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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十四章:じ、上等だ!纏めてかかってこいや!

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361.人間、化け物、汚染物質 part1

 有力な潜行者による独自社会が作られていたルデトロワは、政府や司法、大企業等の資本とマンパワーによって、元あった歴史を掃き捨てられてしまった。


 この街に限らない。

 かつて、世界の行く末を決めていたのは、ダンジョンと戦う超人達だった。

 だがクリスティアの世論は、ディーパーの政治的台頭を良しとしなかった。

 長い事文明の中心だった彼らが、如何にして排斥されるに至ったか?


 “平等”。

 その流行が全てを狂わせた。


 それらは人間から外れた力を持ち、個々で大きく異なり「他者と同じ」になれない者達、つまりディーパーを目の敵にした。

 運良く強い、便利なギフトを貰う事で、他と比べて稼ぎやすく、飢えにくく、死ににくい。拳銃で護身しようと、テーザーで治安を守ろうと、強い悪意さえ持っていれば、一人でそれらを無にかえす脅威。


 既得権益のうち、自分では戦闘力を持たない者達。

 自分の手には負えない力を、疎んだ為政者達。

 潜行を漠然としたイメージで、化け物が従事する化け物にとって楽な仕事だと、そう考えている多数派達。

 それらが結託して、潜行者に枷をかけた。


 「人間の手で人間の社会を」、

 そのスローガンの下でやった事は、規制の強化だ。


 民間のディーパーが自由に入れるダンジョンを極端に減らし、企業や政府の子飼い以外を経済的に追い込んだ。

 上に立つ者達に気に入られ、重用された一部を除き、潜行者の大部分は、軍属となり最前線に立つか、薄給で潜る企業所属や日雇いとなった。

 

 では潜行を職としなければいい?

 確かに、国民には職業選択の自由がある。

 だが、企業側にも採用の自由がある。

 

 魔法に目覚めてしまった者が、ダンジョン関連以外の職に就く事はほぼ無い。

 経歴に記載する義務が設けられ、それを見た採用者が書類選考の時点で落とすからだ。


 その記述は、「元マフィアの構成員」という内容と、ほぼ同じ意味になる。

 暴力的で、共感性に欠け、他人と足並みを揃えられず、社会行動に向かない。

 そういう目で見られる。


 では彼らは稼ぎ口を探して、国から去って行ったか?

 ダンジョンを止める者がおらず、クリスティアは破綻したか?

 否である。

 そうスッキリとはいかなかった。


 移民大国であり、他所から逃げて来た者も多いクリスティアでは、元からあった貧富の差も相まって、極貧層やスネに傷のある人間が極端に多い。

 彼らの多くは国境を超える力を、ここではない何処かに逃げる術を持たない。

 職能教育を受ける方法も知らない。

 その日を生きる為に、自分から潜行者になって、巨大資本に使い捨てられるしかない。


 そして上を見れば、有名企業や政府所属で名声を獲得している、成功者のディーパーが居るから、「いつかはあちら側に」という夢を見れる。

 上流階級出身者が、金とコネで経験や戦果を積んでいる、そのケースが9割9分だったが、そこに気付かない、気付きたくない者の方が多かった。


 成り上がりを目指し、その希望が逃走意欲を失わせた。


 一方、下を見れば、そこには漏魔症罹患者達が居た。

 クリスティアは、把握し切れていない者達まで含めて考えると、全人口から見た漏魔症罹患者の割合が、世界で最も高いとされる国だ。そのほとんどは、「これ以上ダンジョンに汚染されようがない人員」として、潜行の最前線で道具のように使われている。

 漏魔症に罹ったら、死んだのと同じ扱いだった。


 絶対に逆転し得ないパワーバランスも加味し、明確に見下す対象として彼らが居た事で、ディーパー達は自身の境遇を、「まだマシ」だと認識した。

 

 それら捨て駒が枯渇する事も、今の所無い。

 ダンジョンの発生頻度は維持され、新たなディーパーや漏魔症が増える。

 もし発生件数が減ったなら、必要になるディーパーも減るので、やはり不足はしない。

 


 銃器・魔力使用規制が緩いのも、潜行者の自由を意味しない。

 どころか、真逆。

 これは、ディーパーの反抗も逃避も許さない檻なのだ。



 銃は間違った権力者、ディーパーの暴走への、反逆の象徴。

 そして人の命を守るのが、模範的な魔法、ディーパーだ。


 扱いに耐えかねた潜行者が暴走する事件は、無いわけではない。

 社会構造で閉じ込めたとしても、母数が母数。爆発する人間が、流石にどこかで現れる。


 そうなった反社会的なディーパーは、市民の銃や従順なディーパーの魔法によって、排除されなくてはならないと、彼らはこう言いたいのだ。

 問題はダンジョンから、ディーパーの側から起こっている。ならそっちで終わらせろ。それまでこっちには身を守らせろ、と。


 ディーパーが定期的に問題を起こすから、それを別のディーパーに収めさせる。その為に魔力使用を認めるしかない。


 暴漢が居なければ、銃など必要無いように、彼らが大人しくすれば、市街地での魔力使用など必要ない。

 そういったロジックで、社会の不満は全て、「ディーパー」という総体に向けられる。


 しかも、ダンジョン関係に限らない。


 何らかの緊急時であれば、通りがかりであっても、ディーパーは人を助けなければならない。魔力を使う事が認められている以上、「出来なかった」は通用しない。

 対応を間違えて被害を抑えられず、もっと酷いと拡大させてしまう事まであるだろう。その場合は、もう事故に遭ったのと同じである。何を選択しても、彼らは世間から批難される。




 現代クリスティアにおいて、ディーパーに認められた行動や選択の自由は、猫の額くらい狭いものだった。




 「誰もをたいらに」という流行。

 とどのつまり同調圧力。

 それが今、この国を支配していた。


 それはディーパーや漏魔症であるというだけで、人間を他の人間から切り離す仕組みで、言ってしまえば「平等」から全力疾走で遠ざかっている。

 だがそれが止められ、正される事はない。


 多くの人間にとって得で、今の支配階級にとって楽だからだ。

 どちらかだけでも変え難いのに、両方とも満たしているからだ。


 


 ルデトロワは、そんな国に残った、自由の残りだった。

 



 かつて自動車産業で栄えたものの、ダンジョン複数同時発生の被害によって、捨てられ掛けていた街。


 ディーパー達が引き寄せられるように集い、叩き上げの民間企業がダンジョンの一般開放を続け、アマチュアディーパーの数少ない居場所となった。

 労働組合や自警団化した地域コミュニティが林立し、支え合い、助け合いの精神によって独自の掟で動き、ディーパーを最も尊重する街を作り上げた。


 だが国は、コントロール出来ない地域の存在に、我慢ならなかったのだろう。


 「治安改善」を謳いながら、元あった企業は追い出されるか買収・解体され、似て非なる方針に取って代わられた。


 今この街にあるダンジョンは、辺りを牛耳る企業群によって、ショービジネスのスターになれる事やら自由潜行やらをアピールして、流れ者や訳アリ者を呼び寄せ、暴利や契約で締め付け、二度と外に出さない罠と化している。


 また、「ダンジョンの街」と銘打った影響で、外からクリスティアに来るディーパーが、真っ先に集う場所にもなった。



 飼い犬ディーパー、捨て石ディーパー、余所者ディーパー。それらが一箇所に集められているのだ。



 そしてミシガマの州兵、街を囲む国家権力は、多くの予算と人員が注がれ、他地域と比べると頭一つ二つ抜けている。誰かが蜂起でもしようものなら、全方位から即時圧滅(あつめつ)できるくらいに。

 

 普通の人間は、ディーパー系競技の試合を見る為にこの街を訪れる。定着はしない。

 いざ有事があっても、住んでるのは化けディーパーや化けモンスターだけだ。政府の強行は、一般国民からの反感を買わない。

 戦禍が市内に留まれば、市民に被害が発生しても、批難がそこまで大きな声にならない。ディーパーが戦いの中にいるのは、当然の義務だからだ。



 政府関係者や企業の上層部等から、密かに“監獄都市”という蔑称が付けられている、それがルデトロワだ。



 ルデトロワを「安全」にした州議会の手腕が評価されているが、「監獄」の治安の良し悪しを問うのは、本来ナンセンスというものだろう。


 確かに、能力や装備が充実した州警察の活躍で、犯罪者がほぼ確実に逮捕か殺害されるので、跳ねっ返り共も委縮して、表向きには発生件数が低下している。

 すぐにリンチされるのを知っている囚人が、看守に従順になるように。


 が、(もと)より今の社会に適応できなかった者の集まり。真っ当に生きられるのは少数派で、彼らも多数派に交わって赤くなる。


他には居場所が無く、だが飼い殺しも受け入れられず、法の網目を掻い潜ってしぶとく悪事を繰り返し、見えない所で小銭を稼いで国に唾を吐き、いつか深化によって一躍大成功を遂げるか、ディーパー全ての黄金時代が戻る事を夢見て生きる。


可愛く言えば「夢追い人」。

厳しく言えば「落伍者」。


彼らは今日もまた舌打ちしながら、唯一残った財産、“仲間達”と肩を寄せ合っている。

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