355.え、あ、そういう感じ?まあ慣れてるからいいけどさ part1
彼ら視点に立って思い返してみると、仕方がない部分が多過ぎる。
ダンジョン歩いてたら戦闘をしている気配があり、ディーパーなら鉢合わせを避けようと陰から様子を窺ってみたら、背を地に着けながらC型に圧し掛かられてるわけだから。
普通に避けて上から叩き壊せる戦闘力を持ってる奴が、配信の見所作りの為に下から倒すのを試しているだけなのだと、どうやって想定しろと言うのか、という話である。
そりゃ緊急時だと思って、慌てて乱射もしよう。助けてくれようとするだけ、親切な対応だとすら言える。
『そんな事とは知らず、横入りしてしまいました。申し訳ないです』
「いえ、謝らないでください。完全に俺の遊び心が原因なんで……。すいません紛らわしい事して…」
『大丈夫ですよ。お怪我がないようで何よりです』
潜行用スマート端末に入っている翻訳ソフト越しに、俺とマグナムの人——見た感じ向こうのパーティーのK——で互いの事情説明を済ませた。
第一印象ではちょっと気後れしてしまったが、大柄な相手に感じるいつものコンプレックスだったのだろう。普通に良い人達だった。
魔具とかには見えないピアス系のアクセサリーとか、僅かに見える手首とか、髪が剃られた後頭部とかの肌から覗くタトゥーっぽい模様とか、確かに腰が引ける要素が沢山あるけど、特に危害を加えようとしてくる気配もない。
ツボが浅いのか何かとゲラ笑いを交えて話してくれるし、配信中だと説明した時も嫌な顔一つせず、何ならカメラに向かって手を振ってくれたくらいだった。
ファッションが丹本基準で尖ってる事を気にしなければ、社交的で気さくな感じさえする。
海を挟んだ事で、価値観とか感覚がズレてるとか、入れ墨を気にするのは丹本だけとか言われる事もあるけど、本当にそうなのかも。
「あ、そうだ!」
俺はバックパックの中を漁り、金属製の容器を取り出し、開いて中の物を取る。
「これ、良かったらどうぞ」
3時のおやつ用に買っておいたドーナツだ。
なんでドーナツかって?なんかこう、クリスティアの映画だとピザとドーナツのイメージがね?
楽しみにしてたカンナには悪いけど、迷惑掛けたしこれくらいは……あ、でも、この人数にドーナツ数個は、逆に困るかな?
俺の懸念が当たってしまったか、受け取ったリーダーは渋い顔をしてそれを矯めつ眇めつした後、
『ところで、モンスターコアの配分についてなのですが』
話題を強引に変えた。
「あ、はい。この辺りに落ちてるものは、全部持ってっちゃってください」
ちょっと思い切り過ぎな気もするが、そうすればほぼ確実にトラブルにはならないだろう。
「C型を倒したのは皆さんですし、ご迷惑をおかけしたきっかけは僕ですので、詫び賃も兼ねていると思って、どうぞ受け取ってください」
俺がそう言って、端末の電子音声が翻訳文を読み上げると、それを聞いたマグナムの人は少しだけ固まり、画面に顔を近づけ文字で表示されている文章を数度目で辿り、
「ググフッ!」
吹き出すのを噛み堪え、
「グワハハハハハハハハハハハッ!!」
それでも我慢しきれなかったようで、今までで一番の爆笑をし始めた。
パーティーメンバーの肩を叩きながら何か言って、後ろの全員にお笑いムードが感染して行く。
バイザーで目が隠されてるから、細かい機微が分からなくて、何がどうウケたのか分かりようがないのが、なんとも落ち着かないけれど……ま、いっか。満足行かなかったわけでもないみたいだし、話が拗れる感じではないようだと胸を撫で下ろす。
『ノリの良いニキネキ』
『クリスティアンなノリの本場』
『ススム、お前のオモロは海外でも通用するぞ』
『才能発掘バラエティに出ないか?ススム』
『人種の垣根とかを感じさせないフリーダムさは坩堝国家っぽい』
『俺のトラウマに効くから強者男性に囲まれて笑われる映像はもうやめないか?』
『いじめられニキ元気出して』
『陽キャ囲まれ怯えニキネキはススムの肝の太さに癒されて♡』
ディーパー同士のいざこざに発展しそうだった事もあって、コメント欄はそこそこ盛り上がったが、中には怖がってる人もいた。
主題は潜行だし、あんまり長引かせるのは良くなさそうだ。
そろそろ話を切り上げて——
——あ!
そう言えば、
ウチには便利な翻訳機が居たじゃん!
教えてくれるか分かんないけど、なんでそんなに面白がられてるか、それくらいなら分かるかもしれない。配信で喋る話のネタになるかもしれないし、訊くだけ訊いてみよう。
そう思って彼女をこっそり見上げたその時、
追い着いて来た外の冷気に、頭をガンと叩かれた。
俺の脳はまず、そう考えた。
すぐにそれが、事実と異なると気付く。
ただ寒気が走っただけであり、体は何の温度低下も捉えてはいない。
脳だけが急な脅威を錯知し、回路を冷却しようとしたのだ。
俺が見たのは、モノクロの中に一点曜く、橙色。
だけど、そこには熱が、
炎はおろか、ろうそくの火にも満たず、人肌から漂い出る程の照温すらなかった。
つまらなさそう、とも違う。
高山の頂上、肌をかじかませボロボロと崩す風の中、ドライアイスの氷柱で心臓を刺して、冷えた血液を全身に廻されるかのような。
侮蔑。
カンナが作ったその視線が、俺のものと合わなくて良かったって、心からそう思う。
彼女にそうやって見られたら、俺は人目を忘れて歯をカチカチ鳴らし、腰を抜かしながら涙と鼻水を流してたかもしれない。
彼女が見ていたのは、俺と対面している相手方のパーティー。
いや、対面と言うと正確性に欠ける。
厳密な話をすれば、コアの回収の為に何人か、ここから見て色んな方角をウロウロしているのだから。
俺を中心に囲うようにして。




