355.え、あ、そういう感じ?まあ慣れてるからいいけどさ part2
「Hey, Jipanese!」
笑いの余韻を引き摺りながら、リーダーが俺を呼ぶ。
そして両手の人差し指と中指を伸ばして口に入れ、左右の頬を真一文字に引っ張って、
「yeiiiiii!」
歯磨きのお手本みたいな顔を作った。
「?」
「yeiiiiii!chiiiiii!nyiiiiii!」
「????」
首を傾げて見せても、なんか内輪で頭を叩き合う、どつき漫才みたいなノリをやるだけで、特に説明してはくれなさそうだ。
『あっ』
『あっ・・・スゥゥゥゥ・・・!』
『クリカスさあ…』
『えー、クソです』
『センシティブネタやめてね』
『ススム、そいつら敵だ』
『今すぐ逃げろススム』
『やっぱりな、俺はどうも信用ならないと思ってたんだよ』
『後出しじゃんけんニキは今座ってて、それどこじゃない』
『人種差別先進国がよ…』
『に、丹本も人の事言えんから…』
『“一部の人”だけらしいから…()』
『刺青入れたら普通に親に泣かれる定期』
『さっきまでクリスティアの素晴らしさ語ってたヤツ、冷えてるかー?』
『っぱ墨入ってるヤツはダメだわ』
しかもコメント欄が変な加速を見せる。
内容はと言えば、ポジティブな盛り上がりって感じではない。
有り体に言えば「荒れ」かけている。
「ちょっ、皆さん?大丈夫ですか?どうしました?」
「Hey!」
ススナーにワケを聞こうとしたが、その前にリーダーが端末をこちらに向けるのが速かった。
『すいません。よく聞き取れませんでした』
「え?あれ、もう一回言った方が」
地面に何かが叩き捨てられ、踏み潰された。
俺がさっき渡したドーナツだ。
『本日の収穫の半分、それで良かったでしょうか?』
「うぇえ?」
『よろしいですね?』
さっきまでコア回収に回っていた人達が、みんな立ち上がって俺を向き、魔具だとか銃器だとかを向けている。
『すいません、返事が良く聞き取れません』
「うあー……」
下顎の力が抜けた状態で、キョロキョロと見回した俺は、
「そういうこと?これもしかしてカモられてます?」
取り敢えずコメント欄に見解を求めた。
『はい』
『うn』
『ええ、まあ』
『カツアゲされてますね』
『こーれ黒です』
『教えてあげようススム!さっきそいつらがやってたギャグは良くないんだ!央華語によくある発音と「とりあえずニヤニヤしててキモイ」っていうステレオタイプを合わせたサベツパフォーマンスなんだ!』
『サンキュー解説ニキ、ふぁっきゅークリカスドブカス』
『ススム、久々だな、お前が配信上で他ディーパーに喧嘩売られるの』
『低ランク狩りのおっさんってどこにでもいるんやな』
『むしろ治安は悪いってあれだけ』
「えー…?困ったな…」
『困ったなじゃないが』
『ススム、軽くない?』
『ススム、危機感ぶっ壊れてないか?』
『深級深層経験者の余裕』
『まったく響いてねえ!』
『今ドギツいヘイトを受けてんの分かってるかススム?』
『強者ムーヴやめろ』
いやね?顔が良く見えないせいで、馬鹿にされてるのに気付くの遅れたのは、まあちょっと「弛んでるぞ」案件なんだけどね?
見縊られるのは今更だし、逃げようと思えば普通に逃げられるし、そんなに大変な状況でもないし……
ドーナツを台無しにされたのは悲しいけど、触れた物を捨てられる経験なら、小中学校で通った道だ。
俺の消しゴムが「ローマン菌」とか言われて、触れたらアウトな鬼ごっこの道具にされ、キモイ虫みたいにキャーキャー言われて、クラスの中であちこち押し付け合われてた記憶も………本気で悲しくなってきたからこの話やめようか。
要するに、最悪実力行使も出来るくらい、包囲がなってない、って言いたい。
カメラを破壊しようとチャンスを窺ってるのがいるから、そいつからは目を離さないようにしないといけないけど、それ以外は立ち姿から隙だらけで脅威を感じない。モンスターと比べるとまだまだ可愛いくらい。
ただ、変に騒ぎを大きくして、出禁とかにされて、「素行不良者」として免許返納とかになるかもってのが、ちょっと怖い。クリスティアはダンジョンの管理が厳しめなので有名だし。
どうだろう?別に稼ぎ自体には余裕あるし、あんまり惜しくもないから、言い値を渡してもいいかもしれない。衝突を避ける方向で行くか。
「うーん。まあ迷惑を掛けたのは本当ですし、払う物払って見逃して貰う方向で——」
「ちょっとちょっとちょっともう!なぁにやってんのかなぁこれぇえ~!」
驚いた事に、その声は丹本語だった。
俺の前に並んでいたパーティーが、一斉に後ろを振り返りながら、割れるようにして発信源から遠ざかる。
立っていたのは、白いフルプレートアーマーを引き連れた、白ベースに水色光沢が入り、双頭の猛禽のロゴが入ったジャンパーを羽織る、ヘソ出しホットパンツのお姉さんだ。
凍った大河の如きウォーターブルーの長髪は、頭から腰まで体の右側に寄せ上げられている。ギザギザして斜めっている前髪の下、雪原にも見える白肌は、暑い赤らみを内から湧かせ、青い目は半分程目蓋に隠される。赤いリップがしっかり塗られた口に、スキットルの先を挿して喉を蠕動させているのを見るに、
この人飲んでるし、酔ってる。
「おにぃぃ~さん方、あれだ?戦力のけーさん、間違っちゃうタイプだぁぁよねえ?よくもまあこんなに書き割りばっかりぃ……え?なにぃぃ?」
円形のバイザー、円がデザインされたサーコートを身に着けた甲冑姿の一人が、彼女に何か耳打ちする。
「言語ぉ?いーでしょべつにぃー!ノンバーバルコミュニケーショォォン!身振り手振りがあれば、言いたい事は通じるよぉお!ホラぁ見てよあの、話しが通じない酔っ払いを見る目ぇ……あ、通じてない!これ通じてないわ!ニハハハハ!つーじてないよこれぇ!ぜぇんぜん話になってないよぉ~!おっかしぃ~!?ニッハハハハハ!」
なんか一人で勝手に喋って、勝手に笑い始めた。
まあその、丹本語話者の俺から見ても、話通じなさそうだし、英語話者から見れば4割増しで怖いだろう。
何よりなんでこの人、ダンジョン内で飲んだくれてられんの?その神経に一番ビビってるよ?俺が。
「まあいいじゃん!こいつらってどうでも!私が話したいのわぁ……」
「それじゃあ僕はこの辺で……」
「おーいファミザスサムぅ?」
「知らない名前ですね。というわけで僕はこの辺で」
「しらばっくれるなよおいファミリー・ザ・スタブ」
クソッ!しれっと先に行こうとしたのに凄い勢いで肩組まれた!知らんふり出来ない!いきなり低い声ださないでコワイ!ってかサッム!?肌冷た過ぎだろどうなってんだ!?あと誰だよその暗殺一家みたいな名前のヤツ!?
「アタイ、あんたの守護天使サマだよ?拝みなさいよぉ~。天使……ブハッ!ニハハハハハ!てんしだって!似合わねー!」
だから一人で喋って一人でウケるのやめて!
ってか酒臭っ!
本当に誰だよあんた!?




