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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十三章:まずは国内!目指せ世界一!

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344.ラン!チェイス!アタック!

 徐々に灰色が濃くなる空の下で、その風は吹く。


 恐らく自分が交戦し、脱落した地点を六本木から聞いて、その下流域で集中状態に没入するのを繰り返し、虱潰しにしているのだ。


 彼が魔力探知に全力になれば、極辷であっても隠れられない。


 ただし、探知圏内に入ったらの話である。


 政十が魔法を詠唱する際、上空へと魔力が供給されるので、その出所を辿り、だいたいの範囲は分かるだろう。


 しかしそこから先、再び氾濫する土石流の中から、彼らをピンポイントで見つけ出す。

 それにはまずまずの時間を掛けて、網を張る事を強いられる。

 

 カミザススムの探知は、最高精度の状態では数分しか持たない。


「移動中は集中を切って、さっき感じた所から流れを予測してどこに行ったかを予測して、また集中状態に入って。行ったり来たりは、普通に連続使用するより負荷になる筈」


 探すだけで脱落に近付く先鋒と、その後ろに付くしかない中堅及び大将。

 対してこちらは、政十の雨と雷によって、位置特定と遠隔攻撃の手段を得ている。

 うっかり川に入ろうものなら、来宣も合わせて致死性が高まる。


 という事は、彼らはルートすら制限されているのだ。

 そして単純に雨水によって、僅かずつだが体温を奪われるのも忘れてはいけない。


「遅延遅延を打ちまくっとったら、ワシらの勝ちが確定や」

 

 あたう限りギリギリまでその集中力を削ぎ落とし、可能なら彼が全力の探知を出来なくなるくらい消耗するまで逃げ延びる。

 その時点で、政十達は負けなくなる。


「という理想ケースをワシらが目指すんは、あちらさんも百も承知やろうな」

「カミザススムは、可及的速やかに、俺達の変身を解かなければならない……。自分の限界が来る前に……」

「付いて来れない者を待つ余裕も無く、彼が先陣を切るでしょう。時間は有限ですから」


 観測結果を直接感じて走る彼と、その移動先を見て追う二人。


 どうしてもその二者の間には、隔たりが生まれる。


 カミザススムだけが空を渡れるというなら、尚更である。


「突出する筈や。日魅在君だけが。連携がどうのの話やない。そうせなあかんなら、そうするやろ。日魅在君はそういう男や」


 必ず来る。

 何秒差かは分からないが、まず彼だけが先に来る。


 彼らはそれを待っている。

 

 奇跡の少年がやって来るのを。



ひゅ、ぅぅぅううう………!



「風だ…!」

「お出ましやで」


ひゅ、おおおぉぉぉ………!


「後の二人はどうだ…?」

「離れとるわ。まさに待っとった構図や!寿君は完全詠唱準備!」

「かしこまりました」


ひゅ、ぅぅぅううう……!


「志摩子はワシの攻撃と同時にコンサート第二幕や」

「はいはい、いつでも聞かせてあげるわよ」


ひゅ、おおおぉぉぉ……!


「ええか?正念場や!逃したらバチィ当たるで!」


ひゅ、ぅぅぅううう…っ!


 近い。


 彼らが乗っている流れ、その下流方向からだ。


 空を横切る見えぬ重圧。

 

 風切り音が木霊する。


ひゅ、おおおぉぉぉ…っ!


 魔力爆発を使って宙を跳ねていた少年が、


 突如その進行を停止。


ひゅ、ぅぅぅううう…っ!


 彼らを真っ直ぐ見下ろした。


「バレたで!行動開始や!“萬雷ジガ”!」

 

 政十の簡易詠唱!

 雷を落とした対象は、カミザススムではない!その後続二人!

 偏差まで計算して当てられる事を警戒し、蛇行走行をしていた彼らは直撃を免れ、屋根付きの建物の一つに入る!

 まだ浸水が充分でない為、その中のどの辺りに居るかは分からない!


 それでいい。

 このままこの建物を攻撃し続け、出て来るならそっちに雷を落とす。

 

 これで彼らは、迂闊に動けなくなった。


 自分達の近くに撃つには持て余す最大出力。

 ならばこうやって分断に使う方が、万倍お得というわけだ。


 来宣の琵琶が弦を線譜に沿って奮い唸らせる。

 高く、それでいて濁ったような、広くも刺々《とげとげ》しさを纏う音階達。


 水の中から今をふるい落とし、過去の記憶を世に響かせる。


 演目は最後の合戦。

 隆盛を極めた一族が、ある浦で決定的に滅びるその時、

 それを唄い伝えて来た楽音がくおん、最高潮へと至る打ち寄せ。

 

 敵はそれが、政十と組んだ攻撃になると知っている。

 それで良い。


 進が魔力爆破で岸を破壊。

 ダムを作って流れを堰き止めようとする。

 不純物を増やす事にもなり、変身をより早く解かせる事に繋がる行動。

 最善手。

 故に予定通り。


ひゅ、おおおぉぉぉ…っ!


 呼気と鳴弦のデュエット。

 進から彼らへ贈る精確な一射。

 それを阻む真空色。


 演台に上がりたるは寿小染。

 手の付けられないお転婆娘。

 名家に生を受けたが故に、

 力の行使も儘ならぬ鬱憤。


 仮面を被った息の苦しさ、

 今此処こそが解き放つ時か。

 

 ひと薙ぎ。

 少年は間合いの外へ。

 一射。

 少女は翼で受け止め。


 彼女の角は増して立派に。

 彼の動きは人形の如し。


 味方を背負えば堅固に化ける、

 彼女の能力を見知るが故に、

 泡沫うたかたの船を追わねばならぬ。


 彼女の表裏はどちらを向くか。

 それを見通さねばならぬのだ。


 故に深く沈んだままで、

 彼女と打ち合うを強いられる。


「さあどないする?日魅在君?」


 富貴なる青年はほくそ笑む。


「清々《せいせい》楚々《そそ》なるくびきを捨てた、本音1000(パー)の寿君や。

 レトゲ(レトロゲーム)の粗いポリゴンみたいに、始終ぎこちない今の自分が、

 1v1(タイマン)で勝てる相手やないで?」


 彼女は羽ばたく、欲望のままに。

 不純なる己を飽かす為。

 看守の鼻を明かす為。

 ひれ伏した奴隷を橋とし渡る。

 そんな自分を描いて見せる。


 着物の柄が生え伸びて、その先に幾つも桃の実がる。

 己と己が守りし者に、加護と治癒を授ける道具。

 だが一方でそれが割れると、

 生まれた子等が敵を討つ。


 小型の鶴が空をる。鹿の角をちて対者を狩る。

 十も二十も見えぬ壁を破り、母の長柄ながえとおり道を敷設。


 見えぬ花火で空飛ぶあやかしれど小鶴は追い回す。

 避け続けるなど出来るわけなく、破裂鎧に穴が開く。


 それを待ち侘びた親鶴が、ひとっ飛びに身を迫り、


 胴に反りしかと突き立て——

 

——ぅあっ

 

 かくん、


 首が前に倒れた。


「な、なんや…?」


 政十達、他のメンバーの目から見ても、異変は明らかだった。

 カミザススムと戦う寿、彼女の動きまで単調になってしまった。

 それこそフレームレートが低く、過程が欠落した映像のように、カクついていた。

 さながらベルトスクロールアクションゲームだ。


「何を手間取ラグっとるんや…!?」


 彼女はまるで、動き出しの尽くで、つんのめっているように見えた。

 背後から何度も、殴りつけられているように。


「魔力爆発…!?いや、しかし、“雨”は何も打っていない…!そうだろう、政十…!?」

「せや、せやな、せやせっやせいやせや、やったらどないして………」



「テンマ……!」



 来宣が演奏を続けながら、政十も初めて聞くような、僅かな震えを伝播する声で言う。


「音が…!」


 音。

 音楽。

 雨も風も、動きであり、振動を伴い、乃ち音楽である。

 彼女の絶対音感が、大気から水面に伝わっている、異様な楽譜に気付いたのだ。

 

「ブキちゃんの後ろに、何か、ある…!」


 さっきまで、無かった何かが、


「動いてる…っ!」

 

 政十の脳は、まず最短距離で直観した。

 だがそれを馬鹿げた飛躍と考え、手順を踏んで遠回して、再度同じ場所に着いた。


 目では分からない、間接的にしか認識できない物が、飛んでいる。

 それは彼らがよく知っている現象。

 特にカミザススムには、それがより顕著に生じる。


「志摩子…!寿君に、伝えるんや…!」


 カミザススムに聞かれようと構わない。

 一刻も早くそれを報せ、「慮外の不気味」を「恐るべき離れ技」に変え、

対処させなければ。


「日魅在君は、魔力の塊を、雨粒程度に小さくしとる…!」


 どうして威力が削がれるような真似を?

 合間を縫う為だ。


「雨を避けとる…!」

「は?避ける?」

「魔力を操って、ワシの嵐の下、ノーダメプレイをさせとるんや!!」


 雨粒に当たるか、川に触れるか、どちらかで見えてしまう。

 でも見つかりたくない。

 ならどうするか?

 

 幼稚園児にも分かる、幼稚園児だからこそ分かってしまうような、

 考えついたら逆に頭が悪いと言われてしまうような解決法。



 ()()()()()()()()()



 それはそうなのだ。

 正しさしかない。

 誰にも出来ないだけで。


 誰にも出来ない筈だっただけで。

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