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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十四章:じ、上等だ!纏めてかかってこいや!

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359.その舞台裏では…?

 テーブル席に座った男。

 生気が抜けたように、光が宿らぬ目。

 硬そうな髭に囲まれた口も、今はだらしなく半開きである。

 

「どうしたどうした。酔っぱらっちまったか?」


 ほとんど必要の無い儀式だが、それでも一応段階は踏む。


「どれ、おい、立てるか?しっかり歩けよ?」


 他の席から様子を見に来た客が近寄り、両側から二人掛かりで肩を持ち上げ、男の足を引き摺りながらも店の奥に連れて行く。

 他の客も一人、また一人と席を立ち、店内が少しだけ慌ただしくなった。


「なかなかたのしそーだったじゃあん。あんがいぃ、なかよくなれるんじゃないのぉお?」


 カウンター席に座った泥酔状態の美女が、一つの空席を挟んだ隣、ノッポのマジシャンに絡み酒をする。


「さて、どうでしょうか。僕は飽くまで、国の決定に従うのみですから」


 ショットグラスを呷った彼は、どこを見るでもなく、窓の外を眺めていた。


「どうだかあ?」

「御懸念でも?」

「さっきのあいつ、うんがいいな~っておもってにぇ~!」

「彼の実力は、今や誰もが知る所です。運が向いたのだとしても、それを逃さぬ力が」

「そうじゃないそうじゃにゃい!そっちのヤツじゃなくって」


 彼女は突っ伏しながらも、店の窓際、今は空席となっているテーブルを目だけで振り返り、


「あいつ、あともう少し戦意が残ってたら、魔力使ってたにぇ」


 相手を突っつくような声音で、そう言い切る。


「そうかもしれませんね」

「そうだよ。アタイ達の事、あぁんな熱烈に見てて、しかも度を超えた臆病だったから、あのマジックショーが変だって勘付いてやがってにゃ~!あんたがそれに気付かないわけないなぁい」

「さて、そうだとしても、僕がやる事は変わりません。ショーを遂行するのみです」

「でも、きけんブンシをこっそりしまつしてくぅ~って話じゃななかったぁ?あんなに圧かけて、逃げられちゃだめだよにぇ~?もう少しで、攻撃のコウジツができそうだったってのにぃい~」

「功を焦ってしまいました。相手をコントロールする為に、手綱を握りに行ったのですが、少々力づくに過ぎたようです」

「あんたが、力を、()()()()()ぁ~?ニハハハハ!ナイスじょーく!」


 奇術師は風に逆らう事なく煽られ、決して不可解な揺れを見せなかった。

 申し開きの要も、後ろめたい感も、一切持っていないように見えた。


「そんな事より僕は、ショーの開催それ自体に驚いています」

「んぇぁぇ~?」

 

 彼女は身体を起こした、と思ったら今度はカウンターを背凭れにして、天井を見上げながら脱力した。


「僕と、あなた。条件付きとは言え、能力使用の承認が、国連から下りるとは。まるで大きな勢力が、横車を後押ししたかのように」


 「例えば、彼の保護を決めた、世界宗教ですとか」

 焦点も合わせず、ただ景色に没入しながら、彼は彼女に分かり切った事を訊ねる。


「とーぜん、ウチのプロデューーース」


 彼女もまた、あっさり関与を、それどころか主導を認める。


「てっきりあなたの国は、プランβ(ブラボー)の再発動を狙っているものかと」

「そっちにハケンにぃぎらせたままなのが、イヤ~んなピト達もいるんだよにぇ~。“う゛ぁるきゅりや”って杭を叩いたらぁ、今度は親聖と反聖でファイッ!ってなっちゃってさぁ~!」

「その隙に、あなた方が権威とディーパーの武をちらつかせ、彼の保護へと舵を押し切った、と」


 クリスティアと同じく脱ディーパーを掲げている、ように見える東洋の大国。

 だが世界最大面積を誇る彼らの国政からは、聖国クリスティアと比べると潜行者の影響力は抜けきっていない。


 20世紀末に旧ナロド連邦が崩壊した時、帝政復古を謳った勢力が救世教会と手を組み、一大派閥を築いた。

 彼らは皇族、貴族、そして有力宗教家であり、つまりディーパー勢力の総本山だったのだ。

 国際同連安全保障理事会、略称UNSCの補助機関、WDAこと世界潜行協会。そこに深く食い込んでいるのも特徴と言える。


 ディーパーを旧時代の遺物にしようというAS計画。それに懐疑的であったり、不都合を覚える者達も、政治や経済の世界で一定以上の発言力を持つ国。

 だからこそパワーゲームの加減によっては、「この前殺しに掛かっていた相手を、護る側に回ってしまう」、という卓袱ちゃぶ台返しが起こる事もある。


 「国家」と一言で称していても、それは無数の意思のせめぎ合いなのだ。


「つぅかぁ、そっちぃこそどおなぁん?プランぶぅらーぼぁって、考えたのはあんたらじゃぁん」

「ええ。彼にこれ以上、名を売られてしまうのは困ります。認めましょう」


 が、


「彼が残るにしろ姿を消すにしろ、国家はその後までを見据えなければなりません」

「あぁ~……!」


 得心がいったような声を上げる彼女。


丹本ヤィーポンから、何かいわれたぁ?」

「先日の10ヵ国首脳会談で、大々的に」

「あずけたこどもたちをぉ、きずつけるようなことするなってぇ?」

「警備計画から本戦会場における導線まで、未来の担い手の皆さんを預けるリスクと対策について、事細かに聞かれたそうです。我が国の代表は、威信に懸けて彼らの安全を確保すると言い切りました。何か不備があれば、牙城を崩すいっけつになりかねません」

丹本ヤィーポンに、あんた達を追い詰めるちから、あるかにぇ?」

「どの国の子どもに危害が加えられたとしても、少なくとも会談に立ち会った国々は、こちらに集中攻撃を仕掛けるでしょう。国際社会では、優位を取れるに越した事はありません。それが相手から出してくれた尻尾なら、遠慮なく鷲掴むでしょう?特に、あなたの故国は」

「まぁ~、そちらさんとはぃいっつもギスって、仲良くなれないからにぇい」


 ディーパーとの共存社会から、AS計画後の完全民主主義へ。

 その移行を他に先駆ける事で、世界最強の地位を保つ。

 他国にはAS計画の恩恵を、一方的に売り付ける事で、味方にしつつ“下”に引き込む。


 時代に取り残されないように、渋々帯同している国がほとんどだ。

 足を引っ張り足並みを横に揃えさせる事が出来る、その機会を虎視眈々と窺っている。


 今クリスティアの沽券に隙を開けるのは、宜しくない。

 「覇権」とは最高の国防だ。戦わずして多くを守れる。

 だがその玉座にしがみつくには、時代と共に変化を、否、変化の時代を自ら先導する必要がある。


「プランβ(ブラボー)は飽くまでも『保留』です。それが再始動するのは、いつどこであってもおかしくはありません。ただし、それがこの国であってはならない」


 あの少年への有事は、クリスティアの中でだけは、起こってはいけない。

 少なくとも大会期間中は、彼に一切の危機を近づけてはならない。

 それこそ、この男が実戦に出て来た事実は、相当な本気度を表している。

 

「ほんんとかにゃ?」

「何が、でしょうか?」

「あんたがノコノコでてくんのを、かんたんにみとめる国じゃないでしょお~?」


 本名も素顔も非公開とされている彼は、その情報が割れるリスクを冒してまで、ここに来た。


「ラミア・ムムムが、そんなにきになっちゃぁあ?」

「どうでしょうか」

「さっき、ししょぉうヅラしてたぁのは、あれはにゃにぃ?」

「ちょっとした興味、それだけですよ」


 男は席を立ち、くるりと四半回転。

 女に背を向けバックヤードに歩いて行く。

 その先に待つのは、ロイヤルブルーのスクラブ姿の数人。

 内一人は、袖を通さず見せびらかすかのように白衣を羽織っている。


「おい、“確孤止爾アトモス・スフィア”」


 彼女は身を起こし、しっかりとした口調で問う。


「本気でやるつもりか?あんな巫山戯ふざけた未来図」


 男は半ばまで顔を向けて答える。


「言うまでもない事ですよ、“全仇冬結スノウボール”。僕の、僕達の、悲願ですから」


 前髪が隠した事で、表情は一切読み取れなかった。


「どうだか」


 彼女の呟きを聞ける者は、初老のマスターくらいしか残っていない。


 さっきまで半分以上が埋まっていた店内で、


 今は閑古鳥が鳴いていた。

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