を思って、丹本という国や世界の未来をおもんばかって、私達全員で考慮を重ねたから、」

「だったら、」


 尚更だ。


「目の前で名乗りを上げてから、小細工無しにぶつかって来なさい。それが本当に正しいと言うのなら、そう言って一言一句、本人達に分かるようにそのまま開示しなさい。私のミスに付け込んで、訓練場を出禁にするなんて、回りくどい事をしないで頂戴」


 「そういう人達と肩を組むのなんて、私のプライドが許さないわ」、

 去年度までの彼女であっても、

 進のせいで選択クラスが歪まされたと考えていたあの頃でも、

 こいつらと手を取り合う、それだけはない。


「それで納得して頂けないから、」

「じゃあ、その話は正しくないんでしょうね?」

「そんな事、何とでも言えてしまいます。全部思い通りに行かないと気が済まない、我儘です」

「そうよ?全員の我儘が上手く満たされるのが、本当に正しい事よ?」

「そんな都合の良いものはありません」

「そうでしょう?どちらかが損をするか、どちらも損をするか、その違いだけよ。そしてあなた達は、『自分が損をしない』やり方をお願いしている」


 それは悪ではないと、彼らはそう言っていた。

 トロワにとっての結論は、また戻ってくる。


「正直に言いなさい。『嫌いな奴が成功するのを見る』、それがイヤ。そういう損があるので、それを無くしたい。それで済む話をこんな寒気の中で長々展開しないで頂戴。私の完成度の高い肉体が、変に冷えて硬くなるでしょう?嫌いな奴が納得してくれない程度で、叫べない主張だって言うなら、最初から貫こうなんて思わないで」


 最初からそう言ってくれれば、トロワの方も一々色々聞かず、「断る」の一言で済んだと言うのに。


「正しさがどうとか、興味があるようには見えないわ。ここに居る全員、見下してた相手に注目をさらわれて、気を悪くしてるだけでしょう?どうせ。それともイフリの人達は、まだ経済的にフランカに依存してるから、逆らえないわけ?」




 くだらない話だが、かつて肌の色で人権の有無が決められた時代があった。


 人は同じホモ・サピエンスを、些細な感情論で“人外にんがい”と認識してしまう。

 理解出来ない行動を取っただとか、自分の言葉とは違う知らないパターンで声を出すとか、目がどこを向いているか分からず怖いというだけでも、化け物扱い出来てしまう。


 自分がそれと同じと考えるより、自分の“正常”の外にそれがある方が、「正しく生きればそうはならない」という保険を持てて、安心且つ楽だからだ。


 「ぱっと見の色」という明らかに「自分達」と違う要素があれば、尤もらしい理由付けとなって、彼らの非人認定という怠惰を正当化してしまう。


 それでも時が経った事で、陽州の奴隷とされてきた黒色の肌を持つ人種、彼らに対する偏見への問題提起が為された。


 その結果近現代では、被差別者達の地位向上運動が活発化し、反動で白い肌は黒い肌を迫害した罪深い人種、「人でなし」だという逆転した人種観が登場ポップ

 つまり、祖先の大罪を理由に、一定範囲が()()()()()()()事態となった。


 人間追放構造は、使用権を移した以外に変わらないまま、温存されたのだ。

 世界を大雑把に二分化したと言われる争いは、今も拳の収め所を見失っている。


 そう、「白か、黒か」、「二分化」だ。

 その中間色とでも言うべき、「黄色」と揶揄される者達。特に極東圏にルーツを持つ者達。陽聖社会で暮らす彼らの不自由が、クローズアップされる機会はあまりない。


 彼らは人種間闘争の当事者と見られていない。

 その問題上での存在感の無さから、世論や国際社会の保護を受けづらく、差別用語が出回ったりしても、大きく騒がれる事例は少ない。


 陽聖社会での数は少なく、何らかの軽視、蔑視的扱いに対して、暴力的な反撃まで繋がる事は少ない。

 これは利点と言えそうな一方、悪目立ちする別の事件に上書きされ、忘れられ易いという憐れな特徴となる。


 無神経な者達からすると、「黄色」を笑っても痛い目に遭いにくい為、うっすら「いじっても怖くないやつら」扱いをされる。


 特に先の大戦の敗戦国、愚かで身の程知らずな島国は、酒の席での鉄板ネタだ。

 聖国に喧嘩を売って、国土に爆撃までして負けたものだから、悪者扱いでも批難されにくい。

 正義を笠に着た悪意にストッパーはかかりづらく、敵対視と偏見、蔑視が一定範囲に広がり、定着している。


 ダンジョン関連で今尚存在感が強いからこそ、視界に入りやすい彼ら「罪人」に、物申したくなる者達の数も増える。

 戦闘民族だから、教育水準では遅れている、という実態と離れたイメージも生きている。


 そしてその下、全世界で暗黙の人間失格指定を受けている、漏魔症が居る。


 うんざりする多層性。

 “下には下を”。這い上がるより安心を選ぶが故に築かれた積層ピラミッド


 人間という連中は、その日の糧を得るよりもまず、見下せる相手探しに腐心するらしい。

 彼女が“男”という属性に対して、そうしていたように。


 今トロワに話を持ち掛けている彼らのうち、どれだけが「黄色」に対しての嫌悪なのか、それは分からない。どれだけが「丹本」に対してで、どれだけが「漏魔症」に対してなのか?


 それらは大抵ミックスされている。

 作った色から、赤、緑、青がどの比率で混ざっているか、それを言い当てるのがほぼ不可能なのと同じく、色の所有者であっても、どこからどこまでが何に対する悪感情なのか、遡る事はできないだろう。



 だから彼らは軽率に、互いを仲間だと団結出来る。

 赤と緑と青のいずれか一つ以上を混ぜたのだから、同じ色を使ってるんだという論法だ。



 そして、キャンバス部分の材質が同じだから、同じ色が使われ、同じ色に仕上がるだろうと、だからフランカ出身のトロワを引っこ抜けるだろうと、そう見て彼女が一人の時に接触して来た。


 思えば7月の校内大会の時も、引き抜き工作は彼女をターゲットにされていた。

 そんなに裏切りそうに、今のパーティーがどうでも良さそうに見えるだろうか?


 見えるのだろう。

 トロワの自己評価は、ある程度曇りない。

 彼女は自分が、力の及ぶ限り好きに動く人間だと知っている。

 トクシに興味が無ければ、

 彼らと顔を正面から合わせて、関わり合おうと決めていなければ、あの時の提案に易々と乗っていただろう。


 彼女はフランカを追い出され、島流しのような気分で丹本の土を踏んだ。

 彼らと共に戦わなければ、今目の前に立つ男と同じく、肌の色が濁った不完全な人間共だと、頭のどこかで見下して、男共は無思慮で汚れていると、敵視を正当化して、漏魔症は通りを歩いてはいけないとマナーを説く者に、口に出さずとも消極的賛同をして………


 で、そのうち彼らの事を、思い浮かべもしなくなっていただろう。

 通りを歩く時、人の全てを背景や落ちているゴミと同じように処理をして、自分一人だけが街を行くような錯覚に陥り、それをおかしいとも思わなかっただろう。


 その方が、楽だからだ。

 全ての人格を尊重するなんて、人間には重過ぎる。

 だから、「人一人」の枠を出来るだけ狭め、考えなくて良い事を増やして、そうすれば無難に生きていられたから。


 だが、

 

 今更正しさを主張する気も無いが、


「私はもう、あの手の掛かる子達を、憎めないの」


 少なくとも、何をしても良い相手とは思えない。

 悪意が籠った罠も、敵意の詰まった刃も、差し向けられない。

 

「あなたがどういう迂回路を通っても、同じゴールよ。『お断り(ノン)』!以上が全て。そこでアガリ(ラ・ファン)。お分かり?」

 

 啖呵を切った彼女に、冷めた呆れが贈られた。


 「もっと賢く立ち回れよ」、ある少年が言った。

 「すっかり黄色にそまってるわね」、ある少女が言った。

 「ルカイオスに勝てなくて日和ってるだけだろ」、別の少年が言った。

 「こいつやっぱりいらないじゃん?大した事ないし」、別の少女が言った。


 陽州の出でありながら極東の国に泣きつき、漏魔症一人如きを自らの下に従わせる事も出来ず、様々な場所で負け続けた末に、生来のほまれすら失った、牙を抜かれた無害な飼い犬。


 彼らから見たら、今の彼女はそういう弱体者だ。

 尊敬しろと言う方が無茶だろう。


「フランカの人間として、上に立つ者としての『プライド』すら持てなくなったあなたを、軽蔑します。嘆かざるを得ませんよ、トロワさん。“ロマンスイエロー”に腹を見せて迎合するなど」


 リーダー格が、一人に目配せする。


「そう?私はそうでもないわよ」


 トロワは腕を組み両の足で立って、


「少し前より、多少はマシだもの」

 

 後頭部からの一撃を、高圧的な笑顔で受け入れた。

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