表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十三章:まずは国内!目指せ世界一!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

513/983

339:作戦その2……だったもの part1

「さっきの手が見事決まって、そいでも日魅在君が落とせん場合も………」


 政十は自分の言葉の不条理さに、アシンメトリーな形で眉を歪める。


「自分で言うておいてあれなんやが、それあり得るんやろか?」

「笑止千万、と、称したき所。しかし」

「事実を並べるとギャグコピペみたいな功績集が出来上がる、それがカミザススムだゼ?」

「考えておいた方が宜しいと、私からもそう進言します」

「せやな」


 常識で掛かるのはご法度。相手はあの“歩く奇跡”だ。


 呼吸を主要な源とする「人間の」戦士が、水の塊である鯨の胃に収まって、どうやって脱出するのかは知らないが、とにかくそうなった時を仮定する。


「言うても基本は変わらんわな。ワシと志摩子が後衛、此云慈君と寿君が前衛。水鏡君は真ん中立って、鯨使(つこ)うて全体のカバー。極辷君は外から見つからんよう明胤さん達の残りから離れる。こんな所や」


 此云慈は進本人との相性は悪いが、しかし壁役としては充分に機能する。

 彼が彼女に少しでも手間取れば、そこを変身した寿が突ける。

 更に後衛には政十と来宣という豪華布陣。

 水鏡の合いの手も混ざるので、流石のカミザススムといえども勝ち切る事は出来ない。


 そして天上高校は、政十、来宣、極辷の3人が残っていれば、一方的な遠隔攻撃が可能となる。


 カミザススムを他5人から引き離し、6人全員と相対させる。そのパターンに持ち込めた時点で、大局の勝利も含めて揺らぎようがない。


「一対多において、緻密な魔力探知に没入するのは、逆に己の首を絞めかねない行為……」

「そうなれば脅威度は(ゼロ)さん未満や。ワシらでも充分手の届く高さやな。まあ、やらんやろ」


 とすれば、魔力でブーストされたフィジカルエリートでしかない相手を、魔法能力と武技によって封じてやればいいだけ。


「スタンダードに、ワシが雲を置いて囲む、寿君と水鏡君がそれ使うてやりたい放題する、此云慈君はなるたけ魔力弾をナイナイする、志摩子はいつも通り、そんな感じやな。逆に言うたら、それ以上細かく決めとったら、本番動きが硬くなってまうわ」

「色んな状況を受け入れられるよう、練習あるのみ、ですかぁ~」

「情報漏洩防止の為に、このメンバー以外を使っての訓練が出来ないというのが、少し不安が残る所ではありますね……」

「しゃーなしや、ゴーストさん達に今回もご協力頂くしかあらへん」




 こうして彼らは、対カミザススムの擂り潰し作戦を準備していた。


 しかしそれら皮算用は、企画倒れと言っていい。




「向こうの波、派手に抑えようとすると、それだけで位置がバレると思う」

「志摩子だけやのうて、ワシも入らなあかんか」



 極辷の魔法への反撃手段確立が、予想の倍早かった。

 進に粘られたら、彼らの位置が露出する事で、内外から挟圧きょうあつされる。

 では外から殴られるのに構わず、全員の力を結集して、招いた客の顔面を手早く凸凹にしてやり、5対6になってから外に対処するか?


 あの空飛ぶ小型機を追って、振り回されてまで?


 駄目だ。

 追い掛けっこでは進に分がある。

 捉えるだけで苦心して、倒し切れずに時間だけが過ぎる。

そして外からの干渉を無効化し切れず、極辷の魔法空間から燻し出され、変身が解けてから正面至近での6対6が開始。

 そうなるのは明らかだった。

 

 リソースの無駄、優位からの降板。上手いやり方とは言えない。


 進を押さえつつ、外部に反撃の一打を加え、タイムリミットを後ろ倒すのと対手に被害を出すのと、同時並行的に行う、その欲張りプランの方に未来がある。


 そこまでを3秒で思考した政十は決断する。

 

「寿君!ワシは外に注力する!こっちの援護は片手間になるわ!志摩子は完全に外部攻撃要員に組み込むさかい、指一本分もそっちに構えん!ええな!」

〈お任せあれ!〉


 今パーティー最強の直接攻撃力、寿小染が長刀を構えて承った。


 此云慈と水鏡は覚悟を決める。

 これで戦力差が、3.3対1程度に縮む。

 確実に勝てるわけではなくなった。

 死が近い場所で戦う事を日常とし、務めとしてこの場に立つ彼らにとって、その不確定性が持つ意味は大きい。


 勝てるかどうか分からない戦いは、死ぬかもしれない賭けと同じ。

 確実に遂行すべき任の中で、本来やってはいけないもの。

 ここから先は、禁忌の時間だ。


 ひゅ、ぅぅぅううう………!


 一陣、

 吹き鳴った。


「風、風だ…!」

〈来ました!〉


 翼で前へ気流を起こし飛び退すさる寿。

 彼女が立っていた場所、船首部から船底まで届き得る爆閃裂壊ばくせんれつかい



「ひゅ、おおおぉぉぉ…っ!」



 空間をこするつむじ風の中心が、そこに着地、否、着弾した。

 

「ひゅ、ぅぅぅううう…っ!」


 深級ダンジョン深層と比そうと遜色ない緊張が張り詰める。

 6人全員、今居る立ち位置に縫い付けられた。


「政十さん。聞いときたいんですけど」


 風が、人の言葉で語り掛ける。


「甲都だとこういう時、何て言うんです?『ドつくぞ』、とかですか?」


 政十は再度、詠唱姿勢を取り、鼻で笑いながら教えてやった。

 


「『いてこましたる』、や」

「なるへそ、勉強になります」


 

 進が左手を前に構えた。

 小さな黒雲がそれを取り巻く。


ドンドンゴロゴロゴロドンドン

ドドンゴロゴロドンゴロドン


 雷鳴にもつづみにも聞こえる拍が、放電と共に気を叩く。

 

「ひゅ、」

 風向きが、

「おおおぉぉぉ…っ!」

 変わる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ