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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十三章:まずは国内!目指せ世界一!

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348.最初から、だったりする

『事前に合意は為されていたと、そう認識しております』


 電話口から淡々と吹く、凛々とした声。

 あのいけすかない、銀髪の老女のものだ。

 伝馬は敬語が崩れないよう苦心しながら、問いを返す。


「合意?我々(せい)じゅうがこの事に関して、一体如何なる合意をしましたか?」

『「生徒のプライバシーに最大限配慮する」、「その為に今回の提出映像の一部は非公開とさせて頂く」。“守秘義務”、です。当然の事と、そう考えて頂ける筈』

「ええ、そうです。我々が認めたのは、生徒のプライバシーに関する映像編集です」


 今回は、そういう話ではない。


「これは魔法能力の隠蔽です。場合がまるで異なります」

『隠蔽?丹本政府やWDAには既に報告済みです。一生徒の能力について、あなた方、五十妹や政十への連絡義務など、我々には発生しておりません』


 政府。

 理事長である正村からのルートか。

 だとすると五十妹と断絶している、壌弌勢力を中心とした総理派が止めていても、おかしくはない。

 WDAがわざわざ、親切に教えてくれる理由も無い。


『魔法は、人によって異なります。継承魔法であったとしても、共通するのは大枠のみであり、個々の能力には必ず差異が発生する。よって、魔法能力は個人特定に到る情報、つまり個人情報に位置付けられる』

「管理下の深級ダンジョンへの、遠征の受け入れをしているのですよ?魔法能力をこちらが知るのは、遠征参加者名簿の共有をするのと同様であると定義出来ます。必要な措置として『合意』があった筈です」

『それを理解し、納得し、遠征前の情報を事前にお渡ししております。しかしあの事件があった時点では、本年度の遠征において、これ以上の潜行は行われない事が決定していました。後々別の場所で明かされる事になるとしても、できるだけ隠しておきたいと、生徒本人からそう要望を出されたのなら、我々はその意思を尊重し、情報を保護する必要があります』


 前歯で打ちそうになった舌を押さえる。

 明胤学園の横暴なら戦いようがあるが、生徒本人の意思が根拠となると、彼らはあまり強く出る事が出来ない。

 「他校の生徒を追い詰めた」と見られたら、それこそ天上や政十の名が地に落ちる。


『能力について広く発覚した後は、隠さずとも問題は無いと、本人もそう言っていました。ですので御用命とあらば、その部分も残した再編集版の映像を、お送りする用意も御座います』


 「如何致しますか?」、

 涼しい顔がありありと描ける声音に向かって、伝馬は諸々を噛み潰しながら、“ディレクターズカット版”の送付を依頼するのだった。

 

 スマートフォンを耳につけながら彼女が見ているのは、今まさに試合中のギャンバーの映像。

 そこに表示された名前は、オープンロールから交換権を経た後の、真のロール順に並んでいる。

 それを見て、彼女はその小細工に気付いたのだ。




 既に後の祭りではあったが。




 小さく、そして直線的。

 何より一度も着地しない。

 大きな狼の動きではない。

 飛来する物体の概形を感知した寿は、すぐに違和感に気付いた。


 その時には、目で見れる範囲にそれが来ていた。

 ピンク色。

 生き残り候補の中に、彼の名前は挙がっていなかった。

 奇策、と言えるだろう。

 事実、サプライズには成功している。

 が、少々てらい過ぎではある。


 身代わり人形を持たせるなり、詠訵三四のリボンで守らせるなり、残すのだったら、辺泥やルカイオスの方が遥かに有用だ。

 その予想を外させた所で、逆張り以上の意味を持たない。秒にも満たない驚きの後に、より対処し易いという現実が待っている。

 

 狩狼家当代の威力であっても、味方を遮って立つ寿を、貫き通る事など出来ない。

 超高速で近付くあれは、貫通弾のグレイハウンド。直進以外に能が無い。

 そちらに気を向けさせ、誘導弾のブラッドハウンドから目溢しさせるつもりかとも考えたが、聞こえる範囲に他の眷属は確認できない。

 予め潜伏させようにも、政十がそれを報告しないという事もないだろう。

 マスティフは距離による減衰が激しく、射程的に除外出来る。


 浅知恵。

 居ると思っていない狙撃兵から撃たれれば、対処が遅れて命中するだろうと、その程度の見積もり。


 高速戦闘に慣れている寿は、風切り音を聞いてからそれが眼前にまで到達する1秒程度の間、言語化はせずともそこまでの思考を巡らせ、横に翼を伸ばし小鶴を横列展開させ、メンバーを射線から庇った。



 ピンク色の眷属は、彼女を迂回し来宣の背に咬み刺さった。

 

 

「ん、ぎ…!」


 歯を食いしばったはずみで漏れた、衝撃度に似つかわしくないほそ息吹いぶき

 極辷が慌てて該当箇所の破壊を考慮に再計算。

 

「“酔いどれ水先案内バジュラユシ・カナパス”…っ!」


 完全詠唱によって、全員が液体状に変身、架空の船の上に戻る。


「来宣…!」

〈せ、先輩……!〉


 甲板の上に倒される来宣。

 その背には刺し傷とも切り傷とも付かぬ物。

 寿は桃の実を彼女の口に運ぼうと駆け寄る。


「い、いまの、は……?」

〈先輩、まずは食べてください!治療を!〉

「面食らったが、しかし安全地帯への避難は完了した…!途中式を単純化するのは賭けだったが…!計算は終了し、俺の魔法が」


 極辷はその時、上体を起こそうとしている来宣から視線を外し、その横、足下まで頭を向けた。

 来宣と、それを抱き起していた寿は、そんな彼の様子に気付き、同じ物を見ようと追った。


 人形が転がっていた。


「が………」


 「人」形といっても、擬人化された動物が、服を着て二足歩行をしている、人差し指の長さ程度の背丈しかない物。

 彼らはそれが何か、知っている。

 問題は、それがここにある筈が無い、という事だ。


 あの少女の能力が、仲間を救ったのだとしたら、身代わりとして真っ先に壊されている。

 そういう順番だった筈なのだ。


「六本木ィィィィィ…!!」

 

 だがそれは、彼らが考えた通りの効果、乃ち、ベージュに見える魔力の気配を広く発散する機能を果たした。

「何をやった…ッ!?」

 極辷はすぐにそれを、オシャレにかぶれた狸の顔をした人形を、踏み潰した。

 魔力の発散は止まった。

「これは破壊されていなければ」2拍置いて高波によって船が転覆。

 彼らは川に放り出された。


 ビーコンによって内側から現在位置を発信させ、そこに向けて狩狼の眷属が攻撃したのだ。

 そこは分かる。

 分からないのは——


〈皆さん!散開しなさい!〉


 今度は球面状に二人を囲む小鶴共。

 寿の傷の治癒と、極辷の再演算まで持たせれば、

 そうすれば、

 それだけでも。


 敵が待つわけもなく、第二射が来た。

 ピンクの弾道は、またも秒数を掛けずに彼女達に触れた。

 寿の直前で急転換。

 滞空する小鶴同士の隙間に、鋭角三角形が連なったボディを鋸刃のこばめいて流し、中へと食い込んでいった。


 外からそれを見た寿は、そいつに真四角の耳が付いているのを認めた。

 中で水面を静めていた来宣は、その先端にまるい歯列が浮いているのを目撃した。


「混ざって…!?」


 狩狼家の猟犬魔法。

 3種の犬型眷属を、様々な形で発現させる。

 特に優れた使い手は、2種以上を合成させると言う。

 だが狩狼六実は、その境地に達していない。

 けれど実際、それは起こっている。


 答えは当然、「情報が間違っていた」。

 それも、敵は意図して彼らに、偽の情報を掴ませていた。

 

 正しい回答には、丸が付く。

 来宣の首から左肩に掛けて、焼夷弾の円が、その牙をがっちりと噛み合わせた。


 先の攻撃でポイントを7割持って行かれていた彼女には、寿によって多少傷が塞がれたとは言え、耐えきれるものではなかった。


 最後の最後、詰めを誤ったのではなく、

 初手の初手、一手目を打ち出す前からのズレが、放置されたまま時間の経過によって、断層を作る程に滑り広がった。


 そうして彼女の首輪は、むなしく赤ランプを明滅させる。


 来宣志摩子、脱落。


 K(キング)ポジションの全持ちポイント喪失によって、天上パーティーの敗退が決定。


 開始から6分48秒。

 試合終了。

 勝者、明胤パーティー。

 彼らは準決勝へ駒を進める。


 事実上、丹本一への王手と言えた。

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