349.何して来るかなんてお見通しだ!………俺の友達がな!
甲都遠征でのill騒動の際、政十に映像資料を請求された明胤学園は、そこに映った生徒達一人一人に聞取り調査を行った。実際の映像を見せて、公開されたくない部分は何処か、確認する為である。
その際にトクシメンバー内で、どの程度隠す事を要求するかの、相談会が開かれた。
とは言っても作戦会議などという仰々しさはなく、単に雑談の延長からの議論というだけの集いだったが、その中で乗研から提言があった。
12月の大会における天上パーティーとの衝突、それを見越しておくべきだと。
遠征時に見せた強引さから、進に関して甲都側が執着している事は判明している。彼も当然、進本人からその話を聞いていた。
欲しがっているのか、それとも他に獲得、排除されるのを惧れているのか、そこまでを確定させる事は出来ない。ただ、アクションがあれで終わりだというのは、少し相手を見縊り過ぎた意見だ。
そして近く、彼らと政十の再会の場として相応しい場所が設けられる。
全国ギャンバーU18大会だ。
不正までやるかは分からないが、ガチガチに対策を組んだ上で、五十妹や政十家の秘密兵器を切ってくるくらいなら、大して非現実的とは言えない予測だった。
その為に彼らが欲するのは、能力等を始めとする情報である。
そしてつい最近、本気の全力による殺し合いを戦っていた映像が、その手に入る。
天上高校のギャンバー部にまで、そのデータが流される。それもまた、順に考えれば想像に易い流れだった。
彼らは必ず、国内最大クラスの強敵となって、何処かで立ち塞がるだろう。
従って、国内の強豪を薙ぎ倒し、世界大会を目指すと言うのなら、その映像から大事な部分を、上手いこと言って隠しておきたいのだ。
彼らが使った言い訳は、「プライバシー」。
これを理由に映像を編集し、こっそりと地味な変化や深化を、それがあった事自体を隠す。この策によって、情報供与が敵方への欺きとなり、不利と同時に有利をも得る。
特に「深化」なんて珍しい現象が、幾ら生命の危機に瀕したからと言って、複数人に同時に来るとは、言われなければ確認すらされないだろう。
彼らは知らない事だが、詠訵三四がカメラ破壊による深化隠しをして、それを天上パーティーに仄めかした事もまた、風向きを良いように吹かせた。
「深化を隠したいなら、カメラまで破壊する筈だ。不自然さは残さない」、何処かでそう思わせた。
「深級管理の為に必要」という要求文は、ディーパーや国の関係者にとって、最強クラスの効力を持つ。
ただし、「潜行者の能力詳細の保護」という理念は、特に教育機関が言うならば、対抗できるだけのカードと成る。
もっと直接的に言おう。
深化隠蔽が発覚した後に、甲都側が抗議して来たとして、明胤側には法的・道義的・精神的落ち度が一切発生しない。
善人面でニコニコしながら、「プライバシーに配慮してると言いましたよね?」と、遠慮会釈の呵責を見せず、水に流して終わりに出来る。
明胤学園が隠したのは、二つ。
一つ、狩狼六実が深化し、眷属同士の融合が可能となった。
二つ、六本木天辺の魔法における、パンダの身代わりに破壊される人形の順番、これに変化があった。
後者に関しては、六本木自身は「逆に不便になった」と嘆いていたが、変わった事を敵に知られていない、そのアドバンテージは使い倒すつもり満々だった。
そして天上パーティーが、思った通り、思った以上にコソコソ企んでいる様子を察し、彼らは保留状態にしていた、一つの突飛な策に走った。
「狩狼六実をKにする」。
敵が政十家の雨と雷を使ってくるだろう事は、皆が確信している。
来宣と組んでノールック遠隔攻撃もして来るだろう。
撃ち合いに強い狩狼を分厚く守るのは、向こうから見ても不自然ではない。
更に万が一、不覚を取って雷に打たれた時、その爆発的範囲攻撃に晒されて確かに生き残るのは、六本木のパンダ人形を持っている人間。
敵は六本木自身か、辺泥、ニークト、詠訵辺りを警戒する。
狩狼がそれだと言うのは、ほとんど無い可能性として考えている。
居ない筈の人間の、出来ない筈の攻撃。
二つの予想外が彼らを惑わせ、そこに刺し切るまでの猶予を与える。
その効果を期待して、如何にも「六本木と詠訵を入れ替えます」という布陣を見せてから、詠訵と狩狼のロールを入れ替えた。
結論、思惑の殆どは大当たりした。
六本木がQとして、自陣中程に一人孤独に置いて行かれるのがネックだったが、開始と同時に全力で後退、本人のビーコン能力も駆使して、詠訵と狩狼の二人と合流する事で解決。
この時最前線は、敵を寄らせないように散発的な攻撃のみで、お茶をゴリゴリに濁していた。
敵の位置関係等を見れる雨が降り、より詳細なレーダーである川が出来るまで、それなりの時間が掛かった事も、彼らの計略成功を後押しした。
試合開始時、ゆっくりと戦闘を展開したいという点で、明胤パーティーと天上パーティーは、奇しくも息がぴったり合っていたのだ。
静か過ぎる序盤戦は、二チームの協力の元に成立したものだった。
勿論、明胤パーティーにとっても、思ってもいなかった事が多々あった。
どこかの色ボケがペラペラ自分の能力の弱点まで喋ったり、極辷というイレギュラー過ぎる能力の使い手が投入されたり、来宣の水中振動操作が思ってもみないほどに高度であったり、進を除く5人が一度に雷の直撃を喰らい半壊したり、寿が進の魔力を聴覚で追えたり。
狩狼を守ったのは六本木の能力。
六本木を守ったのは、ニークトと詠訵のリボン4本による全力の防護。狩狼を守るパンダ人形の方が先に消滅する、その危険をゼロにする事を意図した処置だった。
そこから先は、知っての通りだ。
天上パーティーは六本木の生存を確信しつつ、最後の一人については見当違いな分析しか持っていなかった。
雷を避けつつ空を跳び渡れる進が先行し、狩狼は六本木を護衛しつつ確実にKを仕留められる機を窺う。
その内に雨が上がり、Kポジションが来宣の方であると99%定まり、狩狼の攻撃に早期対応出来る人間が居なくなった。
カミザススムという難敵を退け、天上視点で勝ちまで手が伸びる直前。
その弛緩こそが、狩狼にとって格好の獲物。
三合体猟犬“グレマフブー”(狩狼命名)を来宣に刺し、咥えていた六本木のタヌキ人形を相手に身に着けさせ、敵変身魔法に巻き込ませて内部から魔力を発信させ、再度攻撃。息もつかせぬ三発目で止めを刺した。
『以上が、今回の敗戦の概略です』
千早姿の従者にタブレットを持たせ、伝馬からのビデオ通話を、御簾越しに聞き終えた五十嵐。
その表情は、常と同じく推し量れない。
「了解したよ。ありがとうね。天万君にも伝えておいてくれ、『ナイストライ』って」
『畏まりました』
伝馬は少々の沈黙の後、
『申し訳ございません』
深々と頭を下げる。
『今回の失態に関しましては、監督役である私に全面的な非があります。敵が何者であるか、それを見誤りました。仲間内で伝染していた視野狭窄に、私が気付くべきでした』
「処分はこの私に、なんなりと」、
生徒が居ないところだと、いつも素直な彼女の態度を、少し面白く感じた事で、五十嵐の声に表情が乗る。
『良いさ。相手を甘く見たのは、僕も同じだ。カミザススムという成り駒を前に、すっかりのぼせ上がってしまったよ。将来有望な若者達の姿が、目に入っていなかった。注目を取られて誤手。初歩的な躓きに恥じ入るばかりだ』
「甘く見た」、それが全てだろう。
カミザススムさえ倒せば、ルカイオスさえ退場させれば、候補生とは言え“十影”は負けないと、何処かで決め付けていた。
天上パーティーメンバーだって、他の生徒に無警戒だったつもりはないだろう。
ただ、「カミザススム」という不可視光を、目を凝らして見ようとして、他が見えなくなっていた。
「粒揃い」、その一言で片づけて良い勢力ではなかった。
明胤学園きっての精鋭で、育成しているのは元チャンピオン、かつて“最前最高”と言われた、あのパンチャ・シャンだ。
「例年より強い」、「当たりの世代」、その程度では足りなかった。
試合に出て来る6人、登録されている12人全員が、カミザススムと同程度の壁だと、そう見ておくべきだったのだ。
「子ども同士の戦いに大人が目くじらを立てるのもダサいし、自分も子どもに騙された上でそんな事するのは、更に信じられないくらいみっともないからね」
ミスをしたのは、五十嵐も同じだ。
けじめは、両者にとってのバランスが重視される。
「この後もちょっと働いて貰う事になったし、それを以て処分に替えようと思ってる」
「安心してくれ」、五十嵐は優しげな調子で言った。
「寛大なご配慮、感謝致します」、伝馬の頭の低さは、それでも変わらぬままだ。
実際の所、まだ完全な投了には早かった。
「戦いを起こさない」、それを成し損ねただけだ。
楽は出来なくなったものの、その勝敗は今からの動きで決まる。
それでは戦に備える者が、まずやる事は?
「それじゃあ、今はこれで。この後フレンドとの通話の予定があるんだ。その後に掛け直すよ」
味方を呼び寄せ、自軍を増強する事である。




