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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十四章:じ、上等だ!纏めてかかってこいや!

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362.ライン超え、た…? part1

「うひょおおお~!ひっろお~っ!」

「大声出したくなるねい!」

「はっはっは!もう出してるじゃないか!」

「うむ!ワガハイの漢気を受け止めるのなら、これくらいでなくてはなあ!!」

「うるさいぞ庶民共!オレサマに恥を掻かせるな!」

「子どもみたいにハシャがないで頂戴!みっともないわね!」

 

 大会が近いという事もあり、実際に試合に使われる会場であるスタジアムが、代表達に開放される事になった。

 

 国ごとに予約して、本番と同じ魔素濃度の中、1時間くらい自由に使えるようになっている。

 地形がどうなるかとかは分からないから、広さとか規模感とかに慣れておくだけの時間だけど、なかなかどうしてこれがバカにならない。


 丁都ドームのグラウンド部分が複数個収まるくらいの広さという、なんでそんなの作ったの?嫌な事でもあった?話聞くよ?って言いたくなるスケール。今までのギャンバーの感覚で、ぶっつけ本番でやってたら、困惑するか迷うかして、事故ってしまう可能性が高い。


 これを建てるとなった時は、流石に金の無駄遣いじゃないかと、色んな人から突っ込まれたらしい(当然)が、こうして有効活用されている以上、「あって良かった」と言うしかないだろう。


「じゃあまず、俺が端から端まで全力で横断するので、タイム計ってくれません?」

「確かに、ススム君がどれくらい自由に動けるか、それで分かるね」

「スタンバっといた作戦だと、こもたやとカミザ軸だし、まあそっからっしょ」

「オーライオーライ。それで、このスタジアム、どこが最長距離になるンダ?」

「わからなさげー……、だるー……」

「うーん、見た感じ……うあー、こうも平坦に開けてると、目まいがするな…」

「わかるよ?ススム君。丹本って狭い所に建物詰め込んでるから、なんか、ね?特に丁都とかギュウギュウだし」

「あたしは平気ネ」

「北の大地出身の先輩には、耐性があるんでしょう。恥ずかしながらこの亢宿、都会っ子でして」

「地形無し状態だと真っ白だしねぃ。目が疲れるよ~」

「ダンジョンでもなかなか見ないわねぇ、こんな景色。けれどまぁ、本番ではもっと複雑化するのだし、安心して良いんじゃなぁい?」

「それもそう……ん?ナニアレ?」


 アルパカが発生させるベージュのレンズで遠視していた六本木さんが、そこで妙な物を見つけたらしい。


「え?どれ?」

「誰か居るんですけど」

「マジ?」

「マ。それも上裸」

「それも上裸!?」

「野生の変態がなんの用かしらネ」

「野生の変態が入れる場所じゃないだろう波遊びシャチィ!」

「スタッフさん、とかかねぃ」

「でも上裸だよ?」

「上裸だからなんだと言うのだ!ワガハイも上裸だぞ!」

「まどろっこしいわね!直接誰なのか聞けば分かる事よ!どっち!?」

「あっち」

「行くわよ!」


 ライフハック。

 不審人物が居たら、取り敢えず先頭にトロワ先輩を配置しよう。

 勝手に話し掛けて勝手に撃退してくれる。

 え?そもそも穏便に行きたいって?

 トロワ先輩が居る時点で諦めよう。


 先輩の影に隠れるように、コソコソ近付いてみる。

 視力強化をしたら、確かに人が見えた。

 全然動かないから、背景の一部としてスルーしてたみたいだ。


 確かに上半身裸。

 白い肌、金色をしたワイルドな髪の男の人。

 筋肉が作る凸凹が浮いた背中をこちらに向けて、豪華な護拳を持つブロードソードを、頭上で横向きに構えている。


「そこで止まりたまえ!」


 背中越しにこちらの魔力を感じ取ったのか、振り向きもせずに何事か呼び掛けて来た。


「今、良い所なのだから」


 翻訳ソフトを立ち上げたんだけど、ちょっと言ってる意味が分からない。

 と、横から女の人が歩み寄って、上等なハンカチのようなもので彼の顔を拭ってから、またハケていく。


 彼女が歩く先には、別の女の人が立っていた。

 イーゼルにキャンバスを置いて、多分景色を模写している。


「あのー……?」

しゅくに!今集中しているのだ。分かるかね?風に耳を傾け、人工物の無機質な冷たさを肌で感じ、この場と一体となっている……!」

「は、はあ……」


 ミヨちゃんが声を掛けるも、電波発言で弾き返されてしまった。

 言ってる意味は分からんでもないが、なんでそんな事やるのかは分からないし、今ここでやるなとしか言えない。

 仕方ない。

 ささ、先輩、お願いします。取り敢えずジャブ1発で。

 と、トロワ先輩の方を見たら、


「あなた…っ!」

 

 その男に向かって眉を吊り上げ、歯を食いしばるように皺を寄せ、つまり気色けしきばんで睨んでいた。


「本当に、代表に…!」

「せ、先輩?あの、その、お知り合い、ですか?」

 

 なるたけ穏当な言い方を引っ張り出したミヨちゃんだったが、要は「何か怨恨が?」と聞きたいだけである。


「何者だ?見ての通り、当方は今そちらを向けないのだ」


 いや見ての通りと言われましても。

 見た所絵画モデルをやってるようにしか見えないんだけど?

 ここが美術室やらアトリエやらだったら分かるが、予約で貸切ってるアリーナのど真ん中だよ?

 非常識だし迷惑だし散々じゃない?


「………ジュリー・ド・トロワよ」


 急に彼女は雪晒ゆきざらしになったように冷えて、踏み固められたように平な声で言った。


「聞いた名前でしょう?」

「ふむ?トロワ、トロワ、トロワ………。当方におったか?そんな家名の知り合い。当方に覚えられていると思い上がる以上、貴族ではあろうが……」


 いや、お願いだから思い出してよ!

 なんかトロワ先輩から熱を感じないのが、逆にマジで怒ってる感じがして超こわいんだよ!

 上半身裸で動かない変態が気にならなくなってくるくらいの不穏さって、相当だよ!?


 と、女の人がスライドするように静かに歩いて、何やら耳打ちした。


「………む?……ああ!そうかそうか!あの時の、愚かな一族か!息災だったとはな!没落しようと、野晒しとは程遠く、我が国の威光の、如何に偉大な事か!」


 あのさあ!

 ちょっと一回こっち見ろお前!空気読め!無神経さが天井知らずか!

 失礼発言製造機か何かか!

 今すぐ先輩にゴメンナサイしろ!

 斜めったゴキゲンを直すのこっちなんだぞ!

 

「愚かなのは、時計も読めない誰かさんだと思うのだけれど?それとも読めていないのは文字の方?使用時間が終わったらとっとと出て行く、それくらいのルールも守れないなんて、小学生にも劣る知力ね?」


 はい鳴った!

 今どっかでゴングが鳴りました!

 殺風景な場内が殺伐領域キリングフィールド化しました!


「え、ってかこの人達って、一つ前の?」


 さっきそこそこの人数が出て行ったと思ってたけど、まだ残っていたのか。

 

「ヨミっちゃあん、この人、どこの代表?」

「えーっと……、たぶん、フランカの……」

「あのコのホームに置いてきた因縁、って所かしら」


 トロワ先輩が生まれた国。

 彼女はそこでの経験を、あまり話したがらない。

 俺達も詮索を避けていた。

 それを思い出す時の先輩は、嫌そうと言うより、辛そうだったから。

 

「そこな平民!」


 ターゲティングがこっちにズレたが、誰に言ってるかちょっと特定出来ない。

 こっち見てくれないか?目線とか指で示してくれないと、どの平民か分からないんだけど。


「このブリュネルを、ブルーノ・ル・ブリュネルを知らんとは、何たる不勉強!恥じるべし!ひらに、深く恥じ入るべし!」


 平たくなるのか深く凹むのかどっちが良いんだよ。

 というのは置いといて、ブリュネル家って言うと、これまたビッグネームだ。


 フランカで「貴族家」であり続ける事が許された、上澄みディーパー一族。

 って言うか、王様が居ないフランカにおける、最高特権を持つ者達。

 フランカ代表として出て来るとは聞いてたけど、こんな所で、こんな形で、

 ………

 こんな形で、

 こんな形で!

 会えるとは。


(((形に拘るような人品じんぴんではないでしょう?あなたは)))

(いやちょっとエンカウントの仕方が特殊過ぎると思って。なんだよこのシチュエーション。会場を押さえて下見しに行ったら、自分をスケッチさせてる貴族が居るって、普通起こらない事盛り過ぎだろ)


 初対面の印象が最悪、とかじゃない何か。

 俺としては、ただ困るだけである。

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