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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十四章:じ、上等だ!纏めてかかってこいや!

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363.今度はトロワ先輩がヘン part1

 ルデトロワには、潜行系競技の選手の為に、宿泊施設が用意されている。

 通常は一般の客にも利用されるが、特別な大会などのイベントの際は予約が取れなくなり、招待した相手に提供される。


 「あの有名人も泊まっていたホテル!」、みたいな付加価値もプラスされて、平時の売り上げも好調らしく、ホテル側、一般利用客、国、選手団の四方良しな仕組みだ。

 言うなればウィンウィンウィンウィン。


(((何が「言うなれば」なんですか。減点しますよ?)))

 

 という辛口採点は置いといて、


「どわあぁぁぁ…!サイコぉぉぉ……!」


 今俺達がこんなフカフカベッドの部屋に泊まれているのも、ルデトロワのダンジョン産業振興政策の為である。

 ありがとうルデトロワ。

 また来ようルデトロワ。


 いやそれにしても、飛行機内で座り続けてクタクタになった初日から、何度も何度も俺の事を受け入れてくれるこのスプリングは、この大会の中でも一、二を争う癒しである。

 俺、お前に会えて良かった。

(((そういう事は女の子に言いましょうね?)))

 イヤだ!

 歯が浮っき浮きのグラッグラになるわ!全部抜けるわ!


「あ゛あ゛あああああ……!離れたくないよおおお……!」

「そうも言ってられんだろう。もうじき夕練の時間だぞ。……おい?おい、寝るな!おい!」


 因みにここは2人部屋で、溶けてる俺を雪山遭難時の如き血相で揺り起こしてるのはニークト先輩です。

 

「構わず行ってくださいせんぱぁい……!俺はここでこいつと一緒になるんですぅ…!」

「ワケが分からん上にゾッとするような事を言うな!クソッ!斯くなる上は!」


 寝床に縋りついていたが、力づくで引っぺがされてしまう。

 ああ…!お布団があ…!


「ダンジョン帰りなんですし、あと5分…!」

「それは起きない奴の台詞だぞ怠惰チビィ!ゴロゴロして世界大会に勝てるなら、誰一人として床の上から出ないだろうが!」

「ヨソはヨソ、ウチはウチでーす……」

「厚かましさが刻々と酷くなるなお前!?」

(((そうですよ?ススムくん)))

「うぉおっ!??」

「へぶ!」


 先輩がいきなり手を放したせいで、鼻から床に叩きつけられた。


「ふが…!てててて……!」

「い、いきなり出て来るなッ!カンナ嬢っ!」

(((ほらススムくん。常のように己を律して、もっと頑張っている所、見せてください?)))

「か、カンナ、俺のこと応援して…!」

(((そうして疲弊した分だけ、くすっ、夜の特訓がより過酷となり、ふふふっ、限界に挑む、煮詰まった精神はさぞ……ふふふふふ……)))

「だと思いましたぁー!」


 枕を投げつけてやるも、舌を出して避けられる。

 人が苦しんでいる顔を見たい系コーチ健在でした。

 そりゃそうか。


「と、とっとと行くぞ!」

「はぁい」


 どこへかと言えば、近くにある潜行訓練場へ。




 元々潜行者が集まる街と言う事もあって、能力の調整や手合わせの場等、色々な需要から専用の訓練場がある。

 ダンジョン内環境を作れるお高めの施設もあり、大会期間中の選手は利用予約の順番待ちが優先され、更にお金は学園が出してくれるので、経費で入り浸り放題出来るのだ。


 が、当然他の国も同じ事を考え、枠がカツカツになるのは避けられず、結局は利用時間の自由が無くなる。

 で、こういう中途半端な時間に、潜行を切り上げて向かうしかなくなる。


 何しろ明胤の中でも最強戦力だ。この付近で入れるダンジョン内で、モンスター相手に戦うだけだと、単なる狩りになってすぐにマンネリ化する。6対6の紅白戦などで、対等な対人の勘を尖らせ、能力応用の幅を広げる、そういったトレーニングも必要なのだ。


 まあ負けず嫌いが揃って、どんなコンディションでも全力を出せる為とか言って、馴らしもそこそこにガチでやり合うので、毎回毎回ヘトヘトになって終わるのだけど。




「ギブギブギブギブギブ!あっ、gave(もうムリ)!」

「何を言ってるか分からんな」

「英語圏出身が嘘つかないでください!」

「お前の発音が悪い!駄々はいいから早く抜けろ!」

「腕の骨折ればそれでいいじゃないですか!」

「その時治療能力持ちが残っていない可能性だってあるだろうが!自分の肉体をパーツ付け替え可能なマシーンみたいに思ってるんじゃあないぞサイボーグ気分チビ!」

「負傷に無頓着過ぎて逆に良くないわネ。出来るだけダメージを抑えながら、それを脱する考えを持ちなさいナ」


 床に押え込まれ後ろ手に関節を決められて、しかも手が使える状態のまま抜け出せとか言われて、考えてる間にもどんどん身動きが取れなくなってしまった。

 な、なんでこんな、俺だけ、痛めつけるだけの為にあるような課題を…!


「罰ゲーだしおとなしく受けれー」

「いや……!そっちのチーム…!きたなっ……!」

 

 ニークト先輩、辺泥先輩、テニスン先輩、虎次郎先輩、雲日根さん、ミヨちゃんがそっちって……、近接火力偏重が過ぎるでしょうが!

 頼みの綱のトロワ先輩は……なんか……魂抜けてる感じで、何とニークト先輩に、あの女子にメタメタにされる事に定評のあるニークト先輩に、取り押さえられてしまっていた。

 最近イキイキしてるニークト先輩と、いつかの逆みたいな構図になっている。


 で、前を張ろうとするも人数で押し切られ普通に負けた俺は、敗北者の義務と称して、こんな脱出チャレンジを強いられているというわけだ。

 こういうのも手品師とかだったらスルスルって行けたりするんだろうか?

 助けてアインさん!俺に教えを!


『レッスン1。不要な力を抜く事です』


 それから!?


『レッスン2。余計な力を入れない事です』


 駄目だ!イマジナリーアインさんが同じ事しか言わない!


「遠距離タイプにはほぼ確実に押し切れるだろうが!お前の課題は怪我をせずに殴り勝つ事だ!」

「いや拳の間合いに負傷は付き物ですよ!ね?ミヨちゃん?」

「みっちりやっちゃってください先輩」

「あ、あれ?ミヨちゃん?」

「自分の体、ちゃんと大事にできるようになるまで、私は助けてあげないよ?ススム君」

「そ、そんな…!」

「もっとスマートにやれってさ~?ヨミっちゃんもなかなかキビシイねぃ」

強火つよびー……」

(((やり方に技巧が感じられませんからね。もっと工夫して見せてください)))

(いや根性論のゴリ押しが必要な特訓ばっか出しといてよく言う!)

(((それとも、矢張り私の肉に潰されていないと、やる気が出ませんか?)))

(ちがっ!ちがうっ!ちがうから!ぜんぜん!そこにモチベーションへの影響無いからっ!)

(へぇ~……?ススム君、大きな胸に乗られると張り切るんだあ……?)

(ミヨちゃん!?なんで脳内に…!?)

(((私が繋ぎました)))

(それがなんでだカンナああああああ!!?)

(ススム君のえっち)

(まって!ごか)「ィイーーーーッッッ!!」


 ちょ!折れた!

 ボキッて言った!

 やり過ぎて折れたって!


「対処が遅い!結局腕部を破壊されているぞ!」

「だったら最初から自分で折った方が早い分マシですって!」

「そうならないようにしろと言ってるんだ!分からん奴だな!もう一回行くぞ!」

「あ、じゃあ今度は私が一緒に足決めよっか?関節技得意なんだよねぃ」

「訅和さん!?なんでここから負荷を増やそうとしているわけ!?」

「すまねぃカミっち。お前さんに恨みはある」

「あるの!?謝るから俺が何したか言って!?」

「ミヨちゃんを取りやがってー!」

「身に覚えのない罪!推定有罪反対!」

 



 と、全員でいつもの空気を作っているつもりだったけど——これが「いつもの空気」なのもいかがなものかと思うけど——その間に一人、無言で剣を振っていたトロワ先輩は、憤るような迫力すら持っていなかった。

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