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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十三章:まずは国内!目指せ世界一!

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347.見えずともそこにある、知っていた筈だったのに

「アイツ……!」


 来宣志摩子の声からは、安堵も達成感も聞けなかった。


「何てヤツ……!?」

「どうした…?」

 

 水に手を浸け再度の演算を開始していた極辷が訊ねる。


「スベ君、急いで…!ブキちゃんは私達を守って…!」

〈増援ですか?確かに落雷の恐れが無くなった段階で、彼らはすぐにでも〉

「そうじゃない。そうじゃないの」


 彼女の視線の先は、新手が来るであろう明後日ではなく、ついさっき二人の男が落下した場所。


 そこは単なる流れの一部となって、今や特別な目印すら残していない。

 救命士のような恰好をした医療班が、担架で政十達を回収する為に寄っていたのだが、しかし何かに手間取っている。


 いや、困惑している、というのが正しいだろうか?

 電流によって身体活動が停止している人間が、そこに沈んでいる筈。

 だと言うのに、手をこまねいてウロウロと右往左往している。


 彼らは少しして、一番近い岸まで、何かを追うように移動して、


 そこに一本の手が掛けられた。


 ボディースーツの素材で完全に覆われた右手。


 それが引き上げたのは二人。


 一人はその首にダンジョンケーブルが巻き絡められ、水中から出ると同時に全身が動かせなくなった。

 安全な場所に来た事でセーフティが解除。脱落者の行動停止措置が執行されたのだ。


「ばんじ、かいけつ…!」


 もう一人はそれを確認してから腰の装置でケーブルを巻き取って、


「ひゅ、ぅぅぅううう…っ!」


 ぎこちなくだが、左手を前にして構えた。


〈な…!?なん、な…?にゃ、なん……っ!??!〉

「あ、いっ…!?なにィッ…!?」


 ぐにゃりと、

 世界がそいつを中心に置きたがるように、レンズ状にひずんだ。

 その小柄が、大きさを増していく。

 身の毛の奥から沸き立つ震撼。

 極辷と寿は、あともう少しで魔法構築すら手放す所だった。

 そんなわけがなかったからだ。

 そんな事になるわけがなかったからだ。


「落雷の時は、車の中に入ると安全、っていうアレよ…!」


 振動によって、水中で起きていた事の概略を掴んでいた来宣。

 だが理屈は分かっても、戦慄を禁じ得ない。


「あいつは、自ら底まで降りて、魔力爆発でスペースを確保した…!その後は力の流動を使って、自分の上を水流が滑り過ぎていく、蓋や屋根みたいな状態を作ったのよ…!」


 車の表面の金属から、タイヤを伝って地面へ電流が逃げていく。それによって、雷が落ちても運転手が無事なのと同じように。


 彼ら二人と水との間には、魔力爆発で作った負圧層が挟まっていた。

 落雷のエネルギーはほとんどが彼に触れなかった。

 勿論政十は彼の狙いを理解したその時、自分から水に触れるか、新たな電流を発生させようとしたのだろう。

 だが動揺によって力加減を誤り、肉体の守りに意識を割けなくなったその時、魔力で把持されたダンジョンケーブルと、その表面の回転刃が彼の首を襲った。


 窒息なのか出血なのか、どちらの判定かは不明だが、脱落は脱落。

 それ以上余計な動きを、攻撃と見做せる行為を認められてしまった時点で、反則によって天上パーティーの敗北が確定。

 だから彼は見ているしかなかった。

 

 カミザススムが雷を避ける、その瞬間を。


「スベ君……急いで……」

「やっている…!やっているが…!」

〈…っ!!〉


 寿はすんでの所で言葉を呑み込んだ。

 だが極辷にも、その震えだけは伝わってしまった。

 音によって、彼女には知覚出来たのだ。


 今彼らの周囲から、水面を散らし演算を妨害しつつ、その身をへし折らんとする、不可視の力が迫っている。


 完全詠唱がギリギリ成立したとしても、逃げられない。

 それに色を付ける雨は無い。

 彼の気を引ける物も、もう無い。


 そして、


 爆発。

 小さな海底火山でも生まれたかのように噴き出す水土みずつち

 横殴りに水面から遠ざけられる3人。


 押し遣られた先で次なる爆発。


 極辷の脳を震盪しんとうさせ——


「………?」


 彼の頭を打ったのは、ちょっとした突風だった。


 それだけ。

 それだけしか、発生しなかった。


 進は不思議そうに、口を半開く。

 その唇に朱が差される。

 染料は、鼻の穴から流れ落ちていた。

 さらにバイザーの下から、左右二筋、同じ色が垂れ漏れる。


 彼は今、一転して真っ暗闇の中に居た。


 そこで感じられるのは、音だけだ。


 音。


 視覚も触覚も嗅覚も味覚も、何も無いのに、

 水を打ったような静寂の中に、


 その音色だけは聞こえていた。


DOS(ドス)…!本当に……!」


 来宣達は理解した。

 その時が漸く来た。

 計略は成ったのだ。




「日魅在君の情報処理は行き過ぎるとオーバーフローを起こし、行き倒れてまう。どうしてもあかんくなった時は、それを狙うんや。名付けて“DOSアタック作戦”やな」


 政十が立てた作戦の中で、最悪のパターン。

 自爆特攻であっても、カミザススムが倒せなかった時。

 それでも縋れる最後の希望が、奴の活動限界だ。


「つってもよ?一度やり過ぎてぶっ倒れてんだゼ?感覚的に何処が限界か学習して、ギリギリになって解除するってのも、考えられるんじゃねえか?本人にその気は無くても、防衛本能が働いたりとかよ?」


 伝馬の憂慮は尤もな内容だった。

 彼が自身の感覚を暴走させる、それを頼りにするというのは、最終手段だという事を差し引いても、希望的に過ぎるのではないか?


「せやな。確度が足りん。ちゅーわけで、日魅在君に自分の限界を誤認させる、その仕掛けが無いといかん」

「考えられる手としては…、そうと自覚させず、何らかの情報を読み込ませること…」

「ふわっふわしてますねぇ~?そんな都合の良い『情報』なんて、ありますぅ~?」

「それなんやがな?………」

「………」

「………」

「………?」


「あるんやこれが」

「だから何で溜めるのよ」


 政十はこれまでで最も力強く、自信を漲らせ言い切った。


「ワシらが一番ツイてたんは、それが使えるって所や。分からんか?」

「皆目見当付か。五里霧中」

「わからんかー!まだまだやな自分らー!」

「腹立つわね。さっさと教えなさいよ」


「音楽や」


 「日魅在君には音楽に耳を傾けて貰う」、

 政十は来宣と真っ直ぐ目を合わせ、そう言った。


「音楽…?」

「せや。志摩子の能力で、琵琶をちょくちょく敵に聞かせておくんや。あちらさんの意識の背景に、自然に溶け込ませる」

「確かにそれなら、違和感なく聞かせる事は可能です。ですが、分析するまでもない情報として、右から左に流される事も有り得ます」


 カミザススムの目を回したいなら、「聞く」のでなく、「聴く」ようにしなければならない。

 

「その点はなーんも問題あらへん」

「何故です?」


「志摩子の演奏や。余程の無粋でもあらへん限り、聴くやろ」


 魔法という分野の外、芸能の領域における能力への、絶大な信頼。

 それを抱ける相手との共闘。その事実こそが、彼に勝利を確信させていた。


「つまり、自覚しないうちに曲に心奪われたカミザススムが、自分がそれを聞いているという事自体を忘れる、と、そう言っているのか……?」

「せやな。これならそれ以外の作戦と並行して進められる。やりどくや。なあんもツッコミ所の無い、完璧な作戦やろ?」

「………ああ、そう、だな…?」

「ご馳走様でぇ~す」


 何故か合掌する此云慈を尻目に、政十は来宣に依頼する。


「志摩子。この作戦で、頭ん中が一等いっとうややこしくなるんは自分や。まず可能か不可能かを訊かんといかん。その上で、可能だったとして、ワシは自分に」


「やるわよ」


 来宣は何の葛藤も見せずに、日常会話のように答えた。


「ついでにあんたにも聞かせてあげるわ。いつもみたいに」

「悪いなあ。楽しみやわ」


 だから政十も、これまで演奏をねだった時と、何ら変わらない礼を言った。




 進は、果たして彼の思った通り、それを聞き流せなかった。

 表層意識では早い段階で、無意味な情報の羅列として、処理を後回しにしているつもりだった。

 だが深層では、耽賞たんしょうせずにはいられなかった。


 戦場の内装が雰囲気に合っているという偶然もまた、天上パーティーに、来宣志摩子に大きく味方をした。


 酷使に焼き切られた脳で、そこまで理解したのかどうか。

 進はその場に佇んでいたが、腕の力をぶらりと抜いて、それでも一歩を前に踏んで、しかしそこで硬直してしまった。


 睡魔に誘われ船を漕ぐように、首輪が赤い単眼をまばたかせる。

 実戦であれば死亡するのに充分、そう言える深さの失神と判定された。




 第142回、全国ギャンバーU18トーナメント大会。

 準々決勝、明胤パーティー対天上パーティー。

 開始から6分32秒。

 日魅在進、脱落。




 政十が降らせ、フィールド内を流れる、一時ひととき限りの川。

 それはまだ、あと少しの間、残り続けるようだった。


 極辷はそこに駆け戻り、演算を再開始。

 地点雷撃の政十は居なくなった。が、小鶴達による遠距離攻撃と、桃による回復能力の二つを持ち、格闘も防御も高水準な寿が残っている。

 極辷の完全詠唱効果によって、奇襲は決め放題。

 

 それが成立するまで、寿は二人を守り続ける。

 例え残ったのがルカイオスの三男だったとしても、対策はある。

 

 あと2手で、決まる。

 その後は、敵は王駒を動かし続けるしかなくなり、そしていつしか詰む。

 

 そして、


 来た。


 風を切る音。


 速い。


 このスピード、やはりルカイオスか。


 寿は二人を守るように、そちらを向いて立つ。


 カミザススムはもういない。


 未知の脅威は除かれて、恐れが生まれるよしは消えた。


 大詰めを、確実に。

 それだけの余裕と士気があった。

 

 彼女は翼を広げ、薙刀を構えて、







——小さい……?

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