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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十四章:じ、上等だ!纏めてかかってこいや!

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358.なんだこの高スペックイケメン!?

「凄かったです!なんかもう……とにかく凄かったです!」

「恐縮です。ミスター・イステン」

「ニッハハハハハ!だぁからいったろー?こひつ良い腕してんだってぇえ~!」


 謎のお姉さんに連れ込まれた酒場で、突如始まったマジックショー。

 他のお客さんが凄く驚いていたわけでもないから、元からそういう出し物をやるお店だったのだろう。


 そこで、こういう系では王道中の王道、人体消失マジックを見せて貰った。


 いやー、良いモノ見れた。

 テレビや動画で見るのと比べて、語りや仕草に妙な迫力を感じたし、何よりその手際の鮮やかさ。


 映像だと撮り方とか合成とかそういう可能性が頭をチラついて、素直に楽しむ事が出来ないのが、デジタルネイティブの悲しいサガ。

 だがリアルで見せられると、反論の余地無く消えているようにしか見えないから、裏の絡繰りの事なんて、頭からスポンと叩き出される。


 さっきステージを見せて貰ったけど、前からは見えない穴が開いてるって感じではなかった。スライドで開くようなタイプかもしれないとも思ったが、パッと触った感じでは切れ目みたいなのを発見できなかった。


 それに、再出現が説明出来ない。

 すっごいジャンプしたにしても、あんな静かに、スイッチを切り替えるようにパッと現れるなんて、なかなか難しい事だと思う。

 ダンジョン内の俺がやろうとしたら、もっと躍動感溢れる絵面になっていた筈だ。


 マジシャンは視線誘導が得意だって聞いた事もあったから、逆張りして鳴らされる指じゃなくて、シーツの後ろ側に注目してたけど、収穫無し。

 後ろまでしっかり垂れ下がってたし、下に落ちる以外の運動をしてなかった。鏡のトリックみたいに、密かに奥に引っ込んだわけでも無いって事。


 本当に分からん。

 設備的な物だとしても、ここまで巧妙に隠されてるなら、もうお見事としか言いようが無い。


「御見逸れしました……」

「ミソ……?ここではソイの取り扱いは……」

「ああ、じゃなくて、すいません。少ない語彙力から無理に捻った事言おうとして、事故りました」


 更に驚いたのは、この手品師、なんか普通に丹本語が話せる事だ。

 なんで?


「ちょっとした事情が御座いまして。丹本語の論文などを読み込む必要が生じたので、その時に」

「へ、へぇえー!?論文読み漁れるのも凄いのに、母国語以外で書かれてるヤツを!?」


 しかも、ネイティブ以外からは「ムズ過ぎ死ね」と言われがちな、丹本語を。

 ってか丹本人から見ても、「ムジィよ死ね」と思うタイミングがちょくちょくある。

 学術書とか読むとマジでわけわからんくなるからな。知らん単語を知らん単語と知らん概念で説明するな。何一つ分からんだろうが。


 外国人の方からすると、暗号解読みたいなものだったのではなかろうか?

 その結果こうやってスラスラ会話出来ているんだから、努力と執念、勤勉さの勝利である。俺も見習いたいけど………流石に気が遠くなる境地だ。


「マジシャンの方って、そういう理論とか結構必要なんですね。身体技術とか視線誘導をガンガンに使いこなす人達だと思ってました」

「その認識に間違いはありません。ですが、体がどのように動くか、心理をどのように掴み引くか、そこにもまた、『理論』がありますから」

「た、確かに……!」


 浅はかな質問でした。


「って言うか、お兄さんは、このお姉さんと知り合いなんですか?」

「アイン、とお呼び下さい。彼女とは浅からぬ因縁がありまして」

「かおああせはぁ、きょぉうがはじめてぇ~!」

「え、そうなんですか?どういうお知り合いで?」

「あいあいあ~!」

「もう人間の言葉すら手放しちゃったよこの人」

「いいえ、それは高山地帯に住むアリアリット族と呼ばれる人々が操る独自言語、アルアリ語ですよ」

「え!!?そうなの?!!?」

「無論の事、真っ赤な嘘です」

「何で今嘘吐いたんですか!?」


 なんかウィンクされた。

 ドチャクソにキマってるけど、そう言えばこの人酒飲みお姉さんと知り合いなんだった。こっちもこっちでなかなか一筋縄ではいかないみたいだ。


「って言うか、普通にカウンター席に来たんですけど、それは良かったんですか?この後のお仕事とか……」

「お気遣い御無用。このようにお客様を楽しませる事が、今の僕の仕事ですから」

「かっけぇー……!」

 

 背がべらぼうに高いのも合わせて、理想の大人だ。

 きっとこの人みたいに、飄々と余裕を持ってペースを浚って行くというのが、カンナが俺に求めている資質なんだろう。


 さっきの独壇場では、店内を完全に自分の世界にしていた。

 掌の上で、振られるままに目線をあっちへこっちへ。

 で、気付いたら瞬間移動したかのように、音も無く色んな物が動いたり消えたりしてるのだ。


「場を掴む、か……」


「ご興味がお有りで?」

「ある理由で、そういう事を出来るようになりたいんです。それに、僕もその、エンターテイナーの端くれなので……」

「素晴らしい。熱心な後進には助言を差し上げるのが、先達の役目というものでしょう」


 アインさんは人差し指を立てて、


「満身の力を籠めるより難しい事は、何だかわかりますか?」


 指先の上で、俺と彼の目線がぶつかる。


「力の籠め方を、調整する事、ですか…?」

「少し惜しいです。そのアイディアを、よりシンプルにして下さい」

「シンプルに…」

「『調整』の、どの部分を、あなたは難しいと考えますか?」

「細かく使い分ける思考力……、いや、思考を実践する肉体操作……、えっと、」


 力を入れたり抜いたりして、

 部位によってそれをグラデーションさせて、

 あ、


「力を入れるのは簡単だけど、力を抜くのは難しい?」


 アインさんはニヤリと笑う。


「注意、注目、注力……。私達は、重要な物事に対して、本気で取り組む能力を持ちます。しかしそれは、時に生存本能のレベレで、自動発動されてしまうものです。そこから故意に『抜く』というのは、存外大きな課題なのです」


 気付くと、俺の目線は左を向いていた。

 彼が指を動かして、それを目で追っていたせいだ。


「反射的反応、それは最速の行動であり、競争を有利にするでしょう。しかし、人を自由には致しません。それどころか真逆、カッチリとしたパターンに沿った、レールとして機能します」

「状況に応じて、反射のオンオフを切り替えないといけない、って事ですか?」

「生理的反応や不随意運動まで、その全ての入力の有無を掌握できるならば、それは完璧な精神が操る完璧な肉体であると、そう言えるのではないでしょうか?」

 

 力を、抜く、か。

 確かに、シャン先生やカンナに教え込まれた、特に呼吸に関する話。

 それらをマスターしきれていないのは、実行しようと気合を入れ過ぎるあまり、力を籠めるばかりになっているからじゃないか?


「どうでしょう?お役に立てる情報だったでしょうか?」

「はい……!なんか、ちょっとだけだけど、分かって来たきがします…!」


 意識して治そうとすると、そこに力が入る。

 自然で当然、だから気付かなかった。

 

 その自然に抗って、意識しながら力を入れない、逆に抜く。

それこそが超えるべき壁なんだ。


「ありがとうございます!早速色々試してみます!」

「僕の導きが、あなたにとって祝福となる事を、心から願っています」

「きっとそうなります!まだまだやれる事があるって、視界が開けた気分です!」


 俺はマジックショーへの投げ銭分を乗せた料金を払って、店を後にした。

 お姉さんはなんかグダグダしてるし、もうコミュニケーションが成立しなかったので、そのまま置いて来た。


 掴んだ。

 毎晩の悪夢に、光明が射した!


 そう思ってウッキウキでベッドに入ったその晩の俺は、普通にカンナについばまれて終わった。


 あれぇ!?


 まあ、いきなり実行できるんだったら、奥義みたいな扱いはされてないよねそりゃ。

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