表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十三章:まずは国内!目指せ世界一!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

512/982

338:作戦その1 part2

 水面みなもに波紋が広がっていく。




 はげしい雨と洪水の中でも、それを上から見て取れた。

鯱の姿になった辺泥が洪水に手を触れ、縦波を、高周波振動を発生させているのだ。


〈液体状のデータ記憶媒体化。微小な粒子の配列パターンによって情報を保存する手法、ネ……〉


 敵が使う魔法、その原理に心当たりがある。




 液体や気体への変身魔法。



 

 肉体に何かを足すのでなく、完全に変換してしまう魔法。それでいて不可逆でなく、魔法解除と共に元の状態に戻ってしまう。


 諸々理解困難な能力だが、分かる事もある。

 少なくとも元の肉体は、どこかに変換記憶され、保存されているという事。

 変化した後と変化する前とが保持され、繋がれ、どちらの体も自在に操作する、それを可能とする莫大な情報量が必要な筈。


 それを端緒とした人類が、数百年に亘って真相を引っ張り出していった結果、「飽くまで辻褄が合う仮説」というエクスキューズ付きではあるが、次のような理屈が組み立てられるに至った。



 曰く、水に溶けた微小粒子がその正体。



 従来のコンピューターにおける、ハードディスクのような記憶領域。それは突き詰めると2進数になる。

 簡単に言えば、Aという物を覚える時に、「はい」か「いいえ」の2択問題を気の遠くなるほど繰り返し、その解答パターンを丸暗記するというやり方だ。


 これに対し、一度の質問の選択肢を増やし、Aを特定するまでの質問数を大幅に減らす、という手法が存在する。

 全体として記憶出来る質問数が同じでも、一つ一つに割く数が少なくなれば、覚えられるデータの数が増えるのは当然。


 例えば4回の質問を記憶できると考えてみればいい。

 2択質問なら、パターンは2を4回掛けて16通り。つまり16個しか覚えられない。

 これが4択になったら?4の4乗、256通り。

 その違いは明らかだ。

 

 この「択数が多い質問設定」をする事で、より膨大なデータを覚えられる機構として注目されているのが、液体中に浮遊する微粒子を使う技術である。

 

 一つのナノ粒子の周りを12個の粒子が囲んだモデルで、表現できる配列パターンは800万通り近く。敢えて言い切れば、800万択質問が可能。PCの400万倍だ。

 そして液体の中を浮かせる事で、小さなエネルギーによるスムーズな配列の組み換え、これを実現するとされる。


 目に見えないたった13粒が、一塊あるだけで約23ビット。

 それらが全体の3%を占める液体が、スプーン一杯で1TB(テラバイト)。「テラ」とは1の一兆倍を表す。


 一般的なハードディスクでは、全体で1TBあるなら、「大容量」の部類にカテゴライズして問題無い。

 そういった事実から見れば、如何に尋常ならざるデータ効率をしているか、分かる事だろう。


 肉体変換型魔法、とりわけ液体化・気体化魔法は、これを行っているのだと見られている。



 

 肉体を液体型データ保存媒体に変身させ、その変換処理や新しい体の操作に必要なエネルギーとして魔力を使う。そういう魔法なのだ、と。




〈どういう条件で見えやすくなるかは知らないケド、見えないなら見えないなりに攻撃を当てる事は出来るワ……!〉

 

 極めて速い振幅は、高出力によって広範囲に影響を及ぼす。


 リボンが4本とも水に付けられ、その主は目を閉じて何かを感じ取ろうと集中。


 更に周囲の崖や植物、積まれた石や構造物の類が、犬と狼の眷属によって、手当たり次第に壊されている。


〈粒子の配列が重要なら、揺らして壊してしまえばいい……〉

 

 否、その破壊は完全なランダムではない。

 彼らを中心に囲い込むような地形を作り、ぐるぐると渦を巻くような水流を作る。


〈流れに乗って逃げるなら、それを閉じてしまえばいい……!〉


 粒子配列を決まった通りに形作るには、余計な振動や割り込んで来る不純物が邪魔になる。

 魔力で固着を維持し、読み込みに支障を来すような物質を除去し、それらにエネルギーや処理能力を使っていると、魔力を使い果たしデータ保存が困難になる。


 結果、呑み込み切れなくなった物を、元の形で排出するしかなくなる。

 変身は解け、奪われた物は戻って来る。


〈本当に、ツイてないわネ…!()()()()…!アータ達がやってる事は、雲日根むくちゃんを擁する八志教室では、常識中の常識ヨ……!その対処方法まで含めてネ……!〉

 

 変身能力の中でも、液体化・気体化を使う者は稀である。人の意思や発想を原点とする「魔法」というシステムにおいて、イメージのしにくさと実現しにくさはイコールである為だ。

 幾ら潜行界の名門同士とは言え、雲日根と極辷、この二人が同世代であるというのは、奇妙な巡り合わせと言えた。


 確認するまでもなく、天上高校には不都合な偶然だ。


〈どうするかしら……?アータ達は、あたしの振動相手に形を保とうと、接着の為に力を掛けてる。その状態でこの流れから外れて、それか逆らって逃げようとして、追加でエネルギーを発生させたら?幾ら微小粒子の集合とは言え、それが発する魔力の気配を誤魔化す事は、モチロン不可能…!〉


 詠訵三四のリボンに見張られている、この状況下においては特に!


〈カミちゃんはまだ脱落してないワ!なら内側でやんちゃに暴れてくれる筈!このまま身を潜めて削れていくのと、一気呵成の勢い任せに飛び出すのと、アータ達はどっちを行くのかしらネッ!?〉


 中途半端に奇襲が成った事で、獅子身中に一寸法師が入った。


 形勢がどちらに傾斜しているのか、それを明確に論じれる者は居ない。


 これから始まる結果の連続のみが、


 戦場を正しく語ってくれるだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ