高空での死闘
〈レレレレレレレレレレレ〉
吹き荒び、渦巻き、引っ掻き回される大気。
風、空気の移動。
それが破壊の領域へと突入し、地を抉り、剥がし、打ち上げ、叩き下ろす。
〈レレレレレレレレレレレレレレレレレレ〉
細切れに、
粉々にする。
それ以外に、考えられない。
大気が得た破壊衝動は、地球を割って裏返すまで、止まる事は無いかに思えた。
〈レレレレレレレレレレレレレレレレレレレレレレ〉
「ひあぁっ!?ひいいいああ!!」
膝で地を掘り爪に土を食わせ、屈み縮こまっている矮躯。
天地の衝突を、世の終わりを目の当たりにして、
彼は初めて暴力よりも、知られざる神秘を仰ぐに至った。
〈レレレレレレレレレレレレレレレレレレレレレレレレレレ〉
気圧と温度で浮き固まる雲霞。
それが漏斗のような形を作り、岩盤を掘るかのように回転する。
遠目にはゆっくりと浮かび這うバルーンに見えなくもないが、見縊って触りに行った者には、更地を塗り固める材質に混ざるという、新しい役割が遠からず与えらえる。
母なる地球と一体になりたいなら、それを選ぶのも名案となるかもしれないが。
〈レレレレレレレレレレレレレレレレレレレレレレレレレレレレレレ〉
〈何ですってえええええええ!?〉
その中に、灯り。
遠い円周を描く燈火。
全長10メートル前後。
四足、或いは二足二腕。
流線と鋭角、岩のような身幅を持つシルエット。
太い尻尾も煽られ跳ねる。
5本いずれも、空を切っていた。
宙以外の、何も触れていなかった。
〈うぉおおおあああああ!放せええああああ!!〉
それが発した声からは、窮地に陥っているのが分かった。
尋常の生命では生存困難な熱を、体表からメラメラギラギラと沸き光らせて、
けれどもしかし、空を自由に飛び回れはしないようだ。
こうなった時点で、そいつの敗北は決まったようなものだった。
地に届かなければ、その重みが通用する相手でなければ、本領を一切発揮出来ない。
〈出ない、だと…!?手も足も尾も…!このワタクシが…!〉
回され、遠心力で中身を溶き卵にされるか、
瓦礫や岩との激突、そして墜落の憂き目に遭い破砕するか、
どんなに硬い鎧も逃れられぬ摂理によって、バラバラにされるか。
命運は決まり、
後はそこに到る道を選ぶだけ。
〈レレレレレレレレレレレレレレレレレレレレレレ〉
〈こ、この、このワタクシがああああああ!!〉
犬搔きでもするように四肢を回して、背中から溶けかけた焼石を噴き出して、何の助けにもならなかった。
地上にあるものが全て豆粒に見える。
断頭台の上でギロチンの刃が登って行くのと、同じ状況だと言えた。
何故、こうなっているのかと言うと——




