閑話.“モンスター”って何だ? part1
「モンスターコアを?」
「うん。単純に、活性化だけさせる事って、出来ないのかな?」
全国大会がひと段落して、いよいよWDA主催の世界トーナメントが見えて来た頃。
俺は天上パーティーとの戦いの中で、改めて思い出した疑問について確かめてみようと、新開部が誇る頭脳である殊文君に相談していた。
「エネルギー刺激を与え、増幅等も無しに魔力放出状態にする、という意味なら当然可能だが………」
「それをやってみて欲しいんだよね」
「日魅在先輩には、何か考えがあるのだろう。よし、試行は回数とパターンを重ねる事で意味を為す。是非験してみようじゃないか」
という事で、新開部員の人達協力の下、実験設備が整えられた。
と言っても、モンスターコア分析の為に、魔力抽出をする機構に、少し手を加えるだけ。
ただ、実験室内の人員については、俺以外には誰にも入らないようお願いした。モニタールームがギチギチだろうけど、そこはごめんなさいとしか言えねえ……。
因みにガネッシュさんは今居ない。
と言うかあんなに長い間居る方が普通におかしかったのだ。
多忙なのを誤魔化し誤魔化し居座ってて、とうとう首が回らなくなった、とは本人談。
自由な人だけど、自由過ぎて色んな物に手を出して、結果あちこち行かないといけなくなってるらしい。
今日来てるのは、生徒だけである。
ミヨちゃんはまた俺に穴が開いて、その時先生が近くに居ないと、少しだけ心配していたが、必要な事だからそこは譲って貰う。
『こちらは準備完了だ』
「うん、こっちもいつでも始められる」
俺は体内魔法陣を第二段階まで進め、その状態で合図を送る。
『それでは起動する』
「ひゅ、ぅぅぅううう…っ!」
殊文君の言葉と同時、全霊探知状態に移行開始。
暫くして、と言っても時間感覚がバグり散らかしてるから、具体的な秒数が分からないけど、兎に角そう長くないインターバルの後、室内の微生物まで見えるくらいになる。真っ白な内装には殺菌触媒とかを使ってるらしいけど、それでも殺され漏らしてる奴らとか、あと単純な埃みたいなフワフワしたものが、チラホラ漂っていた。
そして——
——やっぱり。
俺は苦労して、そっちに歩く。
思ったより足が高く上がる。
いや、そう感じるだけで、歩幅とかは変わっていない筈だけど。
俺が目指すのは、モンスターコアが嵌められた例の装置。
キャニスター付きのコピー機みたいな形で、上にコアをセットするスペースと、それを蓋する透明な板がある。
その中のコア。
そいつが——
——生きてる?
遠征の時にチラッとだけ意識に登った、不思議な気配。
天上戦で、全霊探知モードになって、それをまた感じたのだ。
恐らくシールド発生装置の辺りが、出所だと思われる。
だから、それがジェネレーターだけの現象なのか、コアの方に原因があるのか、それを調べたかった。
これで分かった。
コアだ。
何故か俺は、これをモンスターと同じように認識している。
単に魔力だけなら、そうは思わない。
魔力で作られたM型の矢とか弾とか、寿さんの子鶴とか、そういうのはなんと言うか、ただその場で作られた塊だって分かる。眷属でさえそうなのだ。内部の複雑さとかは、関係無い筈。
分からん。
なんでコアだけの奴が、生き生きして見えてるんだ?
多分、何か思い込みのドツボにハマって、幾ら考えても分かんなくなってるんだと思う。
今の俺には泣いても踊っても良い答えは出ない。
ってことで、
「殊文君!ちょっと聞いて欲しいんだけど!」
分からない事は人に聞きましょうねー?
いやあ、自分より頭が良くて頼れる後輩というのは、本当にありがたい。
先輩の威厳?俺にあると思うのか?そんなものが。
「コアのみでモンスターの気配を発する、か」
全員で実験室側に移ってからのかくかくしかじかタイムが終わり、殊文君がシンキングモードに入った。
「モンスターの魔力生成物からは、また違う感覚を得る、というのは間違いないか?」
「うん、そこは信用して欲しい」
まあ徹頭徹尾、俺の主観オンリーな話なんだけど。
「モンスターと、魔力の塊の違い…」
「生命エネルギー、みたいな話かな?」
「それをどう定義するんだ見世物女!魂だとでも言うのか?じゃあそれはなんだ!」
「それを考えてるんですー!おニク先輩も何かアイディア出して下さい!」
「んぐむっ、それは……八守ぃ!何か無いか!」
「全然分かんないッス!“チチンプイプイ”ッス!」
「“珍紛漢紛”と言いたいのか八守ィ!」
「それッス!」
「今の良く分かりましたね……」
「敏感チビ!もっと何か無いのか?感じ方の違いが分かるのはお前だけだ。言語化しろ!」
「変にうるさいって言うか、奥行きがあるって言うか……」
「何も分からん!お前それでも配信者か!」
「ススム君はそういう所も人気なんです!食レポシリーズの切り抜きとか見て下さい!」
「分かる人の語彙が死んでるせいで、人類の発展が遅れそう、とは愉快だね……」
「ごめんって……」
なんかこう、構造が……いや、そうでもないな。モンスターの体内に魔力をぶち込んだ経験も多い俺から言わせて貰うと、ダンジョンによって奴らの造りは結構違ったりする。そこを共通項として見てない。だいたい、コアだけになったら体内構造もクソも無い。
「って言うか、コアがそもそもよく分かんないよね…。魔力が結晶化した物っていうのが通説だから、魔力エネルギー説論者の人達の混乱の元になってるし」
「あー、それは聞いた事あるかも」
「カートリッジ加工が高値である理由も、技術がブラックボックス化しているからだと言う話が」
「ブラックボックス!そうか!」
お!なんか殊文君!今の探偵っぽかった!
「何か思いついたのか!?」
「日魅在先輩!もしかしてだが、あなたは魔素を感じているのではないだろうか!?」
「魔素を……?あ、」
あ!ああー!でも確かに!
モンスターは魔素を生成する機能を持ってる!
魔力と魔素がセットで出て来てる状態を——
「ん?でも、ダンジョン内は魔素が一杯あって、それでも魔力生成物とモンスターの見分けが付くよ?」
「内から湧いてるかどうかなのか、それとも魔素の中にも区分があるのか……。しかしこの仮説には頷ける部分もある!」
彼は部屋全体を示すように両手を広げた。
「ダンジョンコアに多重魔法陣を噛ませ、数百の処理を施す事で、その魔力を魔素に還元出来る!それが人工的ダンジョン型空間を形成する理論、だとされてきた!しかし!」
「コアは魔力と、魔素をも放出。魔素生成技術は、魔力を魔素に戻しているのでなく、元から出ていた魔素を増幅・操作していた、と?」
「そうだ良観!どのようにしてコアから魔素を作れるのか、長年の疑問が氷解する!そもそもモンスターコアとは、そういう働きを持つ物だった!そういう辻褄の合い方をする!」
「確かに、取り敢えず使えるからで放置されてた問題が、なんか分かりやすくなる……」
「待て!順番が逆なのは変わらんぞ!コアは魔力の塊で、そこから魔素が作られているというのなら」
「違うんだおニク先輩!「おニク言うな!」順番は、《《合うんだ》》!コアは魔素を作るとして、そこから魔力が出ているという事実がある!コアは何かを一度忘れて、もう一度考えてみろ!どっちが先だ?」
「コアは魔素を作って、そこから魔力を作る?」
「人工的ダンジョン型空間は、魔素だけ出してそこから魔力を作らないように操作してる、ってことになるのかな?」
まさにモンスターが持つ機能の、中枢を担っている部位。
「コアとは、そういう機構だ。外部エネルギーを源として、魔素を作るシステム!そしてこの小さな物体の中に、ある種の構造がある!そこを魔素が通る事で、魔力が生まれる!」
つまり、
「これはモンスターの、体内魔学回路だ!」
と、考える事も出来る程度の話。
だけど、どんどん組み立てられてしまう。
まだ根拠薄弱も良い所だけど、でも出て来る話の納得感が、俺達を魅了してしまう。
仮想の土台を一つ置くだけで、その砂上に御殿が建立される。




