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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十四章:じ、上等だ!纏めてかかってこいや!

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364.こ、こういう空気ニガテ………

「今日は……“安息日”、だったっけか…?」


 落ち着いた木目調のデスクに座った、スキンヘッドにタトゥーの男は、言いながら葉巻の煙を吐き出した。


「………ぇえぇ……?」

「聞いてんだよ。俺が、聞いてんだ。安息日だったのか?今日はよ…?イエスかノーか、1単語、3文字以内で終わるだろうが。サルでもチキンでも答えられるだろ…?」

「え、あ、え、あえ、ああ、はい、じゃなくて、の、ノー、ノー、ノーですボス。答えはノー。安息日とかじゃあ、ありません、全然」

「だよなあ?俺の思い違いだな。おい、だろ?」


 怯えながら答えた男の肩越し、レスラーでもなかなか見ないような体格の、沈黙を貫くオーバーオールの女に、ボスは話を振る。


「………」


 彼女は一度、深く頷いただけだ。


「お前もそう思うか。いやいや、良かった。本当に心から、そう思うぜ?」


 ボスは革張りの椅子から立ち上がり、机を迂回して縮こまっている男と肩を組む。


「いやな?お前がひょっとして、ひょっとするとなんだが、スカタンの救世教徒クライスタンになっちまって、カミサマが7日目にマスかくのに夢中で何もしなかったから、俺達も同じようにマスかいてクソして寝る日を決めましただとか、そーゆースッとぼけた事言いやがるのかと、ちょっと心配になっちまってよー…?」

「は、はあ……」

「ま、俺の子に限ってンな事ないわな?拝金偉ぶり坊主なんかになってなくて、心底ホッとしたぜ俺ぁ!」


 背中を何度も強打され、咳き込むように答え、


「そ、そうですね……良かったで」

「良くねえだろうがテメコラマヌケカス」


 お追従ついしょう笑いの為にあまりにも迂闊に開かれた口の中、舌に葉巻の先端を押し付けられた。


「んおっ!??ンォオオオ゛オ゛ッ!!」

「テメエこのクサレレームダック野郎!頭頂部ハゲ教団にカブれたわけじゃねんならよおおおお!?どうして言われた事やってこねえんだよおおおおエエーー!?」

「オオオオッ!!オオオオオオーッ!オォーッォォォォォーッ!!」


 肉が網焼きになるような音と、喉より奥まで埋め立てられたような苦悶の声。

 そんな答えでは、当然ボスは納得しない。

 腹部に蹴りを入れながら尋問を続行する。


「テメエはっ!今頃っ!仕事!終わらせてる!筈だろうがっ!」

「オオオッ!ボォオッ!ボォォォスぅぅっ!」

「なにっ!ノンキにっ!帰ってッ!来てんだよっ!」

「ボゥォスッ!ゴメェッ!ゴベッ!」

「せめてっ!死ねよっ!ヤれなくてもっ!男見せてっ!死んでこいよっ!情けねえっ!俺は情けなくてっ!仕方ねえっ!」

「ゴォベッ!ベッ、ベッ、ベンッ!」

「この靴が!何千ドル!すると思ってんだっ!汚しやがって!そんなに行儀悪くっ!育てた覚えはっ!ねえぞっ!情けねえっ!俺ぁっ!情けねえよっ!」

「……ッ!……ッ!……ッ!」

「お前にっ!期待してたのにっ!お前をっ!信じてたのにっ!親不孝がっ!裏切りモンがっ!」


 一際大きく振りかぶって蹴り転がした後、


「ふぅぅぅ………おい」


 巨女に顎だけで命じる。

 無言で近付いた巨躯が、倒れた芋虫のようにヒクつく男の首を掴み、持ち上げる。

 

「豚小屋の掃除をやらせろ。奴らが垂れ流すモンを、一欠けら残さず舐め取らせろ。口以外を使うごとに指を1本ずつ折れ」


 これにも頷くのみで返し、女は男を引き摺って部屋を後にする。


「ってなワケでな」


 ボスは椅子を引き寄せ、脚を組んで座る。

 少年が駆け寄り、靴を磨き始める。


「仕事が一つ増えちまった。我こそはって奴はいねえか?」


 部屋の端で立つ数人は、誰もがチームカラーであるオレンジ色を身に着けている。

 彼らのコミュニティの中でも比較的若い衆。

 将来の主力戦闘員候補として、日々を小銭稼ぎや暴力に費やすワナビー達。


 が、一端いっぱしの野心家を装う彼らも、「死んでこい」に近い命令に、無鉄砲さを忘れてしまう。

 目配せし合いながら、誰かが何かを、

 時間だけが過ぎる沈黙を前に、ボスが温まり切る前に、早く発言してくれるのを待っている。


「ぼ、ボス、聞きたいんだけど……」


 相対的に最も度胸がある青年が、全員が思うであろう疑問を代弁した。


「おう、どうした?」

「銃は、あるんだろ?」

「ああ。連射フルオート改造された、違法なブツだ。短小だが楽しめるぜ?」

「じゃ、じゃあ、ディーパーを使わない方が、その、得なんじゃねえかって……」

「いや。ディーパーの為の祭り(フェス)だ。“善良な一般市民”様方には漏らせねえ。これから起こるゲリラライブでは、奴らの配役は主役でなくかたき役だ。勝ち負けを論じてどっちが得か考える、までもいかねえ。あいつらからすれば、そんな演目潰したがるに決まってる」

「やつらは、敵さ。それはそうだと俺も思う……。だけど、」


 この街の住民で、人間でなく道具として扱われる存在が、居るではないか。


「ディーパー一人より、ローマン数人送り込む方が、賭け金としちゃ、安上がりだって……そう……おもう……んだけど………」


 声も語気も萎びていくのは、ボスがその程度を考えていない筈がないと、分かっているからだ。

 今更そんな事を聞くなんて、道理の通じぬ愚物と思っているのか?

 そう問い返されてしまえば、彼も“飼育当番”の仲間入りである。


「いいや。下ごしらえに奴らは使わねえ」


 幸いにも、ボスはそれを聞かれる事までを了解しており、片足を靴磨きの頭に乗せながら教えてくれる。


「奴らには、もっとピッタリな役所やくどころを用意してある。名誉は渡してやらねえ」


 「それはお前らのモンだ」、

 サングラスを外して、直に射抜く。

 期待の光だ。

 彼はその役に、生贄の仔羊以上の価値を見ていると、顔の形が語っていた。


「名誉?」

「ああそうだ。主役ってのは、一番最初に出て来るもんだろ?先陣はな、真っ先に敵にぶつかって、一発入れてから戻って来れる奴にしか任されねえ。それだけ強さを信頼されてる奴が、最初の一人になれんだよ」


 「ローマン共には勿体ねえ」、

 彼が新たな葉巻を咥えると、少女が歩み寄りマッチで火を点ける。


「テメエら半人前共まで含めて、俺の可愛い家族達だ。だが認めてやるには、何か成果が、手柄がねえと、他の兄弟に示しがつかねえよなあ?」

「て、てことはボス!それさえできれば、俺達、“大人”に、“男”になれんのかよ!」

「ちゃんと強けりゃ、生きて帰って来て、『最強』になれんのか?」

「そうだ小僧共キッズガイになんだよ。脚の間に付いてる二つが、クリスマスの飾りじゃねえって証明してやれ!今テメエらをコキ使ってる兄貴分共に一泡吹かせ、上手くやればお前らが使う側になるかもしれねえ」

「マジか…!」

「“大人”が失敗して降板した役だぜ?このミッションを成功させた奴には、さっきの次期“豚の召使い”が受け取ってた以上の、報酬を払ってやらねえとな?それが、“一貫性”ってヤツだ。違うか?」


 地位と名誉と金、彼らの宇宙を満たす物質が、一挙に手に入る。


「お、俺やるよ!大人になりてえ!」

「はいバカ!テメエみてえなノータリンには無理だろ!俺がやる!」

「おれ!おれおれおれ!」

「すっこんでろザコ共!小物の出番はまだ先だろうが!」


 水面下での押し付け合いはどこへやら、名声や権力という人参をぶら下げられ、我先にと齧りつこうとする若者達。


 ボスは無表情のまま品定めをしていたが、部屋の隅に顔を向ける。


「“脳害カエル”」


 呼ばれた彼は縮み上がった。

 飛び出しそうに大きな目、重力に負けたように垂れる顔。

 例の漏魔症をけさせていた、あの青年だ。


「どうだ?青いケツから卒業だ」


 そう言われても俯きながら、ジーンズの端を掴むだけ。


「おいおいおいボぉスぅ!冗談キツいですってぇ!」

「そ、そうだぜ!こいつに出来るわけねえだろ!IQが猿にも足りてねえ!俺にしとけって!」

「聞きました?こいつ“宿”の女共にも逆らえねえんですよ?アレの時、クプッ…!使いモンにならなかったらしくて…!ブフォ…ッ!」

「アッチまで青二才だったってよぉ!」

「金だけくれるから楽な客だって、大評判!良かったなあモテて!是非ともカエル殿のモテテクをゴキョージ願いたいぜ!」

「なんだったっけえ?『ちがうー!ほんとはもっとおっきくてー!』だったか!ギャハヒーッ!」

「やめろ!笑うだろ!」

「俺はコイツ好きだぜ?母ちゃんみてえだからな。主に服のセンスが!」

「この低脳にゃあ、ライフルどころかロケットランチャー持たせたって、虫一匹()れねえよ!」

「芸術的な自殺は見せてくれるかもなッ!キューセーシュ殿も腰抜かすやつを!」

「豚相手に腰振る練習からだなあ?『ボウヤ』?」


 言われたい放題であっても、青年は固く口を閉ざし、拳の力を震える程に強めるだけだ。

 言い返すことも、顔を上げることすら、しそうにない。


「おい」


 だが低く腹を打つ一言で、部屋が静まるのとほぼ同時、弾かれるようにおもてを上げた。


「俺達は仲良しお遊びクラブじゃねえんだ。お前をこのまま置いといて、俺達にいつまでも利益が出ねえんなら、細切れにしてやった方が、餌代が浮いて役に立つ」


 机の上に、改造拳銃が叩きつけられる。


「力を示せ。生存も栄光も、オランウータンみてえな握力じゃねえと、捥ぎ取れねえぞ?」


 他の者達から、「断れ」、「しくじれ」、「尻尾を巻いて逃げろ」、睨みだけでそう圧力を掛けられた青年は、地雷原を進むが如く、半歩ずつ、足を落とすことさえ苦労しながら進み、


「期待してるぞ?お前は俺の子だ。他の誰が何を言っても、俺だけはお前の本気を分かってるぞ?」


 チアノーゼのように顔を青黒くしながら、無言で銃を手に取った。


東端部レイクサイドヘッドを、れ」


 ボスが求めるのは、ただそれだけ。


「俺の期待に、応えてくれるよな?なあに、心配するな。失敗しても、央華人オウファンのレストランで出す、蛙料理の材料にされるだけだ」


 青年は手間取りながらも、凶器を懐に入れ、それを押さえながら出て行った。


「おい、誰か床を掃除しておけ。念入りにな」


 コートを羽織りながらボスが命じる。


「シミ一つでも残してみろ。てめえらの血の色で模様替えしてやる」

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